IPOを実現する事業計画管理とは -「台帳化」と「KPI」による事業計画進捗管理-

急成長するIPO準備企業には、ビジネスモデル構築の進捗管理が必須です。しかし、IPO審査をクリアするためには、成長性・合理性・実行可能性を証明する事業計画書も必要です。金融機関等を納得させる利益等の財務指標と非財務指標のKPIを管理する「事業計画台帳」の作成方法とは?
2020年5月22日

1.IPOを実現する「事業計画管理」とは

1-1.IPO企業では事業計画の進捗管理(「事業計画管理」)が重要

 上場準備活動の中に「経営管理制度の準備」「利益管理制度の整備」等の活動がありますが、IPOを目指す企業(以降、「IPO企業」)が準備すべき経営管理・利益管理とは具体的には何でしょうか。上場してからの歴史の長い大企業や、上場を視野に入れていない地域の中小企業も経営管理・利益管理は行っていますが、IPO企業のそれと違いがあるのでしょうか。実は大きく違う点があります。それはIPO企業の多くが、ビジネスモデルを構築中だということです。

 ビジネスモデルが一旦完成して、安定的に成長している企業であれば、経営活動の結果を財務数値で確認(予算管理)するだけでも、それなりに経営状況を把握することができます。しかし、ビジネスモデル構築中の企業では、予算管理だけでは十分でありません。未来の売上、利益で勝負するIPO企業にとって、財務数値の予実績管理だけでは十分な議論ができないからです。

IPO企業にとっての経営管理のポイントは、ビジネスモデル構築計画の進捗管理になります。たとえ売上・利益が予定どおりでなくても、ビジネスモデルの構築が着実に進捗しているのであれば、それは自信をもって関係者に説明できることなのです。もちろん、逆のパターン(売上・利益〇 ビジネスモデル構築×)であれば、戦略を変更すべきことを示唆しているかもしれません。

 では、ビジネスモデル構築計画はどこに存在するのでしょうか。それは「事業計画」に他なりません。「事業計画」は会社の方向性と今後の道筋を示すプランであり、IPO企業においてはビジネスモデル構築計画が描かれているはずです。事業計画をつくりっぱなしにせず、進捗管理する必要があるのです。

1-2.事業計画管理のポイントは事業計画の「台帳化」と「非財務KPI」

 事業計画の範囲は広く、一般的に次の要素が含まれています。
・経営方針 ・経営環境 ・ビジネスモデル(全体戦略)
・個別戦略 ・施策 ・活動計画 ・利益計画

図表1 事業計画の構成要素
図表1 事業計画の構成要素

 これらの内容を「丸ごと」進捗管理することをお勧めします。
 利益計画だけを管理するのが「予算管理」であれば、それを包含した事業計画全体の管理は「事業計画管理」と呼ぶことができます。

 目の前に事業計画書がある方は、それをどうやって「丸ごと」管理するのか、疑問を持たれるのも当然です。実はどうしても、ひと手間、ふた手間をかけないと、事業計画の進捗管理はできないのです。どんな「手間」かと言いますと「事業計画の台帳化」と「非財務KPIの設定」です。

1-3.事業計画の「台帳化」とは事業計画情報を修正・メンテ可能な表形式で整理すること

 変化する経営環境の中で事業計画の鮮度を維持するためには、先に上げた各構成要素は常に修正されて、全体の整合性が維持される必要があります。そうしないと、事業計画(中期経営計画)は現実と合わない陳腐化した計画になってしまいます。

 継続的な修正を可能にするためには、事業計画を表形式にして、スプレッドシート等でデータファイルとして管理することが有効です。作成したデータファイルをここでは「事業計画台帳」と名付けています。

図表2 事業計画台帳と各種資料関係
図表2 事業計画台帳と各種資料関係

 「台帳」とは一般的には商人が売買を記す元帳・大福帳を指しますが、歌舞伎では全体の進行を記述する本のことを意味するそうです。「事業計画台帳」は売上・粗利・営業利益などの「利益計画」と、その前提となる「経営環境・戦略」を記述する経営管理のデータベースになります。

台帳化する目的は前述した「修正の容易性」だけではありません。台帳形式であれば、各幹部が自分の責任範囲の箇所を記入して、経営会議で全体の整合性と内容を議論し、その結果でまた記述内容を修正するといった全員参加型の経営管理が可能になるのです。

 台帳化のメリットをもう一点。今後のIPO活動を通して、外部への説明目的で様々な資料を作成することになりますが、それらは単独で作成すべきでありません。事業計画台帳の情報を抽出して各資料を作成することをお勧めします。その方が効率的ですし、各資料間の整合性が維持されます。

 「事業計画を頻繁に修正して問題ないのか」というご質問をよく頂きます。答えとしては、事業計画台帳は随時修正して鮮度を維持すべきです。一方で、事業計画台帳の情報を抽出して作成する事業計画「書」、中期経営計画「書」はある時点でのコミットメントですから、大きな見通し変更が発生しない限り、一定期間修正すべできはないと考えます。

1-4.事業計画管理には財務KPI(予算管理)だけではなく、「非財務KPI」が必要

 外部に提示する資料には記述しないような、内部情報、大きな声では言いにくい「脅威」「弱み」などの情報も、事業計画台帳には躊躇なく自由に記入します。その結果、事業計画台帳に記載される情報量は日々の修正・追記で増大(充実)していきますので、頭の中だけで進捗管理するには限界があります。

