株式会社workup人事コンサルティング
社会保険労務士内野光明事務所
代表・特定社会保険労務士内野 光明
『「健康経営」とは?真の意味からその必要性を考える』において、企業版働き方改革は、健康経営を進めるためのひとつの手段である、ということが分かりました。その企業版働き方改革の本丸は、何といっても労働時間改革と人事賃金制度改革と言えます。
労働時間改革における長時間労働是正を例にとると、度々メディアに登場する「勤務間インターバル制度」や「在宅勤務制度」などが一例として挙げられます。「勤務間インターバル制度」は、勤務終了後、一定時間以上の休息期間を付与することで労働者の生活時間や睡眠時間を確保するものであり、休息時間の確保による労働者の健康確保を目的とした制度です。本制度は、2019年4月から企業規模にかかわらず努力義務が課されることになりました。「在宅勤務制度」は、事業場外みなし労働時間制(労基法38条の2)を適用できるものであり、また、大手企業では導入が進んでいることは周知のところです。在宅勤務とは、文字通り、就業場所を自宅に設定することにより、育児・介護を行う労働者の離職防止や高度専門職にとってさらにクリエイティブに勤務できる環境の整備等を狙いとしています。この在宅勤務制度についても同様に、働き方改革実行計画に登場するキーワードです。
政府は、この2つについて働き方改革を後押する制度と位置づけ、職場意識改善助成金の枠組みにおいて、助成金を用意し、その活用を促しています。
政府の号令のもと、制度や助成金などが整備されていく中で、いずれの企業も、生産性の向上、すなわち長時間労働の是正に焦点を当てて具体的に時短を進めています。しかし、憂慮すべきことを一つ挙げるとすると、単純に労働時間を短くしていくことは、社員の皆さんにとって本当に喜ぶべきものなのかどうか、いささか懐疑的であるということです。というのは、仮に、職場環境が整い、行動や能力、ひいては社員の意識が変わったとしても、そこには、時間外労働時間数が減少する分、各人の残業手当が減少するという構図が浮上します。もっとも長時間労働が甚だしい職場は別ですが、経済的な観点からいうと、必ずしもウェルカムではないと思うのです。このような背景のもと、人事賃金制度を整え、生産性を高め、成果を創出している社員や当該組織のリーダーには高評価を与え、削減された残業手当分を彼らに原資配分しなければ、モチベーションが高まりません。ここで、冒頭に挙げた人事賃金制度改革の出番です。これは、時間から成果へと会社が社員を誘導させる施策であり、時短は、人事賃金制度と一緒に取り組むべき内容と考えられます。
また、2021年にはすべての企業が「同一労働同一賃金」の実現に直面することになるため、人事賃金制度改革は今後の労務管理において避けて通れないものであり、制度策定の機運が高まっているものと思われます。ちなみに帝国データバンクの調査(平成30年2月調査)では、56.5%の企業が賃金体系見直しを実施しており、その割合は中小企業で高くなっているというデータを公表しました。まさに、健康経営が求める、「資産として優れた人材の確保」に向け、各社は着実にその一足を踏み出し始めている証左だと思います。なお、政府は、人事賃金制度を策定に取り組む企業に対し、人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)という助成金を用意していますので、こちらも活用していきたいものです。
「わが社の働き方改革を急げ」ということは、とりもなおさず「健康経営」の推進を急ぐことであります。これからの会社の安定と発展には、資産として優れた人材をいかに確保し、毎日を活き活きと勤務いただくか、という着眼点は不可欠です。「健康経営」を通じ、良い会社づくりに邁進いただくことを願っております。
内野 光明 株式会社workup人事コンサルティング/社会保険労務士内野光明事務所代表・特定社会保険労務士
大学卒業後、大手メーカーでの人事部、人事コンサルティング事務所を経て2009年にworkup人事コンサルティングを設立。『会社に安定と発展を 社員にいきがいと成長を』をモットーに“社外の人事部長”として労使間の様々な労務問題を解決に導く。リスクを回避した「就業規則」、課題解決型の「賃金制度」、会社の業績向上と人材育成に軸足を置いた「人事考課制度」等の策定を中心に総合的な労務相談を得意とする。各種セミナーは、ほぼ毎月開催し、実務に直結する内容が毎回好評を博している。1972年生まれ。神奈川県平塚市出身。
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