IPO Forum フォローセミナー 第6回
法務・労務コンプライアンス ~労務編~
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多くの企業で問題が見つかる「労務管理」。未払い残業代には一刻も早い「止血」対応を!
IPO実現のための必須テーマ全8回 少人数徹底解説セミナー
今回は、第6回「法務・労務コンプライアンス」の「第二部 労務コンプライアンス」のセミナーレポートをお届けします。
残業時間の上限規制や、同一労働同一賃金など、企業にとって対応事項の多い労務。
IPO審査においても、労務管理や違法性の有無は厳格にチェックされます。不適正な労働時間管理、未払残業代問題、名ばかり管理職など、企業に求められる労務管理を正確に行っていないことは、IPO審査のタイミングでも問題となり、
審査が止まってしまうこともあります。
本セミナーでは、IPO準備段階で一つずつクリアしていくために、労務にかかわる審査の論点を整理し、対処方法を解説します。
- セミナー総括
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労務コンプライアンス
[講師] アイ社会保険労務士法人
代表社員/社会保険労務士
土屋 信彦氏
◆ 顕在化すると、経営に打撃を与える労務リスク
36協定や同一労働同一賃金など、IPO審査においても論点の多い労務。
労働基準法、最低賃金法、パートタイム・有期雇用労働法、労働安全衛生法、労働契約法など、関連法令は多岐にわたります。
もしこれらの法令に違反してしまった場合、どのようなリスクがあるでしょうか。
リスクを分類すると、以下のようなものが挙げられます。
1. 金銭リスク
代表的なものに、未払賃金の問題があります。100名規模の企業の場合、1000万円単位で簿外債務が発生することもあります。
2. 信用リスク
SNSなどで、従業員が不適正な動画をあげてしまったり、法令違反を告発などした場合、企業の信用を損ない、ブランド価値が著しく低下する可能性があります。
3. 訴訟リスク
不当解雇やハラスメント等で訴訟となり、多額の損害賠償が発生することがあります。
4. 行政処分リスク
営業停止処分ほか
いずれも、経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
IPO審査においても、近年、労務管理は厳しく問われる傾向があります。労務問題が顕在化した場合、審査が止まってしまうケースや、IPO自体をあきらめざるを得ない状況になることもあります。
具体的な労務リスクについて、次に解説します。
◆ 最大にして最重要!未払賃金問題
未払い残業代が発生する原因は主に以下の3つです。
1.不適正な労働時間管理
2.割増賃金計算の過誤
3.管理者に対して残業代が支払われていない
それぞれについて解説します。
1.不適正な労働時間管理
最も多い原因として、労働時間が適正に把握できていないということがあります。以下のようなケースです。
・そもそも労働時間を管理していない
・タイムカードはあるが、一定時刻になると強制打刻をする
・上司の指示で実際の労働時間をカットしている
・日単位で30分未満を切り捨てている
このような場合に未払賃金が発生しやすくなります。労働時間の切り捨てについては、証券審査でも、取引所審査でも非常に細かく確認されるポイントです。月単位の合計で30分未満の端数処理は認められていますが、それを超えるような日単位での切り捨ては認められていません。
労働時間については、2017.1.20より、「労働時間の適正把握ガイドライン」が策定されました。企業は、タイムカードや自己申告による勤務時間を管理していたとしても、PCの使用記録やビルの入退館記録を用いて、実労働時間を把握し、乖離がある場合には実態調査をすることが求められます。
2.割増賃金計算の過誤
割増賃金計算においては以下のような誤りがみられます。
・割増賃金の計算に手当を含めず、基本給だけで残業計算している
通勤手当・住宅手当・単身赴任手当などは割増計算の基礎賃金から除外することが可能ですが、全員に一律で支給しているなど、実質的に基本給の一部とみなされるような場合においては、除外が認められないこともあります。手当の名称よりも、実態で判断されることに注意が必要です。
・割増賃金率が法定以上になっていない
時間外や深夜に労働があった場合、割増賃金を支払う必要があります。また、同じ時間外労働であっても時間帯や休日の区分(法定休日か法定外休日か)によって、割増率が異なります。
・残業単価を割り出す分母(年平均所定労働時間)が正しくない
年間の休日数を考慮して年間所定労働時間を12ヶ月で割り、計算する必要がありますが、数時間ずれているだけで是正勧告を受けてしまったケースもあります。
・不適正な定額残業制度となっている。
最近では、定額残業制度を採用している企業が多くみられますが、「定額残業制度=残業代を支払わなくて良い」と誤解しているケースがあります。定額残業制度を採用する場合であっても、定額残業代に相当する時間数を明示したうえで、時間外労働時間数も正しく把握し、定額分の時間数を超えた時間外労働があった際には、追加で残業代を支給する必要があります。
・年俸制で残業代の支給は不要と考えていた。
年俸制でも、便宜的に振り分けた賞与を含めて、残業単価を計算する必要があります。
3.管理者に対して残業代が支払われていない
労働基準法第41条第2号の「管理監督者」と認められれば、残業代の支払い義務がありませんが、これは会社における「管理者」の定義と必ずしも一致しません。本来残業代の支払いが必要な社員に対し、「管理職だから」と正しく支払いをしていないケースがあります。
次項で詳しく説明します。
◆ 管理監督者は勤怠時間を管理しなくてもいい、は間違い?!
