会社の経営者は株式会社を設立した際に、役員報酬を決める必要があります。
この記事では、会社における役員報酬の決め方や一般的な従業員の給与との違いのほか、役員報酬を損金算入する際のポイントなどについて解説します。
目次
役員報酬とは会社の役員に対して支払われる報酬
役員報酬とは、会社の役員に対して支払われる報酬です。注意したいのは、役員は、会社に雇用されている従業員ではないということ。そのため役員は、従業員給与ではなく役員報酬を受け取って業務を行います。
役員の範囲
役員とは、会社の業務執行や監督を行う幹部職員のことです。会社法第329条1項ならびに法人税法第2条第15号によれば、下記の立場にいる人を指します。
■法令上の役員の範囲
会社法に定義されている株式会社役員 | 法人税法に定義されている役員(※) |
---|---|
・取締役 ・会計参与 ・監査役 |
・取締役 ・会計参与 ・監査役 ・理事 ・監事 ・清算人 |
※上記にあてはまらない場合でも、使用人(一般的な従業員)以外の人で、該当会社の経営に携わっている人は役員に該当。また、一定の要件を満たす同族会社の使用人のうち、経営に従事している人も役員に含まれる。
役員報酬を決める社内手順
役員報酬額を決める際は、定款もしくは株主総会で役員報酬の総額をいくらにするのかを決定します。その後、取締役会を開催して役員ごとの報酬額を決めますが、株主総会で個別の報酬額まで決定することも可能です。
月々支払われる役員報酬である「定期同額給与」を損金算入するためには、事業年度開始から3ヵ月以内に手続きを終えなければなりません。このときには、必ず株主総会の議事録を作成保管してください。
役員報酬額を決める際の注意点
役員報酬額をいくらにするのかは、各社が株主総会で決定します。原則1年間は変更することができませんので、安易に決めてしまわないように注意してください。ここでは役員報酬額を決めるにあたって、バランスに注意したい3つの点を紹介します。
・会社の業績とのバランス
役員報酬は、会社の業務執行において責任を持つ役員に対して支払う報酬のため、業績に応じて金額を決めることになります。業績が伸びているのであれば役員報酬もアップできますが、業績が悪いのに多額の役員報酬を支払うわけにはいかず、そのような場合には役員報酬の減額も検討すべきでしょう。
・税金や社会保険料とのバランス
役員報酬を増やすことは、その分、損金算入可能な金額が増えるということです。会社としても法人税、法人住民税(所得割部分)、法人事業税などの圧縮につながるでしょう。
その反面、役員自身の所得は増えるため、役員が支払う所得税や社会保険料の金額は上がることになります。会社として、両者のバランスに留意すると良いでしょう。
・競合他社の役員報酬とのバランス
同規模の競合他社の役員報酬に対し、自社の役員報酬が大幅に高かったり、低かったりする場合があります。高すぎれば会社の負担になる上、従業員の理解が得られない可能性もあります。低すぎれば役員の不満やモチベーションダウンにつながるので、バランスのとり方が重要です。
役員報酬と給与の違い
役員に支払われる役員報酬と、従業員に支払われる給与では、多くの違いがあります。計算方法も会計上の取り扱いも異なるため、労務担当者は注意してください。具体的な役員報酬と給与の違いには、下記のようなものがあります。
割増賃金の有無
通常の給与を支給されている従業員は、残業をするとその分の割増賃金が支払われます。しかし、役員報酬に割増賃金はありません。労働時間が何時間になっても、支給額は同じです。
最低賃金額適用の有無
従業員には、各都道府県で定められている最低賃金額以上の給与を支払う必要がありますが、役員報酬には最低賃金額が適用されません。そのため、会社の業績悪化などを理由に、役員報酬を大幅にカットするケースもあるのです。
日割り計算の可否
原則的に働いた日にちに応じた額が支給される従業員の給与とは異なり、役員報酬は労働の対価として支払われているものではありません。そのため、たとえ業務に従事しない日があっても、日割り計算をすることはないのです。同様に、月の途中で就任したり、退任したりした場合でも日割り計算は行わず、全額支給あるいは全額不支給となります。
損金算入の可否
従業員の給与はその全額を、会社が収益を得るために発生する原価や費用などの「損金」として算入できます。しかし、役員報酬を損金算入するためには、一定のルールを守る必要があるので注意が必要です。
役員報酬の損金算入については、この記事の「役員報酬の支払い方法」を参照してください。
報酬額変動の可否
定期的に昇給や各種手当の変更などが行われる給与に対し、役員報酬は、原則として事業年度内を通じて一定です。
