OBCでは、サービスの品質向上のため、開発サービスを自社の管理部門などで実際に利用し、操作性や機能についての意見や要望を収集して機能改善に取り組んでいるという。年末調整申告書のWeb化を実現する「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」(2016年7月リリース)もそうした取り組みが行われているサービスのひとつ。今回は、OBCの人事管理室と「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」開発担当者へのインタビューを通じて、実務担当者が感じた業務の変化・効果と改善に向けて行われた取り組みのすべてをお届けする。
目次
- 「年末調整業務の苦労をわかっていなかった。使う人の気持ちを理解しなければ、本当に役立つサービスは作れない」(宮下)
- 期待と不安の導入1年目。「業務は劇的に改善されたけど、サービスの課題も浮き彫りに」(岸本)
- 2年目は業務がさらに楽に。「従業員からも楽になったと大きな反響がありました」(井関)
- 制度改正の影響でまた課題が発生。「読みが甘かった」(大河内)
- 少人数で業務を行う中小企業の総務担当者のアシスタントとして成長させていく。
プロフィール
管理本部 人事管理室 次長 井関泰志
年末調整申告業務においてはチェック業務を担当。
管理本部 人事管理室 主任 岸本紗紀子
一連の年末調整申告業務の実務担当者。
開発本部 課長 宮下英明
奉行Edge 年末調整申告書クラウドのプロジェクトマネージャ(PM)。
開発本部 課長 大河内隆夫
奉行Edge 年末調整申告書クラウドの開発担当者。
「年末調整業務の苦労をわかっていなかった。使う人の気持ちを理解しなければ、本当に役立つサービスは作れない」(宮下)
- 開発部から人事管理室へ「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」の利用を依頼した狙いは?
宮下 当時、類似サービスがほとんどなく、ユーザーの声を直に聞きたいという想いがありました。そこで年末調整申告業務を熟知している人事管理室に「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」を利用してもらい、ユーザー目線からのフィードバックをもらって開発に活かしたいと考えました。
井関 開発部は実務をやっているわけではないから、どれだけ調べても実際のところがわからないこともありますよね。
宮下 そうなんです。年末調整業務はわかっても、実務がわからない。開発内で考え抜いても使う人の立場になりきれないのが実態です。正直、今回の取り組みを行うまで、人事管理室が申告書の配付・回収という1つの業務にどれだけ苦労をしていたのかすら、わかっていなかったと痛感しました。
- 「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」を利用する前は、OBCではどんな業務をしていたのか?
岸本 IT企業であるにもかかわらず、紙の年末調整申告書を配付・回収するという業務を、非常に時間と手間をかけてやっていました。申告書を印刷してホッチキス止めし、各拠点に郵送するのですが、この作業だけで丸1日かかっていました。セキュリティ対策の施された印刷室にひとりこもってプリンターをひたすら稼働させるのですが、その孤独感と言ったら……。毎年年末調整の時期が来ると「また大変な作業をしなくてはいけないなぁ」と本当に憂鬱で。
井関 年末調整業務が集中する11月はいつもピリピリしていましたね。
岸本 年末調整申告書の配付もそうですが、回収後の進捗管理をExcelでやっていましたので、提出・未提出のチェックにすごく手間がかかっていました。みんなが一気に提出してくれればまだいいのですが、バラバラと個別に提出されますし、控除証明書が間に合わず、とりあえず申告書だけ提出する従業員もいますので、何が未提出なのかの管理がとにかく大変でした。
あと、チェックや検算にも苦労していましたね。記入間違いや計算間違いもたくさんあって、差し戻して再提出してもらうのもひと苦労でした。「提出してね」と催促メールを送っても返信はないですし…。
井関 従業員にとっては、本業じゃない面倒な業務だろうから、どうしても後回しになるんでしょうね。私も申告する立場だから、正直面倒だなあと思ってしまいます。電卓をたたいて控除額を計算したりすること考えると、時間がかかりそうだから、自分の仕事やってから後でやろうと思って、そのまま何日か忘れてしまうこともありました…。
