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人的資本経営とは?メリットや情報開示のルールなど“基本のキ”をわかりやすく解説

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最近、人的資本経営が注目されています。世界的な潮流を受け、日本でも人的資本の情報開示が求められるようになり、これからの企業経営には必須のキーワードにもなりつつあります。
一方で、人的資本経営を意識しつつも「まだ概要も理解しきれていない」という方は多いのではないでしょうか。
今回は、人的資本経営の概念や背景、推進手段となる「3P・5F」、情報開示など、今さらだけど押さえておきたい基本的なポイントを紹介します。

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目次

人的資本経営とは 〜これまでの人材戦略とどう違うのか?

人的資本経営とは、人材を企業の“資本”と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上へと繋げていく経営手法です。
そもそも、「人的資本」という言葉には一貫した定義はありません。そのため、発信する機関や企業など、主体によって意味やその範囲に微妙な違いがあります。例えば内閣官房では、人的資本について次のように定義しています。

出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会 PDF「人的資本可視化指針

人的資本経営が注目される背景には、経済産業省が2020年に発表した「⼈材版伊藤レポート」において、人的資本経営の重要性が強調されたことがあります。
従来の考え方では、人材は資源の1つとされてきました。「ヒト・モノ・カネ」といわれるように、資源はコストとして消費するものに当たるため、「可能な限り効率的かつ少なく回す」が基本となっています。そのため、人材にかける費用も、なるべく抑えることが理想とされてきました。
一方、人的資本経営では、人材は「利益や価値を生む存在」として、“資源”(Human Resource)ではなく“資本” (Human Capital)に位置づけられます。個性を充分に育成・活用することは、資本としての人材に投資することになり、代替不可能な価値が向上することで自社の企業価値も創造され、結果、利益として企業に還元されていくことで、企業経営の好循環が生まれます。

⼈材版伊藤レポートでは、これまでの人材=“資源”とする人材戦略と人的資本経営における考え方の違いを次のようにまとめ、変化が激しい現代には「これまでの成功体験に囚われることなく、企業も個人も変化に柔軟に対応し、想定外のショックへの強靭性(レジリエンス)を高めていく変革力が求められる」としています。

変革の方向性

出典:経済産業省 PDF「人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート2.0〜

現在は、2022年に設立された「⼈的資本経営コンソーシアム」を中心に、持続的な企業価値の向上を目指し、人的資本経営の実践に関する先進事例の共有、企業間協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討などが進められています。また、このコンソーシアム活動を通して、「人材への投資」に積極的な姿勢を示す日本企業が世界中から資金を集め、次なる成長へと繋がっていくことを目指しています。

人的資本経営が注目される背景
〜これからの企業経営に向けられる4つの社会的要請

人的資本経営が注目されている背景には、今企業経営に求められている次のような視点も大きく影響しています。

[1]多様な人材、多様な働き方から見た要請

少子高齢化により労働人口減少に歯止めが利かない今、外国人労働者やシニア世代など様々な人材の登用が重視されています。また、時短勤務やリモートワークなど働き方そのものも多様化しており、従来の画一的な人材管理では限界を迎えつつあります。
こうした社会の変化を受け、一人ひとりの事情や状況に合わせた勤務形態で「個」を活用し、パフォーマンスを最大限に引き出す人的資本経営が、持続的な企業経営のため必要と考えられています。

[2]投資家から見た要請

投資の世界では、「無形資産」を投資判断の指標として評価する傾向が高まっています。そのため、投資家をはじめとするステークホルダーは、企業の将来性を判断するために人的資本経営に関する情報開示を強く求めるようになっています。
上場企業・IPO準備企業にとって、今後はさらに「人的資本」の指標を抜きに企業価値を考えることができなくなっていくでしょう。

[3]世界的動向から見た要請

昨今は、持続可能な社会を目指した取り組みが世界的に注目されており、「多様性の尊重」「エンゲージメント」といった人に関する指標を重視する経営が高く評価されています。
例えば人的資本は、ESG投資では「社会」と「ガバナンス」に含まれています。またSDGsでは、目標8に設定されている「働きがいも経済成長も」やダイバーシティ・人材育成などの項目にも該当します。
このように、企業の成長性を評価する上で、いまや人材への投資は重要な判断ポイントとなっています。

[4]デジタル化時代の経営戦略から見た要請

様々な定型業務が自動化することで、“人”の付加価値は「さらなるイノベーションを生み出すこと」にシフトしつつあります。DXの推進により産業構造も変化する中、企業は将来に向けてさらなる挑戦的な経営改革を迫られています。そのための新たな付加価値創造を担うのは “人”であり、人的資本経営の基本でもある「一人ひとりを最大限に活かす」視点を取り入れることが、今後の持続的な企業成長には欠かせないと考えられています。

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企業が人的資本経営に取り組むメリット

企業が人的資本経営に取り組むと、社内外に向けて次のようなメリットが期待できます。

● 従業員の能力を可視化できる

人材育成を通して、従業員がどのような能力を持っているのか、一人ひとりの知識やスキルを正確かつ詳細に把握しやすくなります。人的資本経営では個人の能力を可視化することになるため、本来のパフォーマンスが発揮できる人材配置が可能になります。

