資本金とは、企業が事業の運営を開始するための元手となる資金、いわば準備金であり、会社設立時に設定されるものです。法律上、資本金が1円でも会社を設立すること自体は可能です。ただし、資本金は運転資金となるだけでなく、取引先や金融機関からの信用を得るための重要な指標でもあるため、起業時に必要な費用や運転資金を考慮して適切な金額を設定する企業が大半です。
本記事では、資本金の基本的な役割、適切な金額の決め方、平均的な相場について解説し、安定した会社経営を目指すために知っておくべきポイントをお伝えします。
目次
資本金とは?
資本金は、会社設立や事業運営の基盤となる重要なものです。まずは、資本金の基本的な意味や最低額、出資方法について解説します。
●資本金の意味
資本金とは、合同会社や株式会社などの会社設立時や増資時に、出資者から払込みされた資金のことです。この資金は事業運営の元手となるものであり、創業者自身が貯えた資金を用意するケースが一般的ですが、第三者である株主や投資家からの出資を募ることもできます。
集められた資本金は、事業運営の基盤となるだけでなく、設備投資や事業拡大のための資金として活用されます。貸借対照表では、「資産の部」から借り入れなどの「負債の部」を差し引いた「純資産の部」に計上されます。
●資本金の最低額
2006年に施行された新会社法では、「1円以上の資本金」で株式会社設立が可能となりました。
旧会社法では「株式会社の場合には1,000万円以上、有限会社の場合には300万円以上」が最低資本金額として定められていたことを考えると、会社設立時に求められる初期費用が大きく下がったといえるでしょう。
とはいえ、資本金1円のままでビジネスを続けることは、現実的には困難であると考えられます。創業時の資本金は、事業運営の元手であると同時に運転資金でもあるため、適切な金額を設定することが大切です。
●資本金の出資方法の種類
資本金の出資方法は「金銭出資」と「現物出資」の2種類に分けられます。
金銭出資とは、現金出資によって計上される資本金のことです。現金を払い込むだけという、手続きのシンプルさとわかりやすさが特徴です。一方の現物出資は、金銭以外の財産を出資することで計上される資本金です。たとえば、自動車やパソコン、有価証券、不動産などの有形固定資産のほか、知的財産権といった無形固定資産も認められています。ただし、金銭で価格を評価できないものは現物出資の対象にはなりません。
現物出資で500万円を超える価格を評価する場合には、第三者の検査が必要です。具体的には、裁判所に検査役の選任を申し立て、選任された検査役が実際の検査を行います。この手続きを経ることで、現物出資の公正性が確保され、出資額の適正な計上が可能となるのです。
資本金の役割
資本金は、企業運営においては単なる元手にとどまらず、他にも重要な役割を果たします。ここでは、資本金が具体的にどのような役割を果たすのかを解説します。
●社会的な信用を得られる
資本金は、企業の財務力を評価する重要な勘定科目です。特に、資本金の額が大きい企業は、取引先や金融機関から、財務的に安定しており信用性が高いと評価される傾向があります。これは、資本金が企業の信頼度を測る基準の一つとして捉えられているためです。
●取引をする際の与信調査に影響する
企業が新たな相手と初めての取引を行う際には、相手方の信頼性を確認するために与信調査を実施することが一般的です。取引を円滑に進めるためには、商品代金などの支払いを確実に行ってくれる、あるいは商品を確実に納品してくれるという信用が必要なためです。また、借入金の返済を滞りなく行う能力も、取引先からの信用を得るために欠かせません。
このように、信用性を判断する情報の一つとして、資本金の額をチェックされることがあるのです。
●融資の借入限度額に影響する
資本金は、融資を受ける際に金融機関が確認する項目の一つです。特に運転資金を借り入れる際には、融資の希望金額に対して一定割合以上の自己資本が必要とされる場合があります。
また、融資の借入限度額は、資本金額と同等、またはその2倍程度が相場とされています。つまり、資本金が多いほど融資可能額も増える傾向があり、事業拡大や資金調達の場面でカギをにぎる重要な要素となるのです。
●運転資金として活用する
資本金は、設立費用や運転資金として自由に使うことができます。また、資本金は出資者から提供されるものであるため、借入金とは異なり、返済義務がありません。そのため、事業を安定させる大きな支えとなります。
ただし、事業開始直後は、売上が見込めない赤字期間が数か月続くことも想定しなくてはなりません。資本金が少ない場合は、早期に運転資金が不足して、事業運営に支障をきたすこともあり得ます。
そこで、資本金を決める際には、当面必要な運転資金の見積額を参考にするのも一つの方法です。確保した運転資金を活用しながら、事業運営の基盤を築くことが事業成功へのカギとなります。
資本金の決め方
資本金を決める際には、複数の要素を考慮する必要があります。ここでは、資本金を決める基準について4つ紹介します。
●初期投資額と運転資金を基準にする
