株式会社BDO人事総合研究所/BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役 高瀬 武夫
非正規社員(パート・アルバイト、有期雇用、派遣)の賃金は正規社員の約6割に留まっています。ドイツの約8割、フランスの約9割に比べると我が国の非正規社員の賃金は見劣りします。このように待遇差のある非正規社員は今や労働者の約4割を占めるに至っています。安倍内閣は労働者の約4割を占める非正規社員の賃金を正規社員の約8割までに引き上げることを狙いとしています。最低賃金法による最低賃金を大幅に上げ(平成27年改訂実績:全国平均で24円UPの823円。政府目標1000円)、2016年12月末には「同一労働同一賃金ガイドライン案」が公表され、正規社員と非正規社員における不合理な待遇差の解消を目指しています。つまり、労働者の約4割を占める非正規社員の賃金を引き上げ消費拡大につなげ経済成長を促す政策です。
では、「同一労働同一賃金」とはどういうことでしょうか。一口で言えば「同じ仕事をしていて同じパフォーマンスであれば、年齢、性別、人種、学歴、勤続年数、雇用形態にかかわらず同一賃金を払いなさい」ということです。具体的なケースで見てみましょう。
生鮮スーパーにパートタイマーとして8年務めるAさんは最近ニュースで「同一労働同一賃金」について知りました。どうやら同じ仕事をしていれば正社員でもパートタイマーでも同じ賃金が支払われるようになるらしいと理解しました。現在Aさんは職場で今年の新入社員(大卒:総合職)のB君をOJTで現場業務を教えながら一緒に同じ仕事をしています。まさに同一労働です。そこでAさんは考えました。
「私はB君と同じ仕事をしている。同一労働同一賃金ならば私とB君の賃金は同一でよいはずだが、どうみてもB君の方が高い。電卓で計算してみよう。」
<B君>
初任給:200,000円 夏賞与:50,000円 冬賞与:200,000×1.5ヶ月=300,000円
月所定労働時間:168h(21日×8h) 年間所定労働時間:2016h(168h×12ヶ月)
B君時給=200,000×12か月+50,000+300,000/2016h≒1364円
<Aさん>
時給=900円 賞与:なし
「あれれ、約1.5倍も違いがあるぞ。」翌日Aさんは店長を訪ねます。
「店長、同一労働同一賃金ですよね。私と新人B君は同じ仕事をしています。しかし時給はB君の方が私の1.5倍も高いです。これ、おかしいですよね。私の時給も1350円に値上げしてください。」
返事に困った店長は人事部長に相談に行きました。
「Aさんの時給を上げなければいけないのでしょうか?」
人事部長は答えます。
「確かに現時点においてはAさんもB君も同様な仕事をしていると言われてもしかたない状況といえるね。でもAさんとB君とでは人材活用、将来のキャリア開発などが明確に異なっている。B君は大卒:総合職として採用され、今は確かに店舗で現場業務をAさんと一緒に担当してもらっている。でも半年後には、精肉・鮮魚・青果・グロサリー部門など他の部門に異動してもらい2年程度で全部門を経験してもらう。その後は同一エリア、あるいはエリア外の店舗に異動してもらい経験を積んでもらう。そして次のキャリア開発としては本人の希望もあるが、スーパーバイザー、本部バイヤー、海外店舗などのキャリア形成をしてもらう。つまり、B君は辞令一本でどこでも・どんな職務でも経験してもらう人材活用コースに乗っている。Aさんは、特定店舗の特定業務しか担当しない。さらに、今AさんとB君は一緒に働いているがB君にはクレーム対応などの突発的な場面も対応してもらう役割を負っている。将来の幹部社員に育成するためのステップと考えるからだ。しかし、Aさんにはこうした
①職務の内容と責任の程度
②人材活用の仕組(大卒:総合職)
において違いがある。「同一労働同一賃金ガイドライン案」においてもこのような違いがある場合における待遇差は不合理な待遇差ではないとしている。よってAさんの時給を上げる必要はないと会社は判断しているよ。しかし課題もある。ガイドライン案において正社員に賞与や定昇の仕組みがあるのにパートタイマーに賞与・定昇の仕組みがないのは不合理な待遇差としている。今後、当社においてもパートタイマー用の賞与制度・定昇制度、その仕組みを支える評価制度を構築することが必要と考え「働き方改革推進プロジェクト」を発足したところなんだよ」。
店長は安心もしたが、今後パートタイマー等の人事マネジメントがより重要になると気が引き締まる思いがした。
次回は、『ケーススタディで納得!【第二回】どう確保する 同一労働同一賃金のための働き方の多様性』と題して「働き方改革推進プロジェクト」における検討ポイントを解説します。
高瀬 武夫 株式会社BDO人事総合研究所 /BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役
上場・中堅企業を中心に、企業の成長を裏付ける「人と組織」を活性化させるマネジメントシステム構築に従事。経営目標達成のための「仕事」を基軸に据えた評価制度、賃金制度、人材育成制度の再構築により労働生産性向上支援を行う。
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