毎年必ずやってくる年末調整。取り扱う申告書も多く、人によって必要な書類が変わるために、複雑で時間のかかる業務になりがちです。しかも年に1回の作業ともなれば、細かな作業がうろ覚え・・・なんてこともあるかもしれません。この時期になると、うんざりする担当者も多いのではないでしょうか。
今回は、年末調整の流れを3つのステップに分けて、各ステップで行う業務を分かりやすく整理します。
業務全体の流れや大事なポイントを押さえて、複雑な業務をスムーズにこなしていきましょう!
目次
年末調整とは?[概要と対象]
年末調整は、企業が従業員の給与から毎月天引きした所得税と、本来支払うべき所得税の金額を調整し、確定させる業務のこと。
所得税は、その年一年間の所得が確定しないと正確な金額を把握できません。把握できた段階で支払うべき所得税を従業員に全額一括請求をしてしまうと従業員に大きな負担となってしまうため、通常は、従業員の所得税を概算で算出し毎月の給与から源泉徴収しています。
年末調整は、そうした概算の源泉徴収税合計と一年間の所得に応じて本来の年収で支払うべき所得税との過不足を精算するために行うものです。
■年末調整の対象になる人/ならない人
年末調整は、企業が給与を支払っている全ての従業員が対象となります。従業員はもちろん、アルバイトやパートも対象者に含まれます。また派遣社員については、雇用している派遣元が年末調整を実施します。
12月に年末調整を行うのは、今年の「扶養控除(異動)申告書」を提出している人、1年を通して勤務している人や、年の途中で就職し年末まで勤務している人になります。ただし、以下の条件に該当する従業員は、年末調整を実施する必要はありません。
- 年収が2,000万円以上ある場合
- 災害減免によって所得税の支払い猶予や還付をすでに受け取っている場合
- 副業などで2カ所以上の収入源があり、他の給与支払者が扶養控除等(異動)申告書を提出している場合
- 非居住者
- 継続して雇用していない場合(日雇労働者など)
また、以下の条件に該当する従業員は、年の途中でも年末調整が必要となります。
- 海外支店への転勤等により、非住居者となった場合
- 在籍期間中に死亡し、退職となった場合
- 著しい心身の障害が理由で退職し、再就職が見込めない場合
- 12月の給与を受け取った後に退職をした場合
- 退職するパートタイム従業員の給与額が103万円以下だった場合
※ただし、他の勤務先から支給される給与も合わせて103万円を超えると想定できる場合は除く。
年末調整の流れと手順[効率よく進める3つのステップ]
年末調整では取り扱う書類も多く、申告書に記載された金額の正確さが計算にも大きく影響します。また、その年の最後に支払う給与でまとめて精算するので、その時期に間に合うよう段取りよく実施していかなければなりません。従業員ひとりひとりの年末調整を行うため、時間もかかり、総務担当者にとっては負担も大きいことでしょう。
ですが、年末調整の業務は、全体の流れを以下の3つのステップで捉えると、とてもシンプルになります。
年末調整の時期は企業によってスタートする時期は異なると思いますが、概ね11月頃からスタートし、1月下旬まで作業されていることでしょう。ここでは、標準的な時期と照らし合わせながら、それぞれのステップで行う業務を確認していきます。
【STEP1】従業員による各種申告書の提出 〜11月下旬
まずは、年末調整の対象となる従業員に必要な各種書類を配布し、必要事項を記載してもらって回収します。
年末調整では、以下の書類が必ず必要になります。
■必ず提出が必要な書類
● 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与所得者が、その給与について、配偶者控除や扶養控除、障害者控除(特別障害者を含む)、寡婦控除、寡夫控除、勤労学生控除などの諸控除を受けるための手続きに必要な書類です。扶養控除は「配偶者以外の扶養親族」が該当しますが、扶養親族がいない場合も「いない」という申告が必要になります。
またこの申告書にはマイナンバーの記載※も原則必要です。書類が提出されたら、マイナンバーの記載は適切か、扶養親族や障害者、寡婦、寡夫等の適用要件が適切か、すでに申告されている内容に異動がないかなどをチェックしましょう。
申告書の様式は、国税庁ホームページ「給与所得の扶養控除等の(異動)申告」よりダウンロードが可能です。
