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業務効率化やDX推進が叫ばれる昨今、新たなソリューションとしてBPaaS(ビーパース)が注目を集めています。しかし、深く理解されていない点も多く、自社に導入すべきか悩んでいる経営者や担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、今話題のBPaaSについて、特定業務をアウトソーシングするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)との違いやメリット、導入する際の注意点などを紹介します。
目次
「BPaaS」とは
BPaaSは「Business Process as a Service」の略語で、「企業の社内業務をアウトソーシングし、成果をクラウドサービス経由で受けとる」という、BPOとSaaSを掛け合わせた事業形態のアウトソーシングサービスです。
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BPOを活用する風土が根付いている欧米で、アウトソーシングする業務に最新のIT技術を取り入れる事業者が現れたことにより、業務の自動化・DX推進の手法として注目されるようになってきました。
●BPaaSとBPOの違い
BPOでは、たまたま同じシステムを活用している場合を除けば、原則としてBPO事業者とシステムを合わせることはありません。どちらか一方または双方がオンプレミスシステム(以下「オンプレミス」)を使用していることも多く、データのやり取りにはメール等を使用するのが一般的です。委託する業務によっては、外部委託先に情報提供する際にデータを加工する必要が生じることもあります。
一方BPaaSでは、委託先となるBPaaS事業者と共通のSaaSサービスを利用します。BPaaS事業者は共通のSaaSサービスからクラウド上のデータに直接アクセスして業務を遂行するため、自社でデータを準備・加工したり転送したりする必要がなく、業務の進捗状況もSaaSサービスを通してリアルタイムに確認することができます。
また、BPaaS事業者はDXのプロでもあります。共通で利用するSaaSサービスの導入から初期設定の代行、運用までサポートするのが基本で、それまで利用していたオンプレミスからのデータ移行や、Excelで管理されているデータもSaaSサービスに合わせて一元化してくれます。これにより、DXに遅れをとっている企業でもラクに自社システムをクラウド化できることから、「業務のアウトソーシングとDXの環境整備を同時にできる」と中堅・中小企業を中心に注目を集めています。
BPO | BPaas | |
---|---|---|
利用システム | 企業と外部委託先は別システムで別管理 | システムを共有 |
データ送信方法 | 転送 外部委託先に合わせてデータ加工の必要あり |
システム内でデータを共有 |
外部委託先の特徴 | 業務のプロ | 業務のプロ DXのプロ |
BPaaS導入で得られるメリット
BPaaSを導入すると、さまざまなメリットが得られます。
① DXが実現しやすい
人材不足が問題となっている昨今、中小企業がIT人材を確保することは非常に困難となっており、思うようにDXが進んでいないケースも多く見られます。
BPaaSでは、デジタル化に必要なノウハウ・経験が豊富なプロが、解決したい課題にフィットしたSaaSサービスを提案から導入までサポートしてくれるため、自社にとって最適な方法でDX化や業務改革を進めることができるようになります。また、必要に応じて新たなSaaSサービスの提案や運用方法などの支援も行い、社内にITに精通した人材がいなくてもラクにDX環境を整えることができます。
② 業務の生産性向上が期待できる
BPaaS事業者には、業務分野のプロが集結しているため、アウトソーシングした業務では高品質が期待できます。SaaSサービスを通して進捗や成果をリアルタイムで確認できるため、業務のスピードアップが実現します。また、業務をアウトソーシングすることで、社内で業務に割いていた時間・人材はコア業務に専念することができ、全社的な生産性向上も期待できます。
さらに、BPaaSで利用するSaaSサービスには業務関連データが集約されます。これまでシステムで管理できなかったExcelなどのデータも、必要に応じてBPaaS事業者が適正な状態でSaaSサービス上にアップしてくれるため、ラクに一元管理できるようになります。
他にも、BPaaS事業者がどのように業務プロセスを回しているのか、SaaSサービスを介して具体的な過程を把握することもでき、そのノウハウを参考にすれば、将来の内製化に向けて人材育成を進めることも可能です。
③ オンプレミスをクラウド化する際のシステム導入負担が軽減できる
