連結決算では、親子会社間の経営状況を正確に把握し、決算に反映させなくてはなりません。
特に、海外子会社との連結財務諸表作成時には為替相場が関わってくるため、正しく理解して適切に対応することが重要です。また、国によって会計基準などが異なるため、場合によっては修正が必要になるなど、海外子会社との連結決算では実務においても特有の課題があります。
本記事では、海外子会社との連結決算における注意点や留意すべき点、また、修正が必要なケースについて具体的に解説します。国際環境下における企業会計基準の考え方や手続きの流れを把握し、業務に活かしてください。
連結決算とは、親会社と子会社、関連会社など、グループ会社全体の連結決算日における財務状況を反映した財務諸表を作成する手続きのことです。
原則として、親会社が議決権の過半数を保有している場合、または、過半数に満たなくても一定の要件下で支配権を持っている場合、当該子会社は連結決算の対象となります。これは海外子会社であっても例外ではなく、親会社が支配権を有する企業は連結対象となることに留意してください。
また、「一定の要件」とは、以下のいずれかに該当することを指します。
ただし、所有議決権が0〜40%の範囲にある場合は、上記の1と2〜5のいずれか1つの項目を同時に満たしている必要があります。
連結決算の目的は、グループ会社全体の財政状況や経営成績を正確に把握し、開示することです。そのため、単に財務諸表を合算するだけでなく、必要に応じて費用処理を行うなどの修正仕訳が求められます。これにより、グループ会社全体の収益やキャッシュ・フロー、当期純利益などが正確に算出され、透明性が確保されます。
棚卸資産や投資不動産の公正価値評価、取得原価や実現利益などに関する取引の処理方法については、適切な注記を行うことが求められます。また、連結対象となる企業や取引などの範囲を適切に定義し、その範囲内で金額の計上や会計方針の適用を確実に行うことも重要です。
これらの調整を行うことで、意図せず利益操作をしてしまうことを防止し 、グループ会社全体の財務情報の信頼性が保たれます。
参考コラム:「連結決算とは? 対象範囲から業務の流れ、効率的な進め方までわかりやすく解説」
海外子会社との連結決算は、さまざまな理由から難易度が高くなりがちです。文化や言語の違いなどが原因で、連携に課題が生じやすいためです。ここでは、主な理由について解説します。
主な理由の1つ目は、現地の経理担当者とのコミュニケーションの問題です。特に、現地の経理担当者の日本語能力が不足している場合、情報伝達がスムーズに行われず、意思疎通が難しくなる可能性があります。この場合、基本的には親会社が海外子会社の経理をサポートしなくてはなりません。具体的には、現地担当者が理解できるように適切な指導やアドバイスを行う必要があるため、結果的に業務負担が増加します。ただし、遠隔でのサポートやフォローは難しい場合も多く、現地の監査法人や公認会計士に委託することが一般的です。
海外子会社との連結決算においては、決算書のやり取りやチェックに多くの時間を要することも実務上の課題となります。この課題の主な原因として、コンプライアンス意識や文化の違いが挙げられます。国際的な環境下では、文化の違いによって社会的責任に対する感覚が異なり、決算書の整合性を保つことが難しい場合があるのです。
具体的には、評価差額などの不備が生じる可能性があるため、親会社は企業会計基準に準拠しているかどうかなどをしっかりと確認する必要があります。このようなチェック作業は非常に時間がかかり、連結決算をより難しくしているのです。
海外子会社との連結決算を行う際、該当の海外子会社が採用している会計基準が親会社とは異なる場合があります。この場合でも、国際財務報告基準に準拠しているなど、一定の条件下では、当面の間、連結決算に利用することができます。しかし、特定の項目については修正が必要であり、国際的に事業を展開している企業においては、この点を正しく理解しておくことが重要です。以下では、代表的な修正が必要なケースについて解説します。
日本の会計基準では、のれんを定額法または定率法で減価償却することが定められています。一方、IFRSや米国会計基準では、のれんを償却せず、定期的な減損テストを行うこととされています。そのため、海外子会社がのれんを償却していない場合、定額法などの合理的な方法によって規則的に償却し、償却額を当期の損益として計上・修正しなければなりません。
IFRS(International Financial Reporting Standards)は、企業の財務状況や経営成績を国際的に比較できるように策定された、国際財務報告基準です。グローバル化が進むなかで、国境を越えて会計基準を統一する必要性が高まった結果、国際会計基準審議会(IASB)によってIFRSが導入されました。
