「アウトソーシング」とは、外部から人材やサービスを調達して業務を委託(外部委託)することです。
従来は、一般的な事務作業など業務の一部を外部委託するのが主流でしたが、近年では業務プロセス全体を担うプロフェッショナルを活用する企業も増えています。
しかし、バックオフィス業務をアウトソーシングするとなると、「外部に委託できるのか」「どこまで依頼できるのか」「どうやって選べばいいのか分からない」と、なかなか1歩を踏み出せないでいる企業も多いようです。
今回は、「バックオフィス業務のアウトソーシング」をテーマに、メリットや選び方、委託の際の注意点などについて、OBCのパートナー企業でもあるクロスアロー株式会社の代表取締役 矢野大輔さんに伺いました。
<インタビュー>
クロスアロー株式会社
代表取締役
矢野 大輔
大学卒業後、当時のナスダック上場企業にて税務コンサルタントを経たのち、監査法人トーマツのグループ企業へ転職。
様々な企業の管理部門の問題を解決していく中で、経理部門や総務部門のアウトソーシングサービスに特化したサービスを行うために2009年よりクロスアロー株式会社を設立。
目次
- コロナ禍で急増!?バックオフィス業務のアウトソーシング市場
- バックオフィス業務をアウトソーシングするメリット
- バックオフィス部門でアウトソーシングされている業務
- アウトソーシングに向いている企業・向いていない企業
- アウトソーシング候補先選びで押さえておきたい7ポイント
- アウトソーシング先選びで最後に押さえておきたい3要素
- 「アウトソーシングに何を求めるか」がもっとも重要!
- インタビューを終えて
コロナ禍で急増!?バックオフィス業務のアウトソーシング市場
ー バックオフィス業務のアウトソーシング市場はどのような状況でしょうか?
残念ながら、多くの企業では「管理部門の業務を外部の委託先で正確に遂行できるという認識がまだない」というのが実情のようです。欧米などでは、管理部門の業務の7割程度を外部に依頼することは当たり前ですが、日本においては業務の一部を依頼するケースが多いです。例えば、「税理士などに記帳代行を含めた決算業務を依頼する」などですね。
ですが、国内のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)※サービス市場は、年々堅調に拡大しています。
※BPO:業務をプロセス全体で一括して外部委託すること
経理業務でみても、仕訳を打つだけが仕事ではありません。取引先への支払いや顧客からの入金確認など、多くの業務を抱えています。
BPOの場合、税理士による記帳代行以外に、経理担当者の1ヵ月間の業務の大半はアウトソーシングできるようにしようという考え方になります。実際、財務・経理BPOサービス市場では、記帳代行などの単純業務が減少傾向にある一方で、給与計算に関わるもの全てを依頼したいというニーズが高まっています。
他にも、人事BPOサービス市場の伸びも好調ですね。人材不足の状況下において自社に適性がある人材か見極めるには、時間とコストが掛かります。入社後のミスマッチが起こらないように、人材採用のプロフェッショナルに採用活動を依頼したいというニーズが高まっていると考えられます。
特に最近は、新型コロナウイルスの影響も大きいですね。
コロナ禍でテレワークや在宅勤務が推奨されても、日本の管理部門はまだまだ紙資料が多いので、出社しなければ業務が回らないという企業がほとんどでした。そこでBPOサービスを活用する企業が増えている、という傾向もあります。弊社への問い合わせも、コロナ前と比べて1.5倍に増えています。
バックオフィス業務をアウトソーシングするメリット
ー バックオフィス業務をアウトソーシングするメリットについては、どのようにお考えですか?
もっとも大きいメリットは、「人件費の削減」でしょう。
現在、国内企業は深刻な人材不足に陥っています。例えば従業員100名ほどの中小企業ですと、業務量も限られているので、経理総務部門の担当者が1名しかいないというケースが多くあります。
しかし、ひとたび業務が1.2倍、1.3倍・・・と膨むと、担当者1人では全ての仕事をこなせなくなってしまいます。
これまでなら、解決策として正社員やパートの採用、派遣の活用などに踏み切ることが一般的でしたが、この方法では必然的に活用した人数分だけ人件費が増えます。例えば、年収300万円の正社員を雇うと、給与の他にも企業負担の法定福利や採用費、業務で使用するパソコンなどの備品が必要となってきます。すると、実際の経費は年収の1.3倍ほどに膨れあがると考えられます。パートやアルバイト、派遣社員にしても、契約が5年以上更新すると有期労働契約から無期労働契約に切り替える必要も出てきます。
その点、アウトソーシングなら、定額で業務をこなすことができます。請負契約になるので、高い精度が見込めますし、新人教育やマネジメントも必要ありません。転職後の離職スピードが早まっている昨今、従業員1人をプロフェッショナルに育てるまでの時間やコストを天秤にかけ、アウトソーシングしたほうが低リスクと考える企業は着実に増えています。
また、コンプライアンスの観点からもメリットはあります。
働き方改革の推進により時間外労働の上限規制が導入されたことで、従業員1人あたりの業務量を調整する必要も生じています。足りないリソースを外部から調達し業務を回すことで補填できれば、法改正に準じた働き方の実現も容易になります。
今はコロナ禍でリモートワークが日常化していることもあり、そうした働き方への変化に対応する手段としても活用メリットはあるでしょう。
ー よくデメリットとして「ノウハウが貯まっていかなくなるのではないか」という声も聞かれますが?