これまでオンプレミスを活用していた企業が、自力でSaaSサービスを導入する場合、初期設定や稼働テストなどは自社で対応する必要があり、クラウド運用のノウハウがなければ担当者に思わぬ負担がのしかかる可能性があります。
BPaaSでは、業務だけでなくシステム環境のクラウド化も丸ごとBPaaS事業者に委託できるため、自社で導入準備から稼働テストまで実施する必要がなくなります。必要に応じて導入済の他のクラウドサービスと連携させることにも対応し、適切に業務プロセスをデジタル化・自動化する環境を整えてくれます。
SaaSサービス部分は、月額や年額のサブスクリプション契約になっているものが多く、オンプレミスに比べて初期費用を抑えることができます。最新のプログラムが常に利用できる環境で、追加の保守・管理費などの心配もありません。
BPaaSで提供されている代表的なアウトソーシング業務
BPaaSは日本での認知度がまだ低く、現在は提供しているサービス範囲も経理、人事、顧客関係管理などのバックオフィス業務のアウトソーシングが中心となっています。
ここでは、代表的な業務を例に、どのようなサービスを受けられるかをご紹介します。
●人事管理業務×BPaaS
人事管理業務にBPaaSを導入すると、労務手続き業務や人事評価、採用業務などをデジタル化することができます。
例えば、社会保険や労務関係の手続きでは、BPaaS事業者が社員データをもとに必要な手続きを電子申請します。SaaSサービスの導入から契約する場合は、社員データの取り込みなどにも対応することが可能です。また採用プロセスでは、応募者情報から採用計画に合致する応募者をAIで自動検知したり、就活生からの質問にチャットボットを取り入れたりすることにも、BPaaS事業者が対応してくれます。
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●給与・賞与計算業務×BPaaS
給与計算に特化したBPaaSでは、給与計算業務から明細書配付業務までを丸ごとアウトソーシングすることができます。計算結果は、給与計算に精通したBPaaS事業者が確認して差分と要因を検証するため、高い生産性が期待できます。新たなクラウド給与システムを導入する場合は、導入から初期設定までBPaaS事業者が代行するため、自社で個別に対応する必要がなくなります。
明細書の配付ができるSaaSサービス導入にも対応してくれるため、一気に給与関連業務の自動化が進みます。
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●年末調整業務×BPaaS
年末調整業務にBPaaSを導入すると、従業員への対応も含めて年末調整業務全般をアウトソーシングすることができます。従業員からの申告内容はデータで収集し、年末調整のプロがチェックします。差戻しが必要な場合なども、BPaaS事業者が直接従業員に指示してくれるため、自社担当者が年末調整業務に忙殺されることがなくなります。
また、最終確認された申告データは、BPaaS事業者によって給与システムに自動反映される仕組みが整備され、ミスなく源泉徴収票の作成ができます。対応する範囲によっては、法定調書の作成・申告を電子化することも可能です。
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●経理業務×BPaaS
経理業務では、会計処理はもちろん、請求業務や支払管理業務、立替精算業務などにも対応し、丸ごとデジタル化することも可能です。業務が自動化されることで、入力ミスが減り作業も円滑に進みます。財務・会計に精通したBPaaS事業者がサポートするため、日次業務はもちろん月次・年次の決算業務でも高い品質が維持されます。
また、常に最新のプログラムが提供されるSaaSサービスを利用するため、相次ぐ法改正にも迅速に対応できます。財務状況をリアルタイムで正確に把握でき、いつも最新情報で経営資料を作成することが可能です。
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●顧客対応業務×BPaaS
顧客対応業務では、ヘルプデスクやコールセンターなどをBPaaS事業者にアウトソーシングすることができます。例えば、電話対応のアウトソーシングの場合、自社内での混雑が解消されるだけなく、接客対応に長けたBPaaS事業者が顧客と対峙することで顧客満足度の向上につながる可能性もあります。
また、チャットボットやIVR(自動音声応答機能)など最新のIT技術を導入して効率化を図るサポートもあります。
自社内でカスタマーサービスを持つと、オペレーターの人件費や専用のシステム構築費、維持管理費などの負担が膨らみがちですが、BPaaS同上を利用して業務を自動化すれば、こうしたコストの削減も期待できます。
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BPaaSの導入にあたって押さえておきたい注意点