日本では、企業会計基準委員会(ASBJ)が国内の会計基準を策定し、企業が遵守すべき指針を提供しています。日本の会計基準とIFRSにはいくつかの違いがあるため、国際的な基準に準拠した会計処理とするためには、適切な修正が求められます。
参考コラム:「国際会計基準「IFRS」と日本会計基準の違いは?導入メリットや2027年の改正内容も解説」
日本の会計基準では、退職給付会計における数理計算上の差異は、税効果を考慮したあと、未償却分を「その他の包括利益」として連結貸借対照表の純資産の部に計上します。償却分は連結損益計算書で費用として処理され、また、当期または前期以前に「その他の包括利益」として処理した項目は、当期の損益として再計上されます。この再計上のことを「リサイクリング」または「組替調整」と呼びます。
一方、IFRSでは、数理計算上の差異は税効果を考慮したあとの金額で「その他の包括利益」として認識される点は同じですが、その後、当期純利益に振り替えることはありません(ノンリサイクル)。したがって、当期の損益には影響を与えることがないのです。
さらに、米国会計基準では、日本基準やIFRSとは異なる「回廊(コリドー)アプローチ」という会計処理を採用しています。各基準(日本基準、IFRS、米国基準)によって会計処理に相違があるため、連結決算を行うにあたってはそれぞれの基準に応じた修正が必要となります。
日本の会計基準では、研究開発費は原則として発生した費用を即時に計上することが求められます。将来の利益が見込まれる場合には資本化が認められることもありますが、損金計上することが一般的です。
一方のIFRSでは、研究開発費を「研究フェーズ」と「開発フェーズ」に分け、研究フェーズでは費用計上され、開発フェーズでは一定の条件を満たす場合に資本化が認められます。米国会計基準では、原則として研究開発費は即時に費用計上することが求められますが、開発段階で将来の利益が見込まれる場合には資本化されることがあります。
これらの基準の違いにより、連結決算時には、海外子会社で資産計上された研究開発費を支出時に費用として計上し直すなど、調整が必要となる場合があります。
日本の会計基準では、投資不動産の評価には原価モデルが採用されており、基本的に時価評価(公正価値評価)は行われません。
一方、IFRSでは、投資不動産の事後測定において、時価評価モデル(公正価値評価)または原価モデルのいずれかを選択することができます。つまり、日本基準では時価評価しない投資不動産について、IFRSでは時価評価が行われるため、連結決算時にはその差異を修正する必要があるのです。
また、海外子会社などが投資不動産を時価評価している場合や、固定資産を再評価している場合には、連結決算手続きにおいて、取得原価を基準に正規の減価償却を行う必要があります。さらに、その算定に基づいて計上された減価償却費(減損処理が必要な場合は減損損失を含む)の修正も必要です。
日本基準では、資本制金融商品は原則として取得原価で評価され、評価差額が発生した場合、その差額は損益計算書に計上されます。一方のIFRSには、資本制金融商品に関して、評価差額を「その他の包括利益」として計上する選択肢があります。この選択を行った場合、評価差額は純利益に影響を与えず、その他の包括利益に計上されます。
米国基準でも、資本制金融商品の評価差額について独自の規定があり、日本基準やIFRSとは異なる処理方法が採用されています。このように、各基準間で評価差額の取り扱いに違いあるため、連結決算時にはその差異を修正する必要があります。
海外子会社との連結決算において、これらの修正を適切に行わなければ、連結財務諸表を正確に作成できません。各会計基準間の違いを理解し、正確な修正を行わなければならないのです。
海外子会社との連結決算をスムーズに行うためには、管理体制の強化や会計処理の統一が欠かせません。文化や会計基準の違いを理解し、効率的に決算を進めるためのポイントを紹介します。
海外子会社との連携を円滑に進めるためには、管理体制の強化が重要です。たとえば、行動規範やチェック体制を全従業員に周知し、企業全体で統一された対応を徹底することが有効です。また、定期的な研修を実施することで、従業員が会計処理や内部規定を理解し、問題の早期発見が期待されます。
さらに、スケジュール管理の徹底も重要です。余裕を持ったスケジュールを組み、個別財務諸表が期日通りに提出されるよう配慮することが大切です。また、定期的に月次決算報告書を提出してもらうことで、連結決算がスムーズに進むようになります。
会計基準が異なると、認識に食い違いが生じることがあります。これを避けるためには、会計ソフトや監査法人 を同一にしておくことが効果的です。異なる基準を採用している場合、連結上の修正や変更が増えてしまいます。会計処理を統一することで会計基準間のギャップを減らせば、修正作業を最小限に抑えられるでしょう。
これらのポイントを実行することで、連結決算がスムーズに進行し、作業負担の軽減につなげることができます。