● 生産性が向上する

人的資本経営では人材に投資するため、従業員のスキルアップと成長が促され、業務の生産性が向上します。一人ひとりが今まで以上にパフォーマンスを発揮すれば、企業全体の利益拡大も実現します。その利益をさらに人的資本に投入することで、従業員と企業がともに成長し合える好循環が生まれます。

● 従業員エンゲージメントが向上する

人材育成に力を入れると、企業に対して「自分たちの成長に投資を惜しまない職場」と認識しやすくなるため、従業員のモチベーションの維持・向上が期待できます。従業員のモチベーションが高まることで、企業への帰属意識も強まり、離職率の低下などにもつながります。

● 企業ブランディングになる

人材育成に力を入れる企業は、一定の社会的信頼を得られやすく、企業イメージの向上にもつながります。
世間の人々から「この企業で働きたい」と思われることで、優秀な人材も集まりやすくなり、企業競争力の強化にもつながります。

● 投資家に注目されやすくなる

投資家などのステークホルダーにとって、人的資本経営は企業価値を判断するために欠かせない重要な指標です。人的資本経営に積極的に取り組んでいる企業は、利益だけでなく社会的価値も高いと評価され、投資対象として認識されやすくなります。
投資額が増えれば、企業のさらなる発展と成長が見込め、新商品・新サービスの開発や新規事業の立ち上げなども積極的に行えるようになるでしょう。人材への投資もさらに充実させることができるため、結果として生産性向上や企業ブランディングに直結しやすくなります。

人的資本経営のフレームワーク「3P・5Fモデル」とは

⼈材版伊藤レポートでは、人的資本経営を本格的に実現するためには「3P・5Fモデル」と呼ばれる人的資本経営のフレームワークが必要、とされています。

「3P」とは、「人材戦略を検討する際にどのような視点から俯瞰すべきか?」という視点(Perspectives)のことで、次の3つを挙げています。

視点1経営戦略と人材戦略の連動

人的資本経営では、経営戦略と表裏一体で人材戦略を考えることが求められます。経営陣主導のもと、経営戦略とのつながりを意識しながら、必要とする人材の確保に向けて具体的なアクションやKPIを検討することが必要です。

視点2As is-To beギャップの定量把握

経営戦略と人材戦略を連動させるためには、現状(As is)と理想(To be)のギャップを可視化することも重要です。定量化することで、ギャップを作り出している問題点や課題を洗い出し、ギャップを埋めるように人材戦略の組み立て・見直しを繰り返すことで、経営戦略を実現へと導きます。

視点3企業文化への定着

人事戦略には、実行した結果、企業文化として定着したかという視点も大事です。企業文化は、従業員との間で企業理念やパーパス(存在意義)、行動指針が共有されていることで醸成されます。そのため、人材戦略の実行プロセスでも理念やパーパスを意識することは非常に有効です。

また「5F」は、業種を問わずいかなる企業でも共通して組み込むべき人材戦略の要素(Factors)です。人材版伊藤レポートでは。次の5項目を挙げています。

要素1動的な人材ポートフォリオ

人材ポートフォリオは、その人のスキルや経験、在籍部署や在籍期間など、人材を構成する内容を記したものです。つまり「動的な人材ポートフォリオ」とは、リアルタイムにポートフォリオを可視化できる状態を指しています。
リアルタイムな人材情報を活用することで、経営課題に必要なスキルや経験を活かした人材配置が可能になります。また、将来的な経営戦略の実現には、未来から現在へとさかのぼる形で、戦略的に人材を質・量の面から最適化・拡充させることもできます。

要素2知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

顧客ニーズが多様化し続ける昨今において、対応する人材にも幅広い経験・視点は欠かせません。多様な個性や経験を持った従業員がそれぞれを認め合い、個々の特性を活かした企業活動が行われる環境こそ、人的資本経営に望ましいと言えます。

要素3リスキル・学び直し

顧客一人ひとりの多様な価値観に対応するためにも、従業員が新たなスキル習得や学び直しを行うことは重要です。人的資本経営では、従業員が自らのキャリアを見据えて学び直しができるよう、企業が自律的にキャリア構築を支援することが必要とされています。

要素4従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントは、企業と従業員、従業員同士の信頼関係のもと醸成される、愛社精神や貢献意欲です。従業員が能力を充分に発揮するためには、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができるよう、環境を整備・提供することが求められます。人的資本経営では、結果としてそれが経営戦略の実現に直結すると考えます。

要素5時間や場所にとらわれない働き方

在宅勤務やリモートワークなど、「いつでもどこでも働ける環境」は、今や事業継続の観点からも重要なポイントです。働き方に対する意識も多様化しており、より多くの従業員が様々な働き方を選択できるよう、業務プロセスや社内コミュニケーションのあり方、マネジメントなどを見直すことも人的資本経営には必要とされています。

