働き方改革や新型コロナウイルス感染対策をきっかけに、業務のあり方がどんどん変化しています。そのキーワードとなっているのが「ペーパーレス化」です。
経費節減や検索性向上、セキュリティの向上など、ペーパーレス化には様々な効果があります。にもかかわらず、これまで日本では“紙”や“ハンコ”を必要とする業務が根強く残っており、多くの企業であまり対策が進んできませんでした。
今回のコラムでは、なくならない「紙の書類」にスポットを当て、「なぜペーパーレス化が進まないのか」「どうすれば自社でもペーパーレス化を取り入れることができるのか」について考えていきましょう。
目次
バックオフィス業務で「なくならない」紙の書類
- ① 受発注書類
- ② 経費精算を頼まれた領収書
- ③ 税理士の確認用会計資料
- ④ 月次報告書・決算報告書
- ⑤ 保存が義務づけられている書類
- ⑥ 社内手続き用の申請書類
- ⑦ 行政手続きの申請書類
- ⑧ 年末調整業務に関する書類
- ⑨ 給与明細や源泉徴収票
ペーパーレス化の実現には「紙を扱わない仕組み」が必須!
おわりに
バックオフィス業務で「なくならない」紙の書類
ITの進化によって、様々な情報がデータで取り扱われるようになりました。様々な業務アプリケーションがクラウドサービスとして提供され、ペーパーレス化を促進する仕組みはたくさんあります。
それでも、バックオフィス業務では未だに紙ベースの業務が多々あります。実は、これらの業務は「紙の書類でないと成り立たない」「どうやってもなくせない」と思いこんでいるケースも多く見られます。
例えば、バックオフィス業務で「なくならない」と思われている紙の書類には、次のようなものがあります。
① 受発注書類
中小企業では、注文書や請求書等のやり取りに、紙の書類を使用しているケースが多く見られます。このとき、受け取った書類の取引内容を管理するには、自社の販売管理システムや会計システムに手作業で伝票入力することとなり、入力ミスがないかをチェックする作業も行わなければなりません。
また、取引先から紙の書類を発行するよう求められることもあり、そうした取引先との関係からも「ペーパーレスを進められない」と感じることが多いようです。
② 経費精算を頼まれた領収書
例えば営業職が外回りで使用した交通費などの経費精算業務において、紙の領収書を受け取って経費の利用目的や人数などを確認し、領収書を見ながら会計システムに手入力で仕訳する…というプロセスを踏んでいる企業は多くあります。
“紙”の領収書でやり取りしていると、仕訳入力が手作業になるだけでなく、入力した内容をチェックする作業、ファイリングして保管するための作業、決算期のチェック作業など、多くの手作業が発生することになります。
③ 税理士の確認用会計資料
決算において税理士に確認してもらう際、会計データを紙に出力している企業も少なくありません。紙に出力すれば、その分の印刷代や郵送費がかかりますし、「税理士の確認中は業務が止まる」「修正等のやり取りが増えるほどコストが嵩む」など、その後の業務に支障を来す恐れもあります。
④ 月次報告書・決算報告書
経営層がデータで閲覧する方法に慣れていないと、月次報告書や決算書類を紙の書類で提出するよう求められることがあります。会計情報や各部門から提出された情報をExcelフォーマットに入力し直すこともあり、その度に転記ミスをしないよう入念なチェックも必要になります。とりまとめるだけでも時間や手間がかかり、報告書作成期間は他の業務に取りかかれないことがあります。
⑤ 保存が義務づけられている書類
領収書や請求書、決算書など、法律によって保存期間が定められているものを、紙で保管している企業は多くあります。紙で保存すると、ファイリングする作業が発生し、スペースの確保や適切に保管できているかなどの管理体制も整備しなければなりません。
⑥ 社内手続き用の申請書類
有休申請や残業申請などを、紙で申請するルールになっている企業もよく見かけます。Excelのフォーマットを使って記入をしても、結局は紙に出力して手続きをする必要があったり、上長の押印が必要だったりして、コロナ禍では「申請のために出社」といういびつな状況が問題となっていました。
