毎年11月は「テレワーク月間」です。2020年以降、新型コロナウイルスの影響もあって、多くの企業がテレワーク導入・強化に踏み切っていると報道されています。一方で、民間企業の調査によると、国内中小企業のテレワーク導入率は3割程度と低迷しているようです。
テレワークの実施には、労務管理やICT環境、セキュリティなど整備すべき項目も多いため、どこから手をつければよいかと悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、テレワークを実施する際のポイントについてご紹介します。
目次
- テレワークとは
- テレワークがもたらすメリット
- 日本におけるテレワーク実施状況
- テレワーク導入の障壁になっている要因
- テレワークを始めるなら基本方針を明確化しておこう
- テレワークの実施に向けて整備しておくべき3ポイント
- IT導入補助金がテレワーク導入に活用できます!
- おわりに
テレワークとは
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を使って、職場以外で仕事をし、時間や場所を有効に活用する柔軟な働き方のことを言います。もともとは、働き方改革の一環として導入を推奨されていましたが、新型コロナウイルスの影響で急速に導入が進みました。
大きく分けて次の4つのタイプがあり、これらを総称して「テレワーク」と呼んでいます。
1.自宅利用型
出社せずに自宅で働く勤務形態で、一般的に「在宅勤務」と呼ばれます。通勤などの移動時間を削減できるほか、育休明けの時短勤務等と組み合わせて家庭と仕事を両立しながら柔軟に働くことにも活用できます。2.施設利用型
企業のサテライトオフィスや、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの施設を利用して働く形態。Wi-Fiなどの環境が整っているため、在宅勤務よりもさらに作業環境が整った状態で業務にあたることができます。3.モバイル型
新幹線、飛行機などでの移動中や、移動途中のカフェなど店舗を利用して就労する形態。隙間時間を利用できるので、業務の効率化につながります。モバイル通信を利用するため、自宅にWi-Fi環境が整っていない場合にも対応できます。4.ワーケーション
リゾート地や観光地、地方など、普段の職場環境とは全く異なる場所で就労すること。オフィスや自宅など日常から離れた空間で、リフレッシュしながら働くことができるので、「業務ストレスを緩和し、健康的に働くことができる」と人気が高まっています。このように、テレワークには「場所の概念がない」ことが特徴です。
テレワークがもたらすメリット
テレワークを導入すると、労働者・企業・社会にとってプラスの効果が期待できます。
労働者にとっては、「ライフスタイルに合わせた働き方」がしやすくなり、仕事と家庭を両立しやすくなります。通勤時間が減るため、「家族と過ごす時間が増える」「家事や介護の時間を確保しやすくなる」といったメリットがあります。
また、企業にとっても次のようなメリットがあります。
テレワークが企業にもたらすメリット
- 資料の電子化や業務改善の機会となり、業務効率化による生産性を向上できる
- 育児や介護等を理由とした労働者の離職の防止、遠隔地の優秀な人材を確保できる
- 労働者の通勤負担の軽減が図れるなど、オフィスコストを削減できる
- 働き方改革によって経営改善が行え、ダイバーシティやグローバル対応も実現しやすくなる
- 感染症の拡大や災害などによる事業中断リスクを避け、非常時でも事業を継続できる
コロナ禍の緊急事態宣言下では、BCP対策と従業員に対する健康と安全の確保の視点から、多くの企業でテレワークが実施されました。
さらに、テレワークが定着すれば、育児・介護中の人はもちろん、高齢者や障害者、遠隔居住者などの雇用創出など、柔軟な働き方が実現し、地域活性化にもつながると期待されています。
日本におけるテレワーク実施状況
新型コロナウイルスの影響により、海外ではテレワークが定着しつつある一方、日本ではそれほど浸透しているとは言い難い状況です。
東京都の調査でも、全国の感染者数が2万人を超えていた2021年8月の時点で、東京都にあるテレワーク実施企業は65%でしたが、落ち着きを見せ始めた9月には1.1ポイント減少していました。また、規模別の実施率でも、従業員数が少ないほど実施率は低迷していることが分かりました。
テレワークの実施回数も「週1〜2日」が約半数を占めており、部分的な導入に留まっていることもうかがえます。特に2021年11月は、長く続いた緊急事態宣言が明けた直後になるため、テレワークの実施を取りやめた企業も多いようです。
テレワーク導入の障壁になっている要因
