目次
- 1.はじめに コロナ禍における海外子会社内部監査
- 2.海外子会社内部監査の目的と重要性
- 3.海外子会社内部監査の実施頻度・流れ
- 4.内部監査発見事項例
- 5.これからの海外内部監査手法①~リモート監査~
- 6.これからの海外内部監査手法②~アウトソーシング~
- 7.おわりに 筋肉質な子会社管理体制を構築するために
1.はじめに コロナ禍における海外子会社内部監査
みなさんこんにちは、フェアコンサルティンググループと申します。フェアコンサルティンググループは、全世界16の国・地域に28の拠点を有する(2021年9月時点)日本発の会計事務所系グローバルコンサルティングファームです。
グローバル企業にとってグループガバナンスにおける新型コロナウイルスの影響は大きく、弊社が日本企業に対して行った調査でも、グループガバナンスの課題で「海外子会社に対する内部監査に支障がある」が2020年春以降常に上位に挙がっています。
新型コロナウイルスの影響が長期化する中、(2019年以前には戻らない)ニューノーマルな管理体制の構築がグローバル企業各社で始まっており、海外子会社に対する内部監査の手法も各社で工夫がみられます。
このコラムでは、グループガバナンスの観点から今注目を集める『海外子会社に対する内部監査』をテーマといたします。
2.海外子会社内部監査の目的と重要性
過去の会計数値の適正性を監査する外部監査と異なり、内部監査は将来のインシデントを防ぐため、組織の問題点を早期発見することが目的です。
海外拠点の内部監査は、本社や国内子会社の国内拠点と比較して、距離、言語、文化や制度が異なるため、難易度は格段に高くなります。後に海外子会社の内部監査での発見事項例を挙げますが、国内拠点では考えられないような発見事項ばかりです。
一方で、経営環境のボーダレスが進む中、多くの日本企業で海外事業成長を伴って海外子会社の存在感が大きくなり、海外子会社の内部監査の重要性も高まってきています。実際、近年の会計不正の約1/4が海外子会社に起因しているとの調査結果もあります。
海外子会社の内部監査の重要性が高まっている中、新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業で2020年度以降の海外子会社の内部監査が充分に実施できていません。
日々の運営時点から本社の目が届きにくい海外子会社において、内部監査が滞ることでグループガバナンスリスクがより一層高まっていると、危機感を感じられている企業も多いのではないでしょうか。
3.海外子会社内部監査の実施頻度・流れ
独立した職業会計士が担当する外部監査と異なり、内部監査の手順は各企業に委ねられております。一般的には日本本社や地域統括拠点に内部監査部門が設置され、海外子会社の事業運営から独立したグループ内組織が内部監査を行います。
内部監査の実施頻度は一定期に行われることが多く、海外子会社の場合は重要性を鑑みつつ1~2年に1度が一般的ではないでしょうか。ただし、海外事業の成長により内部監査部門のリソースが不足し、海外内部監査サイクルが延びている企業も多いようです。
内部監査プロセスは①監査計画策定、②監査実施、③監査調書作成・報告の順で進み、監査対象組織ごとに個別に進みますが、グループでの共通事項も多いためひな型となる監査計画や監査調書を用意しておく必要があります。
①監査計画策定
主に監査対象会社の監査スケジュールと監査項目を決めます、前回の内部監査結果や予備調査の結果に基づき、対象会社の個別監査計画を策定いたします。海外子会社の場合は普段から本社から見えていない点を監査項目として抽出するのが重要です。また、内部監査の意義につき現地スタッフの理解を得ることが、監査協力を得るために重要になります。フェアコンサルティングの内部監査支援事例では、監査計画段階でクライアントの現地スタッフから内部告発を受けたケースもあります。
②監査実施
監査計画に基づき監査を実施します。資料等を事前にデスクトップレビューし、現地実査も行います。新型コロナウイルスの影響を受け、日本や地域統括拠点から出張ができず海外子会社の実査が困難になっております。
現場での実査が困難な中、海外子会社の内部監査手法としてWeb会議ツールやクラウドシステムを用いたリモート監査の導入が進んでおり、課題も耳にします。リモート監査の手法及び課題については、後述いたします。
③監査調書作成・報告
監査の実施結果を監査調書に取りまとめ、経営者に向けた報告を行います。内部監査の場合、指摘事項につき改善するプロセスが重要です。そのため、監査調書や報告は日本語だけでなく現地経営者やスタッフが理解できる言語で表現される必要があります。
