

連結決算では、親会社と子会社の決算を一つにまとめ、グループ全体の連結財務諸表を確定させます。しかし、M&Aなどで取得した子会社の場合、親子間の決算期が異なるケースもあるでしょう。このことを「期ズレ」と呼び、期ズレへの対応として仮決算の実施や、親子間の重要な項目の不一致については取引内容の調整の反映を行う必要があります。そのため、期ズレのある連結決算では、会計処理が複雑化することも少なくありません。
本記事では、連結決算における期ズレへの具体的な対処法を徹底解説し、よくある疑問にお答えします。期ズレへの対応を正しく理解し、適切な会計記録を行うためのポイントを押さえて、業務の効率化を図りましょう。
連結決算について、さらに詳しく知りたい方は 「連結決算とは?対象範囲から業務の流れ、効率的な進め方までわかりやすく解説」を参考にしてください。

目次
- 連結決算の期ズレの概要
- 連結決算の期ズレが発生する主な原因
- 連結決算で期ズレが生じた場合の対処法【3か月以内の場合】
- 連結決算で期ズレが生じた場合の対処法【3か月を超える場合】
- 連結決算の流れ
- 連結決算の期ズレに関するQ&A
- 連結決算の期ズレへの対応を効率化する方法
連結決算の期ズレの概要
連結決算における期ズレとは、どのような状態のことを指すのでしょうか。問題点を踏まえて解説します。
●連結決算の期ズレとは?
連結決算の「期ズレ」とは、親会社と子会社の決算日が異なることです。親会社の連結財務諸表には、子会社の業績や財務状況を反映させる必要があります。しかし、決算日が異なる場合、親子間の決算データにタイミングのズレが生じるため、調整が必要となることがあるのです。
たとえば、親会社が3月末決算で子会社が12月末決算の場合、期ズレは3か月です。期ズレが3か月以内であれば決算書類をそのまま利用できるケースもあり、その場合は親会社の連結決算には子会社の12月末時点のデータが反映されます。一方、期ズレが3か月を超える場合には、仮決算や追加の調整が必要になります。
●期ズレが発生することによる問題点
期ズレが発生する場合の問題点は、親子間の取引が適切に相殺消去されないと、財務諸表の整合性や正確性が損なわれる可能性があることです。特に、親子間取引の損益が決算に大きな影響を与える場合、正しく連結決算に反映しないと、不正に利益を誇張することになってしまいます。このような状況が発生すると、投資家や株主に誤解を与えるリスクが高まります。期ズレの調整不足による不要な誤解を防ぐためには、親子間の取引を適切に相殺消去し、グループ全体の実態を正確に反映させることが大切です。
連結決算の期ズレが発生する主な原因
連結決算においての期ズレの発生は、子会社化した会社の決算日がそもそも親会社と違っていたという原因だけに限りません 。ここでは、期ズレが発生する主な要因について解説します。
●国によって決算月が異なるため
連結決算の期ズレは、特に在外子会社を持つ企業で問題となりやすいです。これは、国ごとに一般的な決算月が異なることが原因です。
アメリカをはじめ、多くの国では12月末決算が一般的であるのに対し、日本企業は3月末決算が多く、親会社と子会社の決算月が一致しないケースが発生します。たとえば、中国では法令により12月末決算が義務付けられているため、日本の3月末決算を採用している親会社と連結する際には期ズレが生じます。
●連結決算作業に関する効率化のため
連結決算における期ズレは、作業の効率化を目的として、あえて発生させるという考え方もあります。連結決算データの作成にあたり、親子間の決算日が同じであれば、子会社は親会社と同じスピードで決算手続きを進めなくてはなりません。しかし、そのためには子会社に十分な人員や体制などのリソースが求められるため、特にリソースが限られている子会社では対応が難しい場合があるのです。
期ズレを許容することで、子会社としては決算作業を完了したあと、必要なデータや項目を再確認し、万全な状態で親会社に報告するための猶予期間を確保できます。決算業務に余裕を持って取り組むことができることから、子会社の作業負担の軽減にもつながります。
さらに、在外子会社を持つ場合、現地の人員や監査法人への対応も必要となり、国内のみで完結する場合と比べて負担が一層大きくなるものです。決算日を合わせることで、業務のスピード感が失われ、調整が時間内に間に合わなくなる事態も考えられます。そこで、あえて期ズレを発生させることで、負担を避けつつ現地の状況に柔軟に対応できるようになり、効率的に決算作業を進められるのです。
また、親会社側でも、子会社からの報告データを受け取るための時間を確保できるため、連結決算業務全体のスケジュール管理がしやすくなるというメリットがあります。
連結決算で期ズレが生じた場合の対処法【3か月以内の場合】
日本の会計基準では、親会社と子会社の決算日が異なる場合でも、その差が3か月以内であれば、例外的に子会社の決算をそのまま利用し、連結財務諸表を作成することが認められています。