総務省が2021年8月に発表した 「『ポストコロナ』時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース」提言書 では、政府からの社会的要請により「やむを得ず取り組むものと捉えている傾向が見られる」ことを問題視しています。そもそも、「大部屋主義、対面主義、暗黙知等の利点を過度に意識し、テレワークへの不信感(バイアス)が根強く残っている」傾向があるため、ワクチン接種の普及や感染の減少傾向から「企業の意思決定がないまま、なし崩し的に出社が増え」ているのではと指摘しています。
確かに、緊急事態宣言の解除に合わせて実施率は下がる傾向が見られ、「一時的措置」で終わらせている企業も少なくないようです。中には、テレワークを実施してみたものの、「何となく始めて様々なツールを導入したが、結局交代出勤など別の対策をとっている」という企業も見られます。
他にも、テレワーク導入に否定的な意見として、次のような声もよく耳にします。
テレワークできる業務がない
最初の緊急事態宣言中も「紙の書類の処理業務」が問題視されていましたが、「テレワークができる業務がない」「出社しなければならない業務が多い」と感じている企業は、未だに多くあるようです。過去にOBCが行った調査でも、経理・総務業務でテレワークを実施する際の課題を尋ねたところ、多くの担当者が「紙」「ハンコ」と回答していました。
業務効率の低下が心配
普段から慣れている業務プロセスが変わると、「業務効率が下がるのでは」「生産性が落ちるのでは」と懸念する声が上がりやすくなります。上長や同僚とのコミュニケーションが取りにくくなることから、非効率になると懸念されやすいのも事実です。
また従業員側からも、急にテレワークが始まったことで戸惑い、生産性が落ちたと感じる声もあるようです。
労務管理が難しくなる
テレワークの場合、労働時間管理が難しくなるという懸念の声も聞かれます。最近は、適正に労働時間を把握することが求められており、時間外労働にも上限が設けられています。週1〜2日程度のテレワークなら、応急措置的な取り組みとして捉えることもできますが、本腰を入れて導入するとなると、就業規則の改定やテレワーク規定を設けるなどする必要もあり、フルで在宅勤務を導入する場合は人事評価制度も変更するか検討しなければなりません。
セキュリティが不安
テレワーク時にもっとも懸念されるのは、情報漏洩などセキュリティ面のトラブルではないでしょうか。業務によっては取引情報や従業員の個人情報などを取り扱うものもあり、漏洩すると企業の信用問題にもつながりかねません。
業務で使用するパソコンなどをどう管理するか、IDやパスワードの管理なども含め、万全のセキュリティ体制を構築する必要があります。
コストがかかる
テレワークでは、社外からも業務システムにアクセスできるようにする必要があるため、少なからずシステム環境を整備するコストが発生します。インターネット環境の整備費やシステムのリプレイス費用など、準備するだけで多額のコストが必要になると、中小企業には大きな負担となる可能性もあります。
また、長期的に導入するのであれば、テレワークを行う従業員に対して「テレワーク手当」(在宅勤務手当)も検討する必要があります。
しかし、このような問題を感じても、取り組み方次第で充分実現可能です。一般社団法人 日本テレワーク協会 でも、やれるところからやってみて、その結果を見てルールを改善していく方法が推奨されており、その都度改善していくことで長期的に取り組むことも可能になります。
実際、「コロナ禍で本格導入した在宅勤務などの働き方に対し恒久化を検討している企業が多い」という調査結果や、テレワークを長く実施している企業からは「生産性の低下は限定的」という指摘などもあります。
テレワークは、現下の新型コロナウイルス対策から見ても、単なる福利厚生の手段ではなく経営戦術の一手法です。つまり、やり方・進め方はそれぞれの企業判断によって変わるため、正解はありません。
思いつきで進めて問題が発生したから取りやめるのではなく、それぞれの企業が上手く活用できる方法を見つけていくことが大事なのです。
テレワークを始めるなら基本方針を明確化しておこう
テレワークを実施する上で、まず「基本方針の設計」が必要です。経営トップを中心に全部門を巻き込んだプロジェクトで明確化・共有することで、一丸となってテレワークを推進することができます。
基本方針では、最低限、次の3項目は決めておきましょう。
- ①導入の目的
- ②対象業務の範囲
- ③対象者の範囲、実施頻度
①導入の目的
テレワークの導入は従来の就労形態を変える大きな決断となるため、現場で希望が出ていても経営層の承諾がないと進めることはできません。しかし、「希望が出たから」というだけの曖昧な目的では「ただ仕事をする場所が変わっただけ」になり、業務効率の改善などが図れず残念な結果になってしまいます。
