育児・介護休業法は、2021年に育児休業に関する改正が行われ、2023年4月1日まで段階的に施行されています。中でも2022年10月以降は、男性にも育休が適用されるようになった他、新たに義務化された内容もあります。
そこで今回は、育児・介護休業法について基礎知識から改正内容まで整理し、従業員が育児休業・介護休業を取得しやすくなるための対応のコツについてまとめます。
目次
- 育児・介護休業法とは
- 育児・介護休業法で定められている4つの制度
「育児休業」「子の看護休暇」「介護休業」「介護休暇」の概要 - 2022年〜2023年の改正ポイント
- 企業価値が上がる!?育児・介護休業法がもたらす5つのメリット
- 担当者が押さえておきたい
育児休業・介護休業に関する実務対応のポイント - 社内手続きをシステム化して一連の業務を丸ごと効率化しよう!
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といい、育児や介護を行う人を支援して、仕事と家庭を両立することを目的にした法律です。
これまでは、仕事と家庭を両立することが非常に難しく、育児や介護のために仕事を辞めざるを得ないというケースが多く発生していました。こうした社会の「二者択一構造」を変え、労働者のワークライフバランスを実現するために、労働時間を短縮したり給付金を支給したりというサポートが規定されています。
当法律で定められている制度や措置には、次のようなものがあります。
- 育児休業制度
- 介護休業制度
- 子の看護休暇制度
- 介護休暇制度
- 育児・介護を容易にするため所定労働時間等の措置
- 育児・介護を行う労働者に対する支援措置
※「育児休業」「介護休業」「子の看護休暇」「介護休暇」については、後述を参照ください。
これらの制度や措置を就業規則等に取り入れることは、企業の義務となっています。また、法規定を満たした上で、社内体制や業務形態に応じて独自の休暇制度などを設けることも歓迎されています。さらに、従業員はこれらの制度や措置を利用する権利があるため、育児・介護休業法の制度の利用を理由とした解雇、降格、減給などの不利益な取り扱いをしてはならないとも規定されています。
これらの制度・措置を設けなかった場合は、行政から報告を求められるとともに、必要な措置を講じるよう「助言」「指導」「勧告」を受けることがあります。また、「勧告に従わない」「報告を怠った」「虚偽の報告をした」などの場合は、罰則として、企業名の公表と最大20万円の過料が課されます。
育児・介護休業法で定められている4つの制度
「育児休業」「子の看護休暇」「介護休業」「介護休暇」の概要
育児・介護休業法には、様々な制度や措置が設けられていますが、代表的なものに「育児休業」「子の看護休暇」「介護休業」「介護休暇」の4つの制度が定められています。ここでは、それぞれの制度について、簡単に解説します。
※2023年1月現在の制度内容です。
育児休業に関する制度
●育児休業制度
1歳未満の子どもを持つ労働者の育児支援を目的とした制度で、性別を問わず、原則として子どもが1歳になる誕生日の前日まで取得※できます。また、仕事と育児の両立を支援する「パパ・ママ育休プラス」制度も設けられており、父母ともに育児休業を取得する場合は、子どもが1歳2ヶ月になるまでの間の1年間に育児休業を取得できます。
対象となるのは、日雇い労働者を除く全ての労働者です。ただし、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者については、労使協定を結べば対象から除外できます。また契約労働者の場合は、有期雇用・無期雇用ともに「1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない」場合に限られます。
※ 例外として、1歳になる時点で保育所への入所ができないなどの理由がある場合には、子が1歳6ヶ月になるまで(最長2歳まで)延長が可能です。
●子の看護休暇制度
小学校就学前の子どもを持つ労働者が、子どもの怪我や病気にかかった際の世話、健康診断や予防接種の付き添いが必要な場合などに休暇を取得できる制度です。取得可能な年間休暇日数は、労働者1人につき対象となる子が1人の場合は5日、2人以上で10日が上限とされています。
取得できる対象者は、日雇い労働者を除く全ての労働者となっています。ただし、入社6ヶ月未満の労働者、または1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は、労使協定の締結で対象外にできます。
その他の措置を含め、適用される期間は次のようになります。
介護休業に関する制度
●介護休業制度
負傷や疾病、身体もしくは精神の障害などの理由から、2週間以上の「常時介護」が必要な家族を介護する場合に休業できる制度です。対象家族1名につき3回まで取得でき、通算93日まで休業することができます。また、配偶者、父母、配偶者の父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫の介護が対象となります。(ただし、「子」は養子を含む法律上の親子関係に限られます)
育児休業制度と同じく、日雇い労働者を除く全ての労働者が取得できますが、有期契約社員については申出の時点で次の要件を満たしていなければなりません。
- ① 入社1年以上であること。
- ② 取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。
※2023年4月1日以降は、①の要件が廃止される予定です。