大河内 それ、僕もそうでした。だから、このサービスを開発するにあたり、管理部門だけではなく、申告する従業員にとっても「面倒じゃない」「簡単にできる」サービスであることが肝になると思いました。なので、従業員が申告する画面では、申告書のフォーマットを感じさせず、順番に入力すれば簡単に終わるように設計しています。従業員によって必要な申告項目だけ表示させるようにし、もちろん保険料などの控除額は自動計算して、最小限の入力で完了できるようにしました。
井関 あのガイド機能はいいですね。「ここって何を入力するんだっけ」って迷った時に、項目の横についている「?マーク」を押せば教えてくれるので、従業員からの問い合わせはだいぶん減ったと思います。
大河内 従業員にとっても、管理部門にとっても、「問い合わせ」って負担大きいですよね。実際、そのやり取りに多くの時間を割いていると思います。「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」では、従業員が自分でわからないことを解決して正しく申告できるように、画像付きでわかりやすくガイドしています。
期待と不安の導入1年目。「業務は劇的に改善されたけど、サービスの課題も浮き彫りに」(岸本)
- いよいよ利用を開始した1年目。実際どうだったのか?
岸本 もちろん、年末調整業務が楽になる!という期待もありましたが、反面、今までのやり方を変える不安もありました。OBCには現在、700名を超える従業員がいて、ITリテラシーは人によって格差があります。従業員がちゃんとやってくれるのか?問い合わせが増えるのではないか?逆に時間がかかるのでは?と不安に思うこともありました。
事前に、「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」で提供される利用マニュアルを自社用に加工して配布したり、準備には気を使いましたね。
井関 でも意外と、従業員はすんなり順応してくれましたね。みんな問題なくスマホとかPCから申告書を提出してくれて、逆に肩すかし食らった感じです。
岸本 ちなみに、申告書の配付・回収や進捗管理の業務は、劇的に楽になりました。それはもう驚くほど。ボタンひとつで年末調整申告書を全従業員に配付できるし、回収の管理もサービスが勝手にやってくれます。誰が提出していないのか一目でわかって、未提出者への催促メールもその画面からボタンひとつで送ることができるようになりました。面倒だった検算も、そもそも自動計算なので、する必要がなくなって時間を持て余すほど。「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」の利用で、例年と比較して8日間も業務時間を短縮することができました。
井関 一方でサービスの課題も出てきましたね。画面遷移が非常に遅かったんです。実際に計測してみると、次の画面に移るのに一人平均約21秒もかかっていました。こんなにも時間がかかってしまうと集中力が途切れてしまい、生産性が落ちてしまいます。
岸本 そうですね。実際のところ、これでは使い物になりません。忙しい時期に、画面遷移で待たされると精神的にもイライラしちゃって、すぐ開発のおふたりを呼んで、改善の要望を出しましたね。
宮下 パフォーマンスについては特に気をつけていたんですが・・・業務に慣れている方からするとまだまだという状況でした。人事管理室からのフィードバックを受けて、開発部ではパフォーマンス改善を最優先課題としました。
大河内 プログラムをイチから洗い直したところ、データ集計を終えて、そのデータを画面に出すまでに時間がかかっていたことがわかりました。そこで、プログラムを組み直して実際に動かし、画面遷移までの時間を計測するという地道な作業を何度も繰り返しました。すると、画面遷移までの時間は21秒から10秒に、10秒から7秒、そして4秒、3秒へと徐々に改善していきました。
宮下 開発部内では「紙と一緒」を目標にしました。紙でペラッとめくる速度(約1秒)までパフォーマンスを高めるべく開発メンバー一丸となって改善に取り組みました。しかし、1秒を実現することはなかなか難しいですね。現在もパフォーマンス向上を図るべく改善を進めています。
岸本 他にも、チェック作業を複数名でやっている場合、「この従業員には控除証明書の催促をしたので、現在は待ち状態ですよ」とか、いわゆる現状を他のチェック担当者に伝える手段がなくて。せっかくクラウドサービスを使っているのに、連絡事項をExcelでやり取りする、といった手間が発生してしまいました。
宮下 その点は、まさしく実務の想定がなかったですね。こういった問題に、開発部だけでは気づくことができません。ユーザー視点の指摘は、本当にありがたいです。
大河内 指摘をもらってから、複数の担当者での運用を考慮し、メモ機能を実装しました。メモを使っていただければ、担当者のやり取りをクラウド上で完結できるように改善しました。
2年目は業務がさらに楽に。「従業員からも楽になったと大きな反響がありました」(井関)
- 導入2年目。業務における変化はあったのか?
