産休・育休を取得している従業員も、年末調整が必要です。特に昨今は男性も育休取得が推奨されており、育休中でも年末調整が必要なことを知らない人もいるでしょう。
産休・育休中の年末調整は、一般社員とは異なる配慮が求められます。そこで今回は、産休中・育休中の年末調整について、提出が必要な書類や手続きのうえで人事労務担当者が押さえておきたい注意点などについて解説します。
年末調整は、一年間の所得税額を精算するために行う手続きです。本来は確定申告で申告・納税しますが、会社員の場合、通常は毎月の給与や賞与から源泉徴収されているため、1年間の給与所得が確定した12月に、企業が年末調整として実際の税額との差額を精算することになっています。
年末調整の対象者は、次のいずれかの場合を除く全ての従業員となっているため、正社員だけでなくパートやアルバイトでも年末調整の対象となります。
<年末調整の対象とならない人>
※1に該当する場合は本人による確定申告が、3〜5に該当する場合は自社以外の場所での納税が必要です。
このため、年の途中から産休・育休中の場合や、年初から育休を取得しており年末調整の直前にて復帰した場合も、企業に属している従業員であれば、原則、年末調整が必要となります。
産休や育休を取得する予定の従業員がいる場合は、休業中に年末調整の手続きを求める旨をあらかじめ伝えておきましょう。
所得税額の計算には、「課税対象となる収入の額」と「控除の額」が必要です。そのため、産休・育休中の年末調整でも、この2つの情報を提出してもらうことになります。
産休・育休を取得するタイミングによっては、年内に給与等を支払っていることがあります。この場合、その給与等で源泉徴収を行っているため、「課税対象の収入」として扱います。
ただし、次のような場合は「非課税の収入」となるため、収入額にカウントしません。従業員には、非課税の収入額を差し引いた収入額を算出するよう伝えましょう。
<非課税の収入(年末調整の対象外)に該当するもの>
また、年頭から産休・育休を取得している場合は、1年間の収入が「非課税の収入」のみとなることがあります。このような課税対象の収入がない場合は、収入を「0円」として申告します。
年末調整の結果、還付が発生した場合は、通常の手続き通り還付を行い、還付の明細書を発行します。
年末調整で適用される控除と控除額には、次のようなものがあります。
産休・育休中の場合でもこれらの控除は適用されるため、各種控除証明書がある場合は、収入の額にかかわらず提出するよう対象者に伝えましょう。
ただし、社会保険料については、年末調整で申告するのは「給与天引きされていない社会保険料」であり、給与天引きされている本人の社会保険料は、年末調整の申告対象となりません。本人の社会保険料は、現在、産休・育休ともに休業の「開始月」から「終了前月」まで免除されているため、税額計算時にも注意が必要です。
また、産休・育休中は年間の給与額が普段より少なくなることから、産休・育休中は配偶者の扶養に入り、配偶者側の年末調整で配偶者控除・配偶者特別控除を受けることもできます。この場合、例えば育休中の従業員の給与収入が103万円以下、または103万円超〜201万6,000円未満の場合、配偶者の所得が1,000万円以下であれば、段階的に配偶者側の年末調整で配偶者控除(13万円〜最高38万円)を受けることができます。そのため、事前に産休・育休中に配偶者の扶養に入るか否かを確認しておくとよいでしょう。
なお、医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税など)は年末調整では控除できないため、確定申告が必要となります。
妊娠・出産にかかる費用のうち、次のような費用は医療費控除の対象となるため、家族の分の医療費とまとめて10万円以上(または所得の5%以上)となる場合は、年末調整とあわせて確定申告もするように伝えておきましょう。
<医療費控除の対象になる妊娠・出産費用>
産休・育休中の従業員に年末調整を依頼する際は、次の点について配慮が必要になります。
年末調整は、次のような流れで、概ね10月下旬〜11月頃にスタートし1月下旬までに遂行するのが一般的です。
多くの企業では、この流れに合わせて従業員に対して書類の提出締め切り日を設定していることでしょう。産休・育休中の従業員に紙の書類で提出してもらう場合、郵送にかかる日数を考慮して、一般社員よりも余裕を持ったスケジュールで対応することが求められます。
また、産休・育休中は体調等によって期日までに書類提出が間に合わないことも考えられます。書類提出が期日に間に合わない場合、多少の融通を利かせたいところですが、還付金がある場合、12月または1月給与時の精算となるため、実際はそれほど時間にゆとりはありません。そのため、期日に間に合わない場合は従業員自身で確定申告するよう、事前に通知しておきましょう。
万が一、記入ミスや計算間違いが起こった場合、本来であれば、本人に差し戻し・再提出が必要ですが、時間が制限されている中で対応が難しい状況も考えられます。この場合の対処法についても、社内で検討し、対象者に伝えておくことが大切です。
産休・育休中の従業員にも、通常通り次の書類を用意し、できるだけ早く本人のもとに届けましょう。
住宅ローン控除を受ける場合や保険料控除を受ける場合など、上記以外にも申告書や添付書類を従業員側で用意する必要があります。これらの書類は、通常の年末調整と同様のため、抜け漏れがないよう通知します。
