SaaS型ERPには「中小企業向けERP」のイメージを持っている方も多く、中には「機能として物足りない気がする」という声も聞かれます。しかし最近は、大手企業を中心に丸ごとSaaS型ERPに置き換える企業が増えているのをご存じでしょうか。
今回は、今注目されるSaaS型ERPについて、他のERPシステムとの違いや大手企業に注目されている理由、SaaS型ERP導入時のポイントなどを分かりやすく解説します。
目次
- SaaS型ERPとは
- SaaS型ERPとオンプレミスERPの違い
- SaaS型ERPが注目される理由
- SaaS型ERP導入のカギは「Fit To Standard」にあり!
- SaaS型ERP導入の3ステップ
- 大切な情報を守るため、セキュリティ対策にもこだわろう!
- おわりに
SaaS型ERPとは
ERPシステムは、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営リソースを一元管理し、企業全体の経営効率化や意思決定スピードの向上を実現するためのシステムです。現在は、インフラ環境をどこに持つかでオンプレミスERPとクラウドERPとに分類され、クラウドERPはベンダーの提供する範囲によってさらに3つの種類に分化します。SaaS型ERPは、このクラウドERPのうちの1つにあたります。
SaaS型ERPは、他のクラウドERP(IaaS型ERP、PaaS型ERP)に比べて、「自社で構築・実装する必要がない」ところが大きく異なります。
例えばIaaS型ERPは、ネットワークやサーバーなどのITインフラ部分においてクラウドサービスを利用しますが、OSやデータベースなどのミドルウェア、ソフトウェアは全て自社で構築・実装しなければなりません。
またPaaS型ERPは、インフラとプラットフォーム(OS・ネットワーク・フレームワークや開発環境)がセットで提供されているクラウドサービスを利用するため、IaaS型ERPほどシステム構築・運用に関する専門知識は必要ありませんが、ソフトウェアは自前で準備が必要になります。そのため、プログラム更新やバージョンアップなども自社で管理する必要があります。
一方SaaS型ERPは、ネットワークからアプリケーションに至るまで、全ての領域でベンダー提供のクラウドサービスを利用するため、システムそのものを自社で管理する必要がありません。そのため、IaaS型ERP、PaaS型ERPのように自社で構築・実装する部分の導入費・管理費が発生せず、SaaS型ERPはクラウドサービス利用料を支払うだけで継続的に利用することができます。
SaaS型ERPとオンプレミスERPの違い
オンプレミスERPは、自社内にサーバーなどインフラ設備をもち、システム構築・運用・保守を全て自社で行うタイプです。これまで大手企業や中堅企業を中心に、日本をはじめ世界中で長く利用されてきました。
オンプレミスERPが日本に登場した1992年当時は、ほとんどが海外製品だったため、日本独特の商習慣に合わせるためにシステムをカスタマイズする必要がありました。この「柔軟にシステム機能をカスタマイズできる」ことがオンプレミスERPの最大の特徴で、今でもオンプレミスERPでは「足りない機能は追加でアドオン開発して運⽤する」ことが一般的となっています。
しかし、導入に大幅なコストがかかり、稼働までの時間も相当見込む必要があります。また、保守を自社で行うため、情シス担当者も必須となります。特に昨今は、IT技術のめまぐるしい進化によって市場の変化が激しく、時間もコストもかかるオンプレミスERPでは対応しきれないことが問題視されています。
一方、SaaS型ERPは自社にインフラ環境やソフトウェアを用意する必要がなく、低コストでスピーディーにERPを導入できます。利用環境も選ばず、インターネット環境と、それにアクセスするためのパソコンやスマートフォンさえあれば、いつでも・どこからでも・海外からでも利用することが可能です。また、最新のIT技術と最新プログラムがベンダー側から自動で提供されるため、進化し続けるテクノロジーをいつでも活用することが可能です。
また、SaaS型ERPではデータの保存場所がクラウド上になるため、災害時などのデータ保全にも役立ちます。セキュリティ対策もベンダー側で行うため、自社内でシステムを管理する必要がありません。
これらの違いをまとめると、次のようになります。
SaaS型ERPが注目される理由
SaaS型ERPは、「月額料金を支払えば簡単にERPシステムを導入できる」「情シス担当者がいなくても運用できる」という点から中小企業を中心に導⼊が進んできました。しかし、最近は大手企業や中堅企業でSaaS型ERPに切り替えようとする動きが目立つようになりました。
なぜ、大手企業や中堅企業はSaaS型ERPを選ぶようになってきたのでしょうか。
その要因には、企業を取り巻く次のような問題が挙げられます。
1つは「顧客や市場の多様化・変化の加速化」です。昨今は、顧客や市場ニーズの多様化も相まって、新たな製品・サービスが生まれるスピードが速まっています。一方で、製品のライフサイクルは短縮傾向にあり、たとえヒットしてもあまり長続きしません。そんな中で企業が継続して成長し続けるためには、顧客や市場のニーズを迅速に察知し、スピードある経営判断が必須となります。
