勘定奉行クラウドを検討したきっかけは2つである。ひとつは「業務量の増加」である。朝日新聞倉敷販売株式会社経理課長の濱田尚氏が説明する。
「経営上の理由から、昨年より朝日新聞高松販売株式会社の経理も担うことになりました。業務負担は大きく増加したとはいえ、経理担当者の人数はそう簡単に増やせない。こうしたなかで業務量の増加に対応するための会計システムが必要だったわけです」
勘定奉行クラウド導入前、同社で使っていたのはオンプレミス版の会計システムだったが、朝日新聞高松販売株式会社の経理を担うようになったことで仕事のやり方を変える必要が出てきた。というのも、同社の拠点は倉敷市にある一方で朝日新聞高松販売株式会社の拠点は高松市にあるからだ。つまり、濱田氏は倉敷市と高松市を行き来して2社の経理を行う必要に迫られたわけだ。
「週に2~3回、高松市に出張していました。私が高松にいる間、倉敷の経理は止っている状態。倉敷に戻ってくると、溜まっていた業務の処理に追われ、心に余裕がありませんでした」
濱田氏が2社の経理業務を行ううえで最も困難に感じていたのが「高松の経理のマネジメント」である。
「実際に高松に行ってみないと伝票が入力できているかどうかわからない状態。ふたを開けてみると遅れていることもしばしばあり、残業などの原因になっていました。効率的にマネジメントを行うためには、高松に行かずとも的確な指示が出せるような、リアルタイムで状況把握ができる環境が必要だと考えていました」
同社では朝日新聞本社の会計基準に則り、厳格な部門別会計を行っている。経営上、毎月25日前後には月次決算の確定数値の報告が必要となっていたが、朝日新聞高松販売株式会社の経理を担ったことで効率化は必須だった。濱田氏は「これまでマンパワーで何とか対応してきましたが、限界に来ていました」と語る。
そして、もうひとつのきっかけが「ペーパーレス化の推進」である。2社における新聞契約者数は二万五千人以上。つまり、毎月二万五千件以上の請求データと入金データを処理しており、膨大な数の伝票と格闘していたわけだ。
「大量の紙に埋もれ、とても息苦しく感じていました。伝票を箱につめて保管するのは本当に面倒で。一年で段ボール20箱以上も増えていくなかで保管スペースが次第に不足するようになったんです。見返すことのほとんどない紙で保管庫が占領され、数年前から社内で保管することが限界となり、倉庫まで借りている状況でした。
同社が導入したのは勘定奉行クラウドである。濱田氏は「効率的な業務環境を構築するためにクラウドは必須でした」と語る。
「クラウドならばリアルタイムに業務の状況を把握することが可能です。そうなれば倉敷にいても高松の経理の進捗が正確につかめるわけです。もし高松で仕訳入力などの遅れが発生しているときは、すぐに担当者に指示を出せるので仕事が効率的になるのではないか、と考えていました。月次決算の早期化が急務となっていただけにリアルタイムで業務を行えるクラウドのメリットは大きいと感じていました。もちろん、従来のシステムでは不足していた点をカバーしていることも導入の理由のひとつ。朝日新聞本社から求められる厳格な部門別会計のしやすさも魅力の一つでした」
濱田氏は効率的な業務環境を構築するためにクラウドを検討していたわけだが、クラウドの会計システムはOBCのほかにいくつもある。なぜ勘定奉行クラウドだったのか。
「業務プロセスを変えることなくペーパーレス化を実現できると感じたからです。今まで通り、紙を見ながら仕訳を打つプロセスは変わらず、あとからスキャンしたデータをアップロードするだけなんです。従来のシステムでも証憑管理はできたのですが、自社の業務プロセスとかけ離れたものだったので使いにくかったんです。具体的には、仕訳を打つ前に一度スキャンしたデータをアップロードするとシステムが自動的に仕訳を行うのですが、それをチェックすると間違っていることもしばしば。結局、チェックと修正を人手でしなければならず、かえって時間がかかっていました。ペーパーレス化を効率的に推進したいと考えていた私たちにとって、勘定奉行クラウドはピッタリのシステムだと思いました」
それでは勘定奉行クラウドの導入効果を見ていこう。
「高松の経理の状況をリアルタイムに把握し、経理担当者に適宜指示を出せるようになったことで月次決算の早期化を実現できました。具体的には、月次締めから月次決算までの期間が2週間から1週間に短縮されたんです。業務量が増えているのに早くなったわけでビックリしています。リアルタイムに業務を行う効果がこんなに大きいとは驚きました。今も週に1回、高松に出張していますが、進捗を把握したうえで行けるので、“遅れているのではないか”“大変なことになっていないか”といった心理的な不安がほとんどなくなったのも大きいですね」
さらに、月次決算の早期化に貢献しているのが全銀データ形式の入出金データを取り込んだ自動仕訳である。朝日新聞高松販売株式会社の経理担当である和出律子氏が語る。
「自動仕訳を活用したことで業務スピードが格段に上がったほか、入力ミスがほとんどなくなりました。経理の仕事の8割は仕訳ですから、自動仕訳のインパクトはかなり大きいですね。おかげで月末に残業することが少なくなりました」
企業規模にかかわらず、経理にとって仕事の比重が高い仕訳を自動化する効果は非常に大きいようだ。
さらに、税理士とのやり取りがスムーズになっているのも導入効果と言えるだろう。同社の顧問税理士は広島市にいるというからなおさらだ。これまでは仕訳ひとつチェックしてもらうにも、データを税理士に送らなければいけなかった。また、業務に関する相談は月1回の打ち合わせの時くらいしかできず、不明点が出てきてもすぐに確認できないため、業務の遅れにもつながっていた。しかし、勘定奉行クラウドの導入後は「この仕訳よくわからないです。とりあえず入れましたのでチェックしてもらえますか」(和出氏)「こっちで直しておきましたよ」(顧問税理士)といったリアルタイムでのやり取りが日常的に行われているという。
「勘定奉行クラウドには専門家ライセンスが標準装備されており、先生が無料で使えます。専門家ライセンスの件を先生に話したら“すごい!”と感動してましたよ」
自動仕訳や専門家ライセンスの活用によって、同社の経理業務は大きく変化しているのだ。
クラウドで遠隔拠点をつなぐことで、従来のオンプレミス環境で発生していた移動時間などを大きく削減。さらに、現地に行かずともマネジメントができる環境が手に入った。
勘定奉行クラウドを活用して倉敷と高松をつなぐことで、常にリアルタイムで経理業務を行うことができるようになったほか、自動仕訳など最新機能を駆使して、従来にはなかった生産性の高い業務環境が整ってきた。そんな同社が今着々と進めているのがペーパーレス化である。
「スキャナはすでに購入済み。電子帳簿保存法に伴う申請書をまもなく提出予定です。ペーパーレス化が実現すればダンボール箱保管用のレンタル倉庫代月約8,000円を節減できるほか、原始証憑のトレースも容易になります。そうなればさらに業務が楽になるでしょう」(濱田氏) 最後に同社の目指す経理業務のスタイルについて教えてもらった。
「請求書や領収書などをすべてクラウド上で共有・管理し、会計データと証憑データを突き合わせることで、現地に行かずともマネジメントを実現できるようにしたいですね」
今後も拠点が増えていく可能性があるという。勘定奉行クラウドは同社の理想の経理スタイルの実現をサポートしているのだ。