住宅借入金等特別控除(以下、住宅ローン控除)は、2021年度に続き2022年度も改正が行われました。中間所得層への支援が手厚くなったことから、より多くの家庭で住宅を購入しやすくなったと言えます。
住宅ローン控除は年末調整で手続きすることになるため、人事労務担当者としてはどのような改正内容かをしっかり押さえておく必要があります。
そこで今回は、改正された住宅ローン控除について整理し、年末調整業務へ与える影響をまとめます。
目次
住宅ローン控除とは
住宅ローン控除は、個人の住宅購入を促すために国が設けた税制優遇制度です。住居を新築したり増改築したりする際に住宅ローン等を利用した場合、一定の要件のもと、各年のローン残高を基にして計算された金額を所得税額から控除することができます。
住宅ローン控除を受けるには、銀行などの金融機関が提供する一般的な住宅ローンや、長期固定金利住宅ローン「フラット35」、勤務先からの借入金(1%以上の利率が必要)などを利用することが条件となっており、親や親族から援助を受けた分は対象になりません。
また、ローンの対象となる住居は「自分自身が住むためのもの」であることが前提となっており、「親のための住居」など自らが居住しない場合は住宅ローン控除が適用されません。ただし、「自分が住むための住居」であれば、新築・中古に関わらず、マンション・一戸建てともに対象となります。また、リフォームや増改築なども控除を受けることができます※。
※リフォームや増改築の場合は、工事の規模や内容によって控除対象要件が細かく決められています。
住宅ローン控除には「控除期間」が設けられており、住宅ローンを完済するまで受けられるものではありません。また、住宅ローン控除の要件には合計所得金額の上限も含まれているため、従業員の当年の合計所得金額がその上限額を超えてしまった場合、その年は住宅ローン控除を受けられなくなります。
住宅ローン控除が改正された背景
住宅ローン控除については、2021年度・2022年度の税制改正において、立て続けに個人所得税の中心的な改正内容となりました。この改正が行われた背景には、主に次のような目的があります。
①カーボンニュートラルの実現促進
政府は今、「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を掲げています。この取り組みを住宅分野でも強化するため、環境にも優しい高性能住宅の普及拡大に向けた要件が盛り込まれることになりました。
例えば、改正前では新築住宅を「一般の住宅」と「良質な住宅(認定住宅)」の2つに分けて住宅ローン控除の限度額を計算していました。「良質な住宅」とは、環境に配慮した、いわゆる「省エネ住宅」や長期優良住宅などのことを言います。
しかし、国土交通省が実施した「長期優良住宅認定基準の見直しに関する検討会」によると、2020年度の新設住宅着工戸数に占める長期優良住宅の割合は12.1%となっており、まだまだ浸透しきれていないことが伺えます。
そこで、改正後は「良質な住宅」のバリエーションを増やし、中古住宅にも省エネ性能等の高い「良質な住宅」を認めるとともに、住宅性能に応じて借入限度額を上乗せする措置が執られました。 なお、2025年以降に新築する場合は、省エネ基準への適合が要件に加わります。
②会計検査院の指摘と経済状況を踏まえた対応
住宅ローン控除の改正は、2017年に会計検査院が住宅ローン控除を開始した人の実際の支払金利を調査したところ、「住宅ローン控除の控除率1%を下回る金利で住宅ローン借入をしている人が全体の約78%いた」という報告がされたことが発端です。
住宅ローン控除の控除率はしばらく1%が続いていましたが、近年の住宅ローン金利は1%を切っており、従来の控除率では金融機関へ支払う利息よりも減税による節税効果のほうが高くなるという逆ザヤが起こっていました。
そこで2021年度の税制改正でこの問題が議論され、2022年度の税制改正で控除額や控除率のあり方を見直すことになっていました。
また、コロナ禍の影響を受けた現行の経済状況を踏まえ、2021年度に追加された控除期間特例の延長がさらに延長され、新築住宅等は原則期間が13年に拡大されました。
住宅ローン控除の改正内容とは
2021年度の税制改正では、控除期間を13年にする特例措置が延長されました。
2022年度は、この措置を2025年末まで延長することになり、合わせて限度額や控除率、控除期間などが次のように見直されました。(ただし、2021年度の税制改正における特例措置を既に適用している人は除外されます)
住宅ローン減税改正の概要
以下の措置を講じた上で、入居に係る適用期限を4年間(2022年~2025年)延長- 控除率は一律0.7%。
- 控除期間は、良質な住宅は原則13年、一般の住宅は10年。(ただし2024年以降に入居した一般の住宅は新築でも10年)
- 中古住宅を含め、住宅の環境性能等に応じて借入限度額を上乗せ。(ただし新築住宅は段階的に縮小)
- 2024年以降に建築確認を受ける新築住宅について、省エネ基準適合の要件化。
- 中古住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)を、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和。
- 新築住宅の床面積(マンションは内法面積)要件を50㎡以上から40㎡以上に緩和。(合計所得金額1,000万円以下に限る)
- 適用対象者の所得要件を合計所得金額3,000万円以下から2,000万円以下に引下げ。
今回の改正で人事労務担当者が留意しておくべきポイントは、上記の改正内容のうち「控除率」と「控除期間」でしょう。
2021年度までは、住宅ローン控除の控除率は1%でした。しかし、2022年度以降の申請分からは控除率が0.7%になります。控除期間は、原則13年(2024年以降に入居する場合は10年)となっているため、最長で2021年度の住宅ローン控除が終了する2034年まで、2種類の控除率が混在することになります。
事務手続きへの影響は?個別の対応は2023年から!