また、人口減少・高齢化が加速し人手不足が問題となる一方で、現在働いている従業員も、育児や介護との両立など問題を多く抱え、離職する人が増えています。このような働き手不足の中で、企業がこれからも多様な人材を確保するためには、雇用形態や勤務形態、テレワークやサテライトオフィスなどの「働く場所」なども多様化する必要に迫られています。
さらに、地震大国でもある日本では、災害時に備えて企業の重要なデータを守る“BCP対策”も進めておかなければなりません。
このような状況を鑑みると、「AIをはじめとする最新テクノロジーを活用して業務のデジタル化やDX化を推進すること」「いつでも・どこでも・安全に・スピーディに業務が行える環境を実現すること」は時代の要請と言えます。
しかし、オンプレミスERPでこれらに対応するには、最新テクノロジーを導入するたびにアドオン開発やカスタマイズが必要になります。また、多様な働き方を実現するには、オンプレミスERPをオンラインで利用できるように再構築する必要も生じ、さらに相当のコスト・時間がかかります。たとえ企業体力のある大手・中堅企業であっても、なかなかこのような改修に舵を切ることは難しいでしょう。さらに、昨今は急速なデジタルシフトによってITエンジニア不足も深刻化しており、大手・中堅企業でも専任の情シス担当者を確保することが難しくなっています。
その点、SaaS型ERPには「常に新しいテクノロジーを取り入れ、利用者の業務生産性向上を目指して成長し続ける」という特性があります。クラウドサービスで提供されるソフトウェアを利用するだけで、業務のデジタル化・DX化を簡単に実現することができ、業務の精度向上・生産性向上をもたらします。
あらゆる企業情報とつながることができるため、自社の状況をリアルタイムにデータで把握できるようになり、データに基づいた経営判断を迅速に行うこともできます。制度改正にも手間なく確実に対応でき、業務負荷をかけることがありません。
これらの特徴に加え、「アドオン開発・カスタマイズをする必要がない」「短期間で導入・運用できる」ことも大手・中堅企業にとって大きなメリットとなっています。ライセンスや機能の追加・契約解除も容易に行えるため、企業の成長に合った最適なシステム環境で利用することができ、システム運用管理はベンダーが行うため、情シス担当者のリソースを積極的なIT投資の検討などに充てられます。
このような特徴が、大手・中堅企業のSaaS型ERPへの関心を高める要因となっています。
現代は市場の変化スピードがめまぐるしく、企業が対応するためには「クラウド化」は外せなくなっています。その中でSaaS型ERPが注目されているのは、変化のスピードに合わせて“手間なく・素早く”システム環境を整備できる点が評価されていると言えるでしょう。
SaaS型ERP導入のカギは「Fit To Standard」にあり!
従来のシステム選びと同様、SaaS型ERPの導入時も、ERPの機能要件を明確にすることは重要です。ただし、オンプレミスERPと同じ考え方で導入・運用すると失敗する恐れがあります。
SaaS型ERP導入検討の際は「カスタマイズへの制限」をどうカバーするかがポイントです。
SaaS型ERPは基本的にカスタマイズできないため、これまでのように「業務に合った機能」で自社への適合率を高めるのは困難を極めます。市場にはカスタマイズできるSaaS型ERPも存在しますが、たとえカスタマイズができたとしても、SaaS型ERPは短期間で新機能がリリースされるためバージョンアップによって機能が重複する可能性もあり、旧システムのように構造が複雑化する恐れがあります。また、バージョンアップのたびに開発したアドオンを検証する必要があったり、他のクラウドサービスと連携できないという不具合が生じたりすることもあります。
こうした事態を防ぐため、SaaS型ERPでは「Fit To Standard」の考え方で「組み合わせて使う」ことが推奨されています。
「Fit To Standard」とは、「システムを自社の業務プロセスに合わせる」のではなく「業務をシステムの標準機能に合わせる」というものです。「Fit To Standard」はERPシステムを標準機能のまま使うことを基本としているため、アドオン開発等は行いません。現在のERPには、様々な業務ニーズに対応できるよう成功企業のベストプラクティス機能が標準装備されているため、独自にアドオン開発を行わなくても様々な業務に対応することができます。
また、SaaS型ERPと連携して使えるクラウドサービスや、プログラミング知識のない人でも簡単な業務アプリを作成できるノーコード・ローコードツールも、市場に数多く提供されています。SaaS型ERPなら、こうしたサービスやツールを組み合わせることで、専門家の手を借りてアドオン開発やシステムのカスタマイズをしなくても、標準機能で補えない業務にも対応するシステム環境を構築することができるのです。
※「Fit To Standard」の詳細は、コラム『 「Fit To Standard」とは?これからのERPシステムで押さえておきたいポイント』も参照ください。
SaaS型ERP導入の3ステップ
SaaS型ERPを導入する際は、次の3つのステップで自社のニーズに合わせたERP環境を構築します。
Step.1 標準機能にあわせて業務を変革する
