2018年は「働き方改革関連法」が可決され、従来からの労働制度や雇用形態の抜本的な改革に向けた取り組みが本格化することとなり、日本社会にとって重要な意味を持つ1年であったといえます。また、正社員の有効求人倍率が過去最高になり、「働き方改革関連法」の背景である人手不足の深刻化を改めて痛感する年でもありました。
2019年も日本経済の課題である人手不足を解消すべく、「労働参加率」と「労働生産性」の向上に向け、法改正や政府の動きが活発化していくことが予想されます。本コラムでは、人事総務担当者が2019年のトレンドとして押さえておきたいテーマと企業に与える影響をわかりやすく解説していきます
目次
- 1.施行目前!対応の準備は万全ですか?【働き方改革関連法】
- 2.5年で最大34万人!【外国人労働者の受け入れ拡大】
- 3.70歳定年制はもう目の前に?!【継続雇用年齢の引き上げ】
- 4.女性活躍計画が中小企業にも義務づけ?!【女性活躍推進法改正】
- 5.社会保障・税手続きのワンストップ化!?【電子申請の本格化】
1.施行目前!対応の準備は万全ですか?【働き方改革関連法】
いよいよ労働基準法を初めとした8本の労働法が改正されます。特に中小企業の経営に対する影響度合いを考慮しながら、各改正法は2019年4月より順次施行されていきます。改正内容は①長時間労働の是正 ②多様で柔軟な働き方の実現 ③同一労働同一賃金をテーマにしており、主要な改正事項と施行スケジュールは以下の通りです。
改正事項 | 概要 | 施行日 | ||
---|---|---|---|---|
大企業 | 中小企業 | |||
① | 年次有給休暇取得義務化 | 年10日以上の有給付与者は、毎年、時季を指定して年5日の取得を義務化 | 2019/4 | |
時間外労働の上限規制 | 特別条項は年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度 | 2019/4 | 2020/4 | |
中小企業の60時間超の残業代引き上げ | 中小企業における月60時間超の時間外労働割増率を50%以上に引き上げ | - | 2023/4 | |
労働時間の適正把握の義務化 | 現認や客観的な方法による労働時間の把握を義務化(管理監督者含むすべての労働者) 長時間労働者の医師面接指導の時間外労働を月100時間から80時間に引き下げ |
2019/4 | ||
勤務間インターバル制度の導入促進(努力義務) | 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保を行う | 2019/4 | ||
② | フレックスタイム制の拡充 | 精算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長 | 2019/4 | |
高度プロフェッショナル制度の創設 | 年収1,075万円以上の特定高度専門業務従事者に対する労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外に | 2019/4 | ||
③ | 同一労働同一賃金 | 短時間・有期雇用労働者・派遣労働者と正規雇用労働者との不合理な待遇差を解消 | 2020/4 | 2021/4 |
<企業に与える影響>
「働き方改革関連法」の施行により、企業は自社に必要な取り組みを行っていくことになります。具体的にどのような取り組みが必要かは、企業の状況によって異なってきます。
■残業が月45時間以上発生している企業
「残業時間の上限規制」により、36協定の原則である「月45時間、年間360時間」が上限として定められることになります。特別条項付きの36協定を締結した場合、45時間を超えてよい月数は1年について6カ月までとなり、残業時間は年720時間、単月では休日労働も含めて100時間未満までとなります。あわせて、複数月(2カ月から6カ月)の平均で、残業時間と休日労働の合計時間は80時間以内としなくてはいけません。
これにより、もし月45時間以上の残業が発生している従業員がいる場合、労働基準法違反となる恐れがあります。また、残業が月45時間以上発生している場合、「60時間超の残業代引き上げ」により人件費の上昇につながる可能性があるため、自社に合った残業抑制の仕組みを構築することが求められます。
■従業員一人あたりの平均有休取得日数が5日未満の企業
「年次有給休暇の取得義務化」により、10日以上の有休が付与される従業員(正社員だけでなく契約社員・パート・アルバイト含む)に対して、年5日間の有休を必ず与えなくてはいけません。また、従業員ごとに基準日・取得日・取得日数を明らかにした管理簿を作成することが義務付けられます。未達の場合には、30万円以上の罰金が課されるため、有給休暇をリアルタイムに管理できる仕組みと、従業員に確実に有給休暇を取得させる仕組みが必要です。
■非正規社員が多い企業
「同一労働同一賃金」がルール化されることで、正規・非正規の雇用形態の違いによって、使用者が不合理な待遇差を設けることが禁止されます。また、正社員と非正規労働者の待遇差の説明も義務付けられます。もし「同一労働同一賃金」のルールに違反しても罰則はありません。しかしながら、ルールに反して不合理な待遇を行っていた場合、従業員から損害賠償請求を受けるリスクがあるため、非正規社員が多い企業は備えが必要となります。具体的には、基本給や手当など、一つ一つの賃金項目ごとに待遇差が合理的かどうかをチェックする実務が発生します。また、支給基準や評価制度の見直しを行い、従業員へ待遇差を説明できる制度作りが求められます。
合わせて読みたい
2.5年で最大34万人!【外国人労働者の受け入れ拡大】
2018年の12月25日に、政府は2019年4月から外国人労働者の受け入れを拡大する制度の詳細を決定しました。これまで「単純労働」とされる分野での外国人就労は原則禁止されていましたが、新たな在留資格(特定技能1号)が創設されることで、農業や介護、漁業など14分野で「外国人労働者」を正社員として雇い入れることができるようになります。また、これにより政府は、2019年から5年間で約34万人を上限に受け入れることを見込んでいます。