前述の通り、新型コロナウイルスの影響を受け海外子会社の実査が困難な状況が続いております。そのような状況を受け、実査等内部監査業務の一部を現地のコンサルティング会社等に外部委託(アウトソーシング)するケースが増えてきております。この点の有効性は、当コラム最後に述べます。
4.内部監査発見事項例
フェアコンサルティンググループがクライアント企業の海外子会社内部監査をアウトソーシングした際の、発見事項と改善手法について、事例として一部紹介いたします。
発見事項 | 改善手法 | |
入金 | 顧客にインボイスを発行しないまま対価が入金されている | 顧客からの依頼有無にかかわらず、全ての収入につきインボイスを発行 債権の発生、回収をインボイスNo単位で管理 |
---|---|---|
滞留債権 | 50%超の債権回収が滞留、地域統括拠点・本社共に認識していない 営業担当は受注額のみで評価され、資金の回収の意識が薄い |
地域統括拠点管理責任者による、域内滞留債権管理の仕組構築 資金回収までを含んだ業務規程及び評価制度の整備 |
雇用契約書 | 一時雇用労働者との間で季節労働に関する契約が締結されていない | 賃金支給の関連証憑として、一時雇用労働者との労働契約書(従業員名、IDナンバー、署名欄)を簡便にでも締結し保管 |
現金出納業務の職務分掌 | 出納業務と現預金記帳業務が1名のスタッフで兼務、職務が分掌されていない | 現金出納業務と経理処理業務を別のスタッフに担当させ職務分掌 |
経営者による使途不明金 | 会計帳簿上に関連証憑がない現金の支出記録(前経営者による物品購入) 現在の会計責任者が詳細を把握できておらず使途不明金として処理(税務上損金処理できない) |
現金の保全、資産の適切な運用の観点から関連証憑の添付管理を徹底 現地経営者に対するコンプライアンス教育の実施 |
残業超過 | 特定の従業員が法定の残業時間を超過して勤務 | 業務の外部委託、一時雇用労働の採用を通じて、超過勤務時間を削減 |
手当の過大計上 | 「交通費手当」は個人所得税対象、社会保険適用対象外 「通信手当」は個人所得税、社会保険ともに適用対象外 高額報酬の従業員の社会保険料及び個人所得税を少なくするため、意図的に当該手当が振り分けていた |
社会通念上適切な手当のルールを定め運用 |
個人からの融資 | 取締役2名が現金を会社に貸与して補填 借入・返済につき関連する書類がなく、会計システムに記帳されていない |
個人から借入を行う場合も短期融資契約書を作成 入出金伝票を作成した上で会計システムに記帳 |
販売手数料 | 主要顧客の社長に販売手数料を現金で支払っている | グループガバナンスの観点から今後の取引方針も含めて検討 |
社内規程 | 社内規定を作成していたが、経営者による承認の証跡及び更新履歴が残されておらず、規程としての有効性が不明 | 社内規程が法律上の効力を有するため経営者による署名を行う 対象会社の実態や法令の変更に合わせ適宜更新し履歴を管理する 従業員に対して規程の遵守と適用の徹底を図る |
情報セキュリティ | 利用期限を過ぎたPCが廃棄されず従業員に譲渡されていた | PC等情報資産の管理規程の整備・徹底 日本本社と同等基準の情報セキュリティ教育の実施 |
ほとんどが上場企業の海外子会社の事例であり、本社では考えられないような事態が海外子会社では放置されていたことがわかります。
5.これからの海外内部監査手法①~リモート監査~
新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業でリモート監査の導入が進みました。リモート監査とは監査のデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、昨今のWeb会議ツールやクラウドシステムの進化がリモート監査を支えています。
ここで、代表的なリモート監査の手法についていくつか紹介いたします。
①ドキュメントの電子化、紙資料監査の撲滅
今や紙資料を監査対象とするのは非現実的にまでなっており、全てのドキュメントを電子化し遠隔地からも監査できるようにします。
“電子化”にもいくつかの手段がありますが、クラウドシステム等の導入によりデータそのものを電子化し、監査対象データが一元的に整理された状態が理想的です。詳細は省略いたしますが、アクセシビリティ、セキュリティの高さ、導入の容易性からも特に海外子会社のデジタルトランスフォーメーション(DX)にはクラウドシステムが有効です。
システム導入には時間とコストがかかるため、紙資料をスマートフォンで撮影し画像データ(あるいはPDF)にし共有するだけでもドキュメントの“電子化”になります。
②海外口座情報を本社や地域統括拠点で把握
