育児休業は、子供を育てる労働者のうち、一定の要件を満たす人が取得できる休暇です。この休暇を取得した際に支払われる給付金を、「育児休業給付金」と呼びます。
ここでは、労務担当者が知っておきたい育児休業や育児休業給付金の基本と、手続き方法について解説します。育児休業給付金を希望する労働者からの問い合わせに対し、スムーズに対応できるよう、知識を身につけておきましょう。
目次
- 育児休業給付金とは育児休業取得者に支払われる給付金
- 事業主が行う育児休業給付金受給資格確認手続き
- 育児休業給付金の支給申請手続き
- 育児休業給付金に関し、事業主が用意する書類
- 手続き後にハローワークから交付される各種書類について
- 育児休業給付金の支給方法について
- 男性の育児休業給付金はどうなる?
- 支給対象期間の延長手続き
- 第2子以降の注意点
- 育児休業給付金に関する手続きをスムーズに行うために
育児休業給付金とは育児休業取得者に支払われる給付金
育児休業給付金とは、育児休業を取得した労働者に対して、雇用保険から支払われる給付金のことです。 子供を養育する人のうち、一定の要件を満たす人は育児休業を取得できますが、この期間中は、通常無給です。そこで、育児休業中の労働者の生活を支えるために、雇用保険から育児休業給付金が支払われます。
育児休業給付金の受給資格
育児休業給付金を受給できるのは、原則として下記の条件にあてはまる労働者で、性別に関係なく育児休業給付金を受給できます。
- 1歳未満の子供を養育するために育児休業を取得する
- 現在企業に雇用されて働いており、雇用保険に加入している
- 育児休業を開始した日からさかのぼって2年間に、雇用保険の被保険者期間が12ヵ月以上(1ヵ月のうち11日以上働いた場合に1ヵ月とみなす)ある
有期雇用契約で働いている労働者の場合は、前述の条件をすべて満たすことに加えて、育児休業を開始した時点で、下記の2つの条件を満たす必要があります。
- 引き続き雇用された期間が1年以上
- 子供が1歳6ヵ月になるまでのあいだに、労働契約が終了することが決まっていない
これらの条件を満たしていない場合は、育児休業給付金を受け取ることはできません。
なお、2022年(令和4年)4月1日以降は、法改正により、「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件は撤廃されます。
育児休業給付金の金額
育児休業給付金の金額は、下記のとおりです。
育児休業開始日から6ヶ月間
休業開始時の賃金日額 × 支給日数×67%育児休業開始日から6ヶ月経過後
休業開始時の賃金日額 × 支給日数×50%休業開始時の賃金日額とは、休業開始前6ヵ月の賃金を180で割った金額で、支給日数とは、原則として1ヵ月あたり30日(休業終了する月は終了日までの日数)です。
ただし、賃金月額の上限額は45万600円、下限額は7万7,310円です。賃金日額×支給日数が上限および下限の範囲を上回る(あるいは下回る)場合は、上限(あるいは下限)の金額となります。
育児休業給付金を受け取れる期間
育児休業給付金を受け取れるのは、育児休業期間中のみです。育児休業期間は、出産後8週間の産後休業経過後から、父親が取得する場合は出産日(出産が遅れたときは出産予定日)から子供が1歳になるまでとなります。
ただし、保育園の利用を希望しても見つからない場合など、一定の要件を満たすときは、最長2歳になるまで育児休業を延長し、育児休業給付金を受け取ることが可能です。
賃金が支払われる場合の育児休業給付金
厚生労働省の「育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金の支給について」によると、育児休業期間中に勤務先から賃金が支給される場合は、支給額に応じて育児休業給付金が減額したり、あるいは支給が停止されたりする可能性があります。いずれにせよ、賃金を受け取る場合は、ハローワークに届け出が必要です。
事業主が行う育児休業給付金受給資格確認手続き
労働者から育児休業取得の申し出があった場合、事業主は育児休業給付金受給資格確認手続きをとる必要があります。手続きは事業所を管轄するハローワークで行いますが、電子申請も可能です。
<必要書類>
- 育児休業給付受給資格確認票
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 賃金台帳や出勤簿等
- 母子健康手帳の写し等
なお、育児休業給付金に関する手続きではありませんが、育児休業中は社会保険料が被保険者と事業主も免除されるため、併せて手続きを行うことをおすすめします。「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書」を、年金事務所や健康保険組合に提出することで手続きが行えます。
手続き期間
育児休業給付金受給資格確認手続きの期限は、初回の育児休業給付金申請を行う日までです。
なお、育児休業給付金申請は、育児休業を開始する日から4ヵ月が経過する日が属する月の末日までに行います。産休を取得している女性が育休を取得する場合は、出産日から起算して58日目を「育児休業を開始した日」とします。