日本にはOJTで従業員を育ててきた文化がありますので、そういった意味では必然的に次の人材が育ちにくくはなります。ただし、新任担当者がすでに業務に関する知識と経験を充分に持っていれば、企業が失うノウハウはない
と考えます。例えば経理業務で見ると、仕訳処理や振り込み自体は重要な業務ではありません。それよりも、ルーティン業務をアウトソーシングし、あがってきた財務資料を見て今後の財務戦略を練っていくほうが重要です。そうした高度な仕事に人を充てられる、と考えれば、アウトソーシングのメリットは大きいですよね。
バックオフィス部門でアウトソーシングされている業務
ー バックオフィス業務でアウトソーシングされている業務には、どのようなものがありますか?
管理部門の業務は、大きく分けて「総務」「経理」「庶務」の3つがあります。この中で、もっともアウトソーシングされているのは「総務」です。実際、弊社でも7割近くが給与計算についての問い合わせで、残りが会計・経理業務になっていますね。
給与計算などの業務は、他部門と連動していないし、出勤簿や勤怠データなどがあれば、給与計算を完結させることができます。給与計算をアウトソーシングしていれば、年末調整業務も外部委託しやすくなります。
経理業務ですと、営業担当者ごとの数字や請求書発行後の値引き、納品ミスによる請求書の修正など、経理部門だけでは業務が完結しないことが多くあります。ですが、こうした業務も弊社のようなBPOサービスなら外部委託することが可能です。
庶務は基本的に雑務が多いので、外部に業務を依頼している企業は少ないと思います。
アウトソーシングに向いている企業・向いていない企業
ー では、アウトソーシングに向き・不向きな業種や業態などはあるのでしょうか?
業種や業態による向き不向きはありませんが、アウトソーシングによる効果を得やすい企業の傾向ならあります。
例えば、毎月作成している資料について、何のために作っているのかと聞くと「前任者から指示されたので」という企業は多くあります。こういう場合は、本当に必要なものか検証が必要です。
弊社では、アウトソーシングする際に“本当に社長が求める資料”を確認し、担当者とともに経営分析できるような資料作成をご提案しています。弊社の強みは、顧客先で100時間かけている業務を効率化し、60〜70時間程度に抑えられえることにあります。だからこそ、コストも削減できるのです。
こうしたプロフェッショナルの観点から見た改善提案を受け入れられる企業は、効果を得やすいですね。
中には、全ての業務において今と同じ方法を希望される企業もあります。しかし、そうなると、いくら業務を短縮できても80〜90時間程度が限界になってしまい、かえってコストが嵩んでしまうかもしれません。
アウトソーシング候補先選びで押さえておきたい7ポイント
ー アウトソーシングの委託先を選ぶときのポイントはありますか?