※ マイナンバーの記載について
マイナンバーは原則記載が必要ですが、従業員との合意のうえで、従業員が扶養控除等申告書の余白に「マイナンバーについては給与支払者に提供済みのマイナンバーと相違ない」旨を記載し、かつ、企業が既に提供を受けている従業員のマイナンバーを確認した旨を扶養控除等申告書に表示していれば、「扶養控除等申告書にマイナンバーを記載しなくても差し支えない」とされています。
その他、該当者ごとに提出が必要な書類もあります。
■該当者別に提出が必要な書類
● 所得控除が受けられる保険料や確定拠出年金(iDeCo)等の掛金がある人
→ 給与所得者の保険料控除申告書と控除証明書類
生命保険料や地震保険料などの保険料を支払った人が、所得から控除を受ける手続きのために必要な申告書です。申告書には「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済」といった、4つの保険料控除の記入欄が記載されています。また、確定拠出年金(iDeCo)など天引きしていない掛金がある場合も、所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
提出の際には、申告書とともに各保険会社等からの控除証明書類も添付してもらいます。書類が提出されたら、証明書類と申告書に記載の内容が合致しているかをチェックしておきましょう。
申告書の様式は、国税庁ホームページ「給与所得の保険料控除の申告」からダウンロードできます。
● 配偶者控除を受けられる人
→ 給与所得者の配偶者控除等申告書
給与所得者が、本人および配偶者の所得金額に応じて本人の所得からか控除を受けるための手続きに必要な書類です。
配偶者控除は2018年(平成30年)に改正され、書類の様式が変更になったとともに、適用要件が以下のように変更されました。
<配偶者控除の適用要件>
- 夫の合計所得金額が1,000万円を超えると配偶者控除は受けられない。
- 夫の合計所得金額が900万円以下で妻の合計所得金額が38万円以下であれば配偶者控除は38万円。
- 夫の合計所得金額が900万円超〜950万円以下で妻の合計所得金額が38万円以下であれば配偶者控除は26万円。
- 夫の合計所得金額が950万円超〜1,000万円以下で妻の合計所得金額が38万円以下であれば配偶者控除は13万円。
また、配偶者特別控除の要件も変更されています。夫の合計所得金額に応じて3段階で控除額が算出され、妻の要件も合計所得金額が85万円まで引き上げられましたので、記入間違いや記入漏れがないか、提出された書類を入念にチェックする必要があります。配偶者控除の変更に関する詳細および控除額の計算については、OBC360°記事「年末調整は再計算が発生?『配偶者(特別)控除改正』で、より煩雑になる年末調整業務の全貌」でご確認ください。
なお、配偶者控除等申告書にはマイナンバーの記載※も原則必要となります。
申告書の様式は、国税庁ホームページ「給与所得の配偶者控除の申告」からダウンロードしてください。
※ マイナンバー記載なしの要件は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の注釈を参照ください。
● 住宅ローンを利用しマイホームの取得等をした人
→ 住宅借入金等特別控除申告書
住宅ローンを利用してマイホームの取得・新築・増築を行い、適用要件を満たせば、年末時点での住宅ローンの残高に一定割合をかけた金額を一定期間各年分の所得税から控除する「住宅借入金等特別控除」が適用されます。この控除は確定申告での対応になりますが、本人が希望した場合、2年目から年末調整で対応できます。
● 転職で中途入社した人
→ 前職での「源泉徴収票」
転職者は、前職の企業退職後から1ヶ月以内に源泉徴収票を受け取ることができます。年末調整を実施する上で源泉徴収票は必要書類の1つなので、転職して中途入社した従業員には、早めに提出を呼びかけておきましょう。
従業員ごとに必要な書類を回収したら、申告内容に不備がないかをチェックします。従業員から回収した各種申告書の記載に誤りがあれば、間違った計算になってしまい、再申告・年末調整をし直すことにもなりかねません。回収した書類のチェックは、年末調整の計算に際して非常に重要な作業です。次のステップに大きく影響するので、他の担当者と二重チェックし、抜け漏れがないかしっかり確認しましょう。
