有価証券報告書(有報)は、上場企業など一部の企業に作成が義務付けられた書類です。作成義務のない企業においては、「有価証券報告書に何が書いてあるのか知らない」「有報をあまり見たことがない」という担当者もいるでしょう。しかし、有価証券報告書は、他社の状況を知るために非常に役立つ書類です。
この記事では、有価証券報告書に書かれている内容や閲覧方法のほか、有価証券報告書を作成していない中小企業でも役に立つ、同業他社の有価証券報告書の活用方法を解説します。
目次
有価証券報告書とは?
有価証券とは、株式をはじめ、債券・手形・小切手などを指します。有価証券報告書は、その株式を証券取引所で売買する企業が発行する書類です。
上場企業は、株式を購入する外部の投資家やステークホルダーのために、企業の概況や事業・経理の状況など、情報を開示しなければなりません。正確で客観性の高い有価証券報告書作成のため、監査法人や公認会計士によるチェックも義務付けられています。
有価証券報告書を提出しなければならない企業
有価証券を発行する企業のうち、下記に該当する企業は有価証券報告書を提出する義務があります。
- プライム・スタンダード・グロースなどの金融商品取引所に上場している
- 店頭登録されている有価証券を発行している
- 有価証券取引届出書または発行登録追補書類を提出し、募集または売り出しを行っている
- 所有者数が1,000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券および株券にかかる権利を表示している預託証券を含む)または優先出資証券(資本金5億円未満の会社を除く)、所有者数が500人以上のみなし有価証券(総出資金額が1億円未満のものを除く)を発行している
有価証券報告書の提出先と提出期限
有価証券報告書は、事業年度ごとに財務局および金融庁を通して内閣総理大臣へ提出します。金融庁が運営する電子開示システム「EDINET(Electronic Disclosure for Investors’ NETwork:エディネット)」を利用して提出が可能です。
そして、有価証券報告書の提出期限は、原則として決算日から3ヵ月以内。仮に3月末決算の企業であれば、同年6月中に提出しなければなりません。
有価証券報告書には何が記載されている?
有価証券報告書には、決算の内容や株式に関する情報など、投資家が投資の判断に活用するためのさまざまな情報が記載されています。第一部の「企業情報」における具体的な記載項目と内容は下記のとおりです。
■有価証券報告書の記載項目と内容記載項目 | 記載内容 |
---|---|
企業の概況 | 企業の事業内容や沿革、資本金・売上高、従業員数など基本的な情報 |
事業の状況 | 中長期の経営方針、経営上のリスク、キャッシュ・フローなど、「企業の概況」より詳細な事業に関する情報 |
設備の状況 | 主要な設備(事業所や工場)や設備投資の状況、新設・除去計画などに関する情報 |
提出会社の状況 | 株式や株主、役員の状況、配当政策、コーポレート・ガバナンスなどに関連する情報 |
経理の状況 | 財務諸表や会計方針など、経理に関する情報 |
提出会社の株式事務の概要 | 事業年度の期間、株主総会の開催時期、配当基準日などの株式に関する事務的な情報 |
提出会社の参考情報 | 親会社の情報などの開示情報 |
このほか、第二部として「提出会社の保証会社等の情報」がありますが、多くの上場企業には該当せず、記載されないことが多いようです。
有価証券報告書と混同しやすい書類
有価証券報告書と混同しやすい書類に、「決算短信」や「有価証券届出書」「有価証券通知書」があります。各書類についてそれぞれ何が書かれているのか、詳しく見ていきましょう。
決算短信
決算短信は、決算日から45日以内に金融商品取引法にもとづいて提出する書類で、決算の速報値を記載しています。内容は財務諸表を中心としており、その部分は有価証券報告書とほぼ同一です。ただし、速報であることが目的であるため、記載内容はあくまでも財務面に特化しており、かつ公認会計士や監査法人のチェックも不要です。網羅的に企業情報が記載され、信頼性の高さを重視している有価証券報告書とはその点が異なります。
有価証券届出書
有価証券届出書は、企業が社債など有価証券の売り出しや募集を行う際、「総額が1億円を超える」「勧誘対象の投資家数が50名以上」など一定の条件を満たす場合、発行した企業が内閣総理大臣に提出すべき書類です。有価証券届出書には、発行する有価証券などの内容を記載しなければなりません。提出はEDINETを通して行い、発行後はEDINETにて閲覧できるようになります。
有価証券通知書
有価証券通知書は、「売り出しや募集総額が1,000万円以上1億円未満」など、有価証券届出書の提出義務はないものの一定の条件を満たす際、内閣総理大臣に提出する必要がある書類です。
有価証券届出書と同様、発行する社債などの内容を記載しなければなりません。EDINETで提出可能ですが、閲覧は不可なのが有価証券報告書・有価証券届出書との違いです。
有価証券報告書の閲覧方法
有価証券報告書は、投資家の保護を目的に作成されるため、誰でも閲覧することが可能です。続いては、有価証券報告書の閲覧方法について紹介します。
EDINETから閲覧する
金融庁が運営するEDINETは、有価証券報告書などの書類を電子開示するためのシステムです。「書類検索」画面から提出者(企業名)などを入力し、検索ボタンを押せば、簡単に有価証券報告書などの書類を閲覧できます。利用は無料で、登録なども必要ありません。
企業のウェブサイトから閲覧
ウェブサイト上に有価証券報告書を公開する義務はありませんが、多くの企業が自社のサイトで有価証券報告書を公開しています。株主・投資家情報(IR資料)ページに公開しているケースが多いようです。
OBC IRライブラリー
同業他社の有価証券報告書の活用方法
同業他社の有価証券報告書には、自社の経営にも活用できるようなヒントが記載されている可能性があります。続いては、有価証券報告書の主な活用方法を3つご紹介します。
同業他社の状況把握として
有価証券報告書は、同業他社が現在どのような状況にあるのかを把握するために役立つ書類です。中小企業であっても、同業種で上場している企業がどのように経営を行っているのか、これからどのような方針で経営しようとしているのかを知ることは重要です。経営方針や営業利益率、販売管理費率などを自社と比較すれば、自社が抱える経営上の問題点を知ることができるでしょう。
営業活動における研究資料として
中小企業の経営者や営業担当者が有価証券報告書を公開している上場企業に対して営業活動を行う場合には、必ず有価証券報告書の内容をEDINETなどで確認しておきましょう。有価証券報告書をチェックすることで、企業の経営状況や抱えるリスク・課題が把握できます。自社の強みを活かして、課題解決に効果的な提案をするのに役立つでしょう。
投資先の判断材料として
有価証券報告書は、投資家のために公開されている書類です。中小企業が上場企業への株式投資を行う際に活用できる情報が、多く記載されています。有価証券報告書をよく読み込み、株式投資の際に今後の成長が期待できる投資先を選ぶ判断材料としてください。
有価証券報告書を自社の経営にも活用しよう
有価証券報告書は、提出義務のない企業にとっても有用な書類です。取引先や営業先、投資先などの詳細な情報を得ることができます。
まずはEDINETから情報を検索し、身近な企業の有価証券報告書を閲覧してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
■監修者
石割 由紀人
公認会計士・税理士、資本政策コンサルタント。PwC監査法人・税理士法人にて監査、株式上場支援、税務業務に従事し、外資系通信スタートアップのCFOや、大手ベンチャーキャピタルの会社役員などを経て、スタートアップ支援に特化した「Gemstone税理士法人」を設立し、運営している。
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