ただし、無期雇用であっても労使協定が締結されている場合には、「入社1年未満」「申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する」「1週間の所定労働日数が2日以下」のいずれか1つでも該当する労働者は対象外となります。
●介護休暇制度
病気、怪我、高齢などを理由に、要介護状態となった家族を介護する労働者が休暇を取得できる制度です。日雇い労働者を除く全ての労働者が取得できますが、入社6ヶ月未満または1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、労使協定を締結している場合に対象外にできます。
就業規則等で特に規定していない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日の範囲で、要介護状態の対象家族1人につき5日、2人以上で10日を上限※1に、1日または時間単位※2で、年次有給休暇とは別に取得できます。
※1 対象家族が3人以上となった場合でも、10日を超える休暇は取得できません。
※2 時間単位での取得を除外する労使協定を締結している場合、時間単位での取得が困難な業務に従事している従業員は1日単位での取得のみとなります。
その他の措置も含め適用できる期間を簡単に図式化すると、次のようになっています。
2022年〜2023年の改正ポイント
育児・介護休業法は、これまでも繰り返し改正されてきました。2021年には、男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることを目的に次の6項目が追加・変更され、2022年から2023年にかけて段階的に施行されています。
2022年10月に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」「育児休業の分割取得」については、各メディアで「男性育休が義務化になった!?」と取り沙汰されたこともありましたが、実際には、義務化されたのではなく男性の育児休業取得を支援強化する内容となっています。
「産後パパ育休」は、産後休業をしていない労働者が、原則として出生後8週間以内の子の養育のために休業することで、子の出生後8週間以内に、4週間(28日)まで分割して2回取得できます。「自分が休むと業務に支障が出るのでは」と長期の育児休業取得に不安がある場合には、まずは短期間の休業を試してみてから改めて育児休業を取得するという活用方法も可能です。
また「育児休業の分割取得」では、2回まで分割して取得できるようになりました。この分割取得は「産後パパ育休」でも適用されるため、夫婦で育児休業を併用すれば、男性は子が1歳になるまでに計4回の育児休業が取得できることになります。
改正法最後の施行となる「育児休業取得状況の公表の義務化」は、従業員1,001人超の大企業に対して「1年に1回育児休業の取得率の公表」が義務化されます。事業年度を基準として、男性従業員の「育児休業などの取得率」または「育児休業などと育児目的休暇の取得率」をインターネットなど誰でも閲覧できる方法で公表するよう定められています。公表場所としては、自社のホームページなどの他に、厚生労働省運営の特設サイト「両立支援のひろば」の活用も推奨されています。
企業価値が上がる!?育児・介護休業法がもたらす5つのメリット
育児休業制度や介護休業制度を手厚くすることは、従業員だけでなく、企業にとっても次のようなメリットがあると考えられます。
●企業イメージの向上
本来法律で守られていることとはいえ、世間では休業の申し出をしにくい風土はまだ多くあり、女性であっても産後の復帰を不安視する声は後を絶ちません。そのため、育児・介護休業の取得を推進する企業姿勢は、多くの労働者にとって魅力的に映り、企業の社会的信用度を高める要素となり得ます。
特に、育児休業を取得する男性が多いと「柔軟な働き方ができる会社」というイメージに直結しやすく、若手の人材確保にも有効な切り札となる可能性が高いと考えられます。最近は、SDGsやESG投資などの視点で、男性の育児休業取得率が企業の社会的評価や投資の判断基準になるとも言われています。
●従業員のモチベーション向上
男性の育児休暇取得が活発になると、女性も仕事と育児を両立しやすくなり、女性の活躍の場を広げることにもつながります。結果として、女性従業員のキャリア形成を後押しできるようになり、企業経営にもプラスの効果が生まれるでしょう。
一人ひとりの働き方や意識に変化が生まれることで、従業員の士気アップにもつながります。
●従業員の離職防止
昨今は、少子高齢化の影響で新たな人材の確保がますます難しく、「業務に慣れた従業員の離職をいかに防ぐか」も重要になっています。育児や介護を離職理由にする人が多いことからも、「育児や介護をしながらでも安心して働ける」「長期休暇を経ても戻ってこられる」職場環境は、従業員にとっても魅力的に映りやすく、離職抑止対策としても効果が期待できるでしょう。
●チームワークが高まり生産性向上が期待できる
育児休業や介護休業を取得すると、休業期間中だけでなく、休業からの復帰後も深夜勤務や体力を要する業務を継続できない場合があります。
育児休業や介護休業を取得した従業員を周囲がサポートすることで、チームワークが高まり、結果として生産性の向上も期待できます。また、当人も時間に対する意識が高まることで、業務の効率化を進めやすくなります。
●業務の属人化解消
これまでは、男性が長期休暇を取得することが少なかったこともあり、男性の働き方は「人に仕事がつく」傾向にありました。女性も男性も育児休業を取得しやすい環境が整備されれば、業務の標準化・効率化を進めるきっかけにもなります。
担当者が押さえておきたい
育児休業・介護休業に関する実務対応のポイント