役員報酬を変更する場合は、原則として期首(事業年度の開始日)から3ヵ月以内に、株主総会を開催して決議をとる必要があるので注意が必要です。
労働保険(雇用保険・労災保険)加入の可否
従業員は給与から雇用保険料が徴収されますが、役員報酬から徴収されることはありません。これは、使用者である役員は、原則的に労働者のためにある雇用保険に加入できないからです。
同じ理由で、従業員には仕事中や通勤中のケガ・病気などに対して労災保険が適用されますが、役員は不適用となるのです。
役員報酬の支払い方法
役員報酬には、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」という、3種類の支払い方法があります。これらは、それぞれのルールを満たす場合にのみ、損金算入が可能です。この3種類の支払い方法について解説します。
定期同額給与
定期同額給与とは、事業年度のあいだ、毎月一定額の役員報酬を継続して支払う方法です。例えば、4月から翌3月までの事業年度のあいだ、毎月50万円を役員報酬として支給することにより、損金算入が可能となります。
定期同額給与は、出張手当などの手当を追加支給することはできません。ただし、「事前確定届出給与」や「業績連動給与」を別途支払うことは可能です。
定期同額給与の金額を変更する場合は、原則として事業年度開始日から3ヵ月以内に変更しなければなりません。この際、税務署などへの届出は不要です。
事前確定届出給与
事前確定届出給与は、事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出した上で支払う役員報酬です。従業員における賞与に近いものといえるでしょう。
■事前確定届出給与に関する届出書
事前確定届出給与に関する届出書の付表には、対象者ごとの支給額や支給時期を記入します。届け出たとおりの内容で支給しないと、損金算入ができないので注意してください。金銭ではなく株式や新株予約権を与える場合も、同様の手続きが必要です。
■付表1 事前確定届出給与等の状況(金銭交付用)
事前確定届出給与に関する届出書の届出期日は、事業年度開始日より4ヵ月以内、または、株主総会などによる決議の1ヵ月以内の早いほうとなります。
業績連動給与
業績連動給与は、株式上場会社の業績や株価に連動して支払われる役員報酬です。業績を判断するための根拠が有価証券報告書に記載されているといった要件があるので注意が必要です。
2017年の税制改正により、同族会社であっても、非同族法人の完全子会社であれば業績連動給与が適用されるようになりました。
役員報酬の損金算入において注意すべきポイント
役員報酬は、損金算入ができるかどうかが重要です。最後に、役員報酬の損金算入において、注意したいポイントを解説します。
期首から3ヵ月以内に決める
役員報酬の変更は、原則として期首から3ヵ月以内に決定しなければなりません。4月から3月が事業年度の会社であれば、6月までに株主総会を開催し、役員報酬を決定することになるのです。
役員報酬の改定自体が7月分からとなるのは問題なく、7月から翌年3月まで同一の報酬であれば、定期同額給与とみなされます。
業績悪化時は期中の変更が認められる
一度決めた役員報酬を、事業年度の途中で変えると損金算入ができなくなりますが、著しい業績の悪化に伴う減額の場合は、損金算入が可能です。
また、業績悪化していなくても、取引先の事業縮小が決定しており、今後大幅に売上減少が確定しているなど、客観的な業績悪化が判断できる状態であれば、損金算入は認められます。
高額すぎる役員報酬は損金算入できないことがある
法人税法施行令第70条には、損金算入のための要件を満たしていたとしても、不相当に高額な役員報酬については損金算入ができない可能性があると定められています。同業他社や自社の業績をもとに、合理的な金額を設定してください。
役員報酬をビジネスにうまく活用しよう
役員報酬は、会社の損金として算入できる金額なので、節税対策にうまく活用しましょう。ただし、会社の支払う税金と役員個人が負担することになる社会保険料や、税金とのバランスを検討することも大切です。
役員報酬の仕組みを正しく理解し、それぞれの会社や役員に最適な報酬額を検討してください。
■監修者
石割 由紀人
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタルの会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。
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