働き方改革に伴い、労働基準法を始めとするさまざまな法律の改正が目前に迫っています。
今回の法改正で特に重要とされているのが、「長時間労働の是正」です。多くのベンダーがその対策に「勤怠管理システムの導入」を推奨しており、広告や特集記事を目にする機会も増えたことでしょう。OBCでも、根深い残業問題の解決策として、勤怠管理のシステム化をお薦めしています。
しかし残業問題は、日本社会において繰り返しうたわれながらも、なかなか解決されなかった大きな課題です。本当にシステム化すれば、残業問題への解決の糸口は見えるのでしょうか?
今回は、最近になって解明された残業発生のメカニズムを踏まえながら、なぜ我々が残業抑制のために勤怠管理システムを推奨するのか、その理由についてお話します。
目次
なぜ減らない?残業が起こってしまう原因
今や残業問題は、大企業・中小企業の別なく、国内企業において喫緊の課題となっています。
ある民間調査会社のアンケート調査によると、「残業が恒常的にある」「時々ある」と回答した中小企業に残業の主な理由について問うと、「取引先の対応のため」「人手が足りない」「仕事量に対して時間が足りない」が上位を占めたそうです。しかし、この回答は尤もな意見である一方で、残業を生み出す原因までは追及できていませんでした。
― なぜ、多くの企業で残業が発生するのか。―
この問いに対して明快な答えを提供してくれたのが、パーソル総合研究所が昨年12月に発表した「職場の残業発生メカニズム」です。
パーソル総合研究所では、残業を減らしていこうという共通認識があるにも関わらず改善の芽が出ないことに着目し、1年に渡り残業に関する調査を実施しました。その結果を長時間労働の「原因」としてまとめたのが、「職場の残業発生メカニズム」というレポートです。
これによると、長時間労働の習慣は「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」という4つの主要なメカニズムによって、組織的に学習され、世代を超えて継承されているそうです。つまり、業務量の多さや個人の仕事の早さといった独立の原因を追及しても残業が減らないのは、この4つのメカニズムが解除されていないためだ、というのです。
では、その「残業発生のメカニズム」とはどんなものなのでしょうか。
(1) 残業は「集中」する
マネジメント層に仕事の割り振りについて尋ねる調査で、「優秀な部下に優先して割り振る」という回答が6割を越えたそうです。
処理速度やスキルに富む従業員にはどんどん仕事が割り振られ、結果としてこの特定層に残業が「集中」してしまう。残業を減らす努力をし、技術があがるほど、さらに仕事の量が増える・・・という構造を生み出しています。
また、ここ数年の特徴として「管理職への業務集中」も挙げられています。残業対策をした結果、「部下に残業を頼みにくい」「仕事を自宅に持ち帰る」上司が増えており、残業対策のしわ寄せが上司の業務集中に繋がっていることも明らかになりました。
彼らのレポートでは、矢継ぎ早に行われてきた働き方改革が「中間管理職の過剰負荷を助長」させているとも指摘しています。
(2) 残業は「感染」する
聴取した企業の風土特性、組織特性を見ると、もっとも残業時間を増やしていた組織要因は「周りの人が働いていると帰りにくい雰囲気」が影響していると分かったそうです。
しばしば残業要因として「過剰品質の追求」や「意思決定に根回しが必要」といった、いわゆる組織要因が指摘されますが、それ以上に「帰りにくい同調圧力」が残業に影響していたことが分かります。
また、この「帰りにくい雰囲気」は若年層ほど感じやすく、20代は50代の約2倍“帰りにくさ”を感じているという結果が出ています。このことから「上司の残業時間が長くなればなるほど、部下はますます帰りづらくなる」という傾向も伺えます。中間管理職の業務量が増えて残業することで、周囲のメンバーに「帰りにくい雰囲気」を「感染」させてしまうという構図があるようです。
(3) 残業は「麻痺」する
今回の調査で「もっとも仮説外の発見だった」と言われているのが、「麻痺」という構造です。
残業時間が増えるほど、幸福感はある意味で順当に下がっていきますが、残業時間が60時間以上になると、主観的な幸福度・会社満足度などが微増したそうです。
幸福感だけではなく、会社満足度、ワークエンゲージメントも同様の傾向が見られ、過剰な残業をしている層には「たくさん残業しているけれど、満足度もやる気もあって幸福感を感じている」人が少なくない割合で存在することが分かりました。
この現象については、一致団結した雰囲気があり終身雇用の傾向が強い組織の中では「出世できるかも」という期待を抱きながら過剰な残業をしているため、心理的な満足度が高くなる・・・と分析しています。
しかし、残業過多によって病気や精神疾患、休職等に繋がるリスクは蓄積され続けます。残業「麻痺」に陥っている従業員には、肉体的な限界を超える前に何らかの対処をすることが企業の責務とも言えます。
(4) 残業は「遺伝」する