人材版伊藤レポートでは、こうした3つの視点と5つの要素を意識しながら、具体的な戦略・アクション・KPIを練ることが企業にとって重要である、と説いています。

人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)

出典:経済産業省 PDF「人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート2.0〜

人的資本経営における情報開示のあり方

人的資本経営における重要な取り組みとして、人的資本の情報開示があります。

世界では、国際標準化機構(ISO)が公開した「ISO30414」(人的資本に関する情報開⽰のガイドライン)が、SEC(米国証券取引委員会)をはじめ多くの国で人的資本に関する情報開示のルールとして採用されています。ISO30414は、企業の内外を問わずあらゆる関係者に向けて、人的資本に関する情報をどのように報告すれば良いかという指針で、次の11領域において49項目の情報開示規格が定められています。

1.コンプライアンスと倫理 企業のコンプライアンスや倫理全般を含む領域
2.コスト 給与や人件費など、人材にかかるあらゆるコストの領域
3.ダイバーシティ(多様性) 企業の人材の多様性についての領域
4.リーダーシップ 社長やCEO、CHROなど、社内でリーダーシップを発揮する人材についての領域
5.企業文化 従業員のエンゲージメントやコミットメントなど、企業文化に関わる領域
6.企業の健康・安全・福祉 企業の健康経営に関する領域
7.生産性 従業員一人当たりの生産力など人材と利益の関係性についての領域
8.採用・異動・離職 従業員の採用や移動、離職についての領域
9.スキルと能力 従業員のスキルや能力、その向上のための取り組みについての領域
10.後継者育成計画 CEOなど社内の重要なポジションにおける後継者の育成に関する領域
11.労働力 企業が確保している労働力に関する領域

日本では、明快な情報開示のルールが定められているわけではありませんが、2023年1月31日に交付された「企業内容等の開⽰に関する内閣府令等の⼀部を改正する内閣府令」(改正開⽰府令)によって、上場企業に対しては、2023年3月31日以後に終了する事業年度に関する有価証券報告書などから、次のような情報の開示が義務化されることになっています。

  • サステナビリティに関する考え方および取り組み
    (「ガバナンス」「リスク管理」は必須、「戦略」「指標及び目標」は重要性に応じて)
  • 人的資本、多様性に関する情報(女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差など)
  • コーポレートガバナンスに関する情報
    (取締役会、各委員会の活動状況、内部監査の実効性に関する取り組み、政策保有株式の発行企業と業務提携などを行っている場合の説明)

金融庁ホームページより

このうち、人的資本に関する情報開示については19項目が定められていますが、必須となっている項目はごく一部となっており、企業ごとの現在の取り組み状況に応じて柔軟に対応できるとされています。

開示する情報は、人的資本に関する指標が経営戦略に紐付いていることがナラティブ(物語的)に理解できるものが求められます。そのため、2022年に内閣官房が発表した「⼈的資本可視化指針」では、次のように人的資本の可視化を進めることが望ましいとされています。

出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会 PDF「⼈的資本可視化指針

日本での情報開示の義務化は、まだ上場企業に限定するものですが、将来的には中小企業などへも拡大される可能性があります。今後の世界的な動向も視野に入れ、人的資本の情報化に対応できるように、今のうちに情報開示のポイントや必要項目について理解を深めておくと良いでしょう。

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人的資本経営の“はじめの一歩”は「情報の一元管理」から!

ここまで、企業の継続的な発展には、人的資本を高めることが重要と解説してきました。では、具体的に何からはじめればよいのでしょうか。

まず押さえておきたいのは、経営戦略と人材戦略が連動するために、従業員のスキルや能力を可視化することです。
これまでは、人材=資源という意識のもと、多くの企業で「適材適所」・・・その人が能力を発揮できる場所に配置する考え方が重視されてきました。
人的資本経営では、目標達成のためにどのような役割や機能が必要なのかをあらかじめ想定したうえで、そのポジションに必要な人を配置する「適”所”適”材”」の考え方が必要です。この「適”所”適”材”」を実現するためには、従業員一人ひとりがどんなスキル、能力を持っているかを、これまで以上に細かく把握しておくことが重要になります。

しかし、様々な業務でデジタル化が進む一方、「人事情報だけはExcelなどで管理している」という企業は多くあります。そのため、「適切な人事情報の管理がしたくてもできない」という声もよく聞かれます。
従業員のスキルや能力も、大切な人事データです。最近は市場においても、タレントマネジメントシステムなどのHRテックが数多く提供されており、そうした仕組みを活用しながら人事データを集約・一元管理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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こうした仕組みを利用すれば、社員の能力把握や必要に応じたスキル研修などの実施が可能になり、従業員エンゲージメントを向上させ、社内の人的資本の価値をさらに高めることにもつながるでしょう。

おわりに

人的資本経営は、今後企業の継続的な発展のために欠かせない取り組みとなっていくことは明白です。人材をうまく活用できれば、変化の激しい現代でも生き残ることができる強い企業体力が身につくことでしょう。
物価高・円安など先行き不透明な時代だからこそ、これを機に、経営戦略に人的資本の考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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