少子高齢化、労働力人口の減少により、縮小が見込まれる国内市場。いまや大企業のみならず、中小企業やスタートアップ段階のベンチャー企業でも、活路を海外に見いだすケースが増えています。しかし、海外進出の増加に比例して海外子会社でのトラブルが頻発するとともに、新型コロナウイルスが世界に蔓延したことで海外への渡航が制限され、現地ガバナンスを効かせることはこれまで以上に難しくなっています。
そんななか、今回は海外進出企業を支援する専門化と、OBCでシステムの企画・提案を手掛ける責任者へのインタビューを通じ、企業がはまりやすい落とし穴と成功するための対策について、会計処理に焦点を当ててお届けします。
―プロフィール―
株式会社フェアコンサルティング
システムソリューション事業部長 玉村 健(たまむら たけし)
海外進出を行う日本企業に、グローバルソリューションを提案する部門の責任者
株式会社オービックビジネスコンサルタント
営業本部SI・コンサルティングパートナー推進室 室長 森 猛(もりたけし)
海外進出企業向けシステムの企画・提案を手掛ける責任者
目次
- 規模や業種問わず、海外進出企業が増加。
共通する課題と対策を知っておくことが重要 - 海外進出企業がはまりやすい落とし穴とは?
- 成功のカギは、経理の見える化とクラウド会計システムの活用
- 経理の見える化を実現した、海外進出企業の成功事例
- クラウドを使いこなす人が重要。
現地支援できるパートナーの活用も有効
規模や業種問わず、海外進出企業が増加。
共通する課題と対策を知っておくことが重要
─最近の日本企業における海外進出の傾向を教えてください。―
玉村 健(株式会社フェアコンサルティング/以下、玉村) 投資先として注目されているのはやはりベトナムです。様々な要因がありますが、米中摩擦が影響しているのは明らかです。ASEAN地域全般に該当しますが、人口が増加傾向にあり経済水準もあがってきていますから、製造業だけでなく一般消費者向けのビジネス、たとえば小売や飲食といった業種の海外進出も増えてきました。また独資による進出だけでなく、日本企業による海外企業のM&Aも増加傾向にあります。当社では2019年度の海外企業M&A支援が100件を超えそうです。
―ここ最近、海外へ進出する企業の属性に、なにか変化はありますか?―
森 猛(株式会社オービックビジネスコンサルタント/以下、森) IPO準備中の企業、中堅・中小企業や、立ち上げたばかりのベンチャー企業の進出が目立ってきています。小売や飲食は国内市場が飽和状態なので、これ以上売上を伸ばすには海外に打って出るしかない。日本の食文化が海外でかなり認知されるようになったことも、進出の背景にありますね。特徴的なのは、企業規模に関係なく海外進出を行ってきている点と、小売や飲食といったさまざまな業種が進出している点です。今や海外進出を成功させるには、規模や業種問わず、はまりやすい落とし穴と対策を早めに知っておくことが重要になってきています。
海外進出企業がはまりやすい落とし穴とは?
―海外子会社がはまりやすい落とし穴について詳しく教えてください―
<落とし穴①>海外子会社管理を適切に行えていない
森 企業規模問わず海外子会社管理が出来ていないケースが多いです。問題が起きて初めて、子会社の状況を知るという企業もあります。その理由は、本社から現地に送り込まれる人材は現場責任者レベルの方だからです。飲食店で言うのであれば、店長ですね。その方は自分自身の業務もありつつ、慣れない会計処理などの業務も課されています。会計に関して素人同然のその方が、業務の合間にExcelや現地システムで売上データなどを管理して本社に報告しているのです。現場責任者がいきなり経営者レベルの視点を持って子会社管理をすることは、事実上不可能ですよね。しかし、現場はそうなってしまっています。
<落とし穴②>現地の会計データを把握するのに時間がかかり、不正も起きやすい
玉村 距離も遠く、言葉の壁もある海外子会社の状況を知る方法は、現地に赴く以外では、会計データ等の数値しかありません。しかし、子会社の会計業務を、現地のスタッフや会計事務所に任せっぱなしになっているケースも多く、それにも問題があります。現地から来るデータは日本語ではなくその国独自のフォーマットのため、本社で解読することに時間がかかります。また、データそのものがなかなか送られてこないこともあります。結果、現地の会計はブラックボックス化し、本社の決算も遅延してしまうという事態が起こっています。Excelでも現地システムでも、現地会計事務所に任せていてもリアルタイム性に欠けるためタイムリーにモニタリングすることができない。ミスだけでなく不正が起こりやすい環境も生まれてしまっていると言えます。
成功のカギは、経理の見える化とクラウド会計システムの活用
―これらの落とし穴に対して、どう対策を講じればいいのでしょうか?―
玉村 対策の有効な手段となり得るのが、クラウドを活用した経理の見える化です。近年はクラウド会計システムを利用して、経理の見える化を実現できるようになりました。ミスや不正は会計データに現れます。経理の見える化を実現するためには、遠く離れた海外子会社とリアルタイムでの情報共有が必須ですが、クラウド時代の今、それも簡単に実現可能です。さらに多言語・多通貨対応のシステムであれば、現地スタッフが現地の言語・通貨で入力し、本社では日本語・円で確認することができます。モニタリングの効率も格段にあがります。
―ですが、中小企業やベンチャー企業はバックオフィスのIT投資に、大きな予算をさけません―