また、年末調整がスムーズに実施できるかどうかは「各種申告書のスムーズな回収で決まる」ともいえます。申告書の提出依頼や催促などを自動化するシステムなども活用して、社内には早めに必要な書類の提出依頼と配布を行いましょう。
【STEP2】年末調整の計算の実施 〜12月下旬
従業員から各種申告書の回収が完了すれば、次は年末調整の計算を行い、源泉徴収票にまとめます。
■年末調整の計算手順
給与システムを導入している場合は自動で計算されますが、手計算の場合は通常、以下の手順で行われます。
年末調整の計算で基礎資料となるのが、「源泉徴収簿」です。
源泉徴収簿は、毎月支払っている給与額や賞与額、源泉徴収税額、扶養親族等の情報を従業員別に記録しておく帳簿です。法令上の義務はないので、毎月の源泉徴収の記録や年末調整にも使用できるものであれば給与台帳等を代用しても差し支えありません。
源泉徴収簿の新しいサンプルは国税庁ホームページで公開されていますので、これを活用するのもいいでしょう。
■源泉徴収票の作成
年末調整の計算が終われば、従業員ごとに源泉徴収票を作成します。
源泉徴収票は、税務署への提出用、本人への交付用、市区町村へ提出する給与支払報告書(個人別明細書)で構成されています。そのうち、本人への交付用の源泉徴収票は、従業員に年末調整の結果をまとめた「従業員の確定申告」の控えとも言えます。年間の所得額や控除額の合計、源泉徴収税額等がすべて掲載されますので、従業員は自分の年収も確認できます。従業員へは12月の最終給与支給時に交付します。
なお、源泉徴収票は2018年以後の様式が変更されています。様式の詳細は、国税庁ホームページ「給与所得の源泉徴収票(同合計表)」を参照ください。
【STEP3】法定調書の作成と提出 〜1月下旬
年末調整の計算が完了すれば、源泉徴収票をはじめ税務署や市区町村に提出する法定調書の作成・提出、および源泉徴収税の納付を行います。
源泉徴収税の納付期限は、法定調書の提出期限よりも早く、「所得税徴収高計算書(納付書)」を作成したら年末調整を行った翌年の1月10日までに税務署に対して提出・納付します。ただし、納期の特例事業者に関しては、1月20日が納付期限となります。
法定調書は60種類あり、その中で「年末調整に関する法定調書」は以下の4種類あります。
■提出が必要な4つの法定調書
- (A) 支払調書
源泉徴収義務者(源泉徴収税を納める義務がある企業のことをいいます)が、「誰に」「どのような内容で」「いくら支払ったのか」といった詳細を記した書類です。
主な支払調書に「報酬、料金、契約及び賞金の支払調書」があります。これは、弁護士や税理士などの専門家への報酬、作家やデザイナーなどへの原稿料、広告宣伝のための料金、社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬等を支払った際に作成します。支払先が個人の場合、マイナンバーの記載が必要になりますので、支払先への確認も忘れないようにしましょう。
支払調書は、年末調整を行った翌年の1月31日を期限として、法定調書合計表とともに税務署に提出します。また、義務ではありませんが、支払調書は支払先へも送付するのが通例となっています。
※国税庁:報酬、料金、契約及び賞金の支払調書(同合計表)フォーマット - (B) 法定調書合計表
法定調書合計表とは、税務署に提出する各種法定調書を集計した表のことをいいます。従業員に渡した「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」や「報酬、料金、契約及び賞金の支払調書」、「不動産の使用料等の支払調書」「不動産等の譲受けの対価の支払調書」「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」をとりまとめて作成します。
従業員ごとに法定調書を提出すると計算の手間が発生するので、事業主体ごとに内容を集計して提出することになっています。
法定調書合計表は、年末調整を行った翌年の1月31日までに税務署に提出する必要があります。
※国税庁:給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表フォーマット - (C) 源泉徴収票
