九州栄孝エキスプレス株式会社(以下、九州栄孝と表記)は1987年の設立。熊本市を拠点に九州エリア内の輸送のほか、全国輸送も手がけ、野菜・冷凍食品から雑貨、精密機器までさまざまな荷物を届けている。
設立から30年が経過するなか、代表の高齢化に伴い、事業承継が課題として浮上してきた。言うまでもないが、事業承継を円滑に行うためには会社の経営実態を正確に把握する必要がある。しかし、従来の経理業務の方法ではそれが難しかった。なぜなら、経理業務をすべて顧問税理士に一任していたため、「税理士に依頼しないと数字がつかめない」「税理士に依頼してから資料作成・提出まで時間がかかる」など、リアルタイム性はまったくなく、迅速な経営判断は困難であったからだ。事業承継に伴い九州栄孝の取締役に就任した松本竜治氏は「試算表は2~3か月遅れが当然でした」と明かしたうえで「手元に会計データがなく、都度税理士に依頼して手に入れる環境だったので、経営判断がどうしても遅れがちでした。この状況から脱却してタイムリーに経営判断を下せる環境を作るために、クラウド会計システムを活用した経理業務の内製化を決断しました」と語る。また、九州栄孝のグループ会社に、久留米市に本社を置くライゴーエキスプレス株式会社(以下、ライゴーと表記)があり、ライゴーも九州栄孝と同様に経理業務をすべて顧問税理士に一任していた。こうしたなか、ライゴーにおける経理業務もクラウド会計システムを活用して行うこととなった。
こうして内製化を検討し始めたわけだが、今まで経理は税理士に”丸投げ”していたため、経理規定などのルールが整備されていないことに加えて、両社には経理の実務経験者がいない状態だった。そのため、標準的で効率性の高い経理業務のプロセスを構築することが非常に重要だった。そこで、会計システムの導入をサポートすることになったのが、事業承継を機に新担当税理士に就任した税理士法人TICシニアマネージャーの髙木俊明氏だ。髙木氏は「まず、効率的に社内経理を立ち上げていくにあたり、同じ画面を見ながらアドバイスができ、作業連携や情報共有を円滑に行うためにクラウドが必須でした」と語る。髙木氏は経理のプロとして他社のクラウド会計を操作してきた。そんななかで、勘定奉行クラウドを選定したのはなぜか。
「勘定奉行クラウドはパフォーマンスがずば抜けているからです。他社のクラウド会計よりも、次の画面に遷移するまでの時間が段違いに早い。その差は0.5秒とか1秒の世界ですが、経理の実務では次々と伝票入力や確認を進めていくため、この差が非常に大きい」(髙木氏)
また、同社の内製化の目的は経営状態を見える化していくことだったが、入力後のデータや帳票についてはどうか。「他社のクラウド会計システムでは、帳票を出すのに一度PDFで出力する必要があります。奉行はすべて画面で確認できて条件変更も自由にできます。このように経理担当者のひと手間かからない点も実務を考えるといいですよね」(髙木氏)
九州栄孝で経理実務を行うことになった総務課係長の内田真紀氏は簿記の知識は持っているものの、会計システムを操作するのは初めてだ。そのため、経理未経験者でも早期に習熟可能な会計システムを導入する必要があった。「他社のクラウド会計システムも実際に画面を見て比較検討しましたが、勘定奉行クラウドは帳簿形式の入力だけでなく、伝票からでも入力が可能な仕様になっているため、簿記の知識がほとんどなくても、経理業務が行えます」(松本氏)。一見、当たり前のことのように感じるが、クラウド会計システムでありながら、入力方法を選択できるという点も評価ポイントとなった。このように、入力や出力、税理士との連携のしやすさなど、一連の経理業務の流れが構築しやすいと感じられたのが勘定奉行クラウドの選定につながったのだろう。
勘定奉行クラウド導入後、約1年が経過(取材は2019年8月実施)。経理業務の内製化は順調に進んでいる。経理を内製化し、数字を迅速に把握できる環境になったことで、正確に業況を判断できるようになりつつある。松本氏は「従来は3か月も遅れて税理士から紙ベースの試算表が届くようなスピード感だったことや、情報が紙でしかわからない状態だったので、とてもじゃないですけど取締役会を開こうにも開けませんでした。そのため、現場も売上の大きな案件に注力しがちでした。しかし、今では試算表や推移表、キャッシュフロー分析など、経営判断に必要な様々な資料をデータでリアルタイムに確認できるようになったことで“利益”をしっかりと見る方向に変わりつつあります。例えば、長距離輸送は、受注金額は高いものの、利益を取りにくいことがわかりました。今までは売上重視できましたが、損益ベースで事業を構築するきっかけになりそうです」(松本氏)
実務担当者の目線ではどのような変化があったか。「今までは一応、Excelで現金出納帳を付けて税理士に提出していました。ただ、それが何のためにやっているのか・どこに反映されているのかわからず、”やらされ感”がありました。しかし、実際に勘定奉行クラウドを使って経理を始めてみると数字のつながりがわかって経理業務全体を把握できるようになり、モチベーションも上がります。」(内田氏)
内田氏が実際に勘定奉行クラウドを操作し始めたのは2019年4月のこと。髙木氏の支援があったとはいえ、わずか数か月の操作で「今では月次締めを約2週間で行えるようになりました。」(内田氏)というから驚きだ。「まずは現預金を合わせるところからスタートしました。そこから売掛金や買掛金など徐々に内製化できる範囲を広げていくことで、無理なく自社で完結できるようになっていきました。これは常に情報共有ができ、いつでも連絡が取りあえる勘定奉行クラウドだから可能なことでしょう。オンプレミスではここまでスピーディーに稼働まで持っていくのは正直無理だと思いますね」と髙木氏は言う。
税理士の支援を受けながら、短期間で経理の内製化を実現。さらに内製化できたことにより、リアルタイムに経営状況が把握でき、売上思考から利益思考の経営に変化した。
勘定奉行クラウドの導入によって、経理業務の内製化はスムーズに進んだ。そして、業況を迅速に把握し、必要な経営判断が下せるようになった。そうなると、今後はシステムの活用度を上げていくことが問われてくるだろう。
クラウドは拡張性が高いことも特長のひとつ。両社で利用している「販売管理や車両管理、給与計算のシステムも今後クラウドにしていく方針」(松本氏)。そうすることで、勘定奉行クラウドに数字を集約でき、より精度の高い経営判断を下せるようになる。
運輸業界は人手不足と高齢化に直面している。こうしたなか、両社は「ドライバー満足度の向上」を掲げ、経営改革を行っている。
「ドライバーに、十分に利益を還元できる会社でありたい。そのためには、経営状態を迅速かつ正確につかむことが必要不可欠。勘定奉行クラウドは経営改革を支える屋台骨なんです」(松本氏)
勘定奉行クラウドは経理業務だけのものではない。両社が目指す企業像を実現するための武器でもあるわけだ。