住宅ローン控除を受けるには、初年度に確定申告が必要です。年末調整で手続きするのは2年目以降になるため、今回の改正内容を反映して事務手続きを行うのは2023年からとなります。
先述したように、今後は1%と0.7%の2種類の控除率が発生するため、控除額の計算でどちらの控除率を適用するかの確認方法も含め、どのように対応するか今から業務フローを検討しておくとよいでしょう。
また、2022年度の税制改正では、一部の事務手続きも見直されています。
これまでの年末調整では、「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」(以下「住宅ローン控除申告書」)に控除額の計算内容を記入し、「住宅ローン(借入金)の年末残高証明書」と合わせて提出することが必須となっています。
住宅ローン控除申告書は、確定申告後に税務署から適用年数分が一括送付されますが、年末残高証明書は借入をしている金融機関等から毎年送付されます。
この年末残高証明書について、2023年以後に入居した人が2024年1月1日以後に確定申告・年末調整を行う際、提出が不要となります。ただし、すでに住宅ローン控除を受けている人や2022年中に入居した人は、今後も年末残高証明書の提出が必要です。そのため、控除を受ける人ごとに添付書類の要・不要の確認が必要になります。
年末調整業務をデジタル化すれば個別対応もラクラク!
今回の税制改正が適用される2023年以降の年末調整業務は、複数の控除率や年末残高証明書の添付の要・不要などが混在することになります。これまで紙で手続きをしていた場合、「誰がどの控除率か」「年末残高証明書の提出が必要か」など個別に対応しなければならず、手続きが混乱する可能性が高まります。少しでも年末調整業務を効率化できるよう、今のうちに紙の手続きをデジタル化しておくことが最良と言えるでしょう。
年末調整の手続きは、2021年から電子データの提出が認められています。特に、住宅ローン控除に必要な情報は毎年同じ内容の箇所が多いので、前年度の申告情報を自動コピーできる年末調整システムがあれば、従業員も提出がラクになります。例えば、奉行Edge年末調整申告書クラウドの場合、住宅ローン控除申告書に記載する「居住開始年月日」や「住宅借入金の種類」「控除額適用区分」「総床面積」「居住用床面積」「取得対価の額」などの情報は、前年の申告書データから自動表示するので、従業員が改めて入力する必要はなくなり、変更点のみ修正入力すればよくなります。
年末残高証明書も、2020年から電子データでの発行が可能になっています。年末残高証明書をデータ提供してもらうには、保険会社や金融機関などで従業員が手続きをする必要がありますが、奉行Edge年末調整申告書クラウドのようなマイナポータル連携ができる年末調整ソフトがあれば、簡単にデータを取り込むことができます。
住宅ローン控除の場合、初年度の確定申告を電子申告し、住宅ローン控除申告書を「e-Tax交付希望」にしておけば、2年目以降の年末調整でマイナポータルから申告書データを取得することができます。
年末残高証明書を紙で提出する場合でも、奉行Edge年末調整申告書クラウドなら必要な添付書類を個別表示した「証明書貼付台紙」で対応します。従業員の氏名や所属、従業員番号などがあらかじめ記載されているため、突合せ作業を軽減でき、担当者の書類整理にかかる負担も少なくなるでしょう。
つねに最新の制度改正に対応しているので、控除率の設定もしやすく、入力内容に応じてシステムが自動計算してくれるので、計算ミスも改正対応の漏れの心配もありません。
さらに、給与奉行クラウドと連携すれば、年末調整の計算から源泉徴収票作成まで自動化することもできます。法定調書奉行クラウドとも連携すれば、法定調書合計表が自動作成され、2クリックで電子申告まで完了することができるようになります
おわりに
住宅購入は、「人生最大の買い物」とも言われるほど高額になりやすく、家計にも直接関わってきます。それだけに、控除額も大きくなる住宅ローン控除の計算ミスは従業員に大きな不利益を与える可能性があり、手続きも慎重にならざるを得ないでしょう。
2023年の年末調整から対応が必要となります。政府はデジタル化推進の一環として、年末調整業務においてもデジタル化の整備を推奨しています。奉行Edge年末調整申告書クラウドのようなシステムを利用すれば、担当者も従業員も、手続きや業務の負担軽減が実現します。 この税制改正をきっかけに年末調整業務をデジタル化し、手続きから年末調整計算まで全体最適化を図りましょう!
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