現代社会の企業経営には、高いコンプライアンス意識が求められます。コンプライアンスに違反する行為が露見すれば、インターネット上での炎上を招いたり、社会的信頼を失ったりする可能性もあります。
コンプライアンスを重視すべき理由や違反例、実現のポイントなどについて解説します。
目次
- コンプライアンスとは法令、社会における決まりや倫理全般に背かないこと
- コンプライアンスを重視すべき理由
- コンプライアンス違反の例
- コンプライアンス違反が起こる理由
- コンプライアンスを実現するためのポイント
- コンプライアンスについてあらためて確認しよう
コンプライアンスとは法令、社会における決まりや倫理全般に背かないこと
コンプライアンスは本来、「法令遵守」を意味する言葉です。法令とは、国の立法機関が定めた「法律」と、行政機関が定めた「命令」を指します。遵守は決まりを守ることですから、法令に背かずそれを守ることが、そもそものコンプライアンスという意味だといえるでしょう。
ただし、現代のコンプライアンスは、法令に限らず、社会における決まりや倫理全般に背かないことを指します。より広い意味で、規範に背かないことを求められているといえるのです。
コンプライアンスの3つの基準
コンプライアンスは法令遵守のみならず、もっと広い概念で捉える必要があります。法令に加えて社内規則と社会倫理という2つの基準も含まれて考えられるようになりました。コンプライアンスを考える際は、それぞれの基準に対して問題がないかを検討しましょう。
・法令
公的な決まりである法律や命令を守ることは、社会を構成する一員として最低限のルールです。コンプライアンスを考えるにあたっても、当然守らなければならないものだといえます。
法令を守るためには、まず、法令に何が定められているのかを知る必要があります。法令は時代に即して見直されていくものです。知らず知らずのうちに法令違反をしてしまうことがないように気をつけなければなりません。
・社内規則
企業には、就業規則や賃金規定といったさまざまな社内規則が設けられています。これらの規則を守ることは、企業を運営していく上で非常に重要です。
例えば、「就業時間は9時から18時、休憩時間は12時から1時間」という社内規則があるのであれば、従業員は9時に出勤し、18時まで働く必要があります。勝手に出勤時間を遅らせたり、退勤時間を早めたり、休憩時間を独断で時間変更することもできません。こうしたルールがあることで「従業員全員が9時にそろって業務をスタートできる」「従業員は12時から1時間自由な時間を確保できる」といった働き方の基本が確保されます。
それ以外の働き方をするのであれば、どのような場合にそれを認めるのかを明文化し、規則に加える必要が出てきます。何でもルール化することに窮屈さを感じる方もいるかもしれませんが、多様な価値観の人が働く組織では、一定のルールが定まっていないとトラブルの原因になります。また、ルールを定めることで、混乱を防ぎ、公平な対応をするために役立ちます。
・社会倫理
社会倫理とは、社会生活を送る上で意識すべき道徳のことです。明文化されているわけではありませんから、法令や社内規則に比べて基準があいまいになりがちです。とはいえ、「差別をしてはいけない」「自然は守らなければならない」といったことは、広く社会に浸透している道徳観といえるでしょう。どこまでを意識するのかはそれぞれの企業の姿勢や方針によっても変わりますが、社会倫理に背く行動が批判につながり、企業の評価や売上に影響する可能性もあります。
誰もがインターネットを利用するようになった昨今、企業広告や従業員の発言などが大きな炎上につながるケースが増えています。高い倫理観を持った経営を行い社会の支持を得ることは、これからの企業にとって重要なミッションです。
コンプライアンスに似た言葉
「コーポレートガバナンス」と「ポリティカルコレクトネス」は、どちらもコンプライアンスのために重要な役割を果たします。それぞれどのような意味なのかを知っておきましょう。
・コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスとは、健全な経営を行うために必要な管理体制のことです。コーポレートは企業、ガバナンスは管理や統治を意味しています。
コンプライアンスを実現するためには、そのための体制を整えなければなりません。例えば、不正が起こらないように特定の1人の従業員がすべてを決定できず、必ず誰かがチェックをする仕組みなどが挙げられます。コーポレートガバナンスを整えることが、コンプライアンスの実現にもつながっていきます。
・ポリティカルコレクトネス
ポリティカルコレクトネスとは、人種や宗教、性別などについて中立的な表現を用いることです。差別の撤廃に関する意識は、年々高まっているといえるでしょう。どのような事柄についても、中立的な表現を心掛けていくことが求められます。
