ストックオプションとは?報酬の種類・導入の流れ・留意点、人事戦略との連携が成功の秘訣!

ストックオプション成功の秘訣はずばり人事戦略との連携!あくまでも報酬制度の一部であることを理解し、人事戦略と連携させることで、インセンティブを発揮することができます。報酬の種類(LTIおよびSTI)、導入スケジュール、導入の留意事項をグローウィン・パートナーズ山本氏が解説。
2023年1月30日

1.ストックオプションとは

ストックオプションとは役員や従業員などがあらかじめ決められた価格で自社株式を購入することができる権利です。上場後のキャピタルゲインで大きな利益を得られる可能性があるため、社員のモチベーションを引き出し、業績にコミットさせることに一役買うことができます。また、会社が給料や賞与などのキャッシュを放出せずに従業員や会社の成長を促すことができるため、資本規模の小さいベンチャー企業やスタートアップ企業に多く導入されています。

ストックオプションを導入する際、多くの経営者は株式報酬の種類や負担する税金に関して注目しがちです。しかし、ストックオプションは【報酬制度】であり【人事戦略】の1つです。ストックオプション導入検討時には【ストックオプション×人事戦略の連動】に焦点をあて、導入効果を最大化させる方策を検討する必要があります。

2.報酬の種類とストックオプション検討の流れ

ストックオプションの導入を検討する前に、報酬の種類について正しく理解しましょう。
報酬制度をリスクの大きさ、収入が得られるまでの期間の長さに応じて区分し、体系的に整理すると以下の図のようになります。

▲報酬の種類
▲報酬の種類

今回のテーマであるストックオプションは、収入までの期間が長いかつリスクが大きいLong-term Incentive(中長期インセンティブ、以下、LTI)に属します。そしてShort-term-Incentive(短期インセンティブ、以下、STI)には、いわゆる賞与などの報酬が属します。

ストックオプションは人事戦略の一環であるため、まずは報酬制度として【従業員の成果や活躍をどのように評価し、何で報いるか】というコンセプトを設計する必要があります。
次にSTIに属する賞与の業績KPIを報酬コンセプトに基づき決定します。そして最後にLTIであるストックオプションの付与基準を報酬コンセプトおよびSTIと密接に連動させて決定します。
報酬コンセプト、STI、LTIのすべてが連動することで、ストックオプションは真の効果を発揮します。
報酬コンセプトが設計できていない、STIの評価制度が不公平あるいは未設計の状態でLTIを導入することは本末転倒になってしまうため注意しましょう。

3.中長期インセンティブ(LTI)の分類

次にLTIの分類を理解しましょう。
LTIの分類を体系的に整理すると以下の図のようになります。

▲中長期インセンティブプラン(LTI)の分類
▲中長期インセンティブプラン(LTI)の分類

初めにLTIに業績条件を付すか否かを選択します。選択のポイントはLTI導入の目的が何かによります。たとえばLTI導入の主たる目的が株主との利害共有であれば、業績条件のないエクイティ・プランが適しています。従業員へのインセンティブ機能が目的であれば、業績の達成度合いに応じて報酬が変動するパフォーマンス・プランが適しています。

昨今では多くの企業がエクイティ・プランを選択するため、エクイティ・プランの選択を深堀していきます。
エクイティ・プランは更に2つに分類できます。1つはフルバリュー型、もう1つは上昇益還元型です。フルバリュー型とは、権利行使時の株価がそのまま貰い手の利益になります。リストリクテッド・ストック(RS)が昨今の主流です。上昇益還元型とは、株式上昇益相当額のみが貰い手の利益になります。通常型ストックオプションがその代表例です。

4.IPO準備段階でのストックオプション導入スケジュール

IPO準備段階においては、ストックオプションの導入時期に注意が必要です。直前期の導入は会計監査と主幹事証券会社の審査に影響が出る可能性があります。
ストックオプションを発行すると、将来普通株式に転換できる潜在株式を増加させることになるため、既存株主の株式価値を希薄化させます。(潜在)株主の変動要素であり、上場後の株価形成に影響があるため、主幹事証券会社や(潜在)株主と発行比率を事前に協議しておく必要があります。
またIPO準備段階におけるストックオプションの発行比率は一般的に10~15%以内と言われており、この範囲を超えての発行は証券会社からの指摘が入る可能性もあります。発行数にも注意しましょう。

導入スケジュールとしては、N-2期から人事制度(等級・報酬・評価・退職金)の制度検討と同時並行で進めることを推奨します。
前述のとおり、LTIとSTI双方の報酬コンセプトを検討する必要があり、そこに紐づく、等級や評価、退職金制度も同時に設計または改修することになります。
ストックオプション設計は3ヶ月~、人事制度設計は6ヶ月~を目安に、制度の連携を図りながら同時に進めましょう。

▲LTI(中長期インセンティブプラン)の検討プロセス
▲LTI(中長期インセンティブプラン)の検討プロセス

5.ストックオプション導入の留意点

IPO準備企業がストックオプションの導入に期待する効果は、採用競争力の向上・モチベーションの向上・離職の低減などであり、人事戦略に深く結びついています。ストックオプションは報酬制度の一部であるため、人事戦略との連携を鑑みた導入が成功の鍵になります。
ストックオプション導入時に人事戦略との連携で特に考慮すべきポイントは以下の3つです。