森 そこで、中小企業でも経理の見える化を実現できる勘定奉行クラウドGlobal Edition(以下、勘定奉行GE)の活用をお勧めしています。確かに、これまでは海外に対応した会計システムの多くが、数百万~数千万円の導入コストかかる大規模なものでした。その点、勘定奉行クラウドGEは多言語・多通貨対応の会計システムでありながら、中小企業でもムリなく導入できる価格。しかもクラウドなので、世界のどこからでも情報を共有できます。数年前から、海外進出される企業に多言語・多通貨対応のシステムのご相談をいただくことが増えてきました。そこでフェアコンサルティングさんに監修していただきながら、3年以上の期間をかけて開発したんです。
経理の見える化を実現した、海外進出企業の成功事例
―ぜひ、海外進出企業の成功事例を教えてください―
玉村 インドネシア企業をM&Aで子会社化した企業の例をお話ししましょう。責任者も従業員もすべてインドネシア人で構成されているため、現地の会計処理の責任者の感覚が本社とズレていました。情報開示の必要性を感じていないし、連結決算用の数字を出す際のスピード感もない。「このまま現地にまかせるわけにはいかない」ということで、勘定奉行クラウドGEを導入。これによって現地拠点の状況を本社がリアルタイムでチェックできるようになり、会計処理のスピードが格段に改善されました。また、会計データ上の備考欄にインドネシア語で書かれた内容も自動翻訳機能により日本本社でも確認ができ、システムを通じてコミュニケーションコストを削減することにも成功しました。
もうひとつ、最近の事例を紹介します。日本のIT企業がベトナムで行ったM&Aのケースです。買収したけれど実態がよくわからない。そこでガバナンスをきかせようと、勘定奉行クラウドGEを導入しました。さらに、私たちフェアコンサルティングが現地サポートすることになりました。すると、いろんなものが見えてきました。ベトナムは勘定項目が税務にすごく引っ張られる国なので、会計処理について日本との違いがいくつもあるんです。こういうことは、買収前のデューデリジェンスだけではなかなかわからない。でも、一つ一つのデータをシステムに落とし込んでみるとはっきりするんです。
クラウドを使いこなす人が重要。
現地支援できるパートナーの活用も有効
―最後に、海外進出企業が今後成長するために気を付けることやアドバイスがあれば教えてください―
森 いちばんよくないのは、現地の人に「まかせている」つもりで実は「放置している」ことです。会計データは本社でしっかりおさえて、海外子会社に対する牽制を効かせるべきだと思います。これだけITインフラが整い始めているので、できないはずはない。上場企業であれば、いいかげんなデータを開示したら、投資家を裏切ることになり、経営者責任を問われる事態にもなりかねません。会計データをおさえてガバナンスをきかせていく。それが海外に進出した企業の成長には不可欠だと思います。
玉村 上場企業でいえば、連結決算が遅れてしまうことでしょう。企業はマーケットの拡大をはじめ、なんらかのメリットを期待して海外に出て行くわけです。その成果をきちんと投資家に伝えていくことが継続的な成長につながっていきます。日本では「連結財務諸表は45日以内開示」というルールになっていますが、だいたい1ヵ月以内に開示する流れになっています。タイミングが早ければ早いほど投資家は喜びます。ところが海外のデータがなかなか出てこない。スピードアップは企業成長のキーワードですから、改善すべき点だと思いますね。
―まずは、クラウド会計システムの活用が重要ということでしょうか?―
森 はい。ただ、それだけでは不十分です。システムは基盤で、それを見るのは人間。両方がそろって、効果的に機能すると考えています。たとえば、「現地のスタッフが現金を抜いている」なんてことはシステムだけではわかりません。でも、データを見ている人がいれば、「なにかおかしい」と気づくことができます。システムと人が連携する体制を整えることで、強力な不正抑止効果が期待できるのです。
玉村 東南アジア圏などの子会社に入っている現地の会計システムは、統制上不充分なシステムが多いので、それを“隠れみの”に不正が起きるケースも。そのときに勘定奉行クラウドGEに変更する、というだけでも緊張感が出て、不正抑止になります。さらに内部監査やレビューを充分に行えば、なお良いです。過去に内部監査支援を依頼された企業のケースでは、「外部のコンサルティング会社が内部監査に入る」という話が出た瞬間、現地の経理担当者から内部告発が来たケースもあります。「不正をやっていました。でも社長命令で、私に責任はありません」と。
森 経理の見える化と内部監査によって、子会社に“見られている意識”が醸成されることは、海外子会社で起こる多くのトラブルを解決することができます。そのためにも勘定奉行クラウドGEとフェアコンコンサルティングさんのタッグはとても有益ではないでしょうか。フェアコンサルティングさんでは、世界各地に直営事務所を持ち、その直営事務所が海外子会社を直接サポートしてくれます。こういう事務所はかなり珍しいです。通常は、現地の提携事務所が支援することが多く、結局日本本社から海外子会社がよく見えてこないなんていうことも起こりえます。クラウドを活用した経理の見える化が海外展開を加速する企業の心強い味方になれると確信しています。
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