中小企業に限らず、今もなお勤怠管理にタイムカードやエクセルを使用するケースが多くみられます。しかし、これらの方法は業務負担が大きくなるばかりか、様々なリスクも発生します。特に、労働基準法が改正される2019年4月以降はますます勤怠管理が重要視されるため、リスクに対処できるよう今のうちに管理方法を見直しておかなければなりません。
実は、タイムカードやエクセルを用いた勤怠管理のリスクは、勤怠管理業務を効率化することで回避することができます。今回は、タイムカードやエクセルを使うことで企業が被るリスクを整理しつつ、回避策となる勤怠管理業務の効率化ポイントをご紹介しましょう。
目次
- 中小企業の総務にとって負担になりやすい勤怠管理業務
- タイムカードやエクセルの勤怠管理に潜む「リスク」とは
- 勤怠管理のリスク回避のカギは、4つの業務効率化にあり!?
- 勤怠管理業務の効率化に「勤怠管理システム」をおすすめする理由(わけ)
- おわりに
中小企業の総務にとって負担になりやすい勤怠管理業務
OBC360°記事「「勤怠管理」どうしてる?目的から注意点まで、人事総務担当者が知っておきたい基礎知識」でもご紹介したように、そもそも勤怠管理は、労働基準法や就業規則に則って労働時間を正しく計り、適正な給与が支払われているかを管理するものです。
労働基準法をはじめとする法改正によって、2019年4月以降は企業に「正確な労働時間の把握」が義務化されます。しかし現代では、テレワークやフレックスタイム制など雇用形態も多様化しており、正確な労働時間を管理するためには従業員ごとの労働条件に即した管理が必須と言えます。
また、他にも法改正で残業への上限規制も設けられることを考えると、今後はますます勤怠管理が重要な業務になっていきます。
ところが、中小企業の場合、勤怠管理を行っている部門は人事労務管理全般に従事しており、その業務範囲は多岐に渡ります。様々な業務を一手に引き受けるため、つねに人手不足と繁忙で翻弄されていることでしょう。タイムカードやエクセルを使って勤怠を管理していると、手入力などで人手を介さざるを得ず、結果としてミスが起こらないよう何度もチェックするなど余計な作業が増え、必要以上に時間と手間がかかります。ただでさえ忙しい人事総務担当者にとって、勤怠管理業務が「負担が大きい業務」となる理由はここにあります。
勤怠管理だけを主業務として対応できないからこそ、いかに効率よく、そして正確に勤怠管理業務を遂行できるかがカギとなります。
タイムカードやエクセルの勤怠管理に潜む「リスク」とは
多くの中小企業で採用されているタイムカードやエクセルでの勤怠管理は、操作も簡単で低コストで導入できます。しかし、業務を進める上では様々なリスクが発生しやすくなります。
では、どんなリスクが考えられるでしょうか。
リスクその1
正確な勤怠データが揃わず労働基準法違反になる可能性が・・・
2019年4月の改正労働基準法により、企業には労働時間の正確な把握が義務化されます。そのため、厚生労働省が示した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)に即して、労働日ごとに従業員の始業・終業時刻を確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確認する必要があります。
しかし、「出社時や退社時に打刻を忘れる」などで“打刻漏れ”が発生するケースもあります。打刻漏れは、その多くが締め作業に入ってから初めて発見されるものです。これを曖昧にしたままでは、正確な勤怠データが揃わず、労基法違反となってしまいかねません。
また、データが揃わないと正しく集計もできず、その後に控える給与計算などの業務が遅れる可能性もあります。多忙な部門においては、打刻漏れが発生すると、そのたびに本人に確認したりデータを修正したり・・・という作業が発生します。出張や直行直帰などでタイムリーに打刻できない場合でも、事前申請の手続きを要します。その際、紙を用いた事前申請方法では上長の承認が遅れやすくなります。そうした業務の遅れは、勤怠に関連しない他の業務の進捗にまで及ぶ恐れもあるのです。
「正確な勤怠データを揃える」ことは、勤怠管理業務の大きな課題でもあります。
リスクその2
不正打刻が起こりやすく「データの改ざん」問題に発展することも
タイムカードやエクセルを用いると、不正打刻が起こりやすくなります。
例えばタイムカードの場合、自分は出社せずに同僚に頼んで打刻することも考えられます。エクセルでは、従業員が自ら始業・終業時刻を毎日入力する「自己申告」が基本になるため、そもそも情報に客観性がなく、正しく打刻していない状況すら発生しかねません。
不正打刻は「データの改ざん」となり、悪質な場合は懲戒解雇の対象になります。しかし、企業側の勤怠管理に問題があると見なされると、「不当解雇」と判断されることもあるのです。
不正打刻が横行しやすい管理方法は、企業の管理体制を問われることにもなりかねません。
リスクその3
法令に則った運用が難しい
2019年4月以降、労働基準法をはじめとする各法律の改正によって「労働時間の適正な把握」は企業の義務となります。また、厚生労働省の「ガイドライン」には「適切な勤怠管理方法」が定められており、以後はこれに準じた管理が原則となります。
- (ア)使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
- (イ) タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録の基礎として確認し、適正に記録すること。
したがって、紙の出勤簿は言うまでもなく、エクセルなど自己申告が主となる管理方法は「不適正」となります。
