今年9月に総務省が発表した労働力調査では、15歳から64歳の女性の就業率は70.3%と過去最高となりました。いまや業界を問わず多くの企業で「働く女性」が増えており、企業には「女性にとって働きやすい環境」へのサポートが今後より強く求められるようになるでしょう。
「仕事と育児の両立支援」もそのひとつ。従業員の出産・育児は法律で保護されており、育児休業や復職まで視野に入れた対応が必要になります。産前よりも長期に渡る育児休業は行政支援も複数あり、そのための手続きはタイミングよく行わなければなりません。
そこで今回は、育児休業から復職に向けて企業が行う手続きを整理します。一連の育児休業の流れに沿って解説しますので、ぜひ業務を行う際の参考にご活用ください。
※ 産前産後休業(産休)の手続きについてはOBC360°記事「【産休手続き】突然の報告にも慌てない!担当者が押さえておきたい、妊娠した従業員への対応と手続き」を参照ください。
目次
“育児休業”(育休)とは
育児休業(育休)は、育児・介護休業法で定められた「1歳に満たない子を養育するための休業」制度です。
子ども1人につき1回、産後休業の翌日(産後57日目)から原則として子どもが1歳になるまでの間、育児をするために仕事を休業できます。1歳の誕生日の時点で保育所などへの入所ができない場合などは、1歳6ヵ月になるまで育児休業の延長が可能です。
また、仕事と育児の両立を支援する制度も設けられています。「パパ・ママ育休プラス」では、両親がともに育児休業を取得する場合に、子どもが1歳2ヵ月になるまで育児休業が取得できます。さらに、2017年の法改正により、1歳6ヶ月の時点で保育所に入れない等の理由がある場合、2歳まで育児休業期間を延長することも可能となりました。企業には、こうした支援制度を周知するための措置を講じることが求められています。
育児休業の対象者は、日雇いを除くすべての従業員です。ただし、労使協定によって以下の従業員は対象外とすることができます。
- 入社1年未満の従業員
- 申出の日から1年以内に雇用期間が終了する労働者(1歳6ヶ月までの育児休業の場合は、6ヶ月以内に雇用期間が終了する従業員)
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
※ただし、配偶者が専業主婦(夫)もしくは育児休業中である場合は、労使協定を締結しても対象外にできません。
また、パートタイムや派遣従業員などの有期契約労働者は、申し出時点で以下の条件が必要になります。
- 同一の事業主(派遣元企業)と1年以上雇用が継続していること。
- 子が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかでないこと。
育児休業で必要となる手続きとは
出産後8週(56日)を経過すると、育児休業はスタートします。
産前産後休業(産休)と異なり、育児休業は「希望した場合」のみとなります。したがって、従業員から妊娠の報告を受けたときに取得の希望を聞いておくとよいでしょう。
その後は、従業員が出産した日を起点に、時期をよく確認しながらそれぞれの手続きを進めましょう。
1. 従業員から出産の報告を受けたら・・・
「育児休業申出書」を受理し、「育児休業取扱通知書」を交付する
育児休業の手続きには、開始予定日と終了予定日の確認が必要です。
開始予定日の1ヶ月前までに社内用の「育児休業申出書」等を提出してもらい、企業は「育児休業取扱通知書」を従業員へ交付します。
育児休業取扱通知書には、育児休業中の待遇事項、休業後の賃金、配置、その他の労働条件に関する事項等に関する取扱いを明示することが求められています。
また、以下の3点を通知することも義務づけられているので、これらを育児休業取扱通知書に盛り込んでも差し支えありません。
- ① 育休申出を受けた旨
- ② 育休開始予定日及び終了予定日
- ③ 育休申出を拒む場合には、その旨及びその理由
なお、従業員が出産するまでに育児休業申出書を受け取っている場合は、出産後2週間以内に従業員から「育児休業対象児出生届」を提出してもらいます。また、対象となる子が死亡したなどの場合は「育児休業申出撤回届」を提出してもらいましょう。
「育児休業等取得者申出書(新規)」を提出する
育児休業期間中も本人および企業に対し、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料が免除されます。それには「育児休業等取得者申出書」の提出が必要となります。
保険料の免除期間は、育児休業の開始月から終了月の前月まで(育児休業終了日が月末日の場合はその月まで)となっています。従業員の都合により延長の可能性もありますが、一旦、当初は1年分で、本人ではなく企業から日本年金機構へ申請します。
なお、終了予定日より前に育児休業を終了する場合は「育児休業等取得者申出書・終了届」の提出が必要になります。
提出先 | 日本年金機構、健康保険組合 |
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提出時期 (提出期限) |
産後休業終了後、育児休業中(時効は2年) |
提出物・添付書類 | 健康保険 厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規) |
育児休業給付金の支給申請手続きを行う
育児期間中は、雇用保険の育児休業給付金を受け取ることができます。