SaaS型ERPを選ぶ際は、システムの標準機能に合わせて自社の業務を変革することから始めます。「どの業務が標準機能を使って進められるか」「標準機能で進められない場合、その業務は必要か」「標準機能で業務を遂⾏するには何を変えればいいか」といった目線で、ERPの機能を使いこなせるよう業務のやり方を見直します。
ただし、業務担当者にとっては「慣れ親しんだやり方ができない」ことがストレスになることもあります。できるだけ多くの業務を標準機能でカバーでき、かつ、業務担当者の使いやすさや操作手順などの点もしっかり確認して選ぶのが肝心です。
例えば、奉行V ERPクラウドの場合、バックオフィス部門の幅広い業務を網羅できる機能が標準装備されています。お客様の声からベストプラクティスを追求し、最適な業務処理機能で生産性向上を目指せるよう設計されており、中堅・成長・上場・IPO実現・グループ企業など業種を問わず様々な企業で利用されています。Windows操作を基本としているため、業務担当者には馴染みのある操作性で、業務中の使い勝手にもこだわっています。また、勤怠や労務関係の申請など、従業員業務をデジタル化する奉行クラウド Edgeを利用することで、企業の業務全体をカバーすることができます。
Step.2 クラウドサービスとの組み合わせを検討する
いくら業務を変革しようとしても、業種・業態特有の業務までシステムの標準機能で対応することは難しいケースもあります。どうしてもシステムの標準機能では対応できない業務要件には、クラウドサービスをつなげて使うことを検討します。
すでに市場には1,000を超える種類のクラウドサービスが存在しており、SaaS型ERPにはAPI連携で利用できるクラウドサービスが多くあります。例えば、奉行V ERPクラウドに連携できるクラウドサービスは100種類を超えており、各業務領域において最適なサービスを組み合わせて導入することができます。それぞれのサービスの強みを活かしつつ、奉行V ERPクラウドがデータをつなぐことで、ひとつのサービスのようにシームレスに運用することができます。
Step.3 ノーコード・ローコードツールの活用を検討する
自社の業務にマッチしたクラウドサービスもなく、最適な業務プロセスを組めない場合は、ノーコード・ローコードツールを使って、業務アプリの開発や既存の業務システムとデータを自動連携させることを検討します。
ノーコード・ローコード開発ツールは、ITエンジニアに頼らなくても、直感的な操作で自社アプリを作成できる開発ツールです。基本的にクラウド上で利用するサブスクリプションのため、SaaS型ERPとも相性がよく、開発スピードも速いため、すぐに実装して自社特有の業務をカバーすることができます。
ただし、ノーコード・ローコード開発ツールをSaaS型ERPとつなげるには、システムにプラグインやAPI連携する必要があります。
例えば奉⾏V ERPクラウドでは、DX業界内で実績と信頼性の高いノーコード・ローコード開発ツールと“つながる”アダプタを標準提供しています。こうした開発ツールと“つながる”ことで、個別の独自業務要件や複数サービス間のデータ連携にも柔軟に対応することができます。
大切な情報を守るため、セキュリティ対策にもこだわろう!
SaaS型ERPには、セキュリティリスクを懸念する声もあります。システム上のセキュリティ対策はベンダーにとっては事業の存続問題になるため、データの暗号化、アクセス制御、バックアップと復旧など、強靱な対策がとられていますが、その方法はベンダーによって異なります。そのため、どのように安全性を確保しているか、そもそも信頼できるベンダーかなどを深く吟味することが肝心です。
例えば、奉⾏V ERPクラウドの場合、Microsoft社が提供するMicrosoft Azureをプラットフォームとし、Microsoft社の強固なセキュリティ体制を活用しています。また、財務報告に係る内部統制を対象とした「SOC1 Type2」報告書※1、セキュリティに係る内部統制を対象とした「SOC2 Type2」報告書※2を取得しており、FISC(金融情報センター)が策定するFISC安全対策基準※3にも準拠しています。
奉⾏V ERPクラウドのセキュリティ対策については、コラム「クラウドの安全性と情報漏洩リスクを奉行シリーズの対策から解説 」でも詳しく解説しています。
※1:アウトソーシング事業者が委託されている業務のうち、委託会社の財務報告に係る内部統制の適切性・有効性を対象とした保証報告書
※2:ある一定期間期間におけるクラウドサービス会社のセキュリティの内部統制を評価する保証報告書
※3:金融機関等の⾃自主基準としてFISCによって策定され、金融機関等の情報システムの安全対策に関するデファクトスタンダードとして活用されている安全対策基準の解説書
おわりに
SaaS型ERPは、クラウドサービスやノーコード・ローコード開発ツールと組み合わせることで、自社独自のシステム環境を短期間で構築でき、かつ、最新テクノロジーを活かしてビジネスの変化に迅速に対応できる、まさに「デジタル時代のERPシステム」と言えます。
ただし、市場で提供されているSaaS型ERPには、それぞれに特徴があります。機能紹介資料だけでは分からないことも多くあるため、今回ご紹介した導入ポイントを参考に、ベンダーと相談しながら自社にとって最適なSaaS型ERPを検討してみてはいかがでしょうか。
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