企業が作成する社外向けの書類には、押印が必要とされるものが多くあります。昨今は「脱ハンコ」が浸透し「重要書類以外は不要」とするケースも増えてきていますが、請求書や注文書といった取引書類については未だに「押印は必須」とする企業も少なくありません。
しかし、この押印が意外と業務負担になっており、「請求書も電子発行が当たり前になってきたのに」と感じている担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、請求書への押印について、法的意義や請求書に適した印鑑の種類、電子発行時の注意点などを解説します。
目次
「請求書への押印」に法的義務はない
結論を先に述べると、請求書への押印に法的義務はありません。紙・電子を問わず、押印のない請求書も、正式な書類として扱うことができます。
実は、請求書を発行することも法的義務ではありません。双方の合意があれば、口頭やメールの文面だけでも請求は可能です。とはいえ、「口約束」では取引の証明が難しく、トラブル防止のためにも書面に残すことは必要な手段といえるでしょう。 日本の商慣習では、こうした理由から請求書の書面による送付が通例となっています。
ではなぜ、請求書の押印は「必要」と言われているのでしょうか。
主な要因は、「押印によって、その企業が発行した正式な請求書であることの証明になる」ことにあります。企業の印鑑は固有のものになるため、押印があることで請求書の偽造や改ざん、複製などのリスクが下がります。例えば、請求書の偽造や改ざんは、私文書偽造罪(刑法159条)になります。また、請求書を偽造して資金を不正に領得し企業に損害を与えると、詐欺罪や横領罪が成立する可能性もあります。
押印があることによって書類としての信頼性が高まり、こうしたトラブルを回避することもできるため、受領側から請求書への押印を求めるケースも多数見受けられます。実際、業務のデジタル化で「脱ハンコ」が進む中でも、「押印のない請求書は支払いをしない」という社内規定を設けている企業は少なくありません。自社で請求書への押印廃止を決めても、取引先に事前確認を取るなどの配慮が求められます。
このような点から、「請求書の押印」には法的根拠がないものの、商習慣上「暗黙のビジネスマナー」であると言えます。
請求書への押印に向いている印鑑・電子発行時の印鑑
法人が使用する印鑑には、主に実印(代表印・丸印とも言う)、銀行印、認印(角印とも言う)があります。
請求書の発行そのものに法的義務がないことを考えると、使う印鑑にも決まりはなく、どの印鑑で押印しても基本的には問題ありません。
ただし、印鑑は、通常、書類の重要度によって使い分けられます。例えば、実印は企業にとってもっとも重要な印鑑であるため、契約書や申請書類などの重要書類には使用され、取引証明としての請求書などには使用されません。また、銀行印は金融機関との取引にのみ使用されることが多く、重要書類はもちろん、請求書などの取引書類に押印するのも一般的ではないとされています。
こうした判断から、多くの企業では、請求書などの取引書類に押印する際には四角い印面に会社名が彫られた認印を使用しています。認印は、印鑑登録を行わないため、雇用契約や株式取引・不動産取引などの重要な契約には使用されませんが、企業が発行した文書であるという「認証」にはなることから、請求書など取引書類の「確認」「承認」の証明に適していると言えます。
他にも、社内で使用する印鑑として、朱肉を必要としないスタンプ式の印鑑(シャチハタ印などのゴム印)もありますが、利便性が高い反面、力加減によって印影が容易に変化しやすいのが難点です。そのため書類の信ぴょう性に欠け、通常は契約書のような重要書類だけでなく、請求書などの取引書類にも使用されることはありません。
また近年は、請求書をPDFにしてメールで送るなど電子発行するケースも増えています。このような場合は、データ化された印鑑、いわゆる電子印鑑が用いられます。電子印鑑は、パソコン上で書類データに印影を表すことができる印鑑で、2005年に施行されたe-文書法により「認印と同じ効力を持つ」と認められています。
電子印鑑には、次のように「印影データのみの電子印鑑」と「タイムスタンプ情報などを含む電子印鑑」があり、電子発行される書類によっては向き・不向きがあるため、取り扱いに注意が必要です。
- ①印影データのみの電子印鑑
印影をそのまま画像化したものです。フリーソフトや専用のオンラインツールで作成する方法もありますが、スキャナと画像編集ソフトがあれば、紙に押印した印影をスキャンし透過処理を行ってデータ化するだけで簡単に作成できます。
ただし、誰でも作成できて複製が容易なこと、押印日の特定が難しいことなどから、セキュリティや安全性に欠け、契約書などの重要書類への使用には向いていません。 - ②タイムスタンプ情報などを含む電子印鑑
印影としての画像データに、印鑑作成者や押印者などの本人認証データや押印日時などの情報(タイムスタンプ)が組み込まれている電子印鑑を指します。複製が困難で安全性が高く、押印日時にデータの存在証明や改ざんされていないことの証明ができるため、契約書などの重要書類に向いています。
ただし、このタイプの電子印鑑を作成するには、専用サービスを利用する必要があります。概ねWebから手続きができ、ソフトウェアのインストールや複雑な手順を必要としないケースがほとんどですが、有料サービスのため月額利用料が発生します。
電子発行時は専用サービスで「押印マナー」+電帳法対策を!