どんな上司がもっとも部下の残業を増やしているかを分析したところ、「若いころ、残業をたくさんしていた」という上司がもっとも影響していたことが分かりました。つまり、上司から「若いころは、終電・タクシー帰りが普通だった」とすり込まれることで、上司から部下へ「残業の習慣化」が「遺伝」するというのです。
今でこそ「ワーク・ライフ・バランス」は誰もが知るスローガンですが、現在の上司層が新卒だった時代は終電帰り、タクシー帰りをする人が大勢いました。こうした経験が「武勇伝」として部下に語られ、残業文化に染まった上司が「時間をかけて仕事をする部下を評価する」「自分の仕事が終わっても職場に残る」「これまでの慣習ややり方に固執する」ことによって、部下の残業時間が長くなっているようです。
※ 出典:パーソル総合研究所/中原淳(2017-8)「長時間労働に関する実態調査(第一回・第二回共通)」
― 残業抑制のカギは、「残業発生のメカニズムをどう断ち切るか」―
残業施策の取り組みの是非について、多くの企業が「勤怠時間」や「売上高」など、表面的な数値変化で評価していると思われます。しかし、パーソル総合研究所の分析結果をトータルで考えると、数値のアップダウンは一側面にしか過ぎません。
「集中」「感染」によって発生した残業は、過度になると「麻痺」の可能性が高まり、自発的な残業を招きます。残業経験は積み重なり、「遺伝」によって世代と組織をまたいで継承されていきます。「残業発生のメカニズム」は、相反するものではなく組織レベルと個人レベル、世代レベルでからみあい、強化し合って「組織学習」され、習慣化されていることが問題なのです。
真に「働き方」を変えるためには、こうした組織内にはびこる「残業発生のメカニズム」を解除すること・・・つまり、制度を敷くだけでなく、従業員の意識そのものにも具体的にアプローチする必要があります。
残業を抑制するには、「自分たちの組織がどういったコンディションにあるのか」を正確に把握し、組織別の長時間労働の要因を探った上で、組織の状態に即したメカニズム解除の方策を練る必要があります。制度改革と意識改革、その両面を実態に合わせて進めることが、効果的な残業抑制対策となるのです。
「勤怠管理システム」は、残業抑制を成功させる特効薬になるか?
しかし、ここで1つ疑問が残ります。
「具体的な制度改革と意識改革が重要というなら、勤怠管理システムにすることで残業が減らせるのか?」
確かに、勤怠管理システムは業務ツールの1つです。勤怠管理業務を効率化する有効な手段としてはもちろん、最近では「度重なる法改正の渦中でも、法令を遵守しながら適切に勤怠を管理できる」としても注目が高まっています。
しかし、それだけではありません。勤怠管理システムの持ち合わせる機能を上手に活かせば、残業問題に取り組む対策を制度・意識改革の両面からサポートできるのです。
では、具体的にどう活かせるのか、特に注目されている機能を中心にご紹介しましょう。
効能1
組織の残業状況をタイムリーに管理する
▶ 期待する効果:「集中」や「麻痺」の傾向を早期に把握できる
タイムカードやエクセルを使った勤怠管理方法では、締め日を迎えて初めて「〇〇さんはこんなに残業していたのか」と分かるケースがほとんどでした。しかし、残業問題を解決するには、「誰が、いつ、どんなことで残業をしているのか」という実態の把握ができなければ対策も打てません。
勤怠管理システムは、始業・終業・休憩・休日、そして残業時間といった全てのデータを、即時集計することができます。部門ごとの残業状況はもちろん、上司は定期的に部下の残業時間をチェックできるので、誰にどれだけの負荷がかかっているかもタイムリーに把握することができます。また、残業が増えている従業員を特定できるので、心身の健康を害していないか注意しやすくなります。
よく残業の実態を把握するために調査やアンケートなどを別途行うケースがありますが、改めて実態調査をするまでもなく、「集中」状況や残業に「麻痺」していないかという現状を簡単に把握できるのが、勤怠管理システムの特長なのです。
効能2
アラート機能で従業員に通知し、本人に残業を意識させる
▶ 期待する効果:残業の「感染」「麻痺」を予防できる
残業をした理由には、「仕事に熱中し、気づけば残業時間がふくらんでいた」というパターンもあります。「仕事が終わらないのだから仕方がない」という意識は、残業発生のメカニズム「麻痺」にもある通りです。
勤怠管理システムには、アラート機能が備わっているので、残業増加傾向を自動的にキャッチし従業員に直接警告をすることができます。警告を発信する残業累計時間をあらかじめ設定しておけば、残業時間の上限に達してしまう前に残業時間をセーブする働きかけができるようにもなり、残業削減に繋がります。また、頻繁に警告されることで残業に対する意識が生まれ、自発的に改善しようと行動するようにもなります。
勤怠管理システムのアラート機能が、ある意味で従業員の自発的な行動へのきっかけを作るのです。
効能3
アラート機能で上司が適切なマネジメントをタイムリーに行う