岸本 導入2年目は、業務がさらに楽になりました。昨年入力した保険料控除の情報や住宅借入金等特別控除の情報が複写されているので、修正部分だけをチェックするだけで済みます。修正部分は緑色になっているので、パッと見てわかりますし。
井関 チェック業務も楽になりました。パフォーマンスが劇的に改善したのが要因だと思います。1年目と比較するとトータルで2日間作業日数を短縮することができました。人事管理室だけじゃなく、従業員からも「去年より楽になった!」と大きな反響がありました。
岸本 従業員を対象に実施した効果測定アンケートでもよい結果が出ていました。年末調整申告の作業時間が「減った」と回答した割合は87%に達していました。多くの従業員は15分以内に年末調整を終えていることも明らかになりました。アンケートにあるコメントを見ると「前年のデータが複写されていてそれをチェックするだけで申告が終わった」「ボタンを5回くらい押すだけで終了した」といった記述がありましたね。
<実際の従業員の声>
前年複写が素晴らしい。
住宅ローンはいつも税務署の申告書を見ながら、専門すぎる内容を何度も見直しながら作成します。
ところが今年は昨年度に管理部がOKをくれた「お墨付きデータ」が既に複写されているので、複写されない一部だけに注意すれば良かったのでスピードもストレスも少なく凄く楽だった。
保険会社の名称や種類・金額などすべてが前年複写されるので去年より楽だった。今年は保険が増えたので追加で入力したが、控除額を手計算する必要が一切ないのは助かる。追加で入力しようとした時に、控除額の上限を超えていたらメッセージを出してくれるので、ムダな入力をせずに済んだのも良かった。
前年から複写されてくるため、入力が楽でした。
手間が削減されたのを目の当たりにして、このサービスの良さを大いに実感できました。
前回の入力内容がそのまま表示されていたので、「そうそう。」と思いながら、確認するだけで済んだので、簡単でした。
昨年の情報が入っていたので想像以上に楽だった。
次年度以降変更しなければいけない項目がブランクになるのではなく、ブランクかつ色分けされているともっと楽な気がしました。
今年はどこを入れる必要があるんだっけ?と考える時間が削減されると思います。
めっちゃ(時間が)減った!