インターネットバンキングやキャッシュマネジメントシステムの活用により、預金の情報を本社や地域統括拠点で把握できるようにします。やはり現預金が内部監査対象として最も需要な項目のため、監査期間以外でも国境を超えてモニタリングできる仕組の構築が重要です。
③QRコードやバーコードによる在庫・固定資産のデジタル管理
バーコードによる商品や在庫のデータ管理は古くから行われてきましたが、モバイル端末やクラウドシステムの発展により導入が非常に簡単になりました。資産の実在性等につき、資産データがデジタル化し遠隔地からも可視化されることで、リモート監査にも貢献します。
④Web会議ツールを用いたマネジメント等へのインタビューの実施
Web会議ツールの利用浸透はこの2年で格段に進みました。会議だけでなく監査のインタビュー時にも有効な手段になります。
これらのように、近年で技術革新が進んだツールやシステムを活用することで、リモート監査を実査・往査同様に進めることがでます。一方で、リモート監査の限界や課題も明らかになってきました。いくつかの事例を挙げておきます。
<リモート監査の限界と課題>
- 形式的になりやすく被監査側の協力が得にくい、または監査実施側が切り込んでいきづらい
- DX化が完全ではなく、データの網羅性に確証がもてない
- 現金や棚卸資産の実在性監査はデータを遠隔より確認するだけでは不充分、現地実査の必要性が高い
6.これからの海外内部監査手法②~アウトソーシング~
続いて、新型コロナウイルスの影響を受け注目を集める海外内部監査のアウトソーシングについて、フェアコンサルティンググループの事例を踏まえて説明いたします。
グループ内部で完結されていた内部監査業務の一部を、海外現地のアウトソーサーに委託します。監査手法や報告内容を委託時に合意して、監査報告時に期待ギャップを発生させないことが重要です。
①年間スケジュール、基本計画、報告フォーマットの合意(年1回程度の包括合意)
外部委託初期に合意した上で、年に1回程度の見直しを行います。通年の監査スケジュール、監査計画の基本方針、監査報告書のフォーマットを外部委託先と包括的に合意します。フェアコンサルティンググループの場合、東京又は大阪のコンサルタントが本社内部監査部門とすり合わせを行います。
②個別スケジュール、個別監査計画の合意(国又は法人ごと個別合意)
包括合意内容に基づき、監査対象国又は法人単位で個別の監査スケジュール、個別の監査計画を合意し実施いたします。
①で包括合意を行っておくことで、より効率的にアウトソーサーに業務委託ができます。
内部監査のアウトソーシングは、たとえ海外渡航や移動制限が2019年以前に戻ったとしても有効な手法であるとされています。内部監査のアウトソーシングは『実査を代替できる』だけでなく、以下のようなメリットがあり、より効果的な内部監査体制を築くための有効な手段なのです。
<内部監査のアウトソーシングメリット>
- 内部監査コストの削減、内部監査サイクルの短縮
・内部監査部門の移動や業務の負荷の削減
・内部監査部門のリソース不足の解消 - 内部監査品質の向上とグループガバナンスリスクの低減
・現地の制度・文化に精通した監査のプロが実施することで内部監査品質が向上
・現地人スタッフによる現地語での監査により、出張者では難しかった指摘事項を抽出
7.おわりに 筋肉質な子会社管理体制を構築するために
すでにリモート監査の採用を進めていらっしゃる会社は多いかと思いますが、より幅広い領域でのDX化を進めることで、リモート内部監査の効率や有効性を上げていくことはできます。それでも現地実査を完全に撤廃することは難しく、リモート監査を内部監査のアウトソーシングによって補うことが、ニューノーマルな内部監査の姿と考えます。
本社又は地域統括拠点の内部部門はグループ内部監査の司令塔と位置づけ、監査実施は対象地域の専門家に委託するといったグローバル内部監査体制が、今後の日本企業においても主流になってくるのではないでしょうか。
環境変化が激しい中、アウトソーシングの有効活用で無駄のない筋肉質な管理体制の構築をお勧めいたします。
株式会社フェアコンサルティング
システムソリューション事業部長
玉村 健氏
大手外資系コンサルティングファームを経て、日本トップシェアの連結会計システムベンダーで製品企画や中西日本地域コンサルティング部門責任者として従事。フェアコンサルティングでは、日本企業にグローバルソリューションを提案する部門の責任者を務めるとともに、システムソリューション事業責任者としてグループマネジメントシステムやクラウド型グローバル会計システムのソリューション提供を行っている。
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