女性従業員が仕事を続けていく上で、大きなターニングポイントとなる出産。政府が「一億総活躍社会」を推し進める中、企業の適切な対応は従業員との信頼関係にも大きな影響を与えます。
産休から育休の手続きは長期にわたるうえ、手続きも多く煩雑になりやすいため手順を可視化しておくとよいでしょう。
今回は、産前産後休業について、その手続きと押さえておきたいステップを紹介します。
“産前産後休業”(産休)とは
一般的に「産休」と呼ばれるものは、「産前休業」と「産後休業」からなり、労働基準法第65条第1項、第2項で定められた、女性従業員の母体保護のために出産前後に取得できる休業期間のことをいいます。
「産前休業」も「産後休業」も、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員・正社員の雇用形態に関係なく、全ての女性従業員に適用されます。
企業は、女性従業員が産前産後休業を請求した場合、産前で6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後は出産の翌日から8週間、女性を就業させることはできません。男女雇用均等法第9条により、企業は女性従業員が産前産後休業を取得することを拒否できないようになっています。またこれを理由に不当な解雇や不利益な取扱をすることもできません。
ただし、産後休業については、必ず休業させないといけない期間(産後6週間)を経過後、女性従業員が請求し、かつ、医師が支障ないと認めた場合のみ業務に就かせることができます。
よくあるケースとして、つわりがひどいなどの事情で従業員が「前倒しして産前休業を取得したい」と希望する場合があります。しかし、産前休業は労働基準法上あくまで産前6週間と固定されています。そうした場合は、本人に医師の診断書を取得してもらい、傷病手当を申請するか、有給休暇を取得してもらうかを提案することになります。
産休で必要となる対応・手続きとは
従業員から妊娠の報告を受け出産するまでに、さまざまな手続きを行う必要があります。それぞれの手続きには申請時期が設定されているものもあるため、タイミングを見計らい、漏れがないように行わなければなりません。手続きをスムーズに進めるために、従業員の状況に合わせて以下の手順を参考にしてください。
1. 従業員から妊娠の報告を受けたら・・・
従業員へ産休取得の確認をする(「産前産後休業届」を受理する)
下記の内容を従業員に確認しましょう。
- 出産予定日
- 最終出社予定日
- 復帰の有無(復帰する場合は復帰予定日)
- 育児休業の取得希望
社内で使用している「産前産後休業届」等の申請書があれば、必要事項を記載のうえ提出してもらいます。
産休取得に必要なものを依頼・確認する
産休の取得意思を確認する際には、以下の内容についても本人に依頼・確認する必要があります。
<依頼・確認内容>
- 本人に準備してもらう必要のある書類の準備依頼
※産前産後休業届、出産手当金申請書および療養担当者意見書、出産後に子供の戸籍謄(抄)本など - 休業中の連絡先の提示依頼
- 出産の報告依頼
- 休業期間中の通勤手当の返却
- 出産育児一時金など本人が申請するものの確認
※企業が代行できるものはどうするかも意思確認する
各手続きには、本人が申請するものと企業が行うものがあります。企業側で行う手続きには、母子手帳のコピーなど従業員でなければ用意できない書類があります。また、出産日が確定してから手続きを行うものもありますので、休業中も従業員と連絡がとれる手段を確保しておきましょう。
2. 従業員が産休に入ったら・・・
「産前産後休業取得者申出書」を提出する
産休の期間中の社会保険料は、「産前産後休業取得者申出書」を健康保険組合などに提出することで、健康保険資格、年金受給期間はそのままで、事業主分と被保険者分の保険料の支払が免除されます。
保険料の免除期間は、開始月〜終了予定月の前月まで(終了予定日が月末日の場合はその月まで)となっています。
提出先 | 日本年金機構 |
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提出時期 (提出期限) |
出産前または出産後(産休期間中) |
提出物・添付書類 | 産前産後休業取得者申出書 |
届出は基本、企業が行います。書類の提出は、郵送での提出のほか、電子申請も可能になっています。
産休は、出産予定日を起点に休業期間を割り出すため、産前に提出し、かつ予定日以外に出産した場合は、「産前産後休業取得者変更(または終了)届」の提出が必要になります。確実に予定日通りに出産できるケースはまれなので、特別の理由がない限り産後休業中の申請をおすすめします。
3. 従業員から出産の報告を受けたら・・・
出産手当金の申請手続きをする
「出産手当金」は、健康保険に加入している従業員が、出産のために会社を休んだ場合に、休業中の給与の保障として標準報酬月額の2/3に相当する金額を給付する制度です。
出産手当金の計算方法は、以下のようになっています。
対象は健康保険の加入者であり、出産のために産休申請を行いその期間は賃金を支払っていないことが条件となります。
提出先 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)・健康保険組合 |
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提出時期 (提出期限) |
出産前または出産後(産休開始の翌日から2年以内) ※出産後に提出するのが一般的 |