委託先の選定には、次の7つのポイントをしっかりと押さえておくことが肝心です。
① 情報セキュリティの体制が整っている
昨今は、情報セキュリティへの取り組みがもっとも重要視されています。世間では、情報漏洩の事故などもよく報告されていますので、弊社で新たにご契約いただくお客様も非常に気にされています。
情報セキュリティ体制にもいろいろありますが、例えば従業員300名以上の企業様の情報を取り扱うのに、プライバシーマークだけでは少し頼りないかもしれません。
弊社では、ISO27001というISMS認証※を取得しています。このように、セキュリティ体制は万全であることを客観的に証明できている委託先なら安心でしょう。
※ISMS認証(ISO27001):Information Security Management System(情報セキュリティマネジメントシステム)の略。情報資産を安全に確保・管理する仕組みが構築されていることを認証する国際資格。
② サービス範囲が広い
例えば、業務が100あるのに10だけアウトソーシングに出してもあまり意味がありません。業務の80〜90%は引き受けてもらえる委託先でなければ、担当者の負荷軽減も人件費削減も難しくなります。
先ほどお話ししたアウトソーシングできるバックオフィス業務の3分野のうち、1つの分野で9割程度は対応できるサービスを展開している委託先を選ぶとよいでしょう。
③ 複数人で対応している
中小企業では、経理や総務の担当者が1名という企業は多いですが、急に担当者がいなくなるリスクは、アウトソーシングする側も委託される側も変わりません。
委託先でも担当先の業務を1人で担っているようでは、何かあったときの対応が難しくなります。
弊社の場合でいうと、どれだけ小規模な業務であっても必ず3名1チームで担当します。このように、複数名での業務体制が整っている委託先を選んだほうが、リスクを最小限に抑えることできます。
④ 企業規模が大きいクライアントを持っている
例えば、上場企業を請け負う場合、上場のための会計処理のスキルが必要になります。しかし、非上場の企業しか業務を請け負ったことのないアウトソーシング企業では、そういったノウハウはありません。
日本企業は、規模が大きければ大きいほど、給与計算も経理も複雑になる傾向が強くあります。ですから、企業規模の大きい取引先があることは重要です。
目安としては、100人規模の顧客を30〜40社ほど請け負っている、もしくは1000人以上の顧客を数社請け負っているアウトソーシング企業を選ぶとよいでしょう。将来自社が成長・拡大しても、継続して委託することができますからね。
⑤ 再委託していない
アウトソーシング企業に求められていることは、約束した日時に正確な数字を届けることです。しかし、再委託する運営体制の場合、これが守られない可能性が出てきます。
再委託先を管理することは、自社の従業員を管理するよりも大変ですし、情報漏洩のリスクも高まります。委託先としては、自社内で業務を完結させている企業のほうが圧倒的に品質も信頼も高くなります。
⑥ アウトソーシングと同時に業務改善を行ってくれる
従来の業務のやり方をどう効率化できるかが、アウトソーシングする意義でもあります。
ただ単純に依頼された業務をすぐに請け負うだけでなく、業務改善のノウハウが豊富で、積極的に提案してくれる委託先を選ぶことも重要です。
⑦ カスタマイズが可能である
アウトソーシング企業には、弊社のような独立系企業の他に、グループ会社を持つ大手企業から分社化したシェアードサービス※という業態もあります。このような企業は、大手企業のノウハウを売りに、会計処理や給与処理など他社業務も請け負っていることがあります。
しかし、シェアードサービスの場合、親会社の業務で使用するシステムやフォーマットを使用することが、請負の条件になっていることがあります。
自社の業務のやり方とかけ離れていては、アウトソーシング自体難しくなるので、なるべく自社のやり方に近い方法でカスタマイズが可能な委託先を選んだほうがいいですね。
※シェアードサービス:グループ企業などが基幹業務を集約し、業務効率を図ってコスト削減につなげる経営手法。
ー 委託先選びには、「アウトソーシング先が何のシステムを使っているか」という視点も重要ということですか?
お客様の目線ではそうかもしれません。
弊社では、奉行シリーズなら大体のパッケージが使えるようになっていますが、もしお客様が「今使っている奉行シリーズを使い続けたい」と思っても、導入していない委託先にアウトソーシングしてしまうと過去のデータが全部止まってしまいます。ならば「奉行シリーズが使える委託先を選んだほうがいい」という場合はあると思います。
紙とPDF、Excelで納品されるより、システムで確認できたほうが便利ですしね。
また、これからはDXの時代ですから、アウトソーシング企業にも柔軟な対応が求められています。お客様のニーズもどんどん多様化して、BPOも多角的なサービスが求められています。とは言っても、RPAやAIなどの導入は、お客様ごとにやり方が違うのでまだ難しい面もあります。
弊社でも、現状は汎用性の高い部分はクラウドサービスを活用して、最終的に残る部分を人の手で完結させてしまうなど、あらゆる方法を検討して最適なご提案をさせていただいています。
アウトソーシング先選びで最後に押さえておきたい3要素
ー 最終的に1社に絞り込むために、何か決め手にするポイントはありますか?