育児休業給付金の支給申請手続き
育児休業給付金の受給資格確認手続きは、原則として事業主が行いますが、支給申請手続きについては、特別な理由があって事業主経由で申請ができない場合や、本人が希望した場合は労働者自身が手続きをすることも可能です。
支給申請手続きは、育児休業給付金の受給資格確認手続きと同様に、事業所を管轄するハローワークで行います。また、支給申請手続きも電子申請が可能です。
<必要書類>
- 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 賃金台帳や出勤簿等
- 母子健康手帳の写し等
手続き期間
初回の手続き期間は、育児休業を開始する日から4ヵ月が経過する日が属する月の末日までです。産休を取得している女性が育休を取得する場合は、出産日から起算して58日目を「育児休業を開始した日」とします。
なお、育児休業給付金支給申請と受給資格確認手続きを同日にまとめて行うことは可能ですが、受給資格確認手続きは審査に時間がかかるため、先に行ったほうがスムーズです。
2回目以降は、2ヵ月に1回(育児休業を取得する被保険者が希望する場合は、1ヵ月に1回の申請も可能)申請を行います。
育児休業給付金に関し、事業主が用意する書類
育児休業給付金の支給に関して、事業主が用意しなければいけない書類は下記の3点です。
育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
育児休業給付受給資格確認票と初回の育児休業給付金支給申請書には、育児休業を取得する労働者の雇用保険番号や資格取得日、氏名といった情報のほか、支給単位期間や職場復帰年月日などについても記載します。用紙はハローワークでもらうか、ハローワークのウェブサイト上でダウンロードすることが可能です。申請画面で、内容を入力した帳票を印刷することもできます。
なお、育児休業給付金の受給資格確認のみを行う場合は、出来上がった書類を「育児休業給付受給資格確認票」としてのみ利用することもできます。
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書は複写式の用紙で、ハローワークでもらうことができますが、インターネット上でダウンロードはできません。育児休業を取得する労働者の賃金額を記載して、ハローワークに提出します。
賃金台帳や出勤簿等
育児休業給付金の手続きに際しては、社内で作成している賃金台帳や出勤簿など、上記の各種申請書類に記載した内容に間違いがないことを確認できる書類を添付する必要があります。
また、母子健康手帳の写しなど、育児の事実を確認できる書類も必要になるため、労働者に用意してもらいましょう。
手続き後にハローワークから交付される各種書類について
育児休業給付金に関する手続きを行うと、ハローワークから書類が交付されます。交付される書類の種類は、それぞれの状況によって異なりますので、書類の種類について理解しておきましょう。
育児休業給付金受給資格確認手続きのみ行った場合に交付される書類
育児休業給付金受給資格確認手続きのみ行った場合、ハローワークから下記の書類が交付されます。
- 育児休業給付受給資格確認通知書
- (初回)育児休業給付金支給申請書
育児休業給付受給資格確認通知書は、事業主控え用と被保険者通知用が1枚になっていますので、被保険者通知用を切り離し、労働者本人に渡してください。
(初回)育児休業給付金支給申請書には払渡希望金融機関等を書く欄があるため、育児休業を取得した労働者に記入してもらった上で、通帳のコピーや母子健康手帳のコピーなどを添えて返送してもらいましょう。
育児休業給付金受給資格確認手続きと初回の申請を同時に行った場合に交付される書類
育児休業給付金受給資格確認手続きと同時に初回の申請を行った場合は、下記の書類が交付されます。
- 育児休業給付金支給決定通知書
- (次回)育児休業給付金支給申請書
育児休業給付金支給決定通知書は、事業主控え用はとっておき、被保険者通知用を労働者本人に渡してください。また、(次回)育児休業給付金支給申請書には、被保険者の署名欄がありますので、署名してもらいます。
ただし、被保険者の合意を得て、「記載内容に関する確認書・申請等に関する同意書」を作成・保存すれば、この署名を省略して事業主が手続きを行うことも可能です。
育児休業給付金の受給資格がない場合に交付される書類
育児休業給付金の受給資格がなかった場合、「育児休業給付受給資格否認通知書」が交付されますので、事業主控え用はとっておき、被保険者通知用を労働者本人に渡します。
育児休業給付金の支給方法について
育児休業給付金の支給は、育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書の下部にある「払渡希望金融機関指定届」に記載した金融機関へ振込で行われます。支給日は、支給決定から約1週間程度です。
なお、育児休業給付受給資格確認時に金融機関を指定しなかった場合は、初回申請までに金融機関の届け出を行う必要があります。
男性の育児休業給付金はどうなる?
