前回「2017年 年末調整に影響アリ!必ず知っておくべき『配偶者控除改正』の全容と課題」で解説したように、今年配偶者控除が改正され、来年に向けて労務業務への大きな影響が予想されています。
今年の年末調整計算は従来通りでよいのですが、来年1月給与の源泉所得税額から影響を受け、またその影響は来年の年末調整時期まで続きます。今年の年末調整計算と並行して、来年に向けた取り組みが必要になるため、業務が混乱しないようしっかり計画を立てて進めていかなければなりません。
では、いつ、何を、どの順番で取り組めばよいのか? 2年に渡って、どのように対策を進めるとよいのか? 第2回の本記事では、具体的な実務ノウハウの前に、改正対策として押さえておくべき業務タスクと2年計画のスケジュールについて詳しく見ていきましょう。
※ 具体的な実務ノウハウについては第3回で解説します。
目次
2年計画で押さえよう!
取り組むべき業務タスクとスケジュール
今回の改正が業務にもたらす課題は2つあります。
1つは、申告書の作成は従業員本人に任せなければならないこと。もう1つは、今年から来年の年末調整時期まで見据えて対応を考えなければならないことです。
来年1月の給与支払いの前に提出してもらわなければならない書類「平成30年分 扶養控除等(異動)申告書」は、来年1月からの源泉所得税に関わる申告書です。給与所得者本人が書いて申告しなければならない書類なので、自分の配偶者の所得も考慮しつつ、新設された「源泉控除対象配偶者」を理解し正しく記入してもらわなければなりません。しかも、様式も新しく変わります。労務担当者としては、「従業員が新しい様式で正しく申告書を作成するためにきめ細かなサポート」をする必要があります。
また、2018年1月からの源泉所得税の算出に始まり来年の年末調整計算まで、改正は2年にわたって実施されるため、滞りなく業務が行えるよう、今秋から来年の年末調整時期までの計画的な準備が必要です。
まずは、2年計画で業務タスクを洗い出し、「いつ」「何を」「どんな手順で」やるのかをしっかり把握し計画を立てましょう。
【1】今秋から来年1月給与までに、やっておくべき業務ポイント
ポイントは、「誰が該当者か」「どんなサポートが必要か」を事前に押さえておくことです。
今年の年末調整計算と並行しながら、従業員が正しく申告できるための対応をしっかり考えましょう。
① 影響がある従業員を洗い出す[2017年10月上旬〜]
合計所得金額が900万円を超える、かつ、現時点で控除対象配偶者がいる従業員を洗い出しましょう。来年1月からは「源泉控除対象配偶者」という新たな考え方で、控除対象となる配偶者をカウントすることになります。そのため、現時点で控除対象配偶者を1名でカウントしている場合でも、給与所得者本人の合計所得金額が900万円を超えるとカウントしないことになります。また、合計所得金額が900万円を超える従業員は、来年の年末調整計算において大きく影響を受けます。該当する従業員がどのくらい存在するのか、誰が該当しそうか、事前に洗い出しておくと、自社における影響度合いを把握でき、告知の方法も検討しやすくなります。
② 手当に関する社内規定を見直す[2017年10月上旬〜]
配偶者控除改正の影響が、家族手当(配偶者手当)など他にも影響しないか確認しましょう。企業によっては、家族手当の支給要件を所得税の扶養内である「配偶者の年収103万円以下」としているケースもあります。この場合、今回の改正を受けて家族手当の支給要件を見直すなど、検討が必要になります。「自社の規定が今どうなっているか」を確認し、必要に応じて今後の対応を考えましょう。
③ 従業員への改正内容告知および「平成30年分 扶養控除等(異動)申告書」(新様式)の書き方サポート[2017年10月中旬〜]
従業員に対して、今回の改正内容をどのように告知するのかを検討し、準備しましょう。また、「平成30年分 扶養控除等(異動)申告書」から新様式に変わるので、併せて様式の変更点についても説明・記入のサポートを行う必要があります。
他にも、今回の改正を受けて来年からの働き方を変えるパート従業員の中には、社会保険の加入が必要になるケースもあります。所得税の「103万の壁」が「150万の壁」に改正されると言っても、その前に社会保険の「130万の壁」(501名以上の企業に勤めているなど条件に該当する方は「106万円の壁」)を超えると扶養から外れ、社会保険に加入する義務が生じます。パート従業員に対しては、改正内容の告知と共に、社会保険加入についても説明しておきましょう。
④ 申告書類の回収・チェック[2017年11月中旬〜]
提出された申告書は、新様式で変更された部分を重点的にチェックしましょう。今回のチェックでは、「源泉控除対象配偶者」が正しく記載されているかどうかがポイントです。事前に洗い出した「影響のある従業員」リストと照合しながらチェックすると、効率よく確認できます。