①労働市場の現状を鑑みた雇用ポートフォリオ形成に寄与
②STIと連動するLTIのKPI設定
③期待パフォーマンスとストックオプションの付与基準との整合性

5-1.労働市場の現状を鑑みた雇用ポートフォリオ形成に寄与

多くのIPO準備企業は、採用戦略として優秀な人材を雇用するための【給与の代わり】にストックオプションの導入を検討します。
資金力に乏しい状況でもあっても、ストックオプションを活用することで労働市場の報酬水準と自社の報酬水準を調整することができます。

また、ストックオプションは【雇用ポートフォリオ】の形成にも役立てることができます。
労働力人口減少により、直接雇用における労働力の確保のみでは事業推進が困難な今、外部協力者の活用を人事戦略の1つに据える企業が増えています。ストックオプションを外部協力者に付与することで、業績貢献にモチベートさせ継続的な協力関係を築くことができます。

労働力人口が減少する一方で人材の多様性・流動性が高まる昨今、ストックオプションを労働市場の現状に適した報酬制度として活用し、雇用ポートフォリオ形成に役立てていきましょう。

5-2.STIにLTIの付与基準を連動させるKPI設定

日本では一般的に株式に対するリテラシーが高くありません。そのためストックオプションを経営層以外の従業員にも配布しても、従業員がその効果がわからず付与されたメリットを感じられないことがあります。結果として、経営者が期待していたモチベーションの向上等、人事戦略上の効果が得られないケースが見られます。

経営層以外の従業員に対し、ストックオプションを付与する場合は、従業員にとって一番身近である賞与、いわゆるSTIと紐づけることが重要です。LTIの付与基準である業績目標や定量目標などをブレイクダウンしSTI評価に設定します。両者を密接に連動させることによって、従業員がSTIを通じてLTIであるストックオプションを継続的に意識するようになり、会社への貢献意欲を醸成していくことに繋がります。

5-3.期待パフォーマンスと付与基準の整合性

ストックオプションは、優秀な人材の確保および離職防止施策(リテンション)としても活用されています。しかし採用時に期待していたパフォーマンスとストックオプションの付与基準に整合性が取れていないと逆効果になるケースがあります。

たとえば、採用時にストックオプションを一括で付与し、その後期待するパフォーマンスを出せなかった場合、他の役員・従業員は付与基準に疑問を感じ、不平・不満が生まれ、最悪の場合離職してしまうかもしれません。

パフォーマンスに応じてストックオプションを付与する方法としては「信託型ストックオプション」が適しています。信託型ストックオプションでは、信託設定後に役員・従業員が獲得したポイントに応じて、新株予約権の割当て量を決定することができます。獲得するポイントには、会社の業績、勤続年数や個人の貢献度などの人事評価も考慮します。

適切なストックオプションの種類を選択すること、そして期待パフォーマンスと整合性のとれた付与基準を設定することが重要です。

6.ストックオプション成功の鍵は人事戦略との連動

ストックオプションは、IPO準備企業にとって有益な報酬制度です。
しかし、実際にIPO準備企業におけるストックオプションは成功と言えないケースが多々見受けられます。その理由は、前述のとおり、人事戦略と連動できていないからです。
ストックオプションを人事戦略と捉え、等級・報酬・評価・退職金などの人事制度と連携させることで、真の効果を発揮することができるのです。

IPO準備段階は、事業戦略や業績などに注力せざるを得ない時期です。そのような時にストックオプション制度を詳細に作り上げることを推奨しているわけではありません。あくまでもストックオプションは報酬制度であることを忘れずに、今回ご紹介した3つの留意点だけは取り入れてください。
ストックオプション成功のカギは人事戦略と連動にかかっているのですから。

■グローウィン・パートナーズのHR Consulting
■グローウィン・パートナーズのHR Consulting
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執筆
グローウィン・パートナーズ株式会社<br>HRコンサルティング部 部長<br>山本 怜美氏
グローウィン・パートナーズ株式会社
HRコンサルティング部 部長
山本 怜美氏
◼東証一部上場(プライム)企業の人事担当としてグループ会社30社の採用・研修・労務・制度構築を約10年間経験し、労使問題交渉、労働基準監督署監査対応、等級・報酬制度および海外勤務者制度、限定社員制度等、様々な人事制度の構築を担当。
◼主にM&Aの労務デュー・デリジェンス・人事PMIを専任で担当し、PMI方針の構築から、リテンションプラン作成、従業員の移管(承継・転籍)に係る手続き、従業員コミュニケーション(交渉・説明会)の企画・実施、労働条件・処遇制度の構築、新評価・新報酬制度の構築、退職金・年金制度の移管、人事関連システム移管、業務統合プロジェクト等戦略からシステム・運用設計領域まで多数担当。
◼GWP入社後、プライム企業のM&Aによる人事制度統合プロジェクトや人事制度構築、タレントマネジメントシステム導入支援を主導。さらに、直近では労務知見を活かしIPO準備企業に向けた労務審査から人事制度構築、ストックオプション導入などを多岐にわたり支援している。
グローウィン・パートナーズ株式会社 ホームページ

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