※ 各年末調整書類の書き方については、コラム「【年末調整申告書】労務担当者にも従業員にも役立つ!3つの書類の書き方と注意点 」を参照ください。 ※ 住宅ローン控除は、住宅ローンの借入者本人の年末調整でのみ適用されます。そのため、産休・育休中であっても、従業員が住宅ローンの借入者の場合は、従業員本人が年末調整で申告する必要があります。
育休中の年末調整において、年内に子どもが生まれた場合、もしくは生まれる予定の場合、扶養控除等申告書に記載するか否かの問い合わせを受けることがあります。
扶養控除は、16歳以上の扶養親族が条件になっているため、扶養控除の適用はできません。ただし、翌年度からの住民税の計算には必要となるため、扶養控除等申告書にある「16歳未満の扶養親族」欄に記載し、提出してもらう必要があります。
他にも、先述した「課税対象となる収入」や受けられる控除、「その年に収入がなくても年末調整が必要か」など、産休・育休中の年末調整では通常に発生しない問い合わせへの対応も必要になります。
こうした産休・育休中の年末調整に関する「よくある質問」は、マニュアル化して書類とともに配付しておくと産休・育休中の従業員の負担も減り安心です。
産休・育休中の従業員に負担をかけず、労務担当者も業務をスムーズに進めるには、年末調整手続きを電子化するのがおすすめです。
年末調整手続きに必要な書類(申告書、添付書類等)は、ほぼ電子提出が認められており、控除証明書等も電子データで提出できる書類が増えているため、年末調整手続きを電子化すると、従業員側の手続きを全てインターネットから完結することができます。
申告書 | 申告書の電子化 | 添付書類の電子化 |
---|---|---|
扶養控除申告書 | ○ | 親族関係書類:× 送金関係書類:× 勤労学生の証明書類:× (書面で提出要) |
配偶者控除等申告書 | ○ | |
基礎控除申告書 | ○ | |
所得金額調整控除申告書 | ○ | |
保険料控除申告書 | ○ | ○※1 |
住宅ローン控除申告書 | ○※2 | ○※2 |
※1 生命保険料、個人年金保険料、介護医療 保険料、地震保険料、社会保険料、小規模企業共済等掛金が対象です。
※2 2019年以降開始の住宅ローンに限ります。(2018年以前は書面で提出)
出典:国税庁 PDF「年末調整手続きの電子化及び年調ソフトに関するFAQ」
従業員は、紙の書類のように期日に追われることなく自分のペースで手続きを進められ、ボタン1つで提出できるため、提出期限までの時間を有効活用することが可能です。また、記入項目がわかりやすく表示されるため記入漏れもなくなり、入力内容から控除額を自動計算するため計算ミスも減らせます。
市場には様々な年末調整電子化サービスが提供されていますが、従業員への配付方法や入力方法、問い合わせ等へのサポート方法、給与システムへの反映方法などはサービスによって異なります。そのため、自社の業務のやり方に合ったサービスを選ぶのが肝心です。
例えば、奉行Edge 年末調整申告書クラウドの場合、従業員への年末調整の依頼を、サービスから手間なく一括でメール通知できます。従業員は、届いたメールに記載されているURLにアクセスするだけで、パソコンやスマートフォンのブラウザから年末調整申告書の提出ができるため、いつでも・どこにいても申告書の作成が可能です。
また、入力画面には提出項目のほぼ全てに入力ガイドがついているため、項目の意味や入力のしかたが分からない場合でも、すぐに疑問を解決できるようになっています。「ダブルワークしている場合はどう入力したらいいか?」「引っ越したが住民票を移していない場合は?」などのユースケースもヘルプセンターから確認でき、マニュアルを読み込むことなく不明点を自己解決できます。
控除証明書等も電子データで取り込めます。控除額は取り込んだデータをもとに自動で計算されるため、計算ミスがなくなります。マイナポータル連携にも標準対応しており、マイナポータルで管理されている情報は自動でアップロードできるため、従業員の入力作業はさらにラクになります。
控除証明書など添付書類を紙で提出する場合も、書類を画像にしてサービスにアップロードし、後日原本を郵送してもらえば、担当者は原本が届くまで画像でチェックを進められます。
さらに、提出された申告書はWeb上に自動保管され、同時に、申告書の提出状況が自動で更新されます。管理画面では、リアルタイムで提出状況を確認でき、未提出者への催促連絡もサービスから催促メールを一斉送信することも可能です。
申告書の内容を給与システムに反映する際も、年末調整データを給与システムにアップロードするだけでよくなるため、担当者が手入力する必要が一切なくなります。
産休・育休中の年末調整手続きは、原則、一般社員と変わりませんが、紙のやり取りでは書類の配付・回収等を郵送に頼ることになり、提出期限の設定や問い合わせ対応などに対して、一般社員と異なる配慮が必要になります。奉行Edge 年末調整申告書クラウドのようなサービスを利用すれば、育休中でも年末調整手続きがしやすく、担当者の事務負担軽減にもつながります。
税務署に対して遅延が起こらないようにするためにも、年末調整電子化サービスを利用することを検討してはいかがでしょうか。
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