⑤ 社員情報の変更作業[2017年12月下旬〜2019年1月]
年末調整計算を終え、本年中の給与支払いがすべて完了した後、来年1月の給与計算に向けて、給与システムにて社員情報や家族手当の変更を行いましょう。家族手当の社内規定を見直した結果、支給対象となる従業員に変更があった際には、必要に応じて該当する従業員に身上異動届を提出してもらうことも忘れずに行いましょう。
これらのポイントは来年1月以降の給与支払いに向けた対策であり、平成29年度分の年末調整計算と並行して行うことになります。毎年この時期は慌ただしくなるため、混乱しないよう今回の改正対策業務を行っていきましょう。
実は、「扶養控除等(異動)申告書」は電子データで回収することも国に認められています。まだ多くの企業が申告書の配付・回収を紙ベースで行っていますが、電子データで回収できるクラウドサービスを利用する企業も増えています。クラウドサービスを利用すれば、従業員は申告書の書き方を覚えなくても入力項目に沿って入力するだけで簡単に申告書を提出できます。今回の改正においても、本人と配偶者の合計所得見積額などの質問に答えるだけで配偶者情報を自動判定するので、正しく申告できます。そのうえ、自宅からPCやスマートフォンでも提出できるので便利です。労務担当者も、チェックや差し戻しをクラウド上で行え、申告書のデータを給与システムに連携できるので年末調整の手入力作業をなくすことができます。
今年の年末調整計算を支障なく乗り切るために、このようなサービスをうまく活用することもおすすめです。
【2】来年の年末調整に向けて、やっておくべき業務ポイント
来年の年末調整では、いよいよ複雑な配偶者控除と配偶者特別控除の計算を行うことになります。その前に必要な業務タスクには何があるでしょうか?具体的にスケジュールに当てはめながら確認してみましょう。
① 法改正内容(特に2018年 年末調整の変更点)を復習&理解する[2018年9月〜]
年末調整時期に突入する前に、改めて改正内容をおさらいしましょう。
2018年の年末調整計算から複雑な配偶者控除・配偶者特別控除の計算が始まります。申告書類にも変更が出ます。改正による変更点を再確認し、業務の計画をしっかり練ることが大切です。
また、この年に影響を受ける従業員をもう一度見直しましょう。年収が増減した場合、対象となる従業員が2017年と変わることも考えられます。事前に該当者を把握すると、後々の対応にも役立ちます。
② 従業員へ改正内容を告知する[2018年10月中旬〜]
従業員に対して、改めて改正内容と申告に係る変更点を告知しましょう。これまで兼用されていた「保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」が、2018年から2種に分かれ新様式になります。本人の合計所得金額が1,000万円以下かつ配偶者の合計所得金額が123万円以下となる従業員は「配偶者特別控除申告書」を提出することになります。正しく申告してもらうためにも、改正内容をしっかり理解してもらわなければなりません。特に、2018年に影響を受ける従業員はあらかじめリストアップしておきましょう。
③ 従業員への年末調整申告書類(新様式)の書き方サポート[2018年10月中旬〜]
従業員への告知後または同時に、年末調整に必要な書類を配付し、申告書作成を依頼します。新しく内容も改定される「配偶者特別控除等申告書」の書き方と、2017年に引き続き「源泉控除対象配偶者に関する記入方法」も併せて伝え、従業員が正しく申告できるようにサポート体制を整えておくとよいでしょう。
④ 改正に沿った年末調整計算を行う[2018年11月中旬~]
2018年の年末調整計算から、改正された配偶者控除および配偶者特別控除の計算方法で年末調整を行います。大幅に計算方法が変わっているため、まずは給与システムのプログラムの更新が必要になるでしょう。従業員から提出されてきた新様式の申告書をもとに入力・計算し、配偶者控除の金額をチェックしましょう。
⑤ 社員情報の変更作業[2018年12月下旬〜2019年1月]
1月の給与計算が始まる前には、給与システムにて扶養親族に変更が発生した従業員の社員情報の修正作業を行いましょう。
まとめ
いかがでしたか?思いのほか、やるべき業務が多いことを認識いただけたかと思います。今回の「配偶者控除改正」は2年にわたる大きな改正であるため、かつてない対応が求められます。今からタスク管理とスケジュール管理を徹底することが非常に重要になるのです。
これから今年の年末調整業務が始まりますが、業務をスムーズに完了できるよう、2年越しで計画的にタスクを消化する仕組みや環境を整えて、しっかり取り組んでいきましょう。
- ※ 第3回はそれぞれの業務タスクごとに具体的な手順・進め方を解説します。
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