 事業計画台帳の各要素に、重要業績評価指標「KPI」を配置することで、事業計画「丸ごと」の進捗管理を可能にしましょう。KPIには売上・利益のような財務KPIと、シェア・顧客数のような非財務KPIがありますが、経営環境、戦略等の要素をモニタリングするためには、非財務のKPIが必須になります。

図表3 KPIによる事業計画の進捗管理
図表3 KPIによる事業計画の進捗管理

 充実した事業計画台帳と、そこに適切に配置されたKPIがあれば、「経営状況を手の平に乗せる」ことが可能になります。

2.「事業計画管理」の導入方法

2-1.事業計画台帳は時間をかけずに素案をつくり、不足する情報を順次追加

 それでは、最初の一歩となる事業計画台帳の作成に着手してみましょう。
 EXCEL等のスプレッドシートに、事業計画の構成要素(図表1参照)別にシートを作成してください。

図表4 事業計画台帳の作成
図表4 事業計画台帳の作成

 次に各要素のシート上に、一般的な記入事項のセルを作成してください。例えば、経営方針のシートには「経営理念」「事業ドメイン」「経営目標」等でしょう。各要素(シート)の一般的な記入事項については、事業計画作成に関する書籍を参照してください。どの本にもほとんど同じことが書かれていますから、ご安心ください。

 次に、各セルに情報を登録していきます。既に事業計画を立案済みか、立案中であれば話は簡単です。その内容を記入事項(セル)ごとに分解して、記入を進めてください。

 事業計画立案にまだ着手されていない場合は、経営者の考えに基づいて、各要素の記入事項を検討しながら登録してください。一般的な事業計画の構成要素・記入事項から成る事業計画台帳の枠組みをガイドブックにして、事業計画を作り上げていくイメージです。これにより、要素的に不足のない事業計画が短時間で作成できます。

事業計画台帳の内容登録・修正には終わりがありません。「台帳」なので完成はないのです。そういう気軽な気持ちで作成するのがコツです。

2-2.簡単・効果的にKPIを設定するには、経営者が「心配なこと」をマーク

 KPIの設定方法については、様々な考え方がありますが、ここではシンプルかつ効果的な設定方法を提案します。まず、先に作成した事業計画台帳を用意します。そして、各要素の記述内容に目を通していくと、「これ本当にうまくいく?」「ちょっと心配」といった内容にぶつかるはずです。どれだけ十分に検討した事業計画でも、そのような箇所は存在します。そこにKPIを配置するのです。

 例えば、「ビジネスモデル」シートの「顧客セグメント」に記入されている「ユーザー数」については、本当に計画どおりに増加するのか若干不安であり、その「ユーザー数」の増加率がビジネスモデル構築の成否を左右するならば、「ユーザー数」という非財務KPIを配置しましょう。そして、定期的に「ユーザー数」の計画と実績の差異を把握することで、経営環境の認識や戦略・戦術を見直すトリガーにするのです。

3.「事業計画管理」の運用方法

3-1.KPIと事業計画台帳を見てアクションが起こせるように、毎月の業務手順を決める

 事業計画台帳に配置したKPIは月次で予実分析を行いましょう。事業計画の最下流に位置する「利益計画」の進捗を管理するのが財務KPIを管理する「予算管理」です。これに、経営環境、ビジネスモデル、戦略等の上流を管理する非財務KPIの予実績管理の業務手順を追加します。

図表5 事業計画管理の運用イメージ
図表5 事業計画管理の運用イメージ

 毎月の業務手順の内容は、各KPIの実績把握、予実管理資料の作成、会議体での検討、事業計画台帳の修正、現場への指示等になります。

3-2.事業計画管理の業務手順は継続的にブラッシュアップして、会社の武器に育て上げる

 業務手順に沿って運用を開始して最初の2~3ヵ月は、KPIの集計、事業計画台帳への記入に手間取り、嫌気がさすこともあるでしょう。そんな時は、台帳とKPIにより経営環境、ビジネスモデル、戦略等の討議が活発にできていることを認識して、その価値を考えてみてください。

 そして、より良い議論ができるように、そして各種資料作成に必要な情報に不足が無いように、事業計画台帳の内容をブラッシュアップしてください。意味のないKPIは削除して、新しいKPIを追加してください。半年程これを継続すれば、事業計画台帳の内容は整備され、経営活動に欠かせないツールになっていることでしょう。

 繰り返しになりますが、充実した事業計画台帳と、そこに適切に配置されたKPIがあれば、「経営状況を手の平に乗せる」ことが可能になります。投資家、アナリスト、金融機関などからの質問にも、自信をもって答えることができるようになります。そして何よりも、ビジネスモデル構築を成功させ、IPOを実現するための武器にまで育て上げて頂きたいと思います。

株式会社ビジネスブレイン太田昭和
執筆
株式会社ビジネスブレイン太田昭和 マネージメントコンサルティング事業部長/理事 川手 健次郎氏
株式会社ビジネスブレイン太田昭和 マネージメントコンサルティング事業部長/理事 川手 健次郎氏
2002年株式会社ビジネスブレイン太田昭和入社。 事業計画の立案、システム化計画の立案、戦略・予算管理・原価管理制度の導入支援などを担当
株式会社ビジネスブレイン太田昭和 公式ホームページ

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