従業員を採用する際に用意するモノの1つに、「雇用契約書」があります。
実は、意外なことに、雇用契約書は法律上交付を義務付けられてはいません。だからといって交付しなくてもいいのでしょうか?雇用契約書がないことで問題になっているケースも、耳にすることがありますよね。
そこで今回は、「雇用契約書」はどんなものか、作成した方がいいのか・・・など、担当者が知りたいポイントについて解説します。
目次
- 雇用契約書とは? 労働条件通知書との違いは?
- 雇用契約書には何を書くべきか?
- 雇用契約書作成にあたっての注意点
- 雇用契約書も電子メール等で明示できます
- トラブル回避のためにも、雇用契約書は作成しておこう!
- 雇用契約書に関するよくあるご質問
雇用契約書とは? 労働条件通知書との違いは?
そもそも「雇用契約」とは、「企業が従業員の労働に対して報酬を支払う」という契約のことをいいます。したがって「雇用契約書」は、⺠法第623条に基づいて、企業と従業員の間で雇用契約の内容についての合意がなされたことを証明するものになります。しかし、⺠法第623条では、契約だけで効力が発揮されることになっており、雇用契約書を発行しなくても罰則規定はありません。
ただし、労働契約法では「労働者と使用者は労働契約の内容についてできる限り、書面により確認するものとする」と定められており、企業側に対して「作成することが望ましい」と曖昧な表現にしています。
一方、雇用契約書に似たもので、「労働条件通知書」というものがあります。
労働基準法では「入社時に労働条件について書面で明らかにしなければならない」と定められており、企業は労働条件通知書を必ず交付しなければなりません。
万が一、「労働条件が書面にて明示されていない」「通知した労働条件の内容が、労働基準法で定められたルールを満たしていない」などがあった場合には、30万円以下の罰金が科されます。
したがって、法律上は、労働条件通知書が交付されていれば問題ないことになります。
しかし、労働条件通知書は、一方的に企業から従業員に交付される伝達書類です。「義務ではない」とはいえ、労働条件の認識違いによるトラブルも多く見られることから、雇用契約書はそうしたトラブル回避にも繋がります。
昨今では、相互に労働条件を理解・共有し認識の違いを解消するため、雇用契約書を取り交わすケースも多く見られます。
雇用契約書には何を書くべきか?
労働条件通知書も、雇用契約書も、これといった様式は定められていません。そのため、雇用契約書を取り交わす際は、労働条件通知書とは別に作成するケースの他に、「労働条件通知書兼雇用契約書」としてまとめるケースもあります。
コンプライアンスに厳密な企業では、労働条件通知書を交付した上で、通知書や就業規則の中から特に重要な点を抜粋して雇用契約書を作成することもありますが、「労働条件通知書兼雇用契約書」であっても問題ありません。
記載内容は、労働条件通知書とほぼ同じで、企業が従業員に対して、契約期間、就業場所・業務内容、労働時間、賃金などの労働条件を明示します。
● 絶対的明示事項と相対的明示事項
労働基準法では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定め、雇用主である企業に対し「労働条件の明示」を義務づけています。
この労働条件の明示については、以下のように、つねに明示を要する「絶対的明示事項」(書面の交付が必須)と、当該事項に関する定めがあれば明示を要する事項「相対的明示事項」(口頭での明示でも可)を明示するように定められています。(労働基準法第15条)
<絶対的明示事項(書面の交付による明示事項)>
絶対的明示事項は、労働条件通知書では「書面で交付しなければならない」ものとされていますので、当然、雇用契約書でも重要な事項と言ってよいでしょう。
①労働契約の期間
労働契約の期間の定めがある雇用契約の場合は、定められた期間、更新の有無、更新の判断基準を明示します。期間の定めがない場合は「期間の定めがない」と記載しましょう。
②就業の場所、従事する業務の内容
就業の場所については、社名や住所なども記載しておきます。基本は「入社直後に就業する場所」を記載するので構いませんが、将来的に異動がある場合は、異動先もあわせて記載するとよりベストでしょう。
③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無については、その従業員に適用する始業・終業時刻のほか、変形労働時間制やフレックスタイム制、シフト勤務なども勤務パターンも記載します。交替制勤務をさせる場合、交替期日や交替順序等に関する事項も必要です。休憩時間、休日、休暇は、労働基準法に則った範囲であることを示すものです。
④賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払の時期に関する事項
月給制・日給制・時給制など賃金の計算方法や、「手渡し」または「振り込み」といった支払い方法も明示します。
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
退職・解雇についての条件や手続きについて、細かく記載しておきましょう。
<相対的明示事項(口頭の明示でもよい事項)>
以下の事項は、労働条件通知書では「書面にせず口頭でもよい」とされていますが、就業規則などを用いて十分説明しておくことが望ましいものです。雇用契約書では、これらを記載しておくことも重要になります。
①昇給に関する事項
②退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項
③臨時に支払われる賃金・賞与など に関する事項
