フレックスタイム制とは変形労働時間制の1つで、始業・終業の時刻を労働者自ら決定することができる制度のことをいいます。労働者のライフスタイルや価値観が多様化したことを背景に、労働者が個性や能力を充分発揮できるようにと、1988年に行われた労働基準法の改正時に誕生しました。
フレックスタイム制では、始業・終業時刻は労働者が決められるので、労働者が仕事とプライベートとの調和を諮りやすく、ストレス軽減(心の健康)に繋げられます。また、労働時間を柔軟に配分できるので1日のパフォーマンスを高めやすく、労働生産性の向上も期待できます。
しかし、出退勤している労働者にバラつきが出てしまうため、勤怠管理が複雑になることが懸念されます。また、他の従業員との業務連携が難しい面や、周囲の不理解による職場環境の悪化なども課題になりがちです。
フレックスタイム制は対象者や対象業務に制限はなく、労使協定で「対象労働者の範囲」「清算期間」「清算期間における総労働時間」を定め、会社と労働者代表双方の合意の上で就業規則に規定すれば導入できます。
一般的には、労使協定で「標準となる1日の労働時間」「コアタイム」「フレキシブルタイム」などの時間の範囲を定めます。ただし、コアタイムは必ず設けなければならないものではないので、全部をフレキシブルタイムにする「スーパーフレックスタイム」という設定もできます。
フレックスタイム制の適用対象と設定された労働者は「清算期間において法定労働時間の総枠内であれば、労基法に定める労働時間(1日8時間、1週間40時間)に合わなくてもよい」とされており、導入する際には必ず清算期間を設定しなければなりません。
清算期間における法定労働時間の総枠 = 1週間の法定労働時間(40時間※)× 清算期間の暦日数 ÷ 7日
※ 常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の制作の事業を除く)、保健衛生業、 接客娯楽業は清算期間が1か月以内の場合には週平均44時間までとすることが可能ですが、清算期間が1か月を超える場合には、特例対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要です。
清算期間は1ヶ月を上限として設定しますが、一部では「労働者の生活に合わせた労働時間の調整が月単位でできない」など不便な面もありました。そこで、2019年4月の法改正以降は清算期間の上限が3ヶ月に延長され、月をまたいだ労働時間の調整ができるようになります。ただし、1ヶ月を超える清算期間を定める場合は、労使協定内容について労働基準監督署長への届出が必要です。
また、清算期間が1ヶ月を超える場合には、「清算期間における法定労働時間の総枠を超えない」あるいは「1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えない」ことを満たさねばならず、いずれかを超えた時間は「時間外労働」となって超過労働に対する時間分の割増賃金を支払う義務が生じます。割増賃金の支給対象となる時間外労働は、下記①②の合計となります。
①清算期間を1ヶ月ごとに区分した単月における法定総枠を超えた実労働時間
②清算期間における総労働時間のうち当該清算期間の法定総枠を超えた実労働時間(ただし①で算出された時間を除く)
例えば、清算期間を3ヶ月に設定した場合は、次のように割増賃金を算出し清算します。
なお、フレックスタイム制でも時間外労働を行わせるためには36協定の締結が必要です。