「管理監督者」であるため、残業代を支給していなかったが、実は管理監督者の要件を満たしていないといったケースで、残業代が未払賃金となってしまうケースがあります。先述の通り、労働基準法で残業を支給しなくてもよい「管理監督者」というのは、会社における「管理者」と必ずしも一致しません。
労働基準法上の「管理監督者」は以下のような条件を満たしている必要があります。
・ 組織図、職務権限規程などに照らして該当者の権限・責任・職位がふさわしいものである
・ 労働時間に関して会社の拘束を受けず、本人の裁量により時間管理が任されている
・ 一般社員と比べて重要な職務を行っており、それに見合う役職手当や待遇(報酬)がなされている
これらの条件を満たし、「経営者と一体的な立場にあるもの」とされています。
したがって、会社側にシフト管理されている場合や、遅刻・早退などした場合に賃金を減額されている場合、組織図上で確認した場合に全社員の半数以上が該当するような場合などは、労働基準法上の「管理監督者」とは認められないと考えられます。
また、労働基準法上での「管理監督者」に該当する場合、残業代の支給は必要ありませんが、過重労働を防止する観点から、勤務時間の管理は必要です。
労働局では数年前から通称「かとく」と呼ばれる過重労働撲滅特別対策班を組織して、過重労働の取り締まりを強化しています。時間外労働が80時間超えていると考えられる企業には、立ち入り調査が入ります。求人情報サイトの口コミなどもチェックされている可能性があります。監督署の調査が入った場合、なんらかの問題が見つかり、是正勧告を受けるケースが多いです。
◆未払が見つかった場合、退職者も含め2年間遡って清算が必要。
IPO審査などにおいて、未払賃金があることが分かった場合、2年間遡って清算する必要があります。(民法改正により、令和2年4月より消滅時効が3年分と変更となったことも要注意です。)この場合、退職者についても支払いが必要となるため、郵送などの手段も使い、全員に連絡を取るなど、清算のコストは甚大になります。
また、清算がすべて完了するまで、IPO審査が止まってしまうことも考えられます。
労働時間管理を適正に行わない限り、現在進行形で未払い残業代は発生し続けます。一刻も早く、労働時間管理や割増賃金の計算方法などについて確認し、これ以上の未払賃金発生を止める「止血処理」を行ったのち、すでに発生している未払い残業代に対応することで、損失を最小限にとどめることが必要です。
◆ まとめ
労務リスクは、対応範囲が広いため、多くの知識が求められるうえ、頻繁に行われる法改正を常にチェックして、社内の規則や管理方法をアップデートする必要があります。
昨今ではIPO審査において、細かい計算についてまで言及されることも多く、非常に手間のかかる対応が要求されます。
自社で対応しきれない部分については、顧問の社労士の方などと相談しつつ、最新の法令に対応していく必要があります。
◆その他のテーマ
・2019.4より、36協定に罰則付きの上限
・2020年4月施行、同一労働同一賃金
・正社員の3/4の勤務時間のパートタイマーがいるが、本人の希望がなくても、社会保険加入は必要?
・50名を超えたら、事業所ごとに労働安全管理体制整備が必要。
・企業側が不利になりがちな解雇トラブルを避けるには。
・ハラスメント対策
・IPO準備段階で、労務監査は必須?
◆アンケートには以下のようなご感想が寄せられていました。
・問題点を網羅的にチェックするような内容で、知識の整理に有意義でした。
・IPO審査におけるポイントや、判例を交えて労務リスクの説明があったためイメージしやすかった。
・とても実務的な説明で、これまで問題ないと思っていたが自社の労務管理を見直そうと思った。
◆ 土屋氏によるコラムはこちら
・未払い残業問題でIPO準備が止まる?! IPO準備段階では労務問題の早期解決が鍵!
・過重労働問題、メンタルヘルス・・・ 多岐にわたる労務問題、IPO準備段階での対策は。
・働き方改革法案成立。 IPO審査における労務関連分野のトレンドは。
- 講師紹介
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アイ社会保険労務士法人
代表社員/社会保険労務士
土屋 信彦氏得意分野はIPOやM&A及びリスク対応にかかわる労務監査や就業規則整備。
証券会社、税理士会、宅建業協会、異業種交流会等でのセミナー多数。
埼玉県社会保険労務士会理事、社会保険労務士会川口支部副支部長等を歴任。名南経営LCG会員。上場実務研究士業会会員。
人事担当者向け情報が充実!詳しくはホームページをご覧ください。
アイ社会保険労務士法人 ホームページ
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IPOを目指す経営者や企業をワンストップでサポートする、IPOの専門家によるネットワーク組織。
2014年発足。 事業計画書作成支援、内部統制構築支援などの実務サポートのほか、 IPOの審査トレンドを解説する「IPO Forum」を半期に1度開催し、 資本政策、労務管理など、IPOに必須の論点を解説する「IPO塾」を年間を通して開催している。 メンバーによるコラムも定評がある。
2014年発足。 事業計画書作成支援、内部統制構築支援などの実務サポートのほか、 IPOの審査トレンドを解説する「IPO Forum」を半期に1度開催し、 資本政策、労務管理など、IPOに必須の論点を解説する「IPO塾」を年間を通して開催している。 メンバーによるコラムも定評がある。
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