<企業に与える影響>
新たな在留資格である特定技能1号で対象となる企業では、今後、外国人労働者を雇い入れる機会が増えると考えられます。この場合、企業には外国人労働者の労務管理が求められることになりますが、主に押さえておきたいポイントは3つあります。
1つ目のポイントは、適正な在留資格の管理です。採用時には、就労可能な在留資格かどうか、在留期間を過ぎていないかを在留カード等で確認します。尚、採用した後も、在留資格の更新漏れがないように、企業側で在留期間を管理する必要があります。
2つ目のポイントは、雇用契約です。外国人労働者は日本人の労働者と仕事に対する文化が異なるため、はっきりと労働条件を明示し、理解を得た上で合意する必要があります。そのためにも、母国語で表記された就業規則や雇用契約書を準備しておくことも重要です。
3つ目のポイントは、外国人の雇用状況の届出です。外国人を雇用する事業主は、外国人労働者の雇い入れおよび離職の際に、その氏名、在留資格などについてハローワークへ届けることが必要となります。尚、届出に使用する様式や届け出先のハローワークは、雇用保険の被保険者となるか否かによって異なります。
3.70歳定年制はもう目の前に?!【継続雇用年齢の引き上げ】
2018年10月、安部首相は企業の継続雇用年数を現状の65歳から70歳へ引き上げるとの方針を発表しました。政府は、早ければ2020年の通常国会に「高年齢者雇用安定法の改正案」を提出したい意向ですが、まずは企業の「努力目標」とし、2019年度から高齢者の中途採用を初めて実施した企業への補助金を拡充する方向で進めています。
<企業に与える影響>
もし継続雇用年齢が70歳まで引き上げられた場合、企業にはどのような影響が出るのでしょうか。現在、高齢者の雇用に対する企業の対応は8割が「再雇用」です。継続雇用年数を現状の65歳から70歳まで引き上げられることになると、定年後は10年間継続雇用することになります。そのため、10年もの間、働く意欲やモチベーションを維持できるよう、再雇用後の評価制度・賃金体系の見直しが今以上に必要になると考えられます。尚、高年齢者を中途採用で雇用した場合、「高年齢被保険者」として扱う必要があり、雇用保険が適用されるため、雇用保険への加入手続きが必要となります。
合わせて読みたい
4.女性活躍計画が中小企業にも義務づけ?!【女性活躍推進法改正】
2019年に女性活躍推進法が改正され、従業員数101人以上300人以下の企業にも女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画を作るよう義務付けられる予定です。尚、女性活躍推進法の対象となる企業には、次の4つのステップが求められることになります。
■ステップ1:自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
■ステップ2:状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定、社内周知、外部への公表
■ステップ3:行動計画策定の旨を労働局へ届出
■ステップ4:行動計画に沿った取組の実施、効果の点検や評価
<企業への影響>
4つのステップに沿って取り組むにあたり、まず女性に関する状況把握・課題分析が必要になりますが、以下の基礎項目を必ず把握することが求められます。
①採用した労働者に占める女性労働者の割合
②男女の平均勤続年数の差異
③労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④管理職に占める女性労働者の割合
人事情報のデータベースなどが存在しない企業は、人事情報や勤怠情報を収集・整備するところからはじめなければなりません。また、上記項目の他に「男女別の配置状況」や「男女の賃金の差異」など、自社の実情に応じて必要であれば選択項目として把握・分析することが推奨されており、どのような情報を収集しなければいけないかを事前に精査することも重要です。
5.社会保障・税手続きのワンストップ化!?【電子申請の本格化】
2018年7月3日付の日本経済新聞に、『税・社会保険の書類不要に 企業、クラウドにデータ 官民の生産性向上/起業もしやすく』というタイトルの記事が掲載されましたが、政府は、従業員のライフイベントに伴い企業が行う社会保険・税手続のオンライン・ワンストップ化を目指しています。最終的には2021年度を目標に企業による社会保険・税関連の書類の作成や提出を不要にする方向で動いており、2019年もその動向に注目しておく必要があります。
<企業への影響>
では、政府が行政手続きのクラウド化に踏み切ることで、企業にとってどのような影響があるのでしょうか?一言でいうと、企業にとってクラウドが当たり前の時代になり、本格的なクラウド時代に突入することが考えられます。詳しくはコラム『2021年度に税・社会保険の書類が消える?行政手続きのクラウド化から企業が突入するクラウド時代を考える』をぜひ合わせてお読みください。
さいごに
人手不足や働き方改革の影響を受けて、日本社会は確実に変革を求められているといえます。今後変わりゆく社会の中で、どれだけ事前の備えを万全にできるかが企業にとって必要となるでしょう。OBC360゜では、法改正や政府の動きを含め、皆様にお役立ていただけるような情報を今後も提供してまいりますので、ぜひこれからもコラムをチェックしてみてください。
奉行ではじめる働き方改革関連法対応ブック
奉行シリーズを活用した6つの新ルールへの対応をご紹介
01 年次有給休暇の取得義務化
02 時間外労働の上限規制
03 中小企業の60時間超の残業引き上げ
04 労働時間の適正把握の義務化
05 勤務間インターバル制度
06 フレックスタイム制の拡充
OBC 360のメルマガ登録はこちらから!