今回の法改正では、育児休業において、義務化された事項が多くあります。また、取得回数や期日の管理、給付金の申請などは、育児休業・介護休業どちらにも対応が必要です。これらの対応が手作業中心では、改正内容が複雑になるほど手続き漏れや給与への反映ミスなどのリスクが高まります。
休業取得をする従業員が安心して休業できるよう、「環境整備」「休業取得前」「休業取得後」の3フェーズで実務のポイントをしっかり押さえておきましょう。
1. 環境整備
今回の改正法では、育児休業を取得しやすい環境を整備するため、次のうちいずれか1つの実施も義務づけられています。
具体的措置にある「制度と育児取得促進に関する方針の周知」については、マタハラやパワハラを防止するためにも、役員を含め全社に対して徹底して行う必要があります。ただし、書面の掲示や回覧では一時的な啓蒙に留まりやすく、閲覧環境としても一律に周知できるとは限りらないため、社内ネットワーク上でいつでも閲覧できるようにしておくのがおすすめです。
介護休業については、このような環境整備は義務づけられていませんが、介護休業の制度も社内ネットワークで閲覧可能にしておけば、従業員が担当者に問い合わせたり情報を探したりする手間を省くことができます。
2. 休業取得前
育児休業制度では、従業員やその配偶者が妊娠・出産を申し出た際に、次のように制度に関する個別周知と取得意向を確認するための措置をとることが義務づけられています。
制度の個別周知は「1. 環境整備」と別ものになるため、社内周知をしただけでは履行したことになりません。取得意向の確認は、従業員に育児休業を取得するつもりがなくても、何らかの形で行う必要があります。(取得を妨げるような確認は認められていません)個別周知・意向確認の方法は、妊娠・出産を報告と併せて希望を聞いておくとよいでしょう。
また介護休業についても、申出がなされた際には休業開始予定日・終了予定日等を従業員に速やかに通知しなければなりません。そのため従業員は、休業開始予定日の2週間前までに企業に申し出ることになっています。
このように、育児休業も介護休業も、従業員からの報告・申出で手続きに必要な情報を適切に収集できることが重要です。書面で収集する場合、従業員の体調や家庭状況によってはタイミングよく提出できない可能性もあります。オンラインで手続きできる仕組みが整備されていれば、自宅からでも手続きができ、その後のやり取りもオンライン上で行えるためスムーズです。
3. 休業取得後
育児休業や介護休業の取得が決まったら、育児休業給付金や介護休業給付金など、各種の手続きを抜け漏れなく行わなければなりません。給付金の申請には様々な書類を用意する必要があるため、紙の書類を揃えるよりも電子申請のほうが書類作成の手間もなく、手続きにかかる時間を短縮できます。
また、申請には給付金額の算出も必要です。正確に計算するためには、休業の開始日、終了日、取得日数を厳密に管理し、社会保険料の免除を正しく判断しなければなりません。
特に、3歳未満の子どもを養育するための育児休業等では、期間中の取得日数と期間によって健康保険や厚生年金保険の保険料免除の可否が決まります。育児休業は分割取得も可能となったため、社会保険料の判定を手作業で行うと業務が煩雑になります。従業員が申請した育児休業の取得方法や分割取得の有無によって、社会保険や雇用保険の届出書類が自動判定できる仕組みを導入することが望ましいでしょう。
●育児休業中の月額保険料
月末時点で育休を取得している場合で、同一月内に育休を開始・終了しており、その日数が14日以上である場合にも保険料が免除されます。
●育児休業中の賞与保険料
月額保険料が免除され、免除された月に賞与が支払われていて、かつ休業期間が 1カ月超である場合に賞与に対する保険料が免除されます。
また申請のタイミングは、介護休業給付金の場合、介護休業中ではなく介護休業終了後の翌日から2ヶ月後の月末までとなります。育児休業給付金の場合は、出生日(出産予定日前に出生した場合は当該出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から可能となり、当該日から2ヶ月を経過する日の属する月の末日までが提出期限となっています。
社内手続きをシステム化して一連の業務を丸ごと効率化しよう!
今回の法改正により、育児休業に関する実務はますます複雑になっています。今後も法改正が行われることが予想できることからも、適正に対応するためには奉行Edge労務管理電子化クラウドのようなサービスを利用して、報告・申出など社内手続きからシステム化することが欠かせないでしょう。
奉行Edge労務管理電子化クラウドでは、育児休業・介護休業を取得するための環境整備から申し出前後の社内手続き、行政手続きの電子申請まで行うことができます。就業規則などの各種社内規程文書をWeb上で公開でき、従業員は自宅からでも閲覧できるようになります。
また、Webワークフローで出産予定や休業開始日などを収集できることはもちろん、申請後のタスクとしてTo Doリストを登録しておけるため、個別周知・意向確認のアクションも忘れずに実施できます。
さらに、育児休業給付金の電子申請にも対応しているため、手続き業務の効率化が図れます。e-Govだけでなく、マイナポータル申請にも対応しており、健康保険組合への電子申請もサービスから直接行えます。
※ 産前産後休暇についてはマイナポータル申請のみに対応しています。また、介護休業給付金の電子申請には現在未対応です。
ぜひこうした仕組みを利用して、複雑化する業務の適正化を図ってみてはいかがでしょうか。
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