年末調整で従業員が提出する書類の一つに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」があります。この書類は、所得税の計算に関わる重要な書類で、提出することで様々な控除を受けることができます。
年末調整の書類の様式は頻繁に変更されるため、従業員の記入ミスなどが多いと毎年頭を悩ませている担当者も多いのではないでしょうか。従業員や家族の事情に合わせて受けられる控除ですので、従業員が正しく申告できるよう労務担当者がサポートしてあげることが重要です。
今回は、この「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」について、申告書の役割や記載内容、書き方を詳しく解説します。ぜひ、従業員への書き方サポートにご活用ください。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、「扶養控除申告書」)は、給与所得者が扶養控除などを受ける際に必要となる書類です。
扶養控除とは、「従業員に自分の給与で養っている家族がいる場合、その従業員にかかる税金の負担を軽くしましょう」という制度で、配偶者控除や扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学⽣控除があります。こうした控除を受けるために必要な情報を記入して提出するのが、「扶養控除申告書」です。
扶養控除申告書は、「扶養控除の計算が必要か」を確認するための書類です。そのため、年末調整の対象者は全員提出する必要があります。
※年末調整の対象要件については、コラム「<年末調整の基礎知識>年末調整とは?対象者・確定申告との違い・効率的な手続きのしかたなどを徹底解説」を参照ください。
よく「扶養している親族がいないので出さなくてよい」と考える人がいますが、控除対象の配偶者や親族がいなくても、扶養控除申告書で「扶養控除がない」ことを確認するため、提出が必要になるのです。
年末調整の対象者からは、必ず扶養控除申告書を回収しましょう。就職、転職などで年の途中で年末調整を行う場合も、そのタイミングで回収します。
扶養控除申告書を提出する先は、主たる収入を得ている1カ所のみです。副業・兼業などダブルワークで2か所以上から給与をもらっている従業員が、すでに他社で提出している場合は、自社での回収は不要となります。ダブルワークをしている従業員に対しては、自社で回収の必要があるかを年末調整前にしっかり確認しておきましょう。
扶養控除申告書は、扶養控除の有無の確認とともに、所得税の課税区分を決める役割も持っています。
扶養控除申告書の提出があれば、その従業員の課税区分は源泉徴収税額表の「甲」欄が適用され、もし提出がなければ課税区分「乙」欄の適用になります。
「乙」欄は、「甲」欄に比べて額面が高くなるため、扶養控除申告書がないだけで所得税が割高になりますので、従業員にはこの仕組みについても充分説明しておきましょう。
扶養控除申告書は、年末調整時に当年分と翌年分を従業員に渡します。
当年分は、前年の年末調整時に従業員が記入したものです。
「結婚や出産のタイミングで扶養に入る」「年の途中でパートナーが扶養から外れる」など、この1年間で扶養家族に変更があったなど、訂正や追記の必要がないかを確認します。
扶養控除申告書の申告内容に変更が生じた場合は、控除額を再計算しなければなりません。そのため、年末調整手続きの際に、当年分の扶養控除申告書を修正して再提出してもらう必要があります。
紙で回収する場合は、修正箇所を二重線で抹消し、修正内容をその上部または下部に書き込みます。令和3年度から押印不要(後述参照)となっていますが、訂正印については法令上定めがないため、要否は企業判断となります。自社ルールとして、本人が訂正した事実を確認できる運用方法を決めておくとよいでしょう。
翌年分の扶養控除申告書は、翌年の1月に支払う給与から天引きされる概算所得税の計算に使用するため、原則として翌年1月給与の計算時までに提出するようになっています。しかし、この時期は法定調書や支払調書の作成など重要な業務が重なっているため、当年分や他の年末調整申告書と合わせて回収するのが一般的です。
では、扶養控除申告書の書き方について、令和7年分の様式を例にブロックごとに確認してみましょう。