ただし、子会社の決算日から親会社の連結決算日までの期間に、重要な影響を及ぼす取引などがあった場合は、それらの影響を反映するために調整しなくてはなりません。この調整を行うことで、連結財務諸表の正確性と透明性を確保できます。
ただし、最近では3か月以内の期ズレであっても、親会社と子会社の決算日を統一させるために変更するケースや、期ズレ期間のデータを修正する企業もあります。
一方、国際会計基準(IFRS)を適用している場合、原則として決算日の統一が推奨されており、これは子会社だけでなく関連会社にも同様に求められています。
「国際会計基準「IFRS」と日本会計基準の違いは?導入メリットや2027年の改正内容も解説」
連結決算で期ズレが生じた場合の対処法【3か月を超える場合】
日本の会計基準では、親会社と子会社の決算日の差異が3か月を超える場合、そのままでは連結財務諸表を作成することができません。この場合の対応策の一つとして、仮決算を実施する方法があります。
仮決算は、子会社が親会社の連結決算日に合わせて、年度途中での業績を集計し決算処理を行うことです。この仮決算のデータを基に、親会社は連結財務諸表を作成します。
また、根本的な対処法として、親会社と子会社の決算日を統一させる方法もあります。この場合の、メリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
- 仮決算を行う必要がなくなり、決算業務全体の効率化が進む
- 連結財務諸表の整合性が向上し、連結決算の信頼性が高まる
デメリット
- 決算日を合わせる側の企業の負担が大きくなる
- 対応するために追加コストがかかる場合がある
仮決算の実施と決算日の統一、どちらのパターンを選択するかは、企業方針や状況によって異なるところでしょう。業務体制や実際の状況に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。
連結決算の流れ
連結決算は、グループ各社の財務状況や業績を一つの財務諸表にまとめる作業です。以下に、連結決算業務の一般的な流れを、ステップごとに解説します。
●Step1.グループ企業各社が単体決算を行う
まず、グループ内の親会社・子会社・関連会社が、それぞれ単体決算を行います。この段階では、以下の主要な財務諸表が作成されます。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
これらの単体財務諸表が、連結決算の基礎となります。この際、あとから合算することを踏まえ、会計方針を統一しておくことが重要です。
●Step2.連結パッケージの送付・回収
次に、各グループ会社に対して、連結パッケージと呼ばれる共通フォーマットを送付し、必要なデータを回収します。
連結パッケージとは、連結財務諸表を作成するために必要な情報を集める目的で作成された、グループ共通のフォーマットです。データの整合性を保ちながら連結作業を進めるために欠かせないものであり、回収した連結パッケージには各社の財務諸表や補足情報が含まれています。
●Step3.各社の試算表を単純合算
回収した連結パッケージを基に、各社の試算表を単純に合算します。この段階では、各社の数値を足し合わせただけの状態であり、これがグループ全体の状況を確認するための基礎データとなります。試算表を合算する際には、勘定科目を統一させることがポイントです。そして、各社の勘定科目を連結用の勘定科目にマッピングし、統一したうえで金額を合算します。
●Step4.連結修正仕訳の計上
単純合算されたデータに対して、連結特有の調整を行うための修正仕訳を計上します。具体的には、以下のような項目の調整が行われます。
- 親会社と子会社間の内部取引の相殺消去
- 内部取引に伴う未実現利益の相殺消去
この調整を行うことで、グループ全体としての正確な財務状況が反映されるのです。
●Step5.連結精算表の作成
連結修正仕訳が反映されたデータを基に、連結精算表を作成します。この表は、最終的な連結財務諸表の基礎となるものであり、グループ全体の財務状況や業績が正確に整理されている必要があります。
●Step6.開示書類の作成
最後に、連結精算表を基に、法定開示が求められる財務諸表や報告書類を作成します。これには、以下の書類が含まれます。
- 連結貸借対照表
- 連結損益計算書
- 連結キャッシュフロー計算書
開示書類は、株主や投資家などの利害関係者 に向けて開示されます。
このように、連結決算は複数のステップを経て作成されます。それぞれの工程を正確に理解し実施することで、グループ全体の財務状況を透明かつ適切な状態で開示することが可能になるのです。
連結決算の期ズレに関するQ&A
連結決算の期ズレに関する、よくある疑問について解説します。
- 子会社の決算日を変更した場合、どのように処理すべき?