また、(イ)ではタイムカードも推奨されていますが、記録はあくまで「基本情報」であり、残業が発生したり打刻漏れがあったりすると「使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録と突き合わせる」などの確認が必要になります。そして、実際の労働時間と合致しているか、必要に応じて実態調査を行うことも求められます。
こうした運用ができなければ、コンプライアンス意識が低いと見なされ、企業イメージの低下を招いたり本業に悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。
リスクその4
集計ミスで賃金・残業代の適正な支払いができない
勤怠の集計データは、給与計算に使用されるものです。集計作業でミスが発生すると、給与計算ができない、賃金が正しく計算されないなどの事態につながる恐れがあります。
タイムカードでは、集計のために勤怠情報をエクセルなどの計算ソフトに転記することになり、入力ミスが発生しやすくなります。エクセルの場合でも、入力の際に手元が狂うなどで計算式が変わると正しい集計ができなくなります。フレックスタイム制や変形労働時間制など勤務形態が複雑になると、さらに集計に時間と手間がかかってしまうでしょう。
厚生労働省の「ガイドライン」には、「賃金台帳の適正な調製」として以下のようにも定めています。
使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円 以下の罰金に処されること。
労働時間を適正に把握できないと、意図せず間違った賃金の支払や残業代の不払いを起こしてしまう可能性があります。そのため、タイムカードやエクセルで勤怠を管理するケースでは、入力ミスが発生しないよう入念なチェック作業が欠かせなくなります。また、それが再チェックや再対応の手間を増やし、管理部門の負担を増やす要因にもなっています。
賃金や残業代が適正に支払われないと、訴訟問題やコンプライアンス問題に発展しかねず、企業のイメージダウンや業績悪化に繋がる恐れもあります。
以上のように、タイムカードやエクセルを使った管理方法は、業務そのものの非効率を生むだけでなく、企業イメージへの悪影響にも繋がるリスクをも孕んでいます。
もし、現在タイムカードやエクセルで勤怠管理を行っているのなら、このようなリスクを回避するためにも管理方法を早急に見直す必要があります。
勤怠管理のリスク回避のカギは、4つの業務効率化にあり!?
しかし、これらのリスクは勤怠管理の方法や体制を見直せば回避することができます。その方法とは、以下の4つの対処にあります。
① 従業員にとって打刻しやすい方法に変更する
労働時間を適正に把握するもっとも有効な手段は、「従業員がタイムリーに、手間なく記録させる」ことです。例えば、「ICカードをかざすだけ」「自分のパソコンからログインして打刻するだけ」などの方法であれば、並ぶことなく打刻でき、正しい出社時間で記録することができます。また、個人を特定できる社員証を兼ねたICカードや社用携帯電話などのツールを使って打刻できれば、不正打刻の防止にもなります。出張や外出の多い従業員がいる場合は、出先からでも記録できる方法があると打刻漏れを防ぐこともできます。もし打刻漏れが発生しても、自分で「打刻忘れ」を確認できる方法があれば、集計前の締め作業で初めて発覚するという事態は防げます。
こうした打刻方法は法令にも則しており、コンプライアンス問題にも有効です。
「タイムリーに打刻できない」という負荷を削減することで、「不正打刻」「正確な勤怠データが揃わない」「コンプライアンス」に関わるリスクを回避することにも繋がるのです。
② 集計作業を自動化する
集計作業が手作業になると、時間がかかったりミスが起こったりしやすくなります。万が一、集計の遅延やミスが発生すると、次に行う給与計算業務にも影響を与えかねません。慣れていても集計作業の負担は大きく、勤怠管理に関連しない通常業務まで滞る可能性もあります。
集計作業を自動的に行える仕組みがあれば、ヒューマンエラーが起こる心配はありません。転記ミスによる給与計算間違いが起こらないので、残業代不払い問題も防ぐことができます。
タイムカードやエクセルで一番手間取るデータ集計こそ自動化して、できるだけ簡単に終わらせる仕組みを作ることが大事です。
③ 申請・承認の手間を簡略化する
直行直帰などで打刻がタイムリーにできない従業員には、勤怠情報を申請してもらう必要があります。
紙での申請は、管理部門に書類が届くまでに時間がかかりやすく、勤怠データへの反映が遅れる可能性があります。給与計算にも影響しかねませんし、確認が疎かになるということは勤怠管理ルールへの軽視にも繋がりかねません。
申請や承認がいつでもどこでもできる仕組みがあれば、タイムロスを阻止し、「正確な勤怠データが揃わない」という事態を防ぐとともに、コンプライアンスの徹底にも貢献することができます。
④ 労働時間がいつでも確認できる仕組みにする
2019年4月以降は「残業時間の罰則付き上限規制」もスタートすることから、法令に則った適正な労働時間の管理はますます重要な課題となります。しかし、勤怠データの集計が終わるまで残業時間がわからない状態では、上限を見越した警告すら出せません。
残業時間も含めて月の途中でも集計作業が簡単にできれば、手間を掛けず、タイムリーに残業対策が打てます。効率的に労働時間を把握する仕組みがあれば、「残業時間の上限規制を超える、36協定違反」という事態を防ぐことができます。
勤怠管理業務の効率化に「勤怠管理システム」をおすすめする理由(わけ)
今、市場にはたくさんの勤怠管理システムが展開されており、各ベンダーはこぞって勤怠管理のシステム化を推奨しています。それは、勤怠管理をシステム化する大きなメリットの1つに「勤怠業務の効率アップ」という特長があるからです。
では、勤怠管理システムにすれば、どのような作業がどう効率化できるのでしょうか?
