
IPO Forum~IPO審査最前線、審査する側・される側、双方の視点で語る~-IPO Forum 2025/2/21-
上場審査の基準には「形式要件」と「実質審査基準」があります。
上場審査基準は各証券取引所(東京証券取引所[東証]・名古屋証券取引所[名証]・福岡証券取引所[福証]・札幌証券取引所[札証])、および各市場で異なる基準が設定されています。
株主数や時価総額、利益の額など、上場申請をする場合に求められる要件であり、上場申請時に提出する資料やIPOファイナンスの状況により確認されます。
形式要件の例として、以下が挙げられます。
<形式要件の例>
上場企業になるための適格性を審査する実質的な基準であり、形式要件を満たすことが前提です。実質審査基準は、形式要件に比べ金額や数値などの明確な尺度はありません。申請会社が安定的・継続的に収益性を維持し、適切な管理体制を構築し、将来を見通した経営を適切に行っているかなど、質的な側面から確認します。そのため、書類審査だけではなくヒアリングや実地調査なども行われます。
実質審査基準の例として、以下が挙げられます。
<実質審査基準の例>
東証は国内最大の証券取引所です。コンセプトの異なるグロース市場・スタンダード市場・プライム市場の3つに分かれており、各市場に適した上場審査基準が設けられています。
なお、形式要件に関しては、IPO時に要件を充足していたとしても、その水準が上場維持基準に近い場合は注意が必要です。上場後間もない期間で上場維持基準に抵触することがないよう、東証から対応方針等を確認される場合があります。
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「高い成長可能性」を有する企業向けの市場です。高い成長可能性を有するかどうかは、主幹事証券会社がビジネスモデルや事業環境をもとに評価・判断します。
IPOを目指す企業は、ほとんどが高い成長可能性を有する新興企業です。そのため、IPOではグロース市場を選択する企業がもっとも多くなります。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)株主数(上場時見込み) | 150人以上(IPOファイナンスで500単位以上の公募を行うこと) |
(2)流通株式(上場時見込み) |
|
(3)時価総額 | - |
(4)事業継続年数 | 1か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること |
(5)純資産の額 | - |
(6)利益の額 | - |
※上記形式要件の他、公認会計士の監査意見、株式事務代行機関の設置、単元株式数その他についての要件がある。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること(※1) |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること。 |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること(※2) |
(4)事業計画の合理性 | 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること |
(5)その他公益又は投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項 |
※1:「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示の状況を含めて確認。
※2:コーポレートガバナンス・コードの対象:基本原則。
参考)株式会社東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(グロース市場編)」
グロース市場の上場企業は、高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示により一定の市場評価を得ます。一方で、投資家にとっては事業実績の観点から相対的にリスクが高いと言えます。これをふまえ、東証ではグロース市場の実質審査基準のはじめの項目に「企業内容、リスク情報等の開示の適切性」を掲げています。
また、グロース市場は成長段階にある企業が上場対象となるため事業の収益性については確認されません。代わりに事業計画の合理性を確認されます。
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公開された市場における投資対象としてふさわしい時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
項目 | 内容 |
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(1)株主数(上場時見込み) | 400人以上 |
(2)流通株式(上場時見込み) |
|
(3)時価総額 | - |
(4)事業継続年数 | 3か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること |
(5)純資産の額 | 正 |
(6)利益の額(連結経常利益金額に少数株主損益を加減) | (最近1年間の利益) 1億円以上 |
※上記形式要件の他、公認会計士の監査意見、株式事務代行機関の設置、単元株式数その他についての要件がある。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)企業の継続性及び収益性 | 継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること(※) |
(4)企業内容等の開示の適正性 | 企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること |
(5)その他公益又は投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項 |
※コーポレートガバナンス・コードの対象:全原則(プライム市場上場企業向けの原則を除く)。
参考)株式会社東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)」
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多くの機関投資家の投資対象となりうる時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
項目 | 内容 |
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(1)株主数(上場時見込み) | 800人以上 |
(2)流通株式(上場時見込み) |
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(3)時価総額 | 250億円以上 |
(4)事業継続年数 | 3か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること |
(5)純資産の額 | 50億円以上 |
(6)経営成績(利益の額は連結経常利益金額に少数株主損益を加減) |