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子会社の決算日を変更する場合、2つの方法で調整を行います。例として、親会社の決算日が3月末で、子会社の決算日が12月末から3月末に変更された場合について解説します。
- 損益計算書で調整する方法
変更があった年の子会社の決算期間は15か月分(1月〜3月の3か月間を含む)として計算し、親会社の12か月分の損益計算書に反映させます。こうすることで、親会社と子会社の決算が整合性を持つようになります。 - 利益剰余金で調整する方法
1月から3月の期間に発生した損益を利益剰余金に計上します。この場合、親会社の12か月分の決算は通常通り処理し、1月から3月までの損益を利益剰余金として処理します。これにより、親会社の連結財務諸表に正確な財務状況が反映され、グループ全体の財務データに一貫性が保たれます。
どちらの方法を選んでも、必ず適切に注記を行い、調整内容を明確に記載しなくてはなりません。自社の会計方針に応じて、どちらの方法が最適かを判断し、正確な決算処理を行いましょう。
- 損益計算書で調整する方法
- 親会社と子会社の決算日を統一することは必須?
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親会社と子会社の決算日を統一することは、必須ではありません。日本の会計基準では、親子間での決算日が統一されていない場合でも、期ズレが3か月以内であれば子会社の決算をそのまま利用して連結財務諸表を作成することが認められています。
ただし、期ズレが3か月を超える場合には、子会社が仮決算を行い、そのデータを基に連結財務諸表を作成する必要があります。
国際会計基準(IFRS)では、親会社と子会社の決算日を統一することが推奨されていることもあり、調整作業を軽減する目的や透明性を高めるために、統一を検討してもよいかもしれません。
- 仮決算を行う際の実務上のポイントは?
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親子間の決算日の差異が3か月を超え、仮決算が必要になった場合、子会社は連結決算日に合わせて正規の決算に準ずる合理的な手続きを行う必要があります。
たとえば、9月決算の子会社が3月決算の親会社に合わせて仮決算を行う場合、9月の本決算の会計記録に10月から3月までの会計記録を追加し、前年度の10月から3月までの会計記録を削除します。その後、9月の決算整理仕訳を修正し、3月の決算整理仕訳を行うとスムーズに進めることができるでしょう。
仮決算の調整作業を円滑に進めるために、子会社が連結決算に対応できるよう、適切な経理システムの導入や十分な人材の確保を検討しましょう。こうした対応によって仮決算の実施に伴う負担が軽減され、効率化を実現できます。
- 期ズレが3か月を超えた場合、どのような影響がある?
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期ズレが3か月を超えると、仮決算が必要となるため、子会社の経理担当者の業務負担が大幅に増えます。子会社は通常の決算とは別に、親会社の連結決算日に合わせて仮決算を実施しなければならず、調整業務や追加の作業が発生するためです。
また、仮決算の作業が長引くことで、親会社側でも子会社からのデータを受け取るための調整業務が増え、スケジュール管理が難しくなることも考えられます。このように、3か月以上の期ズレが発生すると、仮決算を行うための手間と時間が増え、全体の業務効率が低下するリスクがあります。
- 子会社が海外にある場合、期ズレの調整における注意点は?
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在外子会社の期ズレの調整で最も注意が必要なのは、為替換算です。
期ズレがある場合は、在外子会社の決算日における為替レートを使って換算します。そのため、親子間の取引通貨では一致していても、為替レートの違いで差額が出ることがあります。この差額については、通常「為替換算調整勘定」で処理されますが、為替相場の変動が大きくない場合には、「その他資産」「その他負債」として、簡便に処理されることが一般的です。
いすれにしても、期ズレによる影響を正しく調整し、連結財務諸表に実態を反映することが求められます。
連結決算の期ズレへの対応を効率化する方法
連結決算は経理業務の中でも特に複雑で、経理担当者にとって大きな負担となります。ここでは連結決算の期ズレへの対応を効率化し、業務負担を軽減する方法を紹介します。
連結決算は、もともと多くのプロセスを経て行われる複雑な作業です。そのうえ、親会社と子会社の決算日が異なる期ズレがあると、子会社は親会社の連結決算日に合わせて修正や仮決算を行わなくてはなりません。
通常の決算手続きに加えて、期ズレ期間中の取引や収益などの調整作業をこなすとなると、業務負担が非常に大きくなります。特に、調整作業が積み重なってくると、期限に対する焦りからミスのリスクが高まる点にも注意が必要です。
なかには期ズレを意図的に発生させ、業務の効率化やフローの最適化を図っている企業もありますが、どちらにしても経理システムの導入は有効です。システムを活用することで、仮決算や調整作業の負担を軽減し、業務の精度と効率を向上させることができます。
特に、データ管理や報告の効率化を支援するシステムは、複数の子会社を持つ企業にとって重要なツールとなりつつあります。
たとえば、「奉行V ERPクラウド Group Management Model」を導入すると、業務DXによって業務精度とスピードが向上し、リアルタイムでグループ全社の業績を把握することが可能となります。また、グループ全体の連結決算業務にも対応しているため、膨大なデータを一元管理しながら業務効率化を実現できます。これにより、効率的な連結決算作業が可能となり、企業全体の経営判断を迅速かつ正確に行えるようになるでしょう。
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