損益計算書を換算する場合、原則として期中平均レートを使用します。ただし、親会社・子会社間の取引に関しては、親会社が採用する為替レートに合わせます。
貸借対照表の換算については、資産・負債は決算日時点の為替レートで換算します。一方、純資産に関しては、事実が発生した際の為替レートが基準となるため、注意が必要です。
また、換算によって生じた差額は、為替換算調整勘定として、貸借対照表の純資産の部に直接計上されます。
海外子会社との連結決算業務の効率化を目指す企業にとって、システムの導入は欠かせません。複雑なデータの連携や異なる会計基準を扱うのに最適なクラウド型会計システムを活用することで、業務のスピードと精度が大きく向上します。
海外子会社との連結決算をスムーズに進めるためには、会計システムの導入が非常に効果的です。たとえば、「勘定奉行クラウドGlobal Edition 」は英語を含む複数の言語に対応しており、各国の現地語でのデータ入力や処理が可能です。さらに、システムには自動翻訳機能が備わっているため、異なる言語を使用する子会社間でのデータの共有もスムーズに行えます。
また、このシステムは多通貨対応しており、現地通貨から基準通貨に一括で自動換算できます。この機能によって必要なレポートを即座に作成できるため、為替レートを考慮したデータ処理が簡便になります。手作業でのデータ入力が減ればミスを防ぐことにもつながり、決算業務が迅速に進められるでしょう。
海外子会社を含む多くのグループ会社を持つ企業には、「奉行V ERPクラウド Group Management Model」がおすすめです。このシステムを活用することで、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、グループ全体の業務精度やスピードが向上します。また、資産管理の効率化や業務の透明性向上にも大きな効果を発揮します。
海外子会社との連結決算に関して、よく寄せられる質問をまとめました。これらの回答から、連結決算業務をよりスムーズに進めるためのポイントを確認しましょう。
海外子会社の決算期と日本の親会社の決算期ではズレが生じることがあります。日本では3月決算が多い一方で、海外の多くの企業は12月決算を採用しているため、親会社と子会社の間で約3か月のズレが発生することが多いといえます。
IFRSでは、グループ全体で決算日を統一することが推奨されているため、親子会社間の決算期を可能な限り一致させることが望ましいといえるでしょう。
連結決算を行うにあたって、子会社は親会社に対して個別財務諸表を提出する必要があります。さらに、親会社の指示に従って帳簿の調整や内部取引の整理を行い、連結決算に必要な情報(売上、経費、資産、負債など)を正確に提出することが求められます。
連結対象外の子会社とは、親会社が実質的な支配権を持っていない子会社や、特定の状況において連結が適用されない子会社のことを指します。たとえば、親会社が株式の過半数を保有していても、経営への影響力が制限されている場合や、特定の法律や契約によって連結が認められない場合です。
また、親会社の持つ支配権が一時的な場合や、財務状況やキャッシュ・フローへの影響が極めて少ない子会社も連結対象外となることがあります。こうした例外は、連結決算における負担を軽減するために設けられています。
連結決算は、一定の条件を満たす企業に義務づけられています。具体的には、資本金が5億円以上、または負債額が200億円以上の大企業や、有価証券報告書を提出している上場企業が対象です。中小企業は連結決算を行う義務はありませんが、任意で実施することができます。
連結決算が必要なのは、親会社が子会社を支配している場合です。大企業や上場企業では、子会社を含めたグループ全体の財務状況を正確に把握し、開示するために連結決算を行う必要があります。
海外子会社との連結決算は、修正処理や調整が必要なために複雑になりがちですが、効率化のための適切な対策を講じることで、スムーズに進めることができるようになります。
海外子会社との連結決算を効率化するためには、注意すべき修正項目や調整が必要なケースを具体的に理解することが重要です。
たとえば、会計基準の違いや決算期のズレによる問題が生じることがあります。これらの修正は、手作業で行うと時間がかかるだけでなく、ミスも発生しやすくなるため、システムの導入を検討することが推奨されます。システムを活用すれば、データの自動連携による処理の効率化が進み、修正作業もスムーズに行えるでしょう。
また、定期的な報告体制を整え、月次での確認や調整を行うことで、決算日に向けた準備が確実に進みます。決算時の修正を未然に防ぐことができれば、全体の負担を軽減することにつながるのです。
効率化の意識を持ちながら、適切な修正と対策を講じることで、連結決算業務がスムーズに進み、正確かつ迅速な決算処理を実現できるでしょう。