とはいえ、発信者の認識がアップデートされていないと、意識せず偏った表現を用いてしまう可能性もあります。知らず知らずのうちに問題のある発言をしてしまうリスクを避けるためには、従業員への教育等の実施や、外部への発信内容に関するチェック体制の完備などが効果的です。
コンプライアンスを重視すべき理由
コンプライアンスの重要性は、年々高まっているといえます。高いコンプライアンス意識を持つことは、社会の一員としての義務を果たすためにも、顧客からの支持を得るためにも大切です。反対に、コンプライアンス意識に欠ける経営を行っていると、SNSなどによる情報拡散によって炎上してしまう可能性もあります。
コンプライアンスを重視すべき理由をあらためて確認し、現代に合った倫理観を持ちましょう。
法改正に対応するため
健全な社会を維持するためには、社会を構成する企業や個人がルールを守る必要があります。法令を守ることは、コンプライアンスの中でも最も基本的な部分です。コンプライアンスを重視し、法令遵守意識を高めることで、随時改正される新しい法令にも遅滞なく対応できるようになります。
法改正が行われる目的はさまざまですが、例えば「残業時間」に関する法令は、年々長時間労働を抑制する方向に動いています。元々、ワークライフバランスを重視し、長時間労働防止や有休取得率向上などを目指していた企業であれば、このような法改正にもスムーズに対応できるでしょう。法令で禁じられていないからと倫理観の低い経営を行っていると、法改正に対応しきれなかったり、対応しなければいけなくなった際に多大な労力やコストが必要になったりする可能性があります。
社会的責任を果たすため
企業は、社会の一員として環境や人権などに配慮した経営を求められます。企業に求められる社会的責任を、「CSR(Corporate Social Responsibility)」と呼びます。法令や社会倫理を守らないコンプライアンス意識の低い企業は、CSRを果たすことができません。
また、CSRの実現と企業の利益追求は、短期的な視点で見ると相反することがあります。しかし、企業が社会の中で持続的に発展するためには、自社の利益だけを追い求めていると、社会から取り残されてしまいます。
顧客や投資家から信頼を得るため
コンプライアンス意識の低い企業は、顧客や投資家からの信頼を得ることもできません。
例えば、賞味期限切れの食品の表示シールを貼り替えて顧客に販売した店舗があったとします。一度でもこのようなことがあると「あの店の商品は賞味期限が切れているかもしれない」と思われてしまいます。信用が失われ、顧客は別の店で買い物をするようになってしまうかもしれません。投資家も、法令遵守意識が低く、炎上する企業に対する投資は、リスクが大きいと判断するでしょう。
つまり、顧客や投資家からの信頼を得るためには、コンプライアンスを意識した経営が求められるのです。
働きやすい環境を作るため
労働基準法や労働安全衛生法といった法律や関連規則を守ることは、従業員の心身の健康や安全につながります。また、社内規則を策定して、従業員に周知することで、無用のトラブルや混乱を防止し秩序を守ることができます。さらに、時代に応じた社会的倫理観に沿った経営は、従業員全員が働きやすい環境づくりのために必須です。
長時間労働やハラスメント、不公平な評価や待遇といった問題は、従業員にストレスを与え、十分な実力を発揮できない原因になります。コンプライアンスを意識した経営を行うことで、エンゲージメントの向上や意欲アップによる生産性の向上などが見込めます。
コンプライアンス違反の例
コンプライアンスには、さまざまな種類があります。一例として、下記のような行為はコンプライアンス違反に該当するといえるでしょう。
<コンプライアンス違反例>
- 長時間労働
- ハラスメント
- 情報漏洩
- 著作権法違反
- 商品の偽装
- 不正会計
- 補助金等の不正受給
明確な法令違反以外の行為については、何がコンプライアンス違反に該当するか判断が難しい部分もあります。しかし、環境汚染や差別、従業員や顧客をないがしろにするような行為などは、コンプライアンス違反と判断される可能性が高いでしょう。企業としての判断が必要なときは、社会的な理解が得られるかどうかについて検討する必要があります。
コンプライアンス違反が起こる理由
コンプライアンス違反は、知識不足や体制の問題などから起こります。下記のような問題を認識して、コンプライアンス違反が起こりやすい土壌を作らないように気をつけてください。
経営層や従業員の知識不足
経営層や従業員が、法令や社内規則、社会倫理に関する正しい知識を身につけていなければ、当然それを守ることはできません。コンプライアンスとはどのようなもので、なぜ違反してはならないのかを十分周知する必要があります。同時に、どのような事柄がコンプライアンス違反に該当するのか具体的に示し、理解を深めていかなければなりません。
働き方や認識のアップデートがなされていない
特に、一定以上の年齢の管理職が注意しなければならないのが、働き方や認識のアップデートです。「過去に当たり前であったことを今の時代に行うと、コンプライアンス違反になってしまう」というのは、よくあることです。