提出物・添付書類 | 健康保険出産手当金支給申請書 療養担当者意見書(医師、助産婦による意見書)、事業主証明書、マイナンバーを記載する場合は本人確認書類を要添付 |
出産手当金の支給期間は、出産日以前42日から出産(死産を含む)の翌日以後56日目まで(多胎妊娠の場合は、出産日以前42日から出産の翌日以後98日まで)となっています。
また、出産日が予定より遅くなった場合は、出産予定日以前42日から出産の翌日以後56日目までとなっており、出産予定日がずれることも考慮して支給期間が過ぎる産後56日以降に申請手続きをするのが一般的です。
書類の提出は、出産日から2年以内に行わなければ時効になります。健康保険からの給付手続きとなるため原則本人が提出しますが、事業主の証明が必要なため企業が行うことも可能です。どちらがするかは話し合いで決めるとよいでしょう。
出産育児一時金の申請手続き方法を伝える
「出産育児一時金(出産一時金ともいいます)」は、健康保険が利かない出産費用に関して家計の負担を軽減するために支払われるものです。妊娠4ヶ月(84日)以上で出産した場合、一児につき42万円が支給されます。ただし産科医療補償制度※の対象外となる場合には40.4万円となります。
- ※産科医療補償制度とは、分娩に関連して重度脳性麻痺となった赤ちゃんが速やかに補償を受けられる制度で、分娩を取り扱う医療機関などが加入する制度です。
申請方法には、「直接支払制度」「受取代理制度」「産後申請方式」があります。
「直接支払制度」は、協会けんぽや健康保険組合(以後「協会けんぽ等」)が直接医療機関に支払う方法で、高額になる出産費用の家庭への負担を軽減するための制度です。この制度を導入している医療機関の場合、医療機関の窓口で支払う額は出産育児一時金との差額だけで済み、本人が医療機関と代理契約合意文書を交わせば手続きは医療機関が全て行います。
「受取代理制度」も「直接支払制度」同様、家庭の出産費用の負担軽減のため、協会けんぽ等が直接医療機関に出産育児一時金を支払います。ただし、出産予定日の2ヶ月前以降に本人が協会けんぽ等に対し、医師の証明書を添付して事前申請を行う必要があります。
「産後申請方式」は、自費で出産費用を支払い、後日協会けんぽ等へ請求手続きを行って本人が出産育児一時金を受け取る方法です。
いずれの方法でも、原則本人が願い出る、または申請する必要があります。出産育児一時金は被保険者になっていれば出産時に誰でも受け取れるものですが、「自分で申請する」ことを知らなかったり忘れたりするケースもあるので、注意を促すとよいでしょう。
「健康保険被扶養者異動届」を提出する
誕生した子どもは、その日から被保険者としての資格を持つことになります。そのため「健康保険被扶養者異動届」を管轄の年金機構に提出し、社会保険の扶養の手続きを行う必要があります。共働きの場合は、年収の多少を判断材料に家計の実態に応じて、夫または妻の被扶養者になるか認定されます。
提出先 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)・健康保険組合 |
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提出時期 (提出期限) |
出産後(出生届提出後5日以内) |
提出物・添付書類 | 健康保険被扶養者異動届 続柄確認ができる戸籍謄(抄)本または住民票を要添付 ※出生届受理証明書や出生届出済証明書などが必要な場合もあるので、詳細な添付書類は提出先へ確認してください。 |
申請日が遅れても出生日まで遡れますが、保険証がない状態では多額の費用負担となったり面倒な手続きが発生したりするため、なるべく早く届出をしてあげましょう。
なお、2018年10月1日より健康保険被扶養者異動届の様式が変更されています。詳しくは日本年金機構のホームページをご確認ください。
給与所得者の扶養控除(異動)申告書を変更する
家族が増えると、所得税や住民税、家族手当などに影響します。そのため、生まれた子どもを従業員の扶養親族とする場合は、前回の年末調整の際に提出された「給与所得者の扶養控除(異動)申告書」に追加記入する必要があります。ただし、住民税は前年度所得に課税されるため、実際に住民税額が変更されるのは翌年からとなります。
また、年末調整用の書類提出以降で12月中に生まれた場合は、当年の年末調整をやり直すケースもあります。翌年1月に提出する給与支払報告書には生まれた子供を記載する必要があるので、なるべく早く「給与所得者の扶養控除(異動)申告書」の再提出をしてもらいましょう。
まとめ
出産に伴う社会保険料の免除は本人にとっても重要ですが、企業が負担する保険料にも大きく関わるため、忘れずに対応したいものです。加えて、社員にとっては今後の生活に関わる大事な手続きも多く、タイミングよく手続きを行うことも大事なポイントです。女性従業員数などを考慮して、年間でどの程度対応しなければならないかを検討しておくのもよいでしょう。
手続きに漏れがないように、手順をマニュアル化しておいたり、簡単に行える専用ソフトやシステムを取り入れたりすることもおすすめです。また、産休の手続きは法改正の影響を受けやすいので、今後の行政の動向にも注意しておきましょう。
産休が終了すると、ほとんどの女性が育児休業を取得すると考えられます。その際にはまた別の手続きが必要です。詳しくはOBC360°記事「【育休・復職手続き】総務担当者が押さえておきたい、出産した従業員への会社の対応・手続き」を参照してください。
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