育児休業は、子供の父親が取得することも可能です。この場合も、雇用保険の加入期間等の要件を満たしていれば、育児休業給付金が受給できます。母親が取得する場合と異なる部分もありますので、確認しておきましょう。
育児休業期間
男性の場合、産後休業はありませんから、出産当日から子供が1歳になる日の前日まで(出産が遅れた場合は出産予定日から最大1年間)が育児休業期間となります。
ただし、母親と父親が二人とも育児休業を取得する場合、「パパ・ママ育休プラス」を利用すると、後から育児休業を取得した人は1歳2ヵ月まで育児休業を取得できます(一部例外あり)。
育児休業給付金の額
男性の育児休業給付金も、180日までは賃金の67%、180日以降は50%の金額が支給されます。金額の割合も女性と同様です。
パパ休暇について
通常の育児休業は、子供の出生につき1回の取得が原則ですが、パパ休暇は理由を問わず2回取得できます。子供が生まれた後、8週間以内に男性が育児休業を取得した場合に限り、その後、育児休業を再取得することが可能です。この場合も、育児休業給付金が支給されます。
なお、出生時育児休業制度(産後パパ育休)が2022年(令和4年)10月1日から施行され、現行のパパ休暇は廃止されます。これは、子供の出生後8週間以内に父親が、最大4週間を2回に分けて取得することができる制度です。
支給対象期間の延長手続き
保育園の利用を希望しても見つからないなど、一定の理由に該当する場合は、手続きをすることで育児休業期間と育児休業給付金の受給期間を延長することができます。延長期間は、最長で2歳までです。
延長を希望する場合は、「育児休業期間変更申請書」と、延長理由の裏づけとなる書類を労働者に提出してもらいましょう。この書類は、子供が1歳になる日を含む支給期間の支給申請を行う際の育児休業給付金支給申請書に添えて、ハローワークに提出します。なお、育児休業給付金支給申請書の18欄「支給対象となる期間の延長事由―期間」にも必要事項を記入します。
延長理由に応じた必要書類は、下記のとおりです。
<延長理由の裏づけとなる書類例>
- 保育所に入れないために延長する場合:市区町村が発行した保育所等の入所保留の通知書など、保育所に入所できない事実がわかる書類
- 今後、子供の面倒を見る予定だった配偶者が死亡した場合:世帯全員について記載された住民票の写しと母子健康手帳
- 今後、子供の面倒を見る予定だった配偶者と、離婚等の理由によって同居しないことになった場合:世帯全員について記載された住民票の写しと母子健康手帳
- 今後、子供の面倒を見る予定だった配偶者が病気等の理由で困難になった場合:配偶者の状態についてわかる医師の診断書など
- 育児休業を取得している本人が産休を請求できる期間にあるか、産休中6週間(多胎妊娠の場合14週間)以内に出産予定、または産後8週間が経過していない場合:母子健康手帳
なお、上記のいずれにもあてはまらない場合、育児休業や育児休業給付金の受給期間の延長をすることはできません。
第2子以降の注意点
第2子以降の出産・育児に伴って休業する場合は、タイミングによって育児休業給付金の金額が第1子と異なるケースがあります。違いについて確認しておきましょう。
時短勤務中の第2子の場合
時短勤務中でも、職場復帰した後で妊娠・出産すれば、新たに育児休業を取得したり、育児休業給付金を受け取ったりすることが可能です。
ただし、育児休業給付金の金額は、休業に入る前の6ヵ月の賃金平均から算出されるため、時短勤務で賃金額が少なくなっていると、第1子のときの支給額よりも金額が少なくなる可能性があります。
育児休業期間中の第2子の場合
育児休業期間中に第2子を妊娠した場合、第1子の産休・育休と連続して、第2子の育休・産休を取得することができます。このようなケースでは、第1子の育児休業給付金、第2子の出産手当金、第2子の育児休業給付金という順で、給付金や手当金を受け取ることになります。
育児休業給付金に関する手続きをスムーズに行うために
育児休業給付金に関する手続きの際には、ハローワークや受給者である労働者と定期的に書類をやりとりする必要があります。そこで、奉行Edge 労務管理電子化クラウドのご活用を検討してみてはいかがでしょう。
「奉行Edge 労務管理電子化クラウド」は、育児休業の手続きにかかる従業員と労務担当者の負担を大幅に軽減するサービスです。従業員は、パソコンやスマートフォンから、育児休業の取得申請を行うことができます。また、男性が育児休業を取得する場合の申請にも対応しています。
さらに、従業員が育児休業給付金を受け取るための一連の手続きを電子申請することができるため、労務担当者がハローワークに足を運ぶ必要もありません。給与奉行クラウドをいっしょに利用すれば、被保険者休業開始時賃金月額証明書に賃金情報や勤怠情報が自動連携されるため、入力の手間も不要です。
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■監修者
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士
大学院修了後、経済産業省所管の財団法人に技術職として勤務し、産業技術総合研究所との共同研究にも携わる。その後、法務部門の業務や労働組合役員も経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立。社外取締役として上場も経験。上場支援、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。
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