コンプライアンスの3つの基準である「法令」「社内規則」「社会倫理」は、どれも恒久的なものではありません。法令は随時アップデートされますし、社内規則も法令改正や時代の流れに応じて変更されるものです。また、社会倫理には明確な指針がありませんが、時代とともに人権や環境などに関する倫理観は変化しています。
こうした変化に対応できていないと、知らず知らずのうちにコンプライアンスに反する言動をとってしまう可能性があるでしょう。
コンプライアンス違反を防ぐ体制づくりができていない
コンプライアンス違反を防ぐためには、そのための体制を作っておくことも大切です。それに法改正に対応できるよう管理体制を見直した企業と、特に何の対策もとらなかった企業では、後者のほうがコンプライアンス違反のリスクは高まります。
従業員の意識や心掛けに頼るだけでは、コンプライアンス違反を防ぐ効果は限定的です。企業としての基準を明確にし、それを実現するための体制を作る必要があります。
コンプライアンスを実現するためのポイント
顧客や従業員、投資家からの支持を得るためには、コンプライアンスを意識した経営が求められます。コンプライアンス実現のために、下記の3つのポイントを意識してください。
情報のアップデートをする
コンプライアンスの基準は、時代に応じて変化していきます。最新の基準をもとに、コンプライアンス違反にならないかを判断する必要があるため、法改正や社会的倫理観など、随時情報を得られるようにしましょう。
・法改正
法改正に関する情報は、国や健康保険組合などからの案内を見逃さずにしっかり確認してください。また、不明点はそのままにせず、正確な知識を得ることも大切です。
・社会的倫理観
社会的倫理観は、時代によってめまぐるしく移り変わるものです。他社で問題になった事例なども確認し、現代社会におけるコンプライアンスの在り方を常にアップデートしていく必要があります。
コンプライアンス違反を防ぐ体制づくり
コンプライアンス違反を防ぐためには、その体制づくりも大切です。下記のような体制づくりを考えてみてください。
・基準・規則の策定
コンプライアンスの基準のひとつは「社内規則」です。コンプライアンスに則った経営を行うために、「何をして良いのか」、「何をしてはいけないのか」の基準を設けます。
・相談窓口の設置
コンプライアンス違反に関する相談窓口を設置すれば、コンプライアンス違反への対応に悩んだ従業員や、「コンプライアンス違反かも?」と感じた従業員が気軽に相談できるようになります。
・監視体制づくり
各支店などの現場レベルでコンプライアンス違反が起こっていないかどうか、監視体制を作ることも大切です。定期的に従業員へのヒアリングを行ったり、管理体制などに問題がないかを確認したりします。
従業員への周知を徹底する
規則を定めたり、相談窓口を設けたりしても、従業員に制度が周知されていなかったり、コンプライアンス意識が浸透していなかったりするようでは意味がありません。従業員への周知を徹底することが大切です。
・規則の周知
コンプライアンスに関する規則や制度について、従業員がいつでも内容を確認できるようにしておきます。また、規則が改正された場合は、内容の周知が必要です。
・研修の実施
コンプライアンス意識は、規則や決まりだけを読んでいてもなかなか身につきません。具体的に事例にもとづいて学べる研修などを実施し、意識を高める活動も行っていきましょう。
コンプライアンスについてあらためて確認しよう
法改正が行われる際には、自社がコンプライアンス違反をしてしまっていないかどうか、あらためて確認してみてください。さまざまな法令や社会倫理に反することなく、クリーンな経営ができているでしょうか。コンプライアンスの基準は刻々と変化するものですから、定期的な見直しを行い、チェックすることが大切です。
「勤怠管理クラウド」や「給与奉行クラウド」、「勘定奉行クラウド」などのサービスでおなじみのOBCでは、現代社会の企業経営や業務に関する法改正について、ユーザーに対し事前に改正内容や実務対応、対応システムなどさまざまな情報提供を行っております。コンプライアンス違反をしないようにするためにも、迅速な情報提供やサポート体制が整ったサービスを選ぶことをおすすめします。
■監修者
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士
大学院修了後、経済産業省所管の財団法人に技術職として勤務し、産業技術総合研究所との共同研究にも携わる。その後、法務部門の業務や労働組合役員も経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立。社外取締役として上場も経験。上場支援、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。
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