失敗しないための資本政策

開催情報
2022年7月26日(火) 13:30~15:00/Web
セミナー概要
資本政策は、一度進んでしまうと後戻りできないことから、計画的且つ慎重に進める必要があります。
本セミナーでは、IPOにおける資本政策の進め方について、基本となる内容および、押さえておきたいポイントを解説しました。
セミナー総括
1.IPOを意識したら考える資本政策の3つの論点
資本政策とは「事業計画を達成するための資金調達及び株主構成計画」をいいます。
その論点にはいくつかありますが、重要なのは「資金調達」「キャピタルゲイン」「持株比率」の3つです。



「資金調達」は上場にあたって会社が新たに株式を発行し会社にお金が入ってくることを言います。 これを公募といいます。株式上場の大きな目的のひとつとなりますので、どのくらいの資金調達をしたいのかというイメージを持っておくことが重要です。

次に「キャピタルゲイン」ですが、これは上場前からの既存株主(主に会社のオーナー)が、 上場のタイミングで株式を売却することによってその既存株主にお金が入ってくることを言います。こちらも既存株主にどのくらいのキャッシュが入るようにしたいのかをあらかじめシミュレーションしておく必要があります。

そして最後に「持株比率」です。
上場前の株主はほぼ身内の人間で構成されていますが、上場後は外部の株主が増えます。
経営陣で持株比率を確保するために、上場にあたってどのくらいの持株比率をキープしておくべきかを考えておく必要があります。

失敗してしまう資本政策でよくあるのは、IPOをイメージせずに場当たり的に資金調達やストックオプションを実施してしまい、最終的にイメージしたIPOにならなかった…といったケースです。

資本政策を考えるタイミングは、遅すぎることはあっても早すぎることはありません。
上場を意識したら、IPOをイメージしてこの3つの論点を考えることが重要です。

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2.上場のタイミングは時価総額から見極める
IPOを行い一般投資家に自社の株を買ってもらうためには、自社を魅力的に見せることで時価総額を上げていく必要があります。
IPOをイメージするにあたって、まずは「どのタイミングでどの程度の時価総額が見込まれるのか?」を考え、そこから上場するタイミングを具体的にスケジューリングしていく必要があります。

時価総額を求める算式は概ね下図のとおりで、「時価総額=税引後の当期純利益 × PER」で求められます。
すなわち、上場したい年度にどの程度の利益が見込めるのかが、上場できるかどうかのひとつの基準となります。



PERは企業の成長可能性を示す数値で、売上が上がっても原価が増えないビジネスモデルの場合はPERが50倍~100倍と高くつく傾向があります。
逆に、店舗展開などで売上と原価が比例して増えるビジネスモデルの場合は10倍程度と低めのPERがつきます。
まずは自社と同じようなビジネスモデルの上場会社のPERをいくつか確認し、その平均を自社のPERと仮定して予想当期純利益と掛け合わせ、時価総額を確認していきましょう。

【関連コラム】IPO実現までのスケジュールにおいて、経営者として押さえるべきポイントは?
3.2019年上場会社の資本政策の傾向と今後
昔は上場の一番のメリットが資金調達でしたが、昨今は上場しなくても数十億円規模の資金調達ができるということもあり、2019年の新規上場会社の資金調達額は数億円程度に収まるところが多くなりました。

しかし、これまではマザーズ上場から1年~2年の最速での東証一部上場を目指す会社が多かったのですが、 2022年の市場再編後はマザーズから東証一部に市場変更するための時価総額が大幅に上がり、ある程度の年数マザーズに留まる会社が増えることが想定されます。 今後はマザーズ上場のタイミングでまとまった資金調達を行い、その資金を有効に使って事業を拡大し時価総額を上げていくことが、資本政策のベーシックになると思われます。

また、よくあるご質問に、「上場した時にオーナーはどのくらい売出ししているか」というものがあります。
株価が安いという理由でマザーズでは売出しを控え、1~2年後の東証一部上場を待って売る、という資本政策をとるオーナーが多く、2019年の新規上場会社を見ても一切売り出していない会社は見受けられます。
しかし、こちらも市場再編の影響により今後は東証一部上場に移行するまで年数があいていくことになるため、マザーズ上場のタイミングで売出し、キャピタルゲインをとるケースが増えていくと予想されます。
4.早期の資本政策立案で理想のIPOを実現する
最近ではIPOまでに複数回の資金調達を行うケースも珍しくなく、数十億規模での資金調達も多くなってきました。資金調達を行う際には資本政策上留意すべき点があります。
それは「資金調達を行うと株価が上がる」ということです。

株価が上がるのは良いことでは?と思われるかもしれませんが、一旦株価が引き上がると、 その引き上がった株価が以降の資本政策のベースとなり、ストックオプションの権利行使価格やオーナーから資産管理会社への売却株価に影響を与えます。 これによって得られるはずだった利益が少なくなってしまったり、余計に税金を払わなければならなくなったりするケースが発生します。
つまり資金調達を実行する際には、必ず資金調達前に実行すべき他の資本政策があるのではないか?という視点での検討が必要になるのです。

これまでとは上場基準が変わっていく中で、理想とするIPOをどのように叶えていくか、そのためにどのような資本政策が必要かは、IPOを意識した今この時から考えていくことが肝要です。
自社のリソースで賄うことに不安がある場合は、専門家への相談も視野に入れて進めていきましょう。

▼セミナーでは以下の内容も取り上げました。
・持株比率の調整ポイント
 【関連コラム】経営者が最低限押さえておきたい資本政策のルールとは?
・ストックオプション発行時の注意点
 【関連コラム】ストックオプション発行の3つのポイント
・資産管理会社のメリットとデメリット
 【関連コラム】資産管理会社とは?そのメリットと検討ポイントを解説
・資本政策シートを使った時価総額、キャピタルゲイン、持株比率のシミュレーション
・取引所規制から見る資本政策策定のタイムリミット
・資本政策立案の流れ
・資金調達する前にチェックすべきポイント

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講師紹介
あいわ税理士法人<br>代表社員/税理士<br>杉山 康弘氏
あいわ税理士法人
代表社員/税理士
杉山 康弘氏
IPO準備クライアント約150社、上場企業クライアント約300社(グループ会社含む)。起業家からの資本政策相談件数は毎年100件超。毎年クライアントの10社前後がIPOを果たす。近年、M&Aの相談件数も増加。IPO準備企業への資本政策立案コンサルティングや各種上場準備支援業務のほか、オーナー企業への相続・事業承継コンサルティングやM&Aなどの実務にも精通。
あいわ税理士法人 ホームページ

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「この1冊ですべてがわかる 経営者のためのIPOバイブル 第2版」(中央経済社)

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