BPaaSには多少のデメリットもあります。特に、導入の際には次の点に注意しておきましょう。
●契約内容でコストが変わる
BPaaSの料金体系は、サービスの種類や提供企業によって異なります。
例えば、請求書処理のBPaaSは、毎月処理する書類の枚数によって変動する従量課金制になっているサービスが多いようです。従量課金制であれば、必要な分だけ利用できるため、何らかの影響で業務量が変動する場合は、業務量に応じて業務コストを最適化することも可能です。人事管理や給与計算業務などでは、ほぼ従業員数によって月額料金が設定されています。その他、基本料金と従量料金を組み合わせた併用型などもあります。
また、アウトソーシングする業務領域によっては、導入するSaaSサービスが複数になったり、対応する業務時間が長くなったりすることもあります。そうした条件によってもコストが変わるため、見積額と契約内容を充分確認することが大切です。
●利用するSaaSサービスの利用条件に注意
利用するSaaSサービスは、BPaaS事業者と相談の上導入するのが基本ですが、中には、自社の導入済SaaSサービスを利用できたりBPaaS事業者が指定したりするケースがあります。
すでに導入済のSaaSサービスを利用する場合は、BPaaS事業者とシステムを共有できるよう、新たなライセンス契約が必要になる場合があります。SaaSサービスの規約によっては、ライセンス費用が別途発生することがあるため注意が必要です。
また、BPaaS事業者指定のSaaSサービスや新規で導入が必要な場合は、BPaaS事業者との契約が終了すると同時にSaaSサービスも利用できなくなる可能性があります。そのため、解約後に別のSaaSサービスに乗り換えたり、同じSaaSサービスを利用するためBPaaS事業者と交渉したりする必要があります。サービスを乗り換えると、選定・導入にかかるコスト負担やクラウド上のデータ移行作業など稼働までの業務負担が発生します。将来的に内製化も視野に入れている場合は、解約後のSaaSサービスについても話し合っておくことが賢明でしょう。
●業務面とDX面でセキュリティ体制を確認
ここ数年で、サイバー攻撃の被害も甚大になっており、セキュリティ対策は欠かせません。BPaaSでは、アウトソーシングする業務とDXの両面でセキュリティ体制を整備することが求められます。
例えば、アウトソーシング業務においては、「業務のプロ」が対応するとはいえ、人的ミスがゼロとは言い切れません。特に、社員情報や顧客情報などは個人情報にあたるため、自社のセキュリティガイドラインに見合った対応ができるか見極めが必要です。次のような点を確認するなどで、業務上のセキュリティ体制を確認しましょう。
- 個人情報の取り扱いに関する規定(ガイドライン)が存在する
- 個人情報や機密情報を適正に管理した実績がある
- 過去に情報漏洩の事故を起こしたことがない
- 個人情報保護に詳しい外部相談先がある
- 情報漏洩の事故に対応するための保険に加入している
DX領域では、利用するSaaSサービスのセキュリティ体制を確認します。SaaSサービスは、ベンダーによって強靱なセキュリティ体制が整備されています。しかし、ベンダーによって対策の取り方が異なるため、その精度は一様ではありません。利用するSaaSサービスではどのようなセキュリティ対策が施されているかも、しっかり確認しておきましょう。
●トラブル時の対応方法にも注意を
SaaSサービスも、オンプレミスと同様にシステム障害を起こす可能性があります。システムの問題が解決するまでは委託している業務が滞ることもあるため、緊急時の対応やサービスの品質保証、責任範囲などを事前にBPaaS事業者と取り決めておくことも大切です。
また、SaaSサービスに付属しているバックアップ機能は、必ずしも「重要なデータを常に保護して必要なときに完全に復元できる」というものではありません。BPaaSを導入する際は、SaaSサービスのデータの保護範囲についても確認し、必要に応じてBPaaS事業者とデータのバックアップに関する取り決めも行っておくとよいでしょう。
BPaaSを効果的に活用しよう!
BPaaSは、豊富な知見を持ったプロの力とITの力を有効活用し、コスト削減や効率向上を実現する新たなアプローチです。「BPOよりも効率的」と評価されることが多く、AIやIoT、RPAなどの最新技術を取り入れた高度なBPaaSも登場し始めています。
あらゆる業界で人材不足が課題となる中、IT人材不足はかなり深刻で、「知識がないためDXが進まない」という企業も珍しくありません。DX推進に悩む企業はもちろん、「少人数でも確実に業務を回したい」「もっとコア業務に集中したい」等の課題がある場合は、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
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