支給額は、原則として1ヶ月あたり以下のような計算になります。
休業開始時賃金日額×支給日数(30日)の67%
育児休業の開始から6か月経過後は、休業開始時賃金日額×支給日数(30日)の50%
- ※ただし、休業終了月は日割り計算になります。
育児休業を開始したら、「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」をハローワークから受け取り、本人が記入のうえ企業が提出します。書類にはマイナンバーの記載、本人の署名・捺印が必要です。
給付金の支給を受けるには、2ヶ月に1回、ハローワークが指定する申請日に「育児休業給付金支給申請書」を提出しなければなりませんので、忘れずに行いましょう。
提出先 | 事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク) |
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提出時期 (提出期限) |
初回:育児休業開始日から4ヶ月を経過する日が属する月末までに 2回目以降:公共職業安定所長が指定する支給申請期間の支給申請日 |
提出物・添付書類 | 初回:育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書、被保険者休業開始時賃金月額証明書 2回目以降:育児休業給付金支給申請書、被保険者休業開始時賃金月額証明書 賃金台帳、出勤簿またはタイムカードなど、支給申請書の記載内容を確認できる書類も要添付(母子手帳のコピーなど育児の事実確認の証明を要する場合もあります) |
2. 従業員から育児休業期間の延長希望を受けたら・・・
保育所などに入所できず、やむなく育児休業を延長せざるを得ないなどの場合には、「育児休業等取得者申出書(延長)」を日本年金機構へ提出のうえ、管轄のハローワークに「育児休業給付金支給申請書」の延長申請を行います。
「育児休業等取得者申出書(延長)」を提出する
提出先 | 日本年金機構、健康保険組合 |
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条件 |
以下の育児休業を取得する場合にその都度申請が必要。
|
提出時期 (提出期限) |
上記(A)〜(C)の延長期間が始まって以降、育児休業中(時候は2年) |
提出物・添付書類 | 健康保険 厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(延長) |
育児休業給付金支給の延長申請手続きを行う
提出先 | 事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク) |
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条件 |
育児休業の対象となる子が、1歳の誕生日の前日または1歳6ヶ月に達する日以降の期間について、以下のいずれかに該当する場合に延長申請が必要。
|
提出時期 (提出期限) |
育児休業終了日以降、2ヶ月に1回の公共職業安定所長が指定する支給申請期間の支給申請日まで |
提出物・添付書類 |
育児休業給付金支給申請書 賃金台帳、出勤簿またはタイムカードなど、支給申請書の記載内容を確認できる書類、延長事由が確認できる書類(保育所の入所不承諾通知など)を要添付 |
3. 育児期間中に従業員から職場復帰の打診を受けたら・・・
「育児休業等取得者申出書・終了届」を提出する
予定よりも早く復帰する場合は、育児休業中に提出した社会保険料免除(健康保険 、厚生年金保険)のための申請を終了する必要があります。(終了届の提出も企業が行います)
育児休業終了予定の前日までに提出すると、当該届出に基づき育児休業期間の終了月の前月まで(終了日が月末日の場合はその月まで)保険料が免除されます。
なお、育児休業中に次の子どもを妊娠し、産休を開始(休業取得者申出届を提出)した場合は、当該終了届の提出は必要ありません。
提出先 | 日本年金機構、健康保険組合 |
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提出時期 (提出期限) |
予定より早く育児休業を終了したとき |
提出物・添付書類 | 健康保険 厚生年金保険 育児休業等取得者申出書・終了届 |
育児休業中の住民税について
住民税は、前年度の収入によって決まるため、産休中でも育児休業中でも支払う義務があります。
住民税の支払いは、給与等から天引きされる「特別徴収」と個人で納付する「普通徴収」がありますが、育児期間中は給与が支払われないため天引きはされません。そこで、以下の3通りから育児休業中の住民税の支払方法を決めるのが一般的です。
- ① 育児休業前の給与で一括天引き
- ② 普通徴収に切り替える
- ③ 特別徴収のままで、育児休業終了後に一括天引き、または一括で企業に支払う
育児期間中は納税することが困難であると自治体の長が認めた場合は、育児休業中の1年以内の期間にかぎり、住民税の徴収が猶予されます。猶予された住民税は、職場復帰後に延滞金とともに納税することになります。
復職後に必要となる手続きとは
復職に向けては、具体的な復帰日や働く時間数など業務内容について本人と企業双方で面談を行い、復帰の準備を整えましょう。