資本金は、初期投資額に加え、最低でも3~6か月分の運転資金を基準に設定することが推奨されます。運転資金の不足によって経営者の個人資産からの借り入れが決算を越えても続いた場合、「役員借入金」として、決算書の貸借対照表の「負債の部」に計上されることになります。
こうなると自己資本比率が低下し、企業の信用度に悪影響を及ぼす恐れがあります。このような事態を避けるためにも、資本金の設定は当面の運転資金をふまえて決定することが大切です。
●助成金や補助金の条件を基準にする
助成金や補助金では、資本金額や従業員数が申請要件として定められていることがあるため、申請を検討している場合は対象となる条件を考慮しなくてはなりません。
特に、国や自治体などの行政機関が取り扱う助成金や補助金では、条件を満たさなければ受給対象から外れてしまいます。事前に助成金や補助金の情報を集め、条件に基づいて資本金額を適切に設定することが申請への第一歩です。
●許認可の条件を基準にする
許認可が必要な業種では、最低資本金額が法律によって定められている場合があります。たとえば、以下のような業種では、必要最低資本金額が明確に規定されています。
業種ごとの最低資本金の例
- 有料職業紹介事業:500万円以上
- 建設業:500万円以上
- 一般労働者派遣事業:2,000万円以上
- 旅行業:3,000万円以上
これらのような業種での起業を検討している場合は、条件について事前に確認しましょう。最低資本金額を満たしていない場合、許認可を得られず、その業種で直接事業を運営することはできません。
●消費税などの納税義務を基準にする
資本金の金額によって、税金の負担も変わります。たとえば、新たに設立した法人は、基準期間がない設立1期目および2期目は原則として消費税の納税義務が免除されますが、資本金または出資の額が1,000万円以上の場合は免除されません。そのため、消費税の負担を節約したい場合には、資本金を1,000万円未満に設定することも一つの基準となります。ただし、資本金は税負担以外にも事業運営や信用力に影響を与える重要な要素であるため、総合的に判断することが大切です。
さらに、法人住民税の均等割は、資本金や従業員数に応じて負担額が増加し、登録免許税も資本金額に比例して増える仕組みです。また、資本金が1億円を超えると外形標準課税の対象となり、税制上の優遇措置が適用されなくなるため、注意が必要です。
資本金の平均相場
資本金の設定額は、会社設立時の重要な検討事項の一つであるため、平均額が気になるところでしょう。政府統計の総合窓口e-Stat「令和3年経済センサス 活動調査」によると、資本金を300万円以上500万円未満で設定している企業が最多であり、全体の約32.8%を占めています。
次に多いのが、資本金1,000万円以上3,000万円未満の企業で、全体の約31.5%です。一方、資本金が1億円以上の企業はわずか1.7%ほどにとどまっており、90%以上の企業が3,000万円未満の資本金で設立されていることがわかります。
資本金額 | 企業数 | 全体の割合 |
---|---|---|
300万円未満 | 192,602社 | 11.4% |
300万円以上500万円未満 | 554,099社 | 32.8% |
500万円以上1,000万円未満 | 244,298社 | 14.4% |
1,000万円以上3,000万円未満 | 532,379社 | 31.5% |
3,000万円以上5,000万円未満 | 70,357社 | 4.2% |
5,000万円以上1億円未満 | 50,480社 | 3.0% |
1億円以上 | 29,523社 | 1.7% |
出典:「令和3年経済センサス 活動調査」(政府統計の総合窓口e-Stat)
資本金の取り扱い方法
資本金は、会社設立時に払込みを行うだけでなく、その後の事業運営においても適切に管理しなくてはなりません。ここでは、資本金の取り扱いに関する基本的なポイントと、注意点について見ていきましょう。
●会社を設立する場合
会社設立の際には、法人登記を行うために、株主である発起人自身が資本金の払込みを行う必要があります。具体的には、発起人の個人銀行口座にあらかじめ設定した資本金額を振り込み、その入金明細や通帳の表紙のコピーを添えて、法務局に登記申請書を提出します。
法人登記の手続きが完了し謄本が完成すると、法人名義の銀行口座を開設することができるようになります。法人の口座が開設されたら、個人口座にある資本金を法人口座へ移動させることで、その後の資金管理をスムーズに行えるでしょう。
●資本金を使いたい場合
資本金は、会社の資金として、常時使用が可能です。ただし、たとえ代表者であっても、資本金を個人的な目的のために使用してはいけません。
資本金は、あくまで企業の運営資金であるため、自社の資金繰りや運転資金として使用しなくてはならないのです。資本金を使用する際は、企業の利益や持続的な成長を念頭に置くようにしましょう。
資本金に関するよくある質問
資本金については、設立時の金額設定から運用、増額、調達方法まで、さまざまな疑問が生じるものです。ここでは、資本金に関するよくある質問とその回答をわかりやすくまとめました。
- 資本金はいくら以上から大企業になる?