また、雇用契約や入社手続きなども紙の書類で取り交わすのが一般的で、このように多くの企業で「社内手続き=紙の申請」という風潮が根強く残っているようです。
⑦ 行政手続きの申請書類
最近は一部の手続きで電子申請が可能になりましたが、社会保険や雇用保険など、行政で行う各種申請手続きを書面で提出している企業は、まだ多くあるようです。
申請手続きを紙で行うと、書類を作成するのも手作業になり、まとめる時間が必要になります。また、提出に際しても、窓口に出向けば手続きのために時間を費やすことになり、郵送するにしても郵送代などのコストがかかってしまいます。
⑧ 年末調整業務に関する書類
年末調整業務は、バックオフィス業務の中でも最も繁忙を極めます。すべての従業員の年末調整を紙の申告書で行っていると、配付や回収の手間、従業員からの問い合わせへの個別対応、給与システムへの入力作業など、多くの付帯業務が発生します。また、年末調整には添付される各種証明書類もあります。
この時期は多くの紙の書類が総務部門に集められるため、書類を整理するのにも時間がかかり、なかなか年末調整計算まで辿り着かないことも起こります。
⑨ 給与明細や源泉徴収票
各従業員に毎月配付する給与明細も「紙の書類」に分類されます。給与明細は毎月発行するものなので、毎月のルーティンワークとして発行作業に時間を取られることになります。
また、給与明細を紙で発行している企業は、源泉徴収票も紙で発行していることが多くあります。確定申告や各手続きに必要になることがあるため、従業員が紛失した場合は再発行しなければならいこともあり、さらに担当者の負担が増えることになります。
こうした紙の書類は、必ずしも「紙でなければならない」ものではありません。バックオフィス業務を効率化するには、「本当に紙で処理しなければならないか?」とまずは疑問を持ってみることも大事なのです。
ペーパーレス化の実現には「紙を扱わない仕組み」が必須!
「紙の書類」があると、手入力や書類の整理など必ず何らかの手作業が発生します。ペーパーレス化を進めるということは、こうした手作業をなくすという意味もあります。
ペーパーレス化を進めるためには、まず、紙の書類を扱わないようにする仕組みへの変更が必要です。それには、ITの有効的な活用がカギとなります。
今すでに、あらゆる情報がデータで取り扱えるようになっており、市場ではそうしたデータを自動で取り込むクラウドサービスも数多く提供されています。それらは、AIやAPI連携など様々な最新技術で常に進化しており、ITを活用することで様々な業務がペーパーレスで遂行できるようになってきているのです。
例えば、販売管理業務においては、注文書や請求書の発行・受領作業をデータでやり取りできるクラウド型の販売管理システムもすでに存在します。こうしたシステムを利用すれば、取引情報をわざわざ手作業で伝票入力する必要がなくなります。
最近は、キャッシュレス決済の明細をデータで確認できるようにもなっています。会計システムと連携させて自動仕訳もできるため、プリペイドカードや法人クレジットカードを導入すれば紙の領収書で経費精算業務を行うこともありません。経費精算はキャッシュレス決済で対応するよう社内ルールを変更し、かつ決済情報を会計システムと連携させれば、内訳の詳細データ管理や仕訳入力、保管作業まで完全自動化することができます。
またITを活用すれば、行政が推し進めようとしている以下のような「手続きのデジタル化」も利用しやすくなります。
● 電子帳簿保存法・スキャナ保存制度の活用
特に経理業務においてペーパーレス化を図るには、ぜひ活用しておきたい制度が電子帳簿保存法とスキャナ保存制度でしょう。
これらの承認を受ければ、経費で発生した領収書もスキャナで読み込み、タイムスタンプを付与してしまえば、データでの保存が認められるため紙の領収書を保管しなくて済みます。