絞り込む段階では、次の3点も確認しておくとよいでしょうね。
- アウトソーシング開始前に最低でも2〜3回程度の打ち合わせがあること
- テスト期間があること
- それらを受けて業務改善を行うこと
実際に業務を請け負うとなると、イレギュラーな対応やマニュアルにない特殊な処理など、どれだけ事前にヒアリングできるかが重要になります。ですので、スタート前にしっかり打ち合わせ時間をとる委託先なら安心できます。
よくあることなのですが、「明日から担当者が来ないので、明日からお願いします」など、切羽詰まった状況で初めて問い合わせをしてこられるケースがあります。なぜもっと早くご連絡をいただけなかったかお尋ねすると、だいたい「ハローワークや大手の求人媒体で募集をかけたが応募が来なかった」と仰います。
ご事情はよく分かりますが、しかし弊社としても、連絡を受けたのが今日で、明日から請け負うのでは業務のやり方がわかりません。実際にアウトソーシングがスタートしてから「あれもこれも変更します」と後からご要望を出していただいても、お客様も弊社も双方が大混乱してしまいます。このような事態は、弊社でなくても起こりうることですので、できるだけ余裕を持ってご依頼いただきたいですね。
あとは当然、テスト期間を持つことです。
会計業務でも給与業務でも、実務を回すと実情を把握できるようになります。「端数は切り捨てと聞いていたけれど、実際には切り上げている」などが実務で発覚することもよくあります。
弊社では、50名規模の企業でだいたい2ヵ月程度、100名規模で3ヵ月程度のテスト期間を設けています。テストの間に露見した問題・課題について、双方で共有し改善していくことで、はじめてアウトソーシングが業務効率化に役立っていくことになるのです。
「アウトソーシングに何を求めるか」がもっとも重要!
ー アウトソーシングを検討する際にもっとも重要なことは何だと思われますか?
「なぜアウトソーシングしたいのか」その理由を突き詰めることが一番肝心ですね。
例えば、業務量と人材のバランスが崩れているのか、あるいは担当者が退職するからか。もしくはコスト削減が目的なのか。中には、管理部部門に人を置きたくないからという社長もおられます。コロナ禍なので、外部に委託することで従業員の在宅勤務を可能にしたいという場合もあります。要するに、企業によって理由はそれぞれなのです。
アウトソーシングは、目的によって選ぶ委託先も進むべき道も、変わります。まずは、そこをはっきりさせることが重要でしょう。
弊社でご契約いただいている企業様は現在150法人ほどありますが、顧客先の従業員の方々もご自身の業務への意識が変わったようで、ほとんどのお客様から「今までやってきたことが無駄だったということがよくわかった」と言われますね。ご担当者からは、「社内の抵抗があって着手できなかった業務効率の改善がスムーズにできて良かった」という声も聞いています。
バックオフィス部門には、本来、労基の対応や人事制度の取り決め、採用などの業務をしっかりやりたい方が多いです。
弊社は経理だけでなく、人事事総務の業務も幅広く手がけていますから、辞令作成や従業員のマイナンバー収集、新入社員に送る専用“入社キット”の制作・送付・回収なども、ご要望に応じて対応しています。アウトソーシングすることで時間が捻出でき、ようやくやりたい業務ができるようになったのですね。
インタビューを終えて
人の能力に頼るやり方では、担当者が退職した際に大きな穴が空いてしまいます。DXの推進などデジタル化の波が押し寄せてはいるものの、バックオフィス部門への設備や人材投資はまだまだ後回しになりがちです。そうした状況に悩む企業にも、アウトソーシングという選択肢に気づいてほしい、と矢野さんは語っていました。
「人に依存しない仕組みづくりが一番大事です。誰でも業務を遂行できる仕組みを作るほうが、よほど難易度は高いですが、だからこそ安定的に運用できるようになります」(矢野氏)
クロスアロー株式会社では、利用者の満足度も高く、依頼企業の98%は継続しているといいます。
「弊社は、記帳代行業者ではありません。業務をただ請け負うのではなく、改善提案をどんどんしていかないと。ですから、従業員に向けては『早く決めて早くやる』『角を立てる』ということを求めています。丸くなる必要はなく、お客様とどんどん揉めなければいいものはできない、というのが私の考えです」(矢野氏)
バックオフィス業務は基本的に100社100様です。バックオフィス業務の属人化、デジタル化に関するお悩みがある方は、ぜひ下記フォームからご相談ください。
クロスアロー株式会社
上場企業・中小企業の経理、給与に関するアウトソーシングのサービス提供を行っております。
特殊な計算処理や複雑な対応が必要とする場合でも、フルカスタマイズのアウトソーシングサービスのためお客様の多様なニーズに対応しております。
お客様からのご要望はお断りしない会社を継続していくことが信条です。
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