昨今は、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度の導入、郵便料金の値上げなどの影響で、企業規模に関わらず電子発行に切り替える動きが活発化しています。印刷代や郵送費などのコストが大幅に節約できたり、オフィスにいなくても請求書を難なく取引先へ交付でき業務効率が上がったりと、発行側のメリットを享受している担当者も多いでしょう。
先述したように、請求書を電子発行する場合は、電子印鑑を付与するのが現代のビジネスマナーになっています。しかし、電子発行では「印影がある」ことよりも「電子帳簿保存法を満たしているか」が重要になります。
電子帳簿保存法では、電子的にやりとりを行った請求書は電子取引のデータ保存の要件、いわゆる「真実性の要件」と「可視性の要件」に則った保存が義務づけられています。特に「真実性の要件」は、「電子データが正確かつ完全に記録され、改ざんや紛失が防止されている」ことを証明するためのもので、次の4つのうち、いずれかが実施されていなければなりません。
●電子取引における「真実性の要件」
次の4つの中からどれか1つ以上を実施すること。
- タイムスタンプが付与された後に取引情報の授受を行う
- 取引情報の受領後、速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正や削除を確認できるシステム、もしくは訂正や削除をできないようにするシステムで取引情報の授受および保存を行う
- 訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに沿った運用を行う
※「可視性の要件」については、コラム「請求書の電子化とは?電子帳簿保存法の影響やシステムの選び方も紹介」を参照ください。
電子帳簿保存法では、タイムスタンプの不要は選択肢の1つであり、発行側が受領側に配慮することは求められていません。そのため、請求書を電子発行する場合、印影データのみの電子印鑑を付して請求書のPDFデータを作成し、メール添付やチャットツールで送付する方法なら、極力コストをかけずに対応することができるでしょう。(電子帳簿保存法は発行した請求書の控えにも適用されるため、事務処理規程で控えの保存について定める必要があります)
しかし、メール添付の場合、送付する際に「別の取引先宛の請求書を誤送信してしまった」といったヒューマンエラーが生じる可能性があり、送信時には充分注意しなければなりません。また、送付方法にチャットツールを利用する場合、チャットツールによっては送信取消機能や送信履歴の確認機能があれば、真実性の要件の3を満たすことになりますが、サービス内容によって機能が異なるため、履歴の保存期間や保存条件を双方で事前に確認する必要があります。そして、当然ながら、受領側となる取引先で電子帳簿保存法への対応が必須となります。
昨今注目を集めている請求書発行サービスなら、タイムスタンプを付与して発行する機能や訂正削除履歴を確認できる機能など、電子帳簿保存法対応機能※が標準で備わっています。
※サービスによって標準機能は異なります。
中には、奉行Edge 発行請求書DXクラウドのように、印影画像データを登録して印影付きで請求書を発行できるサービスもあるため、取引マナーとして押印にも法令にも対応することが可能です。
奉行Edge 発行請求書DX化クラウドの場合は、請求書に記載する項目の追加や位置の変更、印影画像データの挿入など、請求書のレイアウトを自由に調整でき、電子発行でも従来の自社フォームを再現できます。
送信時には請求書のPDFデータに自動でタイムスタンプが付与され、受領側はそのまま保存するだけでよくなります。発行側の原本データにも自動でタイムスタンプが付与されるため、自社の控えも電子帳簿保存法に則った保存が可能です。このようなサービスなら、発行側・受領側双方で法令に則ったペーパーレス化を実現できます。
郵送対応もできるサービスなら取引先の不安解消にも最適!
請求書の電子発行が進む一方で、まだまだ原本を使ったやり取りを重視する企業も多く存在します。そのため電子発行に切り替える前には、取引先への事前確認を必要とし、データ化・Web化した書類での受け取りを希望しない取引先や、データを受け取れない取引先には、紙の請求書で対応しなければなりません。
しかし、業務のデジタル化、DX化が進むデジタル時代において、定型業務をデジタル化することのメリットは、今後の利益拡大、事業発展にもつながると期待できるものです。取引先が電子発行を否定しても、それだけを理由に電子発行をあきらめることはありません。奉行Edge 発行請求書DXクラウドのように、電子発行以外の方法でも発行できるサービスなら、取引先に応じた対応が可能です。
奉行Edge 発行請求書DXクラウドには郵送代行機能※があり、電子発行を希望しない取引先には郵送で対応することができます。請求書の作成時は、既存のシステムと多様な方法で自動連携して請求データから請求書をPDF化できるため、どちらの発行方法を選んでも社内の請求業務は完全ペーパーレス化することが可能です。
※郵送代行はオプション追加が必要です。
請求書の電子発行については、「押印していないと受け取ってもらえないから」「電子発行は認めてもらえないから」という理由がよく聞かれますが、今では請求書発行サービスの市場もかなり進化しています。上手くサービスを選べば、取引先の事情にも配慮しつつ、確実に自社の請求業務の効率化を進めることが可能です。
ぜひ、この機会に請求書への押印の必要性と電子発行について、自社での対応を見直してみてはいかがでしょうか。
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