長く審議されてきた「働き方改革関連法案」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)がようやく可決・成立しました。今回の法改正では「複数の法案が一度に可決、その多くは2019年4月1日に施行」されることが決まっており、企業には早急な<法令遵守が可能な体制>が求められています。
施行日までそれほど時間が残されていない中で、「何を準備すればいいか」と悩んでいる人事総務担当者も多いのではないでしょうか。
今回は、迫り来る法改正に向けて、今から始めておきたい働き方改革の対応策をまとめます。
目次
実は目前!?法改正の施行まで時間がない!
「働き方改革関連法」では、「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を3本柱として9項目の法改正が実施されます。そして、そのほとんどが原則2019年4月1日から施行されることになっています。
といっても「1つの新たな法律ができる」というわけではなく、大枠として労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、パートタイム労働法、労働者派遣法・・・といった、労働に関する法律を同時期に改正する、ということになります。
「働き方改革」は、大手企業だけでなく、日本国内全ての企業が取り組まなければならない課題です。中小企業には猶予期間を設けている改正内容も一部ありますが、いずれにしても対策準備に費やせる時間はそう多く残されていません。今からでも少しずつ取り組みを進めておく必要があります。
<働き方改革関連法>
5つの重要ポイント/改正の詳細と必要な実務とは
では、「働き方改革関連法」対策は、何をどう進めればいいのでしょうか?
改正内容が多岐にわたるため、今からでも事前準備が必要なものは着手していきたいですよね。
OBCが特に重視してほしいポイントは5つあります。それぞれの改正内容はどんなものか、企業はどんな業務を行う必要があるか・・・。ここでは、その改正内容と必要となる実務をご紹介しましょう。
1. 年次有給休暇の取得義務化
今回の改正で、「年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、企業は必ず年に5日以上の有給休暇を取得させる」ことが義務化されました。これは、正規雇用の従業員だけでなく、年間10日以上の有給休暇が付与される非正規雇用のパート・アルバイトも該当します。
彼らが必ず年に5日以上の有給休暇を取得しているかどうか管理するため、企業には「年休管理簿」の作成も義務づけられ、違反した場合は罰則の対象となります。
【必要となる実務】
まず、現在の有給休暇の取得状況を把握する必要があります。
自主的に従業員が有給休暇を取得したり計画的付与で取得したり・・・というように、年5日以上の有給休暇の消化がすでに実現できている場合は大きな問題にはならないでしょう。しかし、「有給休暇を取得する従業員が少ない」「有給休暇の計画的付与がない」という企業は、企業側で年次有給休暇の時季を指定するなど、新たな取り組みが必要になります。
取得期限の間際にまとめて取得する未達者が続出しないように、計画的に取得させる仕組みが必要です。
2. 長時間労働を抑制するための措置
長時間労働の抑制に関係する改正項目には、「残業時間の罰則付き上限規制」と「中小企業の60時間超の残業代引き上げに関する猶予措置の廃止」があります。
2−A:残業時間の罰則つき上限規制
労働時間は1日8時間、週40時間と労働基準法で定められていますが、残業時間については36協定で「原則月45時間、年間360時間」とされていたものの、事実上年6ヶ月までは法的規制がありませんでした。
今回の改正によって36協定の原則が改めて上限規制と定められ、「繁忙期であっても月100時間未満、年間720時間を超えてはならない」と法律上で上限が明確化されたことになります。
これにより、企業は特別条項付き36協定を締結していても、2〜6ヶ月の平均80時間超え、もしくは月100時間・年720時間を超える時間外労働は出来なくなります。
違反した場合は、刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が適用されます。
また、法改正に伴い2019年4月以降は36協定届の様式が変更されます。
※新様式の内容はこちら
【必要となる実務】
企業は、法律に則って正しく労務管理を行い、安全配慮義務を果たさねばなりません。
まずは、労働時間をリアルタイムに管理すること。36協定で定めた時間外労働時間数を超えそうな従業員には、残業抑制を行うことが必要です。一方で、残業を引き起こす問題点をひとつひとつ改善する取り組みも行う必要があります。
2−B:中小企業の60時間超の残業代引き上げ
「月60時間を超えた残業時間については、割増賃金を50%以上にしなければならない」
これはすでに法律で定められており、現在、大企業で適用されています。中小企業はこれまで適用を猶予されてきましたが、今回の改正でその猶予が廃止になります。2023年4月以降は、大企業と同じく中小企業にも同率の割増賃金が義務づけられます。
【必要となる実務】
もっとも打撃を受けるのは、現在長時間労働が常態化している場合です。時間外労働が60時間を超える従業員が多いほど人件費が増します。まずは現状の時間外労働を把握し、超過しないための対策が必要です。