この欄は、従業員本人の情報を記入します。控除対象となる配偶者や扶養親族がいない場合は、この欄にのみ記載があります。
源泉控除対象の配偶者がいる場合に、その内容を記載します。
源泉控除対象配偶者とは、次の要件を満たす配偶者が対象となります。
配偶者が事実婚や内縁関係にある場合は、控除対象配偶者にはなりません。また、夫婦がそろって源泉控除対象配偶者の控除適⽤を受けることもできません。
配偶者控除を受けるには、「源泉控除対象配偶者」に記載した上で「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が重要になります。配偶者の年収が150万円以上の場合は、「給与所得者の配偶者控除等申告書」のみ記載が必要となりますので、この欄への記入は不要です。
扶養親族とは、当年末時点で16歳以上であり、その年の所得の見積額が48万円以下(年収103万円以下)である、
従業員と同一生計の親族のことです。
ただし、配偶者、白色事業専従者、青色事業専従者として給与の支払いを受ける人は、扶養親族に該当しません。
また、当年末時点で30歳以上70歳未満の人で1年以上海外にいる「非居住者」の扶養親族は、以下の①〜③に該当する場合のみが控除対象となります。
なお、 16歳未満の扶養親族については、別途欄が設けられています。詳しくは「住民税に関する情報」とを参照ください。
また、扶養親族が非居住者の場合は、親族関係書類と送金関係書類の添付が必要になりますので注意しましょう。(国内で別居している場合は不要です)
※控除対象の扶養親族が従業員本⼈または配偶者の直系尊属で、従業員本⼈または配偶者と同居している
70歳以上の親族なら「同居老親等」、それ以外の非居住者であれば「その他」、19歳〜23歳未満は
「特定扶養親族」にチェックします。(直系尊属とは、父母・祖父母など自分よりも前の世代の直系親族のことを指します)
※非居住者である親族について、該当するものにチェックします。
2つ以上に該当する場合は、いずれか1つにチェックします。
(非居住者とは、国内に住所を持たず、かつ1年以上国内に住んでいない者を指します)
従業員本人や扶養親族が障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学⽣控除の要件を満たす場合は、この欄にチェックをします。
障害者控除は、従業員本人または同一生計配偶者、扶養親族が一般の障害者あるいは特別障害者に該当すれば、控除を受けることができます。「同一生計配偶者」は、納税者(従業員)と生計を一にし、当年中の合計所得⾦額の⾒積額が48万円以下の配偶者が該当します。(ただし、配偶者が⻘⾊事業専従者として給与を受け取っている場合や⽩⾊事業専従者は除きます)
控除を受けるには、控除の対象者が当てはまる区分をチェックします。対象が扶養親族の場合は、該当者の人数も忘れずに記入します。16歳未満の扶養親族に障害者がいる場合も、人数に含めます。その上で、「障害者または勤労学生の内容」欄に、対象者の氏名や交付されている手帳の種類、その手帳が交付された年月日、障害等級を記載します。該当する扶養親族が海外に居住しており、その扶養親族に送金などを行っている場合は、送金額の合計を記載し、親族関係書類と送金関係書類を添付します。
2020年から、従来の寡婦控除・寡夫控除に代わり、婚姻歴の有無や性別に関わらない「ひとり親控除」が創設されたこと受け、寡婦控除の適用範囲が見直されたり寡夫控除が廃止されたりしています。
現在の寡婦の要件は、原則として当年12月31日時点で「ひとり親」の要件に該当せず、次のいずれかに該当する人となっています。
従業員本⼈が寡婦に該当する場合に、「寡婦」をチェックします。寡婦控除には、適用される年齢の上限はありません。ただし、離婚または死別後、事実上婚姻関係と同様の事情が認められる場合は、寡婦控除の対象とならないため注意が必要です。
「ひとり親」とは、原則として、当年12⽉31⽇時点で結婚をしていない、または配偶者の生死がはっきりしない場合で、次の要件をすべて満たす場合に該当します。(これまでの寡夫控除は、ひとり親控除に含まれることになります)
従業員本人が「ひとり親」に該当する場合、「ひとり親」をチェックします。ひとり親控除では、過去の婚姻歴の有無や性別は問いません。また、適用する年齢に上限はありません。