打刻
簡単に打刻でき、正確なデータを収集できる
勤怠管理システムでは、打刻に複雑な操作を必要とせず、正確なデータを管理できます。
最近では、打刻方法にICカードやスマートフォン、タブレット、指紋認証など様々なツールを利用することができるものも増えてきました。直行直帰、出張時など社外にいても簡単に打刻でき、交通系ICカードなど個人を特定するツールを使えば、不正打刻の防止にもなります。また、テレワークなど特別な雇用形態の従業員も、勤務に合った適切な方法で打刻できるなど、多様な勤務形態に対応することが可能です。
勤怠に関わる申請
従業員の申請から上司のチェックまで、スピードアップが図れる
残業や休日出勤などの申請で問題になるのが、申請フローにおけるタイムロスです。
勤怠管理システムならシステム上で簡単に手続きでき、上長の承認や進捗状況の確認もシステム上で行えるので、申請内容のデータ反映までスピードアップが図れます。また、ペーパーレス化によってコストダウンでき、書類管理の手間も省けます。
勤怠管理システムをクラウド型にすれば、インターネットが接続されている場所ならどこでもアクセスできるようになるので、社外にいても手続きや承認ができタイムロスも発生しにくくなります。
集計作業
煩わしい集計作業が大幅に時間短縮できる
勤怠管理システムでは、打刻データを自動的に収集し、簡単に集計することができます。タイムカードやエクセルでは手作業で行っていた集計業務が自動化でき、時間と手間を大幅に削減できます。
また最近は、様々な勤務形態に対応する勤怠管理システムが続々と登場しています。フレックスタイム制や勤務間インターバルなど、最新の法改正に合わせ複雑な勤務形態にも対応できるようになっています。自社で最新の制度に対応した計算式などに変更する手間が省けるので、さらに業務の効率化が図れるでしょう。
給与計算との連携
給与計算ソフトとシステム上で連携できる
集計したデータは、その後給与計算に活用されます。多くの勤怠管理システムが指定の給与計算ソフトとデータ連携できるようになっています。同じベンダーの給与計算ソフトであれば、集計データをそのままスライド活用するだけで計算まで行えます。また、同じベンダーの給与計算ソフトを利用していなくても、APIやCSVなどで連携することもできます。(ただし、連携可能な給与計算ソフトは、導入前に確認しておくことをおすすめします)
残業管理
残業状況をリアルタイムに把握でき、残業の管理がしやすい
勤怠管理システムは、リアルタイムに集計でき残業時間をいつでも把握できるので、残業が増えている従業員を事前に確認することができます。多くの勤怠管理システムには、打刻漏れや残業超過への警鐘に使えるアラート機能が搭載されているので、残業が増えている従業員に対して早めに通知するなど対応も取りやすくなります。また、アラート通知が一種の気づきとなって、従業員の残業に対する意識改革にも役立ちます。
おわりに
今や勤怠管理システムは、コスト面や機能面だけでも多種多様にあります。ベンダーごとにも様々な特性があり、業種・業態を問わず、企業規模や勤務形態に合わせて最適なシステムを見つけやすくなっています。選び方次第では、現状の勤怠管理における業務を効率化しつつ、企業のコンプライアンスも強化できる仕組みになっていくはずです。
働き方改革に伴い法改正が進むと、ますます勤怠管理の徹底が求められます。まだタイムカードやエクセルで勤怠管理しているのなら、ぜひこの機会に「自社が求める勤怠管理業務はどんなものか」を整理して、自社に適した勤怠管理システムを導入してみませんか?
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