12月に従業員へ渡した源泉徴収票と同じ内容のものを、年末調整を行った翌年の1月31日までに税務署にも提出します。
※様式については、国税庁ホームページ「給与所得の源泉徴収票(同合計表)」を参照ください。 - (D) 給与支払報告書
給与支払報告書は、事業者から市区町村へ提出する書類で、これをもとに次年度の住民税額が決まります。給与支払報告書には、従業員ごとにまとめた「個人別明細書」と事業所全体の個人別明細書をまとめた「総括表」の2種類があります。給与システムで作成する場合、源泉徴収票と同時に作成できますが、手書きの場合は給与支払報告書(2枚)と源泉徴収票(2枚)が4枚複写になっている用紙などを使用すると便利です。
給与支払報告書は、年末調整のあった翌年の1月31日を期限として、従業員の居住区となる市区町村に提出します。総括表では従業員の居住区ごとに分類し作成します。
※総務省:給与支払報告書(総括表および個人別明細書)フォーマット
なお、年末調整に関連する法定調書は書面による提出を原則としますが、当該年の前々年に提出すべき書類が1,000枚以上ある場合、電子申請※で提出することが義務化されました。さらに、2018年の税制改正により、電子申請の義務化は2021年1月1日以降「提出すべき法定調書100枚以上」に引き下げられます。
電子申請はパソコンから直接送信できるので、書類を紙で用意する手間を省けるうえ提出先へ出向く時間も削減でき、申請手続きの効率化に繋がります。今年100枚以上発生しそうな場合は、今のうちに検討してくのもいいでしょう。
支払調書の提出と年末調整の結果を反映した源泉徴収税額の納付が完了すれば、年末調整は終了となります。
※ 電子申請の詳細は、国税庁e-Taxのホームページおよび地方税ポータルシステムeL-Taxのホームページを参照ください。
おわりに・・・[法改正内容もチェックしよう]
年末調整は法改正の影響を受けやすく、ほぼ毎年何らかの改正が行われていると言って過言ではありません。その都度申告書の様式等も変更され、これまでも、マイナンバー制度の導入や配偶者控除および配偶者特別控除の改正※などで、申告書の様式や計算方法の変更が繰り返し行われてきました。法改正が実施される際には特に注意し、年末調整実施に影響はないか、しっかり確認しましょう。また、もし法改正による影響を受けた場合には、遅くとも申告書を配布する際には「どのように変更されるのか」について従業員へ告知することも重要です。
いずれにせよ、年末調整をスムーズに実施・完了させるためには、早い段階での準備や着手が鍵となります。できるだけ前倒しにスケジュールを組み、実施していきましょう。
▼今年の制度改正や、デジタル化に向けた導入準備、他社システム比較など年末調整の情報を一挙公開!
※ 関連記事「年末調整は再計算が発生?『配偶者(特別)控除改正』で、より煩雑になる年末調整業務の全貌」参照
年末調整に関するよくあるご質問
- そもそも年末調整とは?
- 年末調整は、企業が従業員の給与から毎月天引きした所得税と、本来支払うべき所得税の金額を調整し、確定させる業務のこと。概算の源泉徴収税合計と一年間の所得に応じて本来の年収で支払うべき所得税との過不足を精算するために行うものです。
- 年末調整の対象となる従業員はどのような人?
- 年末調整は、企業が給与を支払っている全ての従業員が対象となります。従業員はもちろん、アルバイトやパートも対象者に含まれます。また派遣社員については、雇用している派遣元が年末調整を実施します。12月に年末調整を行うのは、今年の「扶養控除(異動)申告書」を提出している人、1年を通して勤務している人や、年の途中で就職し年末まで勤務している人になります。
- 年末調整の際に提出が必要な書類は?
- 年末調整では、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書が必ず必要となり、また該当者によっては追加で書類が必要です。
これら書類をもとに年末調整の計算をし、従業員ごとに源泉徴収票を作成します。税務署や市区町村に提出するのは、以下の4種類の書類です。
①支払調書
②法定調書合計表
③源泉徴収票
④給与支払報告書
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