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資本金がいくら以上なら大企業と見なされるかは、法的な定義によって異なります。
会社法では、「大会社」を「最終事業年度の資本金が5億円以上」または「負債が200億円以上」の法人と定義しています。
一方、租税特別措置法では「資本金または出資金が1億円を超える」法人、または「常時雇用する従業員数が1,000人を超える」法人を「大規模法人」と分類しています。このように、目的や適用範囲によって法的定義は複数あるため、どの基準を用いるかを確認するとよいでしょう。
- 会社設立後に資本金を増額するには?
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会社設立後に資本金を増額するには、増資の手続きが必要です。増資の方法には、第三者割当増資・公募増資などがあるため、自社の状況に合った方法を選択するとよいでしょう。
たとえば、第三者割当増資の場合、手続きは次のように進めます。まず、株主総会で決議を行い、募集株式の割り当て先を決定します。その後、割り当てを受けた人が期日までに出資金を払い込んだら、払込期日から2週間以内に法務局で増資の登記を行います。
最適な増資方法は企業の状況によって異なるため、詳細については税理士や専門家に相談することをおすすめします。
- 資本金を調達する方法は?
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資本金を調達するための主な方法を3つ紹介します。
- 自己資金を用いる:1円から会社の設立が可能
- 出資を受ける:クラウドファンディングやエンジェル投資家からの出資なども有効
- 現物出資を行う:金銭で価格を評価できるものである必要がある
また、資本金は会社の資産の一部であるため、返済義務のある銀行融資などの借入金は、会社設立時の資本金としては利用できないことに注意してください。
- 資本金のための法人用銀行口座は必要?
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資本金のための法人用銀行口座は、法律上は必須ではありません。金銭出資の場合、会社設立時に資本金を払い込む必要がありますが、発起人個人の銀行口座に資本金を振り込むことで、登記手続きを進めることができます。
とはいえ、法人登記が完了したあとには、法人名義の銀行口座を開設し、資本金を個人口座から法人用口座に移動させることが一般的です。
法人用口座を開設することで、企業の資金管理が明確になるだけでなく、取引先や金融機関からの信頼も得やすくなります。また、法人用口座を持つことで、税務処理や会計業務の効率化にもつながるでしょう。
- 資本金は個人に貸し出してもよい?
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資本金の使い道は基本的には自由なため、個人に貸し出すこともできます。
資本金を個人に貸し出した場合、決算書における貸借対照表には「役員貸付金」という勘定科目が計上されることになります。企業が融資を受ける際には金融機関に決算書を提出する必要があり、この勘定科目は自社の印象について悪影響を及ぼす恐れがあります。
そのため、資本金を個人に貸し出す場合は、企業の状況をしっかり把握したうえで慎重に判断してください。
- 資本金がなくなったらどうなる?
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資本金は、会社が出資を受けた金額を表すものであり、実際の現金の残高を示すものではありません。そのため、資本金として受け取った資金がなくなったとしても、会社が即座に倒産するわけではありません。
たとえば、運転資金が不足した場合でも、売上による収入や銀行からの融資などで資金を補うことが可能です。また、資金不足が予想される段階に至る前に適切な資金調達を行えば、事業の継続は十分できるでしょう。
- 資本金を使うと、貸借対照表に記載している資本金も減る?
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資本金を使っても、貸借対照表に記載される「資本金」の額が減ることはありません。
資本金は、会社設立時や増資時に出資された金額として、貸借対照表の「純資産の部」に計上されます。資本金を使う場合、その金額は現金などの「資産」の減少として記録されることになるため、「資本金」自体に影響を与えることはないのです。
資本金とは会社の信頼と成長を支える基盤
資本金は、会社設立や事業運営における大切な基盤であり、事業規模や信用力を示す指標でもあります。また、資本金の適切な設定と管理は、企業の安定的な経営や持続的な成長に直結します。加えて、資本金を含む経理業務全体を効率化することで、経営資源を有効に活用し、さらなる成長の土台を築くことができるでしょう。
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