昨年登録した情報を初期表示した項目が多かったので今年の方が入力項目が少なく短時間で済みました。自動計算機能も助かります。私が総務の担当者なら紙には戻りたくないだろうなと思いました。
制度改正の影響でまた課題が発生。「読みが甘かった」(大河内)
― 「配偶者控除および配偶者特別控除の見直し」があった3年目。一転して新たな課題が発生。
井関 「配偶者控除および配偶者特別控除の見直し」の影響を受けて、業務時間が膨れ上がってしまいました。配偶者控除等申告書以外の処理は前年に引き続き円滑でしたが、改正内容のややこしさが想定以上に影響してしまいました。
岸本 「私の年収いくらだっけ?」「どこを参考にすればよいの?」といった問い合わせが殺到して、その対応に追われてしまいました。
井関 私たちの想定では「控除対象かどうか」で迷うと思っていたんですが、実際はその前段階である年収の把握のところでつまずいてしまったのです。
岸本 昨年度と比較して差し戻し件数は2倍に達しました。従業員からの問い合わせのほとんどは自分の年収に関することだったので、昨年の給与データが自動的に反映されるといいと思います。
大河内 開発部としては、今年度、2年目以降は参考額として昨年の年収が記載されるように機能改善をしました。その他にも、お客様からのご要望を受けていくつかの改善を行っています。
<その他の機能アップ内容(2019年10月7日リリース予定)>
- 令和1年度の年末調整申告書(令和2年の扶養控除等異動申告書の様式変更)に対応
- 申告書提出時に、配偶者控除等申告書で前年の申告金額を参考額として表示
- 申告書提出時に、団体保険料の内容(保険料データ受入したもの)は従業員側で編集できないように改善
- 証明書類貼付台紙に、提出時の注意点など従業員へ伝えたい内容を出力可能
- 証明書類貼付台紙で、保険料の新旧区分を確認可能
- 従業員に申告書を差し戻し中でも、管理者が申告書の内容を確認可能
- 申告書を連続して確認する際に、他担当者が残した備考を確認してから進められるように改善
- 申告書の入力等を行っていれば、20分経過してもタイムアウトにならないように改善
少人数で業務を行う中小企業の総務担当者のアシスタントとして成長させていく。
― 今後、奉行Edge 年末調整申告書クラウドはどのような変化を遂げていくのか?
宮下 総務担当者は従業員から書類やデータをもらうことが多いですが、そのやり取りのプロセスを改善したいと考えています。現状、総務担当者は従業員とのやりとりに最も時間を要しているので、その時間がなくなれば生産性は間違いなく向上するでしょう。また、従業員に書類を書かせることも、極力なくしていきたいと思います。記入ミスをゼロにできれば差し戻しだってなくなるわけですから。労働力人口が減少するなか、バックオフィスの人材も減少していくことが見込まれます。もしかしたら、将来1人で総務をしなければならない「1人総務」時代が来るかもしれないとも言われています。そんな時に、システムが従業員や総務担当者をアシストして業務を支えていける、そんなサービスに育てていきたいです。
井関 総務部門はとにかく業務の量が多いですし、依然としてアナログで、紙の多い分野なんですよね。
岸本 だからこそ、システムの効力は大きいと思います。手間や時間の削減に加えて、国が電子申請を進めていることもあり、システム化は業務効率化のための有効な手段だと感じます。
井関 でも、新しいサービスを導入して、今までのやり方を変えることは、不安も多いし躊躇する気持ちもありますよね。従業員を巻き込む業務の場合は特にそう感じます。
岸本 私も最初はそう思っていました。でも、新しいやり方にだって意外とすぐ慣れるものですし、慣れると生産性は格段に向上します。今までのやり方を変えなくちゃいけないと思っている総務担当者は勇気を出して一歩踏み出してみると景色がだいぶ変わるはずですよ。
井関 確かにそうですね。これから人材不足はさらに加速するでしょうし、バックオフィスにはなかなか人が割けないのが実情です。少ない人材で、よりスピーディな業務を求められるようになるので、ITをうまく使って生産性をあげていかないといけないですね。
岸本 今回、「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」を導入するにあたって、導入前にどれだけ年末調整業務に時間がかかっているのか、導入後に業務時間がどれだけ変わったのかを記録しておいたんです。そうすると「なんとなく便利になった」という感覚値ではなく、客観的なデータとして、システムが有効であることを実証できました。効果が数値で実感できると楽しい。この先も「奉行Edge 年末調整申告書クラウド」が成長していくにつれ、もっと業務時間が削減されていけばいいなと思います。
そのために、改善してほしいことは、どんどん開発部に要望を出していきますよ!
― 開発部には今回登場した人事管理室のほか、営業部など、他の部署から「数年後の奉行はこうあるべきだ」という話が頻繁に寄せられているという。今後も開発部では業務コストを削減し、生産性向上を実現するサービスを提供すべく、改善を続けていくという。今後の機能アップにぜひ期待したい。
▼今年の制度改正や、デジタル化に向けた導入準備、他社システム比較など年末調整の情報を一挙公開!
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