④労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
⑤安全衛生に関する事項
⑥職業訓練に関する事項
⑦災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑧表彰、制裁に関する事項
⑨休職に関する事項
● その他、雇用契約書として必要な事項
雇用契約書としての機能を有する場合は、「署名捺印」欄が必要になります。署名がないものは、契約として効力を主張できません。したがって、労働条件に合意した証として必ず企業と従業員がともに署名できるようにしておきましょう。
それぞれの署名捺印をすることで、「契約内容が違う」「そんな話は聞いていない」などのトラブルを防止することができます。
また雇用契約書には、従業員に社内ルールを明示するという意味で、就業規則にある重要な事項については記載しておくとよいでしょう、例えば、労働基準法では制裁の定めがある場合について周知徹底を求められています。後々のトラブルを防ぐためにも、減給や処分など罰則規定がある場合は合わせて記載しておきましょう。
厚生労働省のホームページでは、労働条件通知書のひな形を公開しています。記載事項の確認やテンプレートの見本になりますので、参考にしてください。
雇用契約書作成にあたっての注意点
「契約書」は、一般的に当事者双方が各1通保持するのが通常ですが、これについては特に決まりがあるわけではありません。雇用契約書においても、「必ず2通用意しなければならない」「従業員に原本や写しを交付するべき」などといったルールはありません。
しかし、トラブル防止の観点から言えば、2通作成して企業側と従業員が各1通保持する方が望ましいでしょう。
また、多くの企業には、正社員以外にも契約社員、パート・アルバイトと、様々な雇用形態が存在しています。そのため、雇用契約書を交わすのであれば、個々の雇用形態に合わせて作成する必要があります。
ここでは、従業員の雇用形態に合わせて雇用契約書を作成する場合の注意点をご紹介します。
● 正社員と交わす雇用契約書の場合
正社員は、アルバイトやパートのような契約期間の定めがないため、雇用契約書を見直すことはないと思いがちです。しかし、多様な働き方が存在する現代においては、あらゆる可能性を考慮した様式になっているかはチェックしておくとよいでしょう。
例えば、転勤、人事異動や業務内容の変更の可能性、給与、残業の有無などの項目は順当か、確認しておきましょう。
よくあるトラブルには、「求人票の記載事項と雇用条件の違い」が挙げられます。求人票にはあくまで目安を記載している場合が多いことから、企業側と従業員との認識のズレが起きやすく、トラブルへと発展しやすくなります。労働条件通知書には正しい労働条件を明示する必要がありますが、こうした認識のズレを回避するためには、雇用契約書で双方の合意を取っておくことも必要になります。
さらに雇用契約書には、試用期間の有無、適用される労働時間制、休日、休暇などの設定についても明示しておくとベストです。特に試用期間の有無については、その期間(いつからいつまで)、試用期間中の賃金、正式採用しない可能性についても記載しておくとよいでしょう。
● パート・アルバイトと交わす雇用契約書の場合
パート・アルバイト(短時間就労者)とは、「1週間の所定労働時間が正規雇用者の3/4以上、かつ1ヶ月の所定労働日数が正規雇用者の3/4以上となる、所定労働時間が短い労働者」のことを指します。(詳しくはOBC用語集「短時間就労者」を参照ください)
パートやアルバイトに対しても、絶対的明示事項、相対的明示事項といった労働条件の明示が義務づけられています。特に契約期間については、契約更新の有無や条件についても明示することを忘れないようにしましょう。
加えて、パートタイム労働法第6条により、次の内容も書面化する必要があります。違反した場合は10万円以下の罰金が科されることになるので注意しましょう。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間就労者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
● 契約社員と交わす雇用契約書の場合
契約社員は、契約期間の定めがあるため、契約期間満了日、更新の有無、更新の判断などの絶対的明示事項は詳しく明記する必要があります。また、契約更新の際も、再度契約を結び直すことになるため、契約期間の満了後には改めて労働条件を明示しなければいけません。
有期雇用契約の場合、更新を「自動更新」にしていると事実上「定めのない契約」とみなされる場合があり、雇い止め時に無期雇用契約に準じた手続きが必要など、有期雇用契約のメリットが阻まれる可能性もあります。特に、現在は有期労働契約が通算5年を超えた場合、本人の申込みにより、無期雇用契約に転換できます。この場合、使用者となる企業は断ることが出来なくなるため、雇用契約書における契約の更新については慎重に対応しましょう。
また、有期労働契約が3回以上更新、または1年を超えて継続雇用している従業員に対して契約更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければいけません。(あらかじめ当該契約を更新しない旨を明示している人は除きます)さらに、従業員から証明書を請求された場合は、契約期間の満了とは別の理由とする必要があります。
なお、労働条件通知書は、交付日より3年間の保管が義務づけられていますが、雇用契約書には交付義務がないためその定めはありません。