具体的な目的があれば、社内制度や施策を担当する部門、テレワーク導入を検討している対象部門とも共有しやすくなり、導入前後で課題がどのように解決できたかなどといった導入効果の検証ができるようになります。
「なぜテレワークを導入するのか」「テレワークを導入して何をしたいのか」という実現したいビジョンを具体化し、企業としての取り組み方を明確にしておきましょう。
②対象業務の範囲
テレワークを導入する場合、業務や対象者を限定することが多いでしょう。「どの業務、どの部署、誰がテレワークをするか」を決めるには、現在の業務の洗い出しと整理が必要となります。 業務ごとに必要な時間や紙書類の量・種類、必要な人数、やり取りの頻度などで整理し、次のように分類すると、テレワークを実施できる業務や対象者の範囲が見えてきます。
- (1)現状でもそのままテレワークできそうな業務
- (2)工夫をすればテレワークできそうな業務
- (3)工夫してもテレワークの実施が困難な業務
テレワークの障害となりやすい「紙の業務」は、不要な押印や署名を廃止してペーパーレス化したり、決議の電子化やオンライン会議などを導入したりすればテレワークが可能になりますので、上記の分類では(2)に含まれます。また、一般的にはテレワークが難しいとされる業種であっても、部分的にテレワーク化できる可能性があります。一概に「難しい」と決めつけず、客観的な視点で整理することが肝要です。
③対象者の範囲、実施頻度
目的や実施する業務に応じて、対象者や実施頻度を決めましょう。
特に、業務命令としてテレワークを命じる場合には、対象者本人の希望も勘案して決定する配慮が必要です。対象者が在宅勤務に応じられないケースも考えられるため、施設利用型やモバイル勤務を利用するなど柔軟な対応も求められます。
また、雇用形態の違いからテレワークの対象除外とすることは、不合理な待遇差として禁止されています。正規雇用・非正規雇用に関わらず、テレワークを導入する業務に必要な要員として選定する必要があります。
テレワークの実施に向けて整備しておくべき3ポイント
テレワークを円滑に実施するためには、次のような環境整備も必要です。
- (1)社内制度・ルールの整備
- (2)システム環境の準備
- (3)セキュリティ対策・整備
(1)社内制度・ルールの整備
テレワーク時も、労働基準法などの法令遵守は求められます。そのため、本来は「テレワーク勤務規定」を設ける必要があります。トライアル時や緊急を要する場合は、特段規定がなくても実施できますが、長引くコロナ禍においては“トライアル”とみなすことも難しくなります。
テレワーク勤務規定では、労働時間管理や交通費や通信費、環境整備のための初期費用などの費用負担、テレワーク手当などをルール化しておきます。まだ「テレワーク勤務規定」が未設定であれば、簡単なルールだけでも早めに設定しましょう。
※ 手当については、コラム「在宅勤務手当は課税?非課税?在宅勤務/テレワーク下における通信費などの取り扱い方」も参照ください。
また、テレワークでも、長時間労働を防ぐために労働時間の適正な把握・管理が必要です。中抜け時間の取扱いや時間外・休日・深夜に働く場合のルールも就業規則等に定め、適切な勤怠管理を行いましょう。
例えば、奉行Edge勤怠管理クラウドのように、従業員が所有するパソコンやスマートフォンからでも打刻ができるクラウドサービスを既に利用しているなら、基本的にテレワーク時の勤怠管理にもそのまま利用できます。在籍中か否かをリアルタイムで表示する在籍管理機能がついたものなら、テレワーク中の中抜け時間や休憩時間の管理・状況把握にも便利です。
※ テレワークに適した勤怠管理システムの選び方については、コラム「労務担当者が押さえておくべき在宅勤務/テレワーク時代の勤怠管理とは」も参照ください。
なお、就業規則を変更する場合は労使の合意が必要です。また、就業規則そのものを変更するか、就業規則とは別に規定を作成するかは任意です。
(2)システム環境の準備
テレワークには、最低限、パソコンやクラウドサービスなどのオンラインで使えるシステムを準備する必要があります。
最近は、会計・給与・人事システムなどの基幹業務システムもクラウドサービスが主流となっていますので、充分テレワークに活用できます。インターネットに接続さえすれば自宅のパソコンからでもIDとパスワードでシステムにアクセスでき、初期投資が少なく済むのもメリットです。セキュリティ対策やバージョンアップを自社で行う必要がないため、システム担当者がいない中小企業でもテレワーク環境を構築しやすくなっています。
中でも、奉行クラウドシリーズのように網羅性の高いサービスを利用すれば、様々な業務のテレワークに対応し、かつ、関連するシステム同士が自動連携できるので、業務の効率化も図ることができます。
