IPO準備に必要となる外部関係者とは?

IPOを実現するためには、様々なサポーターの手を借りる必要があります。監査法人等の必須のサポーターからコンサルティング等任意のサポーターまで、全体像を解説します。
更新:2024年3月7日

1.はじめに

IPOを実現するためには外部の専門家の力が必要です。中でも監査法人と主幹事証券会社はIPOの成否の鍵を握る重要な存在であり、IPO準備の早い段階で関与が必要となります。
そのほかストックオプションの導入などの資本政策や税務に関する助言・指導を行う税理士、必要に応じてコンサルティング会社や、弁護士・社会保険労務士等、それぞれの専門分野に精通した専門家・士業の力を借りることになります。

2.監査法人

IPOにあたって、監査法人の役割は大きく2つあります。
①有価証券上場規程により提出する財務諸表(いわゆるⅠの部)の監査
②内部管理体制の整備に関する助言(いわゆるJ-SOXへの対応を含む)

①は、上場直前2期間(直前々期および直前期)の財務諸表を監査することであり、②は、主に適切な財務諸表を作成するために必要な内部管理体制を構築し、運用するための助言を行うことです。

役割としては上記①②ですが、実際に監査法人と最初に接点を持つのは、一般的にはIPOの課題の洗い出しを行う「ショートレビュー」です。監査法人によるIPO直前2期間の会計監査を受けるためにも、遅くとも直前々期の期首よりも前にショートレビューを受けることが必要です。

そして、昨今は監査法人と契約できない「監査難民」も生まれています。そのため、監査法人との接点は、大手・中堅監査法人のみならず、IPO経験豊富な中小監査法人も含め、なるべく早いタイミングで多くの接点を持って関係を構築すべきです。各監査法人のIPOに対するスタンスの変化を見極めながら、しかるべきタイミングでショートレビューなどの具体的な契約を結ぶことが望ましいです。


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    大手監査法人や中堅監査法人でIPOの研鑚を積んだ後、新しく立ち上がった監査法人が中心となって組成された組織。

3.証券会社

証券会社のうち、IPOに関して上場申請会社を支援する業務を行う証券会社のことを「幹事証券会社」といい、幹事証券会社の中でも中心となって申請会社のIPOを支援する証券会社を「主幹事証券会社」といいます。主幹事証券会社は申請会社のIPOにあたり、取引所に対して「推薦書」を提出します。推薦書の提出を含め、IPOにあたってその役割は大きく3つあります。
①IPOに際して上場申請会社が行う公募・売出し等の引受け
②IPOに関する全般的な指導・助言
③公募・売出し等を引き受けるための会社内容の審査(引受審査)

証券会社を選ぶことは、監査法人を選ぶことと同様に、円滑にIPO準備を進められるかどうかを左右する重要なポイントです。加えて、近年はIPO志向先の増加などにより、監査法人同様に「証券難民」問題が広がっています。効率的にIPO準備を行うためには、できるだけ早い時期に主幹事証券会社を決定し、その指導・助言を得ることが望ましいです。


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4.証券代行機関(信託銀行など)

IPOに際し、会社は信託銀行などの証券代行機関に株式事務を委託する必要があります。すなわち、定款に株主名簿管理人(証券代行機関)を設置する旨を明記し、株式事務を委託しているか、株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていることが求められます。また、信託銀行などの証券代行機関は、株式事務だけではなく、株主総会の招集通知の記載方法や株主総会の運営などについての助言なども行ってくれます。IPOが具体化したタイミングで証券代行機関を選定しましょう。

5.証券印刷会社

上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)をはじめとした、各種申請書類の印刷や作成のためのツールやシステムの提供、そのチェックなどを行います。また、ディスクロージャーに関連した情報提供や助言なども行います。
現在日本の証券印刷会社は、宝印刷株式会社と株式会社プロネクサスの2社のみです。IPOの際にはいずれかの印刷会社を選ぶことになります。
なお、証券印刷会社ではIPOに関連したセミナーの実施や、メルマガを配信しており、IPO準備の早いタイミングから支援しています。IPOを検討し始めたらまずはコンタクトを取ってみるといいかもしれません。

6.コンサルティング会社

経営管理体制の整備や上場申請書類の作成などについての助言・指導に関する支援などを行います。
IPO準備においてコンサルティング会社の支援は必須ではありません。自社の人材やリソースのみでIPO準備が行えるのであれば、あえて活用する必要はありませんが、コンサルティング会社をうまく活用し「時間」と「ノウハウ」を買うことで、効率的にIPO準備を進めることが可能となります。近年は内部統制報告制度への対応で準備作業量が増加していることや、IPO準備で中心的な役割を担うCFO人材が不足していることもあり、多くのIPO企業がコンサルティング会社を活用しています。

7.弁護士

反社会的勢力排除の取り組みはもちろんのこと、新産業が台頭している現在においては、技術やノウハウを守る特許戦略や商標保護、知的財産管理がますます重要です。こうした法務戦略で弁護士は重要な役割を果たします。IPO支援経験が豊富でビジネスを理解している弁護士事務所に支援してもらえるとよいでしょう。

8.税理士

IPOに際し会計事務所を変更することは必須ではありません。しかし、IPO準備のタイミングで従来の税務会計から財務会計(企業会計)へと転換する必要があるため、上場企業の会計を理解した会計事務所の支援を受けることが望ましいでしょう。
そのほかにも税務が関連するIPO特有の論点が多く、担当税理士のIPO経験の有無がその成否にかかわると言っても過言ではありません。たとえばストックオプションの導入や資産管理会社の活用といった資本政策は、一度実行してしまうと後戻りできません。IPO後の株価も見据えた資本政策の立案を支援してくれる税理士を選びましょう。
可能であれば、上場企業を顧問先に持っているだけでなく、顧問先をIPOまで導いた経験のある税理士(会計事務所)がベストです。

9.社会保険労務士

時間外労働や未払残業問題、社会保険未加入問題や名ばかり管理職問題など、IPO準備において多く見られる労務上の論点において、助言・指導などを行います。

昨今、労務問題が社会的にも重要視されていますが、IPOにおいても同様です。なるべく早いタイミングで労務上の問題がないか検討することが重要であり、そのために労務問題の専門家である社会保険労務士を活用するとよいでしょう。具体的には、IPO審査の観点も踏まえながら、労務関係の規程整備や組織体制の状況、関連法令の遵守状況などを確認する労務監査(労務デューデリジェンス)を受けることが考えられます。IPOに精通した社会保険労務士は数が少ないと言われていますが、IPO準備段階で労務問題をきちんとクリアしIPOを実現させるには、やはりIPOの経験豊富な社会保険労務士を探すことが肝要です。

10.最後に

IPOにおいて外部関係者の協力は必要不可欠です。IPOを実現するためには、監査法人や証券会社といった外部関係者の指導に真摯に耳を傾け、IPOに向けた課題をひとつずつ解決することが重要です。また、IPO後も継続して支援してもらうケースが多いため、IPO後の自社の規模や将来像を見据えたうえで、関係機関や専門家を選定しましょう。
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執筆
IPO Compass編集部
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