ただし、労働基準法第109条では「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない」と定められていることから、雇用契約書も「重要な書類」に該当すると考えられるため、労働者名簿と同じく「退職する日から3年間」保管しておくことが必要です。
雇用契約書も電子メール等で明示できます
労働条件の明示については、これまで「書面による明示」が絶対条件になっていましたが、2019年4月からは、労働者が希望した場合、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でも明示できるようになりました。
これに伴い、今後は雇用契約書においても電子化が進むと考えられます。雇用契約書が電子化すれば、事務処理のスピードは大幅に短縮されるでしょう。郵送コスト、印刷コスト、保管コストなどの大幅削減も可能になります。
ただし、署名が必要な雇用契約書では、原本性を主張できる電子署名の付与やその他の電子帳簿保存法の要件(真実性・見読性・検索性)を満たすことが最低条件になります。厚生労働省でも、「書面の交付を原則とした上で」としており、トラブルと防ぐため、さらに以下の点への注意を促しています。
- 労働者が本当に電子メール等による明示を希望したか、個別にかつ明示的に確認すること。
- 本当に到達したか、労働者に確認すること。
- メール・SNS等で明示する場合には、印刷や保存がしやすいよう添付ファイルで送ること。
- なるべく出力して保存するように、労働者に伝えること。
いずれにしても現時点では、従業員が希望していないにもかかわらず一方的にSNS等のみで明示することは、労働基準関係法令の違反になるので注意しましょう。
トラブル回避のためにも、雇用契約書は作成しておこう!
これまで述べてきたように、雇用契約書の作成について法的義務はありません。しかし、企業と従業員が互いにトラブルを回避するためにも、雇用契約書は重要な書類であることは間違いありません。双方が署名捺印し、それぞれが雇用契約書を保存しておくことが望ましい形ではないでしょうか。特に、短時間就労者が多い職場や、運送業、建設業、林業といった雇用形態が複雑な業界では、少なくとも「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成することをオススメします。
正社員や契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用契約に合わせて関連法も理解し、法律に示されている事項の記載漏れがないかなどのチェックも重要になってきます。雇用契約書を作成したら、一度専門家に確認してもらうのもよいでしょう。
厚生労働省のホームページでは、主要様式ダウンロードコーナーにて労働条件通知書のモデル様式が掲載されています。また、OBCの総務人事奉行クラウドのように、労働条件通知書が作成できるシステムもあります。そうしたフォーマットをひな形に、雇用契約書を作成するのもよいでしょう。
雇用契約書は、労働者と署名捺印を交わす非常に重要な契約書になります。企業側と従業員、お互いに齟齬がなく快適な労働環境を維持するためにも、今一度、雇用契約書を見直してみてはいかがでしょうか。
雇用契約書に関するよくあるご質問
- 雇用契約書とは? 労働条件通知書との違いは?
- 「雇用契約」とは、「企業が従業員の労働に対して報酬を支払う」という契約のことをいいます。したがって「雇用契約書」は、⺠法第623条に基づいて、企業と従業員の間で雇用契約の内容についての合意がなされたことを証明するものになります。
一方、雇用契約書に似たもので、「労働条件通知書」というものがあります。
労働基準法では「入社時に労働条件について書面で明らかにしなければならない」と定められており、企業は労働条件通知書を必ず交付しなければなりません。
万が一、「労働条件が書面にて明示されていない」「通知した労働条件の内容が、労働基準法で定められたルールを満たしていない」などがあった場合には、30万円以下の罰金が科されます。
- 雇用契約書には何を書くべきか?
- 労働条件通知書も、雇用契約書も、これといった様式は定められていません。そのため、雇用契約書を取り交わす際は、労働条件通知書とは別に作成するケースの他に、「労働条件通知書兼雇用契約書」としてまとめるケースもあります。
コンプライアンスに厳密な企業では、労働条件通知書を交付した上で、通知書や就業規則の中から特に重要な点を抜粋して雇用契約書を作成することもありますが、「労働条件通知書兼雇用契約書」であっても問題ありません。
- 雇用契約書作成にあたっての注意点は?
- 「契約書」は、一般的に当事者双方が各1通保持するのが通常ですが、これについては特に決まりがあるわけではありません。雇用契約書においても、「必ず2通用意しなければならない」「従業員に原本や写しを交付するべき」などといったルールはありません。
しかし、トラブル防止の観点から言えば、2通作成して企業側と従業員が各1通保持する方が望ましいでしょう。
また、多くの企業には、正社員以外にも契約社員、パート・アルバイトと、様々な雇用形態が存在しています。そのため、雇用契約書を交わすのであれば、個々の雇用形態に合わせて作成する必要があります。
- 雇用契約書も電子メール等で明示できる?
- 労働条件の明示については、これまで「書面による明示」が絶対条件になっていましたが、2019年4月からは、労働者が希望した場合、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でも明示できるようになりました。
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