例えば、総務業務では、奉行Edge労務管理電子化クラウドを使ってテレワーク中の従業員とも人事情報のやり取りができます。承認フローもWeb上で完結でき、収集した情報で電子申請も行えます。 他にも、給与明細書の発行や年末調整の手続きもも電子化すれば、オンライン上で完結するため出社や対面の必要がありません。給与奉行クラウドもテレワーク活用でき、従業員からの情報を自動連携できるので、給与担当者が出社できずに給与支給が止まるという事態も避けられます。
また、「テレワークできない業務」の代表ともいわれてきた経理業務においては、勘定奉行クラウドや商蔵奉行クラウドによって、紙の業務や人が行う手作業をデジタル化することで、テレワークできる環境を整えることができます。
奉行クラウドシリーズの総務・経理業務におけるテレワーク活用例については、ホワイトペーパー「これからの総務人事に求められる業務のあり方とマネジメント」「経理のための業務別テレワーク成功事例」でもご紹介しています。
(3)セキュリティ対策・整備
テレワーク実施者が企業の重要な情報を取り扱う場合、セキュリティが最大の課題となります。セキュリティ事故には、サイバー攻撃による情報漏洩の他に、パソコンの盗難や紛失、メールの誤送信などのヒューマンエラーによる情報漏洩もあります。対策としては、「セキュリティ対策を施した貸与パソコンのみを使用する」「自宅のパソコンを使用する際はセキュリティ対策を行う」「個人情報を含むデータは個別管理する」などのルールを整備することも必要でしょう。
テレワークのセキュリティ対策については、総務省が考え方や対策例をまとめた「テレワークセキュリティガイドライン」も参考になります。
とはいえ、自社で包括的なセキュリティ体制を構築するのは限界があります。
クラウドサービスなら、高度な暗号化技術を取り入れるなど、ベンダーによって強固なセキュリティ体制が整えられているので、安心して利用することができます。ただし、ベンダーごとにセキュリティ体制が異なるため、導入前にはしっかりチェックをしておくことも重要です。
奉行クラウドシリーズであれば、世界トップレベルのセキュリティを誇るマイクロソフト社の「Microsoft Azure」で管理・運用し、安心で安定した業務環境を提供しています。24時間365日の運用監視に加え、定期的な脆弱診断も実施。通信経路上にはファイアウォールを設置しています。
また、「サービス・オーガニゼーション・コントロール2(SOC2)Type2報告書」※も取得しており、他提供クラウドサービスも含め、セキュリティの質が保証されています。
※ 「SOC2® Type2報告書」については、こちらを参照ください。
こうした高いセキュリティ対策が整ったサービスを利用すれば、テレワークでも不安なく仕事に従事することができるでしょう。
IT導入補助金がテレワーク導入に活用できます!
クラウドサービスなら初期投資が少なくて済むとは言え、中小企業にとってはコストの捻出に時間がかかる場合もあります。
テレワーク導入に当たってコスト面の負担を軽減するには、IT導入補助金が活用できます。
2021年度は「低感染リスク型ビジネス枠」があり、テレワークへの転換や対人接触機会を減らす取り組みなど、「業務の非対面化」で生産性向上を狙う「非対面化ツール」に適用されます。
予算消化型の補助金で、人気が高く毎年大きな予算が設けられており、申請が早いほど採択される割合が高くなる傾向にあるので、早めに申請すると高い採択率でチャレンジすることができます。
2021年度の採択は、直近では第5次締切が12月中に予定されています。
IT導入補助金の詳細は、OBC特設サイト、またはコラム「どうなる?2021年度IT導入補助金の補助率・補助額 |『特別枠』は『低感染リスク型ビジネス枠』に再編!」を参照ください。
おわりに
2021年11月現在は新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いてきているものの、今後も油断はできません。もし従業員が感染した場合、一定期間のオフィス閉鎖など業務に支障をきたすような感染防止策を取らざるを得ない事態が起こるかもしれません。
ウィズコロナ・アフターコロナ時代を生き抜くためにも、テレワークの実施は経営戦略の一環として考えておくべきです。
なお、テレワーク導入に関する相談に無料で対応する相談窓口があります。(厚生労働省委託事業)
また、OBCでも、在宅勤務やテレワークの導入を検討されている企業様に対し、専用窓口でご相談を承っています。「在宅勤務やテレワークの実施に向けて何から始めればよいのか」とお困りの場合は、ぜひ下記までお問い合わせください。
〈導入のご相談専用フリーダイヤル〉
10:00~12:00∕13:00~17:00
(⼟・⽇・祝⽇を除く)
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