育児・介護休業法により、3歳に満たない子を養育する従業員は、3歳の誕生日前日まで原則残業が免除されます。企業においては、1日の所定労働時間を原則として6時間とする短時間勤務制度を設けなければなりません。また、子どもが小学校へ就学するまでは時間外労働や深夜労働も制限されることになりますので、復帰に向けて職場環境を整えることが必要です。
そして、職場復帰後に必要な手続きには、以下の3つがあります。
「育児休業復職届」を受理する
社内用に「育児休業復職届」または「出勤届(休暇・欠勤・休職)」などを用意している場合は、従業員に必要事項を記入のうえ提出してもらいます。
「育児休業終了時報酬月額変更届」を提出する
職場復帰しても産休取得前と同じように働けるとは限りません。3歳未満の子の養育期間中に、毎月の給与が産休・育休前と比較して下がった場合には、「健康保険・厚生年金保険 育児休業終了時報酬月額変更届」を管轄の日本年金機構へ提出します。
提出先 | 日本年金機構、健康保険組合 |
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提出時期 (提出期限) |
復職後3ヶ月の給与が産休・育休前と比較して下がっていたとき、速やかに ※ただし、復帰月の出勤日が17日以下の場合は、復帰月を除く |
提出物・添付書類 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業終了時報酬月額変更届 |
随時改定に該当しなくても、育児休業終了日の翌日が属する月以降3ヶ月の間に受けた報酬の平均額によって決定し、その翌月から改定されます。
基本給や各種手当などの固定給に変動がなくても、標準報酬月額が1等級でも下がれば該当します。
「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出する
子どもが3歳までの間は、勤務時間短縮等の措置で給与が下がっても、将来受け取る年金額が減少しないようにする特例措置があります。
養育期間中の各月の標準報酬月額が養育開始月の前月の標準報酬月額を下回る場合、「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を企業が提出します。認められる期間は、養育が始まった月から3歳の誕生月の前月まで(誕生日が月末日の場合はその月まで)となります。
提出先 | 日本年金機構 |
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提出時期 (提出期限) |
復職後3ヶ月の給与が産休・育休前と比較して下がっていたとき ※提出が遅れた場合は、申出日が含まれる月の前月までの過去2年まで遡って受けることができます。 |
提出物・添付書類 | 厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書 戸籍謄(抄)本(子どもの続柄、生年月日が証明できるもの)、住民票(従業員と子どもの同居が確認できるもの) |
対象の子を養育しなくなった、もしくは死亡した場合は、「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」の提出が必要になります。
おわりに
従業員の出産に関わる手続きは、出産前から復職まで多くの届出書類があり手続きも複雑です。数年に数えるほどしか対応しないケースや、「このときの手続きはどうだったかな」と思い出しながらの作業になると、手続きに対する準備が整わず手間も時間もかかります。女性の社会進出が進む今後は、対応件数が少なくても手続き漏れや遅れ、書類の不備などがないように、手順をマニュアル化しておくことが大切になってきます。
OBC360°記事「【産休手続き】突然の報告にも慌てない!担当者が押さえておきたい、妊娠した従業員への対応と手続き」と合わせて、産休から育児休業までの企業がやるべき手続き、対応を確認しておきましょう。
産休や育児休業は、従業員の働き方に関わるもののため、たびたび法改正で変更されることの多い領域です。今後の政府の動向にも注意してください。
育児休業(育休)に関するよくあるご質問
- 育児休業(育休)とは?
- 育児休業(育休)は、育児・介護休業法で定められた「1歳に満たない子を養育するための休業」制度です。
子ども1人につき1回、産後休業の翌日(産後57日目)から原則として子どもが1歳になるまでの間、育児をするために仕事を休業できます。
- 従業員から出産報告を受けた時、育児休業に必要な手続きとは?
- 従業員から出産の報告を受けた際、以下の流れで手続きを進める必要があります。
1.「育児休業申出書」を受理し、「育児休業取扱通知書」を交付する
2.「育児休業等取得者申出書(新規)」を提出する
3.育児休業給付金の支給申請手続きを行う
記事では、手続きの進め方についてより詳細に解説しています。
- 育児休業が終わり、復職後に必要な手続きは?
- 従業員の職場復帰後に必要な手続きには、以下の3つがあります。
1.「育児休業復職届」を受理する
2.「育児休業終了時報酬月額変更届」を提出する
3.「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出する
記事では、手続きの進め方についてより詳細に解説しています。
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