また、給与計算上、超過分は割増賃金率を変更しなければなりません。今後は、月60時間を超過した時間外労働時間は通常管理分と分けて集計する体制が必要になります。
3. 「労働時間の適正把握」の義務化
現在基準となる「労働時間適正把握ガイドライン」には、「企業は労働者の労働時間を適正に把握する責務がある」と記されています。加えて、今回の改正で労働安全衛生法に「事業者は、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない」という条文が追加される予定です。これは、「産業医の機能強化」と同様に「労働者の健康管理・維持」が主たる目的となるため、「労働者」には管理監督者や裁量労働制適用者も含まれます。(高度プロフェッショナル制度適用者は除く)
【必要となる実務】
「労働時間」はガイドラインで「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義づけられており、業務上義務づけられた研修や教育訓練の受講、業務に必要な学習、着替え等の時間も含まれます。また、終了打刻後退出までに行った業務があるなどの場合も正確な把握が義務化されるため、今後は始業・終業の打刻時間の正しい管理が求められます。
今回の改正では自己申告はほぼ認められていませんので、タイムカードやICカードなど客観的に労働時間を記録・管理する仕組みが必要になります。
4. 同一労働同一賃金の制度化
これまでも注目を浴びてきた「同一労働・同一賃金」の原則が正式に定められました。
業務上の責任の範囲や人材活用の運用等(転勤、異動、キャリアプランなど)が異なる場合を除き、同じ業務を行っているのなら正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(パート、アルバイト、契約社員等)の待遇に差をつけてはいけないことになります。
また、待遇について「非正規雇用労働者は待遇差の内容や理由についての説明を求めることができる」ようになるため、企業は彼らの求めに応じて「合理的根拠」を説明しなければならなくなります。待遇差の内容・理由に関する説明については、行政による助言・指導も行われます。
不合理な待遇の禁止に関する最高裁判の事例
契約社員のドライバーが正社員と諸手当が違うのは労働条件上「不合理な待遇」として差額賃金を求めた訴訟「ハマキョウレックス事件」(「労働新聞」参照)で、2018年6月に最高裁判決が下され4種類の手当が「不合理」と判断されました。これにより現在「不合理な待遇」の判断は、以下の2点が指標となっています。
● ひとつひとつの賃金支給項目の内容
● 支給される趣旨
【必要となる実務】
企業は、待遇に対して、賃金額の比較ではなく賃金支給項目の妥当性を問われることになります。正規雇用/非正規雇用で業務の内容、責任の範囲、人材活用の運用等が同じになっていないか確認し、賃金項目や支給基準の見直しが求められます。また、従業員の求めに応じていつでも説明ができる制度作りも重要です。職務内容を整理し、就業規則や人事考課などの評価制度・評価基準の再整備も行う必要があります。
5. 「高度プロフェッショナル制度」の創設
国会審議中から注目を集めていた「高度プロフェッショナル制度」。金融ディーラーやアナリスト、コンサルタントなど「一定の専門知識を持った職種」で「年収1,075万円以上」の労働者の柔軟な働き方を可能にするため、労働時間規制や時間外労働の割増賃金支払い規定の対象外とするという制度です。
ただし、健康管理時間に基づく健康確保措置として、年間104日以上かつ4週4日以上の休日付与に加え、以下の4つの中から1つを選択することが義務化されています。
① 勤務間インターバル
② 1ヶ月または3ヶ月の在社時間等の上限
③ 2週間連続の休日確保
④ 臨時の健康診断
【必要となる実務】
「高度プロフェッショナル制度」については該当者がいるかどうかがカギとなります。適用対象者がいる場合は制度導入の手続きが必要です。労使委員会を設置し、労使委員会の4/5以上の決議を受け行政へ届出をしなければなりません。
ただし、単に制度を導入すれば良いわけではなく、企業は従業員に対して健康確保措置を講じる義務があります。従業員の健康確保ができず生産性が下がるのは本末転倒です。「適用対象者に対する適切な健康管理と休日が確保できる仕組みの導入」と「専門性の高い従業員が能力を十分発揮できる環境を整えること」は、企業にとって大きな責務となってくるでしょう。
まとめ
「働き方改革関連法」対策は、文字通り企業に「改革」をもたらすものになるでしょう。しかも、「何をどうすれば良いか」という具体的な「働き方改革関連法」対策は、企業事情に影響されるためそれぞれ異なります。
しかし、すでに必要になる実務は見えていても対応できるシステムはまだ世の中に存在しておらず、従来の仕組みや経験則では補えない可能性もあります。他社事例を参考にする時間的余裕もありません。取り組み範囲も広いため、人事総務の業務コストに大きく影響することは避けて通れないでしょう。
改正法施行まであと数ヶ月・・・。直前になって慌てないよう、情報収集や現状把握を進めるなどできることから始め、施行日までに対応できる体制を整えましょう。
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