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※上記形式要件の他、公認会計士の監査意見、株式事務代行機関の設置、単元株式数その他についての要件がある。
項目 | 内容 |
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(1)企業の継続性及び収益性 | 継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること(※) |
(4)企業内容等の開示の適正性 | 企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること |
(5)その他公益又は投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項 |
※コーポレートガバナンス・コードについては、プライム市場上場企業向けの原則への対応(コンプライ・オア・エクスプレイン)が必要。
参考)株式会社東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(プライム市場編)」
スタンダード市場と比較して、事業の継続性及び収益性に収益基盤が安定的であるだけでなく、優れていることが追加される点や、コーポレートガバナンス・コードへの対応について、より高い水準のガバナンスが求められています。
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名古屋証券取引所(名証)、福岡証券取引所(福証)、札幌証券取引所(札証)も、市場ごとに上場審査基準を定めています。
東証に次ぐ上場社数で、2023年11月末時点で281社が上場しています(東証との重複上場も含む)。コンセプトの異なる、ネクスト市場・メイン市場・プレミア市場の3つに分かれています。
近い将来、メイン市場またはプレミア市場へのステップアップを目指す企業向けの新興市場です。
株主数は150人以上、収益や業績の基準がないなど、同じく新興市場である東証グロース市場と同等の要件が求められます。一方で流通株式に関する基準がなく、上場時の時価総額3億円以上が求められる点が異なります。
実質審査基準についてもグロース市場と大きな差はありません。ただ、グロース市場とネクスト市場はコンセプトが異なるため、成長可能性については求めるスタンスが異なります。グロース市場は「高い成長可能性」を求め、ネクスト市場は「着実な成長可能性」を求めています。
コーポレートガバナンス・コードはグロース市場と同様に基本原則が適用されます。
安定した経営基盤と一定の事業実績を併せ持ち、多くの投資家にとって継続的な保有対象となりうる企業向けの市場です。
株主数300人以上、時価総額10億円以上など、東証スタンダード市場と同等の要件が求められます。ネクスト市場と同様に流通株式時価総額の要件はありませんが、流通株式数・流通株式比率の要件は用意されています。
実質審査基準についてはスタンダード市場と大きな差はなく、コーポレートガバナンス・コードも全原則が適用されます。
優れた収益基盤と財務状況によって高い市場評価を得ている企業向けの市場で、名証における最上位市場です。
求められる上場審査基準はメイン市場から格段に高くなり、株主数は800人以上、時価総額は250億円以上など、東証プライム市場と同等の要件が求められます。プレミア市場においても、他の名証市場と同様に流通株式時価総額の要件はありません。
コーポレートガバナンス・コードは全原則適用ですが、プライム市場に求められる、より高水準のガバナンスは求められていません。
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九州および周辺地域の中堅企業を対象とする証券取引所で、2023年11月末時点で107社が上場しています。Q-Boardと本則市場の2つに分かれており、九州の地場産業の育成や資金調達の場となっています。
成長の可能性が見込まれる企業を対象とした市場で、九州周辺に本店を有する企業や、九州周辺における事業実績・計画を有する企業が対象です。福証が九州周辺の地域経済の活性化を目的としているため、本店がない企業は九州周辺での事業実績や事業計画を記載した書類が必要です。上場審査基準の要件は他の新興市場とおおむね同等ですが、株主数に関しては200人以上を求められます。
一定の実績があり、安定性と成長性を兼ね備えた企業を対象としています。本則市場は全国の企業が上場可能で、株主数が300人以上、時価総額が10億円以上、直近1年間の経常利益が5,000万円以上であることなどが基準とされています。
北海道経済の成長と資本市場の発展を目指す証券取引所で、2023年11月末時点で62社が上場しています。2023年6月には、約23年ぶりとなる本則市場への単独上場もありました。アンビシャス市場と本則市場の2つに分かれており、多くの札証上場企業が他の市場にも上場する重複上場という形式を取っています。
本則市場へのステップアップを視野に入れている中小・中堅企業向けの市場です。
福証と同様に、北海道と何らかの繋がりを有している企業が対象であり、本店や事業拠点等がない場合は関連性を記載した書類の提出が必要です。
株主数は100人以上でよく、他の新興市場の中でも最も低い水準です。また時価総額の要件も設けられていません。逆に他の新興市場では問われていない営業利益に関しては「正」であることが求められています(営業利益の額が「正」でない場合でも、収益の向上が期待できる場合を含む)。
一定の実績を持つ企業向けの市場です。福証の本則市場と同様に、北海道に限らず全国の企業が上場可能です。審査基準についても福証の本則市場と同程度の基準が定められています。
東京プロマーケットは、東証が運営する株式市場の一つでプロ投資家向けの市場です。プロ投資家に限定しているため、他の市場よりも柔軟な審査基準が設定されています。株主数などの形式基準はなく、J-Adviserが調査・確認する上場適格性要件が用意されています。
法律や会計、税制等を理解しているか、予算統制が整備されているか、上場後1年間の運転資金が十分にあるかが確認されます。
関連当事者取引や経営者が主体的に関与する取引の状況を把握し、牽制する仕組みがあることや、代表取締役社長・役員の資質に問題がないかが確認されます。
社内規程の整備・運用や、必要な人員が確保できているか、法令順守のための社内体制が整備され、運用されているかが確認されます。
上場後の開示体制が整備されており、開示に関する理解が十分にできていることや、内部者取引や情報伝達・取引推奨行為防止のための体制が整備されていることが確認されます。
反社会的勢力との関係を有していないことや、反社会的勢力排除のための体制が整備されていること、設立以降からの株主の異動状況を把握していることが確認されます。
東京プロマーケットは審査基準の他にも監査期間が1年でよいことやJ-Adviserによる支援など、他市場よりも上場しやすい仕組みが整えられています。多くの企業に門戸を開いている市場として認知が進んでおり、過去最多の上場社数をここ数年で更新し続けています。
【関連コラム】
上場審査基準には形式要件と実質審査基準の2つが設定されています(東京プロマーケットは上場適格性要件のみ)。各証券取引所・各市場のコンセプトをもとに上場審査基準は設定されているため、まずはコンセプトを理解することが重要です。その上で、自社に適した市場を選択し、求められる要件をどのように満たしていくかを検討しましょう。