それに合わせて業務アプリケーションも進化しており、勘定奉行クラウドのように、登録した領収書を都度学習し、次回から支払先などの情報をもとに勘定科目等を推測して仕訳を起票する機能を持ったクラウドサービスも登場しています。また受領した紙の請求書も、スキャナやスキャナ機能付きの複合機でPDF化してタイムスタンプを付与すれば、そのままデータ保存することができます。
さらに2020年には、電子帳簿保存法※が改正され、電子取引を行った場合の保存要件が緩和されました。これにより、電磁的に受領した請求書等について、発行者側でタイムスタンプが付与されていれば受領側で不要になるなど、より活用しやすくなっています。
※2020年の改正電子帳簿保存法の改正点については、コラム「[2020年・電子帳簿保存法改正]スキャナ保存制度も利用して業務の効率化を加速させよう!」を参照ください。
● 電子申請・電子申告の利用
法人税などで電子申告が一部の大法人に義務化されましたが、いずれ義務化の対象企業は拡大されることが予想されています。
また、税関係だけでなく、社会保険や雇用保険などの手続きについても電子化が進められています。電子申請が可能な手続きはまだ一部ですが、2021年にはデジタル庁が創設されることを受け、さらに行政手続きの電子化が促進されるとも予想されています。
ペーパーレス化を進めるには、こうした行政との手続きを電子化することは欠かせません。
例えば、市場には奉行Edge労務管理電子化クラウド のように社会保険や雇用保険などの電子申請に対応するクラウドサービスや、申告奉行クラウド[法人税・地方税編]のような電子申告・電子納税に対応するクラウドサービスが多く提供されています。このようなサービスを利用することで、わざわざ紙の書類を扱うことなく、自席で業務を完結することができるようになります。
社内手続きも、オンライン化することで紙の申請書を撤廃することが可能です。インターネット環境さえあれば、クラウドサービスの業務アプリケーションを使えばどこからでも申請することができ、上長の承認もクラウド上で行えるので「紙」も「ハンコ」も必要なくなります。2019年からは労働条件通知書の電子化も認められたため、一定条件を守れば雇用契約書や労働条件通知書一式もデータで送付することができるようになっています。
行政手続きにおいても押印が撤廃されるなど、今「紙・ハンコ文化」は見直されつつあります。社内ルールも、そうした世情に合わせた“変化”が必要になってきているのです。
おわりに
いくらペーパーレス化が進むとはいえ、「導入コストが高くては・・・」と懸念する担当者や経営層の声も聞かれます。一昔前までは、1つのシステムを入れるために費用だけでなく労力や時間など莫大なコストがかかっていたため、そのイメージが定着し、「導入は難しい」と思い込んでいる方もいらっしゃることでしょう。
その点、クラウドサービスなら契約してすぐに導入ができ、いつでも・どこからでもアクセスして利用できます。また、料金も月額・年額制になっていてコスト計算がしやすいので、紙の書類で発生していた出力に係るコストや業務完結までにかかる時間、人件費などを考えると、費用対効果の面から見ても圧倒的にコスト削減を実現できます。
とはいえ、全ての業務をいきなりパーパーレス化すると、担当者が慣れない仕組みに戸惑い、却って業務が滞る可能性もあります。
まずは、ペーパーレス化により業務効率やコストがどう変化するかを検証しましょう。そして、自社の基幹システムとどう連携できるかも確認しながら適切なクラウドサービスを選び、業務上の悩みの種になっている“紙の書類”から段階的にペーパーレス化を進める工夫も必要です。
今後世界はますますデジタル化が加速しており、日本でも「ペーパーレス業務」が標準となる時代が早晩やってきます。政府の対応も急速に電子化が進められているため、今は「書面交付」や「書面提出」が定められている書類も、近い将来電子化が認められる可能性も充分あります。そうなってからでは他社との競争を優位にするのは難しいかもしれません。
今から少しずつ、次世代に向けてより包括的な取り組みとして考えてみてはいかがでしょうか。
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