▶ 期待する効果:「集中」「遺伝」による組織学習を断ち切る
残業対策は、管理職がしっかり残業傾向を把握すること、早期改善策を打ち出すことも重要です。
2019年4月からは、労働基準法が改正され「残業の上限規制」が定められます。上司にはコンプライアンスの観点からも、率先してこうした取組みに関わってもらう必要があります。
勤怠管理システムのアラートは、残業増加傾向、累計残業時間数、設定時間の超過などから発信される機能です。残業が増えている当人だけでなく上司にも警告が発信されるので、上司は部下の状況を段階的に把握でき、業務の再振り分けといった適切な対策をタイムリーに行うことができます。結果、上司のマネジメント力も向上するので、さらに生産性向上へと繋がっていくことでしょう。
勤怠管理システムは、業務の「集中」を可視化することで残業の発生を防ぐとともに、「遺伝」のメカニズムで見られるような上司の「残業賛歌」にも一石を投じるものになります。
効能4
事前申請制度を導入しやすくする
▶ 期待する効果:残業の「感染」を防ぐ
残業を抑制する制度改革の1つに「事前申請制度」があります。休日出勤や残業をする際は、あらかじめ予定日・予定時間等を申請しなければならない、という制度です。
申請には、その時間で行う仕事内容や「なぜ残業する必要があるのか」も明記するので、「感染」のメカニズムを防ぐ効果も期待できます。従業員の中で残業に対する目的がクリアになり、「申請しなければ残業できない」仕組みが、従業員に改めて業務を見直すきっかけになります。また、上司には「残業が必要かどうか」の判断をしやすくなり、場合によっては業務の調整など対処も早期に行うこともできます。
しかし、申請に手間がかかっては、従業員・管理者ともに新たな負荷にもなりかねません。申請に負荷がかかると、せっかく導入した事前申請制度も形骸化する恐れさえあります。
勤怠管理システムには、休日出勤届や残業許可申請などの申請機能も備わっており、システム上で申請から承認・チェックまで一元管理できます。手続きにかかる時間も手間も省略できるので、申請者・承認者双方の負担を最小限に押さえられ、制度のスムーズな運用・定着化をサポートします。
効能5
ノー残業デーの効果測定に活用する
▶ 期待する効果:残業の「感染」「遺伝」を防ぐ
会社一律、あるいは営業所や部門単位で「ノー残業デー」を導入・実施している企業は多く見られます。強制的に「残業しない日」を作ることは、「感染」や「遺伝」のメカニズムがはびこる組織では、従業員にも上司にも有効な意識改革となります。
しかし、「本当に帰宅しているかどうかが分からない」「ノー残業デー当日の残業数が減少しても、週単位では残業増加が見られる」「本当に急ぐ案件と言われると帰宅を強いることができない」などの理由で、名ばかりの取り組みとなるケースも多々あります。
本当に帰宅したかどうかは目視確認も必要となりますが、勤怠管理システムで始業・終業時刻の打刻情報を見れば、居残り業務をしている従業員が一目瞭然となるため、適切な指導を行うことができます。クラウド型を利用すれば、外出した部下の勤怠も記録できるので、全ての従業員を対象に実態把握がしやすくなります。また、週単位など細かい分析もできるので、ノー残業デー以外の日に残業が増える状況の防止も図れます。
これまで実態のなかった制度でも、勤怠管理システムを活用すれば、どれだけ効果が出ているか計測することも簡単になります。
おわりに・・・できるところからはじめよう!
成果を実感できる残業対策を図るためには、まず自社における「残業発生のメカニズム」がどうなっているかを正確に把握することが肝心です。そして、組織の実態に即した適切な対策をしていくことが求められます。その結果、場合によっては就業規則を見直し、部分的にでもフレックスタイム制・裁量労働制などの変形労働時間制を導入したほうがよいかもしれません。もし、勤務形態を見直すことになれば、それぞれの勤務形態に見合った勤怠管理も必要になります。
実は、OBCでは、勤怠管理システム導入で残業削減に成功した1,000社以上の声から、「勤怠管理システムによる残業対策法」をすでにご紹介しています。(詳しくはOBC360°記事「1,000社以上から見えてきた!勤怠管理システムひとつで出来る『間違いない』残業削減の成功パターンとは?」をご覧ください)
勤怠管理システムを活用すれば、残業の実態把握も簡単にでき、小さな取り組みから就業規則の見直しまで、様々な対策を進める仕組み作りにも活かすことができるのです。
「残業問題は一筋縄で解決するものではない」という意識がまだまだ根強くありますが、勤怠管理システムがあれば残業問題に必要な情報も簡単に得られ、すぐ適切な対策を打つことも可能です。
2019年4月に迫った法改正は待ってはくれません。今から大きな対策を考えるよりも、まずはできるところから残業抑制対策を始めてみてはいかがでしょうか。
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