勤労学生控除は、従業員本人が次の要件をすべて満たす場合に受けることができる控除です。
上記に該当する場合は、「勤労学生」にチェックをし、「障害者⼜は勤労学⽣の内容」欄に、通っている学校名と⼊学年⽉⽇、その年の所得の種類・⾒積額を記入します。
なお、扶養控除申告書の提出の際に、学生証など勤労学⽣だと分かる証明書のコピーも添付する必要があります。専修学校や各種学校の学生、職業訓練法⼈の訓練生である場合は、⽂部科学⼤⾂または厚⽣労働⼤⾂の証明書の写しと学校長等の証明書を添付します。
同じ世帯に所得者が2人以上いる場合、同じ人をそれぞれの所得者の扶養親族等として重複して申告しない限り、どの所得者の扶養親族等としても差し支えありません。
ここで言う「扶養親族等」には、控除対象配偶者、控除対象扶養親族、障害者である同一生計配偶者、年齢 16 歳未満の扶養親族が含まれます。
パートナーなど、同世帯の別の所得者と扶養親族を分けて控除を受ける場合は、その扶養親族の名前や扶養控除を受ける所得者の情報などを記載します。
この欄は、下記に該当する場合に記載します。(該当しない場合は関係ありません)
退職手当を受け取った配偶者または扶養親族がいる場合、所得税は対象外でも住民税は控除対象になる場合があります。年末調整は所得税計算のための情報収集ですが、住民税における控除の適用漏れを防ぐため、併せて情報を提供してもらう様式になっています。
紙で扶養控除申告書を回収するには、多くの控除に関する情報を記載することになるため、従業員が漏れやミスなく申告できるよう、労務担当者のサポートが欠かせなくなります。
特に、所得の見積額は、収入が給与のみの場合その年に受け取った給与収入から給与所得控除を引いた金額を記入するだけですが、計算が必要なだけに間違いやすい部分です。
扶養控除申告書を書く際には、次のポイントに充分注意するよう促しましょう。
こうした注意点や、書き間違い、記載漏れが多い部分などをまとめて紹介する「書き方マニュアル」を用意するのもよい方法です。しかし、税制改正のたびにマニュアルを修正しなければならないのは、労務担当者の負荷を増やすだけになってしまいます。
その点、Webから扶養控除申告書を提出できるクラウドサービスなら、記入ミスや業務負担の心配がありません。
現在、市場には年末調整手続きをWeb上で行えるクラウドサービスは数多く提供されています。アンケート形式や一覧形式など入力方法は様々ですが、従業員が申告する際にミスが起こりにくい仕様になっています。
例えば、奉⾏Edge年末調整申告書クラウドでは、画面の提出項⽬ほぼ全てにヘルプボタンがついており、解説や入力例が表示されるので、改めてマニュアルを作ったり配布したりする必要はありません。このヘルプ機能は見やすい上に、よくある質問を網羅する形で作られているので、従業員はストレスなく申告書への入力を進められます。
扶養控除申告書の入力内容を基に、配偶者の所得の見積額を計算する画面が表示されるほか、収入金額と本人情報、家族情報の入力内容から控除を受けられるかを自動判定します。
パソコンやスマートフォンのブラウザから、いつでも・どこでも申告できるため、自宅や外出先でも入力することができます。
また、紙の書類と比べ回収もスムーズになります。従業員が変更した箇所は色が変わって表示されるので分かりやすく、労務担当者のチェック負担も大幅に減らすことができるでしょう。修正が必要な場合もメールで依頼し、従業員はメールから申告書を再提出できます。
年末調整に必要な書類は、法改正の影響を受けやすく、年々書き方が複雑かつ難しくなっています。記載内容への理解促進や間違わずに申告するためのサポートも、だんだんと労務担当者の負担が大きくなってきています。
書類を回収した後の業務も考えると、年末調整業務こそ、あらゆる企業にとって“デジタル化”が急務となっているはずです。
年末調整業務をデジタル化すると、企業によっては8割以上業務にかかる時間を削減できたという事例もあります。また、OBCが独自に行った従業員へのアンケート調査では、年末調整がデジタル化したことで87%が申告の時間が削減されたと実感していることも分かっています。
令和3度税制改正では、年末調整申告書のほぼ全てが